大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年12月17日 | 植物

<3621> 奈良県のレッドデータブックの花たち(151)ジュンサイ(蓴菜)    ジュンサイ科(旧スイレン科)

        

[古名] ヌナハ(蓴・沼縄の意)。

[学名] Brasenia schreberi

[奈良県のカテゴリー]  絶滅危惧種

[特徴] 池沼に生える水生の多年草で、水底の泥中を横に這う根茎から強い細縄のような茎を伸ばし、裏面が紫色を帯びる長さが5~10センチの楕円形の葉を盾状につけ水面に浮く。この葉は浮葉と呼ばれ、しばしば水面を被い尽くすほどに群生することがあり、黄葉する。茎や葉柄、若葉(若芽)などが寒天状の透明な粘液に包まれる特徴がある。その若葉(若芽)は汁の実などに用いられ、食材として珍重される。また、全草を利尿、解熱、腫れ物等に用い、薬用としても知られる。

 花期は6~8月で、根生のヒツジグサと異なり、水中の葉腋から花柄を水面に伸ばし、その先に暗紅紫色の1花を浮葉の間に開く。花は花弁状の花被片が普通6個開き、紫紅色の雄しべ多数が真ん中の雌しべを囲むようにつく。実は液果で、水中に没して熟す。

[分布] 日本全土。国外では東南アジア、中国、インド、アフリカ、アメリカ、オーストラリアなど。

[県内分布] 生駒市、奈良市、御所市、宇陀市

[記事] ジュンサイ(蓴菜)の名は漢名の蓴(チュン)が「ジュン」に転じ、食用の意の「菜」がつけられたものという。ジュンサイは古くから知られ、『古事記』や『万葉集』には「ヌナハ」と呼ばれ、登場を見る。茎が縄のように長く水中に伸びる沼縄の意とする説やぬるぬるした茎を乾かして縄として用いたためとする説がある。

 ジュンサイ採りはたらいや箱舟に乗ってこの長い茎を手繰って摘み採る。秋田県が特産地として知られるが、全国的に自生地の環境が悪化し、減少していると言われる。普通に見られていた大和地方でも例外でなく、池沼から徐々に姿が消え、ヒツジグサと同様レッドリストに登場するまでに落ち込んでいる。レッドデータブックは危険要因として「除草剤の流入」をあげている。 写真は花(左)、縄のような水中の茎(中)、紅葉(右)。ともに宇陀市。

   蓴羹鱸膾

   中国では

   蓴の羹と

   鱸の膾は

   故郷の味

   郷愁の意


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2021年08月19日 | 植物

<3503> 奈良県のレッドデータブックの花たち(98)クサタチバナ(草橘)   キョウチクトウ科(旧ガガイモ科)

               

[学名] Vincetoxicum acuminatum

[奈良県のカテゴリー]  絶滅危惧種(環境省:準絶滅危惧)

[特徴] 山地の草地に生える多年草で、殊に石灰岩地でよく見られる。茎はほとんど枝を分けず、直立して高さが大きいもので80センチほどになる。葉は長さが5~15センチの卵形乃至は楕円形で、先は尖り、基部はくさび形。短い柄を有し対生する。

 花期は6~7月で、上部の葉腋から花序を出し、多数の白い花冠が5裂する花をつける。この花がミカン科のタチバナ(橘)の花に似るのでこの名がある。花冠の中央基部に花柱を囲む副花冠がある。実は袋果で、秋に熟し、裂開する。

[分布] 本州の関東地方以西、四国。近畿圏では石灰岩の山、伊吹山がよく知られる。

[県内分布] 天川村と上北山村の大峰山脈尾根上のごく限られた石灰岩地。

[記事] 大峰山脈の自生地ではシカの食害がないようで一定の広さに群生状態が保たれているが、ほかに自生地が見当たらず、園芸採取が危惧の要因として、『大切にしたい奈良県の野生動植物』(奈良県版レッドデータブック)に記載されている。 写真は群生して花を咲かせるクサタチバナ(左)と花のアップ(右、花冠には副花冠が見られる)。

  生きゆける時の先端今といふ鋩にありつばくらめ飛ぶ

 


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2020年04月27日 | 植物

<3027>  大和の花 (1034) カサスゲ (笠菅)                                         カヤツリグサ科 スゲ属

                    

 池や沼などの水湿地に生える多年草で、草丈は40センチから1メートルほどになる。根茎が太く、地下匐枝を伸ばして殖え、群生することが多い。葉は革質で硬く、幅が4ミリから8ミリの線形で、基部は鞘になり、互生する。雌雄同株で、花期は4月から7月ごろ。茎頂に雄性の細長い茶褐色の小穂を一個つけ、その下方に円柱状の雌性の側小穂を数個斜めにつける。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見えるという。カサスゲ(笠菅)の名は、別名のミノスゲ(蓑菅)とともに、葉を乾燥して笠や蓑を作ったことによるという。『古事記』や『万葉集』に登場するスゲやスガはスゲ類の中のほとんどがこのカサスゲと考えられている。

 『古事記』の神武天皇の条に、皇后を宮に招いて床を共にしたとき、天皇が詠んだ歌が見える。「葦原の しけしき小屋に 菅畳 いやさや敷きて 我が二人寝し」という歌で、詠まれた菅畳はとても清々しいもので、スゲの中のカサスゲに違いないという。

   『万葉集』にも実用されていたことを示す歌が見え、当時は栽培されていたものと見られ、その様子がうかがえる歌がある。今は雑草として扱われる存在であるが、昔は貴重で、親しまれていた植物だった。 写真はカサスゲ。水辺での群生(左)と花穂のアップ(茶褐色の頂小穂は雄性、下方の側小穂は雌性)。 鴨去りて池辺緑を増し行ける

3028>  大和の花 (1035) カンスゲ (寒菅)                                       カヤツリグサ科 スゲ属

                                           

 山地の谷沿いなどに生える常緑の多年草で、株をつくって叢生する。葉は幅が1センチ前後の広線形で、先が尖り、断面はM字形になる。質は硬く、縁はざらつく。基部の鞘は暗赤色。雌雄同株で、花期は4、5月ごろ。葉腋から20センチ前後の花茎を伸ばし、雌雄の小穂をつける。頂小穂は雄性で一個、その下側に雌性の小穂が数個つく。

 日本の固有種として知られ、本州の福島県以西、四国、九州に分布し、大和(奈良県)では普通に見られる。カンスゲ(寒菅)の名は冬も常緑であるため。季語は冬。厳冬にはときにつららをさげている姿も見られる。観賞用として植えられることもあり、葉は籠を編むのに用いられたりする。

   万葉集に詠まれている「すげ」「すが」の中で、奥山や春日山のスゲと見えはカンスゲではないか。 写真はカンスゲ。花期の姿(左)とつららがさがった冬の姿(右)。  鳥の目に我が目に若葉 若葉萌ゆ


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2020年04月23日 | 植物

<3023>  余聞 余話 「葱坊主」

       蝶も蜂も 花なれば来る 葱坊主

   野の道を歩いていると、畑を菜園にしていろいろな野菜を育てているのに出会う。最近はホームセンターなどで園芸用の道具から肥料、各種苗や種子まで容易に入手出来、素人でも野菜作りが楽しめるようになっている。しかし、単に植えて置けば収穫できるかと言えば、やはり手入れが必要で、こまめに世話をすれば、収穫も違って来る。

   我が家でも猫の額ほどの庭に菜園を拵え、土いじりが好きな妻が野菜類を率先して育てている。今年の冬はブロッコリーとエンドウを植え、初挑戦のタマネギも植えた。ブロッコリーは収穫を終え、エンドウは今が収穫最盛期で、タマネギは一、二か月後であろう。順調に大きくなっている。

              

   この間は、ブロッコリーの後に、トマトを植えた。トマトは連作を嫌うので、三年間ほど場所替えをしながら植えている。これまでは順調で、十分に収穫出来た。果たしてこの夏はどうだろうか。ほかにもトマトとともにナスを植えた。ナスは結構難しい。

 ネギとシュンギクは毎年どこかに植え、両方とも丈夫で、ほとんど失敗なく、いつも庭先で見ることが出来る。殊にネギは強く、年中見られる。今日はそのネギ(葱)の花について触れてみたいと思う。野菜は花の咲く前に収穫するので、花を見る機会は少ないが、いつまでも放置して置くと花が咲く。花が咲くと、野菜の花は結構可愛らしく、楽しめるのに気づく。

                       

 そんな野菜の中で、ネギも花を咲かせるが、ネギの花は一風変わっている。ネギはシベリア、アルタイ地方または中国原産とされるユリ科の多年草で、重要な野菜として栽培され、日本には古くに渡来し、『日本書紀』に秋葱(あきき)として見え、その名が「キ」の一字によったので、女房詞でヒトモジ(一文字)とも呼ばれて来た。葉は中空の円柱形で、先が尖り、切ると粘液が出る。

   ネギは地中の根の方の鞘になった白い部分を食べる根深ネギと地上に現われた緑色の部分を食べる葉ネギに大別され、主に根深ネギは東日本、葉ネギは西日本と言われ、食文化の違いが見られる野菜として知られる。料理の多方面に用いられ、日本の家庭料理には欠かせない親しみのある野菜の一つにあげられる。

 説明が長くなったが、その花は初夏のころで、葉によく似た花軸が伸びて、その先に白緑色の小花が球状に多数密集した直径3センチから5センチほどの花序をつける。所謂、この球状に密集する小花群の花序が葱坊主である。このネギの花を見ていると、花が葉の変質したものとするところがわかる気がする。


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2020年04月22日 | 植物

<3022>  大和の花 (1033) ゴウソ (郷麻)                                  カヤツリグサ科 スゲ属

                                  

 田の畦や水辺、湿地などに生える多年草で、短い匐枝を出して株をつくる。茎は3稜形で、叢生し、草丈は30センチから70センチほどになる。葉は幅が4ミリほどの線形で、下部は長い鞘になる。雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。茎頂に1個の茶褐色の雄花穂がつき、その下に3、4個の鱗片状の雌花穂がつく。雌雄とも長い柄を有し、垂れ下がる。

 日本全土に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では水辺や湿地で普通に見られる。昔、製紙の補助材にされたことから、ゴウソの名はこの製紙に因む紙麻(かみそ)の転訛と言われる。郷麻は田の間の麻の意という。 写真はゴウソ(左の写真の上に雄花穂が見える、下の4個は雌花穂)。  花満ちてそして往けるもまたの春