<1210> この世の風景 (2)
明と暗 ありけるこの世 暗ゆゑに明 明ゆゑに 暗は即ち
美と醜。醜ゆえに美が美たること。美ゆえに醜が醜たること。 同と異。異ゆえに同が同たること。同ゆえに異が異たること。
甘と辛。辛ゆえに甘が甘たること。甘ゆえに辛が辛たること。 白と黒。黒ゆえに白が白たること。白ゆえに黒が黒たること。
有と無。無ゆえに有が有たること。有ゆえに無が無たること。 自と他。他ゆえに自が自たること。自ゆえに他が他たること。
公と私。私ゆえに公が公たること。公ゆえに私が私たること。 個と全。全ゆえに個が個たること。全ゆえに個が個たること。
優と劣。劣ゆえに優が優たること。優ゆえに劣が劣たること。 盛と衰。衰ゆえに盛が盛たること。盛ゆえに衰が衰たること。
浮と沈。沈ゆえに浮が浮たること。浮ゆえに沈が沈たること。 拡と縮。縮ゆえに拡が拡たること。拡ゆえに縮が縮たること。
易と難。難ゆえに易が易たること。易ゆえに難が難たること。 可と否。可ゆえに否が否たること。否ゆえに可が可たること。
富と貧。貧ゆえに富が富たること。富ゆえに貧が貧たること。 貴と賤。賤ゆえに貴が貴たること。貴ゆえに賤が賤たること。
慶と弔。弔ゆえに慶が慶たること。慶ゆえに弔が弔たること。 吉と凶。凶ゆえに吉が吉たること。吉ゆえに凶が凶たること。
福と禍。禍ゆえに福が福たること。福ゆえに禍が禍たること。 理と非。非ゆえに理が理たること。理ゆえに非が非たること。
実と虚。虚ゆえに実が実たること。実ゆえに虚が虚たること。 真と偽。偽ゆえに真が真たること。真ゆえに偽が偽たること。
信と疑。疑ゆえに信が信たること。信ゆえに疑が疑たること。 正と邪。邪ゆえに正が正たること。正ゆえに邪が邪たること。
善と悪。悪ゆえに善が善たること。善ゆえに悪が悪たること。 喜と悲。悲ゆえに喜が喜たること。喜ゆえに悲が悲たること。
楽と苦。苦ゆえに楽が楽たること。楽ゆえに苦が苦たること。 爽と鬱。鬱ゆえに爽が爽たること。爽ゆえに鬱が鬱たること。
利と害。害ゆえに利が利たること。利ゆえに害が害たること。 得と失。失ゆえに得が得たること。得ゆえに失が失たること。
単と複。複ゆえに単が単たること。単ゆえに複が複たること。 雄と雌。雌ゆえに雄が雄たること。雄ゆえに雌が雌たること。
男と女。女ゆえに男が男たること。男ゆえに女が女たること。 夫と妻。妻ゆえに夫が夫たること。夫ゆえに妻が妻たること。
親と子。子ゆえに親が親たること。親ゆえに子が子たること。 父と母。母ゆえに父が父たること。父ゆえに母が母たること。
婿と嫁。嫁ゆえに婿が婿たること。婿ゆえに嫁が嫁たること。 主と客。客ゆえに主が主たること。主ゆえに客が客たること。
兄と弟。弟ゆえに兄が兄たること。兄ゆえに弟が弟たること。 姉と妹。妹ゆえに姉が姉たること。姉ゆえに妹が妹たること。
若に老。老ゆえに若が若たること。若ゆえに老が老たること。 阿と吽。吽ゆえに阿が阿たること。阿ゆえに吽が吽たること。
矛と盾。盾ゆえに矛が矛たること。矛ゆえに盾が盾たること。 愛と憎。憎ゆえに愛が愛たること。愛ゆえに憎が憎たること。
好と嫌。嫌ゆえに好が好たること。好ゆえに嫌が嫌たること。 賢と愚。愚ゆえに賢が賢たること。賢ゆえに愚が愚たること。
問と答。答ゆえに問が問たること。問ゆえに答が答たること。 勝と負。負ゆえに勝が勝たること。勝ゆえに負が負たること。
進と退。退ゆえに進が進たること。進ゆえに退が退たること。 攻と防。防ゆえに攻が攻たること。攻ゆえに防が防たること。
整と乱。乱ゆえに整が整たること。整ゆえに乱が乱たること。 売と買。買ゆえに売が売たること。売ゆえに買が買たること。
結と解。解ゆえに結が結たること。結ゆえに解が解たること。 拾と捨。捨ゆえに拾が拾たること。拾ゆえに捨が捨たること。
往と復。復ゆえに往が往たること。往ゆえに復が復たること。 着と離。離ゆえに着が着たること。着ゆえに離が離たること。
授と受。受ゆえに授が授たること。授ゆえに受が受たること。 私たちが学ばねばならないこと。 真理は双方によってなる。
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思うにこれら。まだあるはずであるが、これらを思うに、これらの総体としてこの世が成り立ち、この世の風景が見られる。そして、これらに統べられるところの肉体と精神たる我が身という存在があることを知覚させられる。言わば、ここに教訓が顕現する。
ほかの項でも触れて来たが、岡倉天心は『茶の本』の中で、「真理は反対なものを会得することによってのみ達せられる」と言っている。「真理」とは、一つに自然の姿と捉えることが出来よう。最後に記した例、即ち、授と受で言えば、授のみでは真理に欠ける。また、受のみでも真理に欠ける。授と受の総体において授と受の真理は適う。
ここで、私たちへの教訓が思われる。反対側を見ない一辺倒は、この「真理」においてよしとは言えず、むしろ危いと捉えた方がよい。自信を持つことはよいけれども、自信が慢心に繋がり、その者の奢りとなれば、即ち、一辺倒に等しく、「真理」に及ばないに同じくして、ことをし損じ、ことは長続きしないということになる。過去に私たちはこの事例を身をもって経験している。 教訓:如何なる場合もものごとにおいては反面に思いを致すことが肝心である。 写真は塔の見える風景。夜から昼への移行時である夜明けの一時。塔は地上より天空を指して立つものの象徴である。 ~ 次回に続く ~