大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年07月31日 | 植物

<3121>  大和の花 (1084) シマスズメノヒエ (島雀の稗)            イネ科 スズメノヒエ属

        

 在来のスズメノヒエ(雀の稗)の仲間として知られる南アメリカ原産の多年草で、北アメリカなど世界の熱帯から温帯に広く帰化し、日本では大正4年(1915年)、小笠原諸島で見つかったので、この名がある。戦後間もなく国内に広まり、本州の関東地方以西、四国、九州、琉球列島に及び、野生化して道端などの雑草として普通に見られるようになった。また、芝地や果樹園などに入り、厄介な存在になっているところも見られるという。一方、暖地型の牧草として利用され、評価が分かれる。

 スズメノヒエに似るが、本種の方がひと回り大きく、茎(稈)は叢生して高さ1メートルほどになる。葉は線形で先が尖る。花期は7月から10月ごろで、茎(稈)の先に7センチから10センチの穂の枝を5本前後出し、3、4列の小穂を多数密に連ねる。小穂は楕円形に近く、先が尖り、縁に毛があるので無毛のスズメヒエと見分けられる。実は頴果で円盤状。

   大和(奈良県)では繁殖が著しく、馬見丘陵公園では草地を被い尽くすほど群生し、広がりを見せている。一方、奈良公園の芝地には侵入の形跡がほとんどなく、これにはシカの影響が考えられる。それにしても、雑草の猛威は公園管理における悩みの種ではある。 写真はシマスズメノヒエ。草地を被い尽くす(左)シマスズメノヒエ(中)と花序のアップ(右・連なる小穂の縁に毛が見える)。        雑草の繁る勢ひ欲しいまま


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年07月30日 | 植物

<3120>  大和の花 (1083) ミヤマシシウド (深山猪独活)                                セリ科 シシウド属

                  

 深山の草地や道端などに生える大形の多年草で、太く中空で無毛の茎は上部で枝を分け、高さが50センチから1.5メートルほどになる。タケ、ササ、シシウドなどと同じく、花が咲くと全草が枯れてしまい、後を種子に託す1稔性の植物で、多年草ながら花は生涯に1度だけという特徴を持つ。

 葉は2、3回3出複葉で、小葉は長さが6センチから15センチほどの狹長楕円形で、先が細く尖る。表面は緑色でやや光沢があり、裏面は淡緑色で、ほとんど毛がない。花期は7月から9月ごろで、茎頂や枝先に直径が10センチから20センチの複散形花序を出し、ミリ単位の小さな白い花を多数つける。花は5個の花弁が内曲するのはシシウドと同じ。実は分果で、両側に翼がある。

 本州の亜高山や高山帯に分布する日本の固有種で、シシウドによく似るが、シシウドより標高の高いところに見られ、その名にもこの特徴が反映されている。大和(奈良県)では大峰山系の山岳高所に見られる。私は、早朝の弥山(1895メートル)山頂で、晴れゆく霧の中、清々しい純白の花に出会い、魅せられたのを今もよく覚えている。   写真はミヤマシシウド。花序いっぱいに盛り上がって咲く純白の花(左・弥山)とアサギマダラの来訪を受ける花(右・山上ヶ岳)。 梅雨明けの近きに烈し蝉の声


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年07月29日 | 植物

<3119>  大和の花 (1082) イワノガリヤス (岩野刈安)                                 イネ科 ノガリヤス属

                

 亜高山から高山帯の少し湿り気のある草地に生える多年草で、根茎が横に這い、群生する。茎はススキと同じく単生して伸び上がり、高さが1メートル前後になる。葉は長さが10センチから25センチの線形。花期は7月から9月ごろで、茎頂に長さが10センチから25センチの円錐花序を出し、1花のみの小穂を多数つける。

 北海道、本州、四国に分布し、カムチャッカ半島をはじめ東北アジア一帯に見られるという。山野に生える仲間のノガリヤスに似るが、本種は寒温帯域に生え、大和(奈良県)では大峰山脈の高所に見られる。その名の「カリヤス(刈安)」は刈りやすい草の意によると言われる。別名ネムロガヤ(根室萱)。 写真はイワノガリヤス(山上ヶ岳)。  

    適合によりて成り立ちゐたる生たとへば山に山の草木


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年07月28日 | 植物

<3118>  大和の花 (1081) ツタ (蔦)                                        ブドウ科 ツタ属

                      

 ツタは北アメリカと東アジアの温帯に見られるブドウ科ツタ属約15種の総称であるとともに北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島や中国にも見られる在来種を指す固有の名でもある。ここではアマヅラ(甘蔓)、ナツヅタ(夏蔦)、モミジヅタ(紅葉蔦)の別名を持つ後者の在来のツタについて見てみたいと思う。

 ツタ(蔦)は山野の林内や林縁に生える落葉つる性の木本で、節から先に吸盤がついた巻き髭を伸ばし、この巻き髭の吸盤によって他の樹木や岩壁に取りつき這い登る。葉は2形あり、1つは花のつく短枝の葉で、大きく、広卵形の上部が3裂し、裂片が鋭く尖り、縁に粗い鋸歯が見られ、質はやや厚く、15センチほどの柄を有する。今一つの葉は花のつかない長枝につき、小さく、切れ込みのないもの、1、3裂するもの、3小葉になるものなどが見られ、柄の短いもの。両方の葉とも紅葉が美しく、小学唱歌にも歌われている。

 花期は6月から7月ごろで、短枝から長さが3センチから6センチの集散花序を出し、葉に隠れるように黄緑色の小さな花を多数つける。花弁と雄しべは5個。実は液果で、直径数ミリの球形。熟すと藍黒色になる。近縁種にアメリカヅタがあり、よく似るものにウルシ科のツタウルシがある。

 和名ツタ(蔦)の由来は、伝う意、または物を結ぶのに用いたことによる「つな」の意などの説が見られる。別名のアマヅラは樹液を煮詰めて甘味料を作ったことによる。ナツヅタはウコギ科のキヅタ(常緑)のフユヅタ(冬蔦)に対するもの。モミジヅタは葉がモミジに似て紅葉することによる。

 なお、ツタは古来より知られ、『万葉集』にも都多、津田と万葉仮名で見えるが、ツタには2系統あって、1つは地錦(つた)、今1つは絡石(つた)で、『万葉集』には「はふつたの」というように枕詞として用いられ、現在の紅葉が美しい落葉木本のツタ、地錦ではなく、絡石の常緑木本テイカカズラとする説が専らで、実に紛らわしいところがある。  写真は葉を繁らせるツタ(左)、固いツボミが目につく花序(中)、11月の紅葉(右)。     論陣の論は斯くあり自らを納得せしむることに始まる

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年07月27日 | 植物

<3117>  大和の花 (1080) アイナエ                          マチン科 アイナエ属

                     

 日当たりのよい湿潤なところに生える1年草で、草丈は5センチから15センチと小さく、注意しないと見過ごしてしまうほど。花がなければなおさらであるが、自然はこうした小さな草花も自らの懐に抱き、その存在を許容している。そして、その存在は小さいゆえにかえって私たちに訴えかけて来るようなところがある。

 葉は長さが1センチ前後の卵形から長楕円形で、やや先が尖り、3脈があって、茎の下部に数対が集まりつく。花期は8月から9月ごろで、茎の上部に対生する鱗片状の苞葉腋から細い花柄を伸ばし、その先に直径2.5ミリほど小さな鐘形の白い花をまばらにつける。花冠は4裂し、概ね上を向いて開く。実は卵球形の蒴果。

 1年草であるから毎年実をつけ、種子によって種を繋ぎ、保持している。言わば、アイナエには毎年花を咲かせることが求められ、そこには花の働きに与し、花粉の媒介をする虫たちの存在が必要ということになる。そして、その虫たちはアイナエの花に似合った小さな虫、例えば、アリなどが一つの世界を構築していると想像される。

   言わば、自然は宇宙的規模から野末のこうした小さな植生の世界まですべてを内包していると、他の雑草に紛れるように生えるこのアイナエの小さな花の姿に思われる次第ではある。小さい存在ながら、その分布は本州、四国、九州、沖縄と広く、国外では朝鮮半島、中国、台湾、それに東南アジア、オーストラリアにかけて見えるという。

   大和(奈良県)では芝草地でも見られるが、自生地が限られ、絶滅危惧種にあげられている。写真は若草山で見かけたもので、奈良県のレッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』(2016年改訂版)には「シカによる食害も観察されている」とある。仲間で、よく似たヒメナエは絶滅種にあげられている。 大は大小は小なる存在にあり且つあるなり生の展開