大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年06月24日 | 写詩・写歌・写俳

<3446>  余聞 余話 「『宇宙からの帰還』に寄せて」

               私たち人間の能力において

                 及べないところを理解しようとするに

                 神の存在がイメージされ 意識される

 ジャーナリストで評論家の立花隆さん(八十歳)の訃報を知り、代表作の『宇宙からの帰還』(中央文庫)を久しぶりに本棚から取り出し、手元に置き、追悼を込め、この文章を書いている。表紙カバーの船外活動に当たる宇宙飛行士のカラー写真が懐かしい四百頁近いボリュームの文庫本である。扉には灰色がかった月面を手前に漆黒の宇宙空間に浮かぶ透明感のある青と白の模様の宝石のような地球のカラー写真が読者を導き迎えるよう工夫されている。手軽な文庫本であるが、私が読んだ本の中では感銘を受けた部類に入る。

                                                                 

 この本は月への有人宇宙飛行(月への着陸)を目的に米国が実施したアポロ計画のミッションに加わって月へ赴いた宇宙飛行士の宇宙体験、ことにその内的(精神的)体験を徹底した取材と卓越した聞き取りによって宇宙、地球、神、人間等について探求し、宇宙飛行士それぞれの生い立ち、ヒストリーも加味して構成し、まとめたノンフィクションである。

 私の印象では、生と死の境目に置かれた宇宙飛行士の勇気というよりもそうした極限の環境に置かれ、ミッションの任務に専念する人間の内面に関心が持たれた。インタビューもそこに重点を置いて聞き取りをしている。その生死の極限において神の存在に思い巡らせる宇宙飛行士の言葉は聞くに値すると思える。一方、無神論に行き着いた宇宙飛行士もいた。これも真実の声と感じられた。そして、人間はそれぞれで、多様性を内在して生を展開しているとも思えた。

 それは一人一人異なるキャラクターを持ってそれぞれ存在しているということ。また、その異なるキャラクターがまとまって月への有人宇宙飛行という過酷なミッションをこなしたということ。そして、『宇宙からの帰還』は、その任務が終了した宇宙飛行士の後の人生をもインタビューで聞き取っている。彼らは等しく有名になり、英雄視されたが、その名声をともなって大学の先生、伝道師、政治家、実業家とさまざまな道に進み、その後の日常生活を送った。

   そして、金や色に溺れ、精神を病んだものも出た。この文庫本のカバーの裏側にはこの本の書評の最後に宇宙飛行士によるところの「知的興奮と劇的感動をよぶ壮大な精神のドラマ」と評している。その通りであろう。神になったという宇宙飛行士はいないが、神を大いに意識したことは聞き取り内容の通りである。

 私が思うところ、各所に聞き取った珠玉の知的な言葉が散見され、理解される言葉として語られている。例をあげれば切りがないし、長くなってしまうので、諸兄諸氏には読んでもらうのが一番であると思う。神の存在に対する考え方にしても絶対的な宇宙飛行士がいるかと思えば、無宗教、無神論を宇宙体験によって確定した宇宙飛行士もいる。という具合である。 写真は文庫本の『宇宙からの帰還』。