大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年06月19日 | 創作

<3441> 写俳百句 (63) 睡 蓮

               睡蓮や水面の舞台静かなり

                         

   スイレン(睡蓮)は「温帯から熱帯に広く分布するスイレン科の水生多年草の総称」と花事典に見える。水底の泥中に太い根茎を有し、春から秋に長い葉柄を伸ばし、切れ込みのある円形の葉を水面に浮かべる。冬には枯れて春先まで根茎によって休眠する。

   花期は五月から九月ごろで、花は長い花柄の先につき、水面に出て上向きに開花する。池沼や濠などに見られる色とりどりの花のスイレンは明治時代以降に観賞用として海外から持ち込まれた外来種で、日本産のものは白色の花をつける未草(ひつじぐさ)とその変種のみと言われる。

 スイレン(睡蓮)は就眠運動をすることで知られ、主に昼咲きと夜咲きがあり、一日の間で、花を開いたり閉じたりする習性があることから睡蓮と名づけられた。という次第で、その名は水蓮(水の中の蓮)の意によるものではない。未草も睡蓮と同じ発想による名で、夜は閉じ、未の刻(午後二時ごろ)旺盛に花を開くことによる。

 なお、睡蓮は漢名。英名はwater lilyまたはpond lily。仏名はlis d´eau。lilyもlisもユリ。で、蓮は東洋、ユリは西洋のともに聖花であるからスイレンは両洋に聖花の認識がもたれていたことをその名は物語る。だが、それより古く、古代エジプトではナイル川に咲くスイレンの花を聖なる花として壁画、彫刻、工芸などに表し、既にその認識があった。

   エジプトは今も国花としてスイレンを誇りにしている。ヨーロッパでもスイレンは親しまれ、フランス印象派の画家クロード・モネの睡蓮の連作は有名である。花言葉は「清浄」で、聖花に相応しい言葉が当てられている。 写真は梅雨の曇天の日、奈良市佐紀町の仁徳天皇の皇后、磐之媛命の陵墓外濠で撮影したもの。陵墓の辺りはときおりウォーキングする人に出会う程度で静かだった。