大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年10月31日 | 植物

<3574> 奈良県のレッドデータブックの花たち(129) サイカチ(皀莢)         マメ科

                    

[別名] カワラフジノキ

[学名] Gleditsia japonica

[奈良県のカテゴリー]  情報不足種

[特徴] 山野の川原に生える落葉高木で、大きいものでは高さが20メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、老木では黒色を帯びる。幹や枝には短枝の変形した刺がある。葉は1、2回偶数羽状複葉で、小葉は長さが3~5センチの歪んだ長楕円形。6~12対つき、互生する。

 花期は5~6月。雌雄同株で、短枝の先に穂状花序をを出し、淡黄緑色の直径が7~8ミリの小さな4弁花を多数つける。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべが退化する。花弁や萼には毛が密生する。実は長さが20~30センチの扁平で歪んだ莢の豆果で、晩秋のころ濃紫色に熟す。

[分布] 本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国。

[県内分布] 奈良市、香芝市、御所市。

[記事] 大和地方では古木も見られるが、自生か植栽起源かはっきりしないため、奈良県のレッドデータブックには情報不足種としてあげている。なお、『奈良の巨樹たち』(1998年・グリーンあすなら編)には御所市西柏町と香芝市別所の古木が紹介されている。両古木は推定樹齢200~300年で、葛城川と蓮池の傍に生え、ともに樹下には神様が祀られ、大切にされている。

   因みに御所市の西柏(さいかし)町の町名はサイカチの古名サイカイシ(西海子)に由来するという。また、サイカチ(皀莢)の名は一説に古名サイカイシ(西海子)の転じたものと言われる。皀莢は漢名。なお、『万葉集』に見える「さうけふ」にジャケツイバラとともにサイカチも候補にあげられている。なお、豆果の実は石鹸にされ、薬用としても利尿、去痰に効能があるという。材は光沢があり、建築、細工物、家具などに用いられる。

 写真は御所市西柏町の白龍大明神社の推定樹齢200年のサイカチ(左)、雌しべが退化した雄花(中)、歪んだ豆果(右)。

   努力なしに生きようなんて

   そんな虫のいい話などない

 


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2021年10月30日 | 植物

<3573>「大和の花」追記(1163) コウホネ(河骨)                               スイレン科 コウホネ属

                                          

 浅い池沼に生える多年草で、水底の泥中を横に這う肥大した白い根茎が白骨のように見えるのでこの名がある。葉は水中と水上に展開し、水中の沈水葉は半透明の膜質になる。水上の抽水葉は長さが20センチから30センチの長卵形で、基部はへら形になる。浮葉もときに見られる。

 花期は6月から9月ごろで、水上に太い花茎を直立して出し、先に直径4、5センチの椀形の黄色の花を上向きに開く。花は花弁状の萼片5個が取り巻き、萼片の背面は緑色を帯びる。花弁は長方形でその内側にあり、多数の雄しべが外側に曲がる。花の中心にはこれも多数の雌しべの柱頭が集まる。液果の実は水中に没し、熟すと崩れて多数の種子を放出する。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では韓国、沿海州、サハリンに見られるという。だが、植栽起源の可能性が強いとして、日本の固有種とする見解もある。大和(奈良県)でも古い池などでときに見られるが、植栽起源の可能性もある。写真は花期のコウホネ(宇陀市榛原の稲佐山の麓付近の池で)。

    河骨の花は黄色だ

        黄色なのはなぜか

        わからないからは

    神秘という他ない


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2021年10月29日 | 創作

<3572> 写俳百句 (88) 冬の使者ジョウビタキ

            尉鶲無事なり姿見せにけり

              

 秋らしい天気の日が続き、朝冷え込むようになったが、昨日午後、我が家の近くに冬の使者ジョウビタキ(尉鶲)が帰って来た。頭部の毛がロマンス・グレイで、目もとの辺りが黒く、腹部が鮮やかで濃い橙色をしている。また、黒色を帯びた羽の一部に白い紋付を思わせる斑紋があるオスで、一目でわかる。この羽の斑紋によってモンビタキ(紋鶲)、モンツキドリ(紋付鳥)とも呼ばれるスズメ大の小鳥である。

 人をあまり恐れず、すぐ近くまでやって来ることもあり、親しまれる。小さな鳴き声が「ひん こち こち」と聞きなせるところからヒンコチの異名もあり、私には子供のころからこの異名に馴染みがある。毎年、侘しい冬枯れの庭にただ一羽やって来てその声で、鳴き、冬の気配の中で慰めてくれる感がある。因みに、ジョウビタキが季語で、秋。

 ヒタキ科の小鳥はほかにも多いが、冬季を代表するのはこのジョウビタキで、秋が深まるころ北国から来て、春の遅くに帰って行く。所謂、冬の渡り鳥であるが、カモのように群れをつくることはなく、単一行動を取る。単独でも迷わず遠路の目的地にやって来れるのは一つの能力と言えよう。

 その能力が選ぶ先は居心地のよいところということに違いない。思えば、我が家近くにはジョウビタキが毎年姿を見せる。ということは、我が家の一帯はジョウビタキに選ばれた土地柄ということになる。そういう風に考えると、受け入れる側も何かありがたいような気になって来る。なお、オスとメスの姿が全く異なる典型的な小鳥である。では、いま一句。 無事ゆゑの姿なりけり尉鶲 

 [追記]十月三十日、馬見丘陵公園でもジョウビタキのオスを見かけた。 写真は電線にとまるジョウビタキのオス(左・毛が傷んでいるように見えるのは長旅の直後を物語るものであろう)と柵の棒杭にとまるオス(右・両羽の白い毛の斑紋が印象的)。


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2021年10月28日 | 創作

<3571> 写俳百句 (87) 枯れたカワラケツメイに寄せて

           枯草や枯るるも命のすがたなり

                             

 この間、奈良県のレッドデータブックに絶滅危惧種としてあげられているカワラケツメイ(河原決明)の自生地に出かけてみたら、異様な枯れ方をしていた。他の雑草類もことごとく枯れていたので、除草剤と見た。道端でもあるし、それなりの事情によるのだろうと察せられた。だが、濃い茶色に立ち枯れたカワラケツメイが浮き立ち、中にはマメ科特有の莢の実が裂開し、種子が弾けた様子も見られ、意識された。

   冬になると、カワラケツメイは自然に枯れるが、まだ、枯れる時期ではないので、この光景は異様な気色の眺めであった。枯れた姿から、多年草ながら本体は絶命に近く、手の施しようがない感。で、種の延命を思うに、託すは莢の実の種子のほかにない。果たしてこの種子は発芽するだろうか。しなければ、このカワラケツメイの自生地は失われる。という次第で、自生地の異変の光景は気分の落ち着かないものであった。 写真は立ち枯れて茶色に変色したカワラケツメイ(豆果の莢の実が見える)。


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2021年10月27日 | 植物

<3570> 奈良県のレッドデータブックの花たち(128)コヨウラクツツジ (小瓔珞躑躅)    ツツジ科

                     

[学名] Rhododendron pentandrum

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 深山、山岳の冷温帯域の低木林内や林縁、または岩場に生える落葉低木で、高さは大きいもので3メートルほどになる。葉は長さが2~5センチの楕円形もしくは長楕円形で、先はやや尖り、縁に鋸歯はないが、表面や縁に白い毛が生え、目立つ。裏面は淡緑色で、脈上に粗い毛が見られる。葉柄はごく短く、枝先に集まって互生する。

 花期は5~7月で、枝先の葉腋から長さが2.5センチほどの花柄を伸ばし、先に1花をつける。花は暗赤褐色の歪んだ小さな壷形で、長さが6ミリほど。先が浅く5裂してめくれ、下向きに咲く。雄しべは5個、雌しべは1個。萼は5裂し、花柄や萼片の縁に腺毛が見られる。実は蒴果で、直径3ミリほどの球形。夏から秋に5つに裂開する。

[分布] 北海道、本州、四国、九州の山岳。ヨウラクツツジ属の中ではコヨウラクツツジのみ海外に分布し、南千島とサハリンに見られるという。

[県内分布] 川上村、天川村、上北山村の大峰山脈と大台ケ原の高所。

[記事] ヨウラク(瓔珞)は仏像やお寺の装飾に用いる瓔珞のことで、花をこの瓔珞に見立て、花が他種に比べて小さいのでこの名がある。紀伊山地では標高1400メートル以上に自生しているが、個体数が極めて少ない。シカによる食害が懸念されるが、岩の砦に守られている感がある。 写真は花を咲かせるコヨウラクツツジ。

   洋の東西による違いは

         地球の成り立ちに負い

   風土の違いに現われる