大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2015年05月28日 | 写詩・写歌・写俳

<1312> 大和の山岳行 (1)  三 峰 山

       新緑の 樹海に溢れ ゐる命

 ゴヨウツツジのシロヤシオの花が見ごろの季節を迎えたことで、三重県境に位置する御杖村の三峰山(みうねやま・一二三五メートル)に昨日登った。天気上々で、尾根筋には爽やかな風があり、山頂付近は全山新緑に被われ、初夏の感があった。この山のシロヤシオはシロツツジと呼ばれ、PRされているほど立派な成木が多く見られる。樹氷でも知られ、それを目当てにして、冬場に一度登ったことがある。なのでこの山の様子は大体飲み込めている。山頂は猫の額ほどであるが、広場になっていて、そこから三重県側に少し下ったところに八丁平という広々として眺めのいい草原がある。

 昨日は午前六時に自宅を出て、登山口には八時前に着いた。私の脚力では山頂までの約3.6キロ、尾根筋を辿り、二時間半とみて、草木の観察をしながら登った。シロヤシオの花を思い描き、花を見た後は八丁平の草原で弁当にしようと思って登った。ところが、山頂付近のプロムナードに差しかかっても一向にシロヤシオの花が目に入って来ない。時期が早かったかと思い、枝々を確認してみたが、蕾らしいものは全く見当たらなかった。で、花は既に終わってしまったかという思いにも捉われたのであったが、散った花の様子も全く見られなかった。

 疑問に思い、八丁平まで下りて三重県側から登って来た登山者に訊いてみたら、登山者の言うに、昨年花つきがよかったので、今年は裏年に当たり、あまり花がつかなかったとのことであった。しかし、全く花が見られないというのは珍しいとつけ加えて教えてくれた。そう言えば、昨年大台ヶ原山で見たシロヤシオはすごい花の量だった。下山して他の登山者から今年の大台ヶ原山のシロヤシオに花つきがよくなかったことを聞いた。ということは、三峰山より五〇〇メートルほど標高の高い大台ヶ原山で花が咲き終わっているのであれば、この山では既に花が終わって久しいということになる。木の下に散り敷いた花の姿が皆無ということは、余程花が少なかったと言えそうで、期待を裏切られた形になってしまったが、いろいろと聞いて、シロヤシオの花については納得したのであった。

         

 その代わりというか、全山新緑で迎えられ、その新緑に目を洗う心地になって帰って来た。下界は真夏の暑さだったようであるが、山頂は厳しい日差しながら爽やかな風があり、気持ちのいい一時が過せた。それはともかく、三峰山の植生で今一つ気づくことがあった。それは、八丁平にバイケイソウの大群落が見られたこと。このところ、西大台(大台ヶ原の西区域)に大群落が出現していることなどを合せ思うに、紀伊山地においてバイケイソウが驚異的に繁茂拡大している状況がうかがえる。

 これはバイケイソウが有毒植物で、シカの食害に合うことがないためだということで、他の登山者からも八丁平のバイケイソウとシカとの関係のことを聞いた。この草原はもともとススキに被われていたが、いつの間にかシカに食べられ、芝地のような丈の低い草地になって、シカが食べない有毒なアセビやシロヤシオのようなツツジ類の低木が残り、バイケイソウが繁茂して来たという。ほかの低木では若芽を食べられている様子がうかがえるから、明らかにシカの食害が影響しているという。

シカの糞は目撃しなかったが、足跡は見られた。草地の草たちはみな若草山のように矮小化して地に貼りつくように生えている。そんな中、貧弱な黄色い花のキジムシロが見られた程度で、バイケイソウのほか、マムシグサ、ヤマトリカブトの仲間のカワチブシなど毒草ばかりが目についた。この三峰山においても、やはり、シカの食害が自然の植生に大きく影響していることがうかがえ、シロヤシオの花の代わりにこの印象を受けた。  写真左は新緑に被われた三峰山の山頂付近、中はバイケイソウ(手前)やアセビ(後方)などの有毒植物が目につく八丁平、右は八丁平の広い範囲に大群落が見られるバイケイソウ。