大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年05月29日 | 植物

<2701> 大和の花 (806) ドウダンツツジ (満天星躑躅・灯台躑躅)          ツツジ科 ドウダンツツジ属

              

 山地、殊に蛇紋岩地に多い落葉低木で、高さは1、2メートルになり、公園などの庭木や生垣として植えられ、よく見かける。樹皮は灰色で、不規則に剥がれ、赤褐色で細い新枝が密に出る。葉は長さが2センチから3センチの長卵形であるが、変異が見られる。先は短く尖り、基部はくさび形で、縁には微細な鋸歯がある。無毛の短い葉柄を有し、互生する。

 花期は4月から5月ごろで、葉の展開直前か、同時に開花する。花は純白の壷形で、大きさは幼児の小指の先ほど。花冠の先は5浅裂し、裂片は反り返る。雄しべは10個、花糸の基部には毛が生える。雌しべは1個で、花冠とほぼ同長。実は蒴果で、初秋のころ熟す。

 本州の静岡、愛知、岐阜県、紀伊半島、四国の高知、徳島県、九州の鹿児島県に分布し、国外では台湾に見られるという。三重県の朝熊山(あさまやま)は自生地としてよく知られる。大和(奈良県)では南端部に当たる十津川村七色の果無峠(1050メートル)付近に数株が報告されているが、熊野古道の小辺路の傍であることから植栽起源の可能性が高いという見解がある。私は2度ほど現地にその花を追ったが、出会えなかった。ほかでの自生は聞かない。

 ドウダンツツジ(満天星躑躅・灯台躑躅)の名は、「枝が分岐している形が結灯台の脚に似ていることから灯台の転」という。満天星は漢名によるもので、この名は花によるか、枝先の冬芽によるか。純白の花は印象的であるが、秋の紅葉も見応えがあり、冬芽の姿も悪くない。 写真はドウダンツツジ。春の花と秋の紅葉と冬芽の姿(いずれも植栽起源のもの)。 歩く先満天星躑躅の花盛り

<2702> 大和の花 (807) サラサドウダン (更紗満天星)         ツツジ科 ドウダンツツジ属

         

 深山の冷温帯域から寒温帯域の林内や林縁、岩場などに生える落葉低木で、高さは大きいもので5メートルほどになる。樹皮は暗赤褐色または灰褐色で、新枝は赤褐色。葉は長さが3センチから7センチの倒卵状楕円形で、両端がやや尖り、縁には微細な鋸歯が見られる。短い葉柄を有し、枝先に集まって互生する。ドウダンツツジと同じく、紅葉が美しい。

 花期は5月から7月ごろで、枝先から長さが2、3センチの総状花序を垂れ下げ、5個から15個の花をつける。花は長さが1センチ前後の鐘形で、普通淡紅白色の地に紅色の縦条が入る。花の先は5浅裂し、裂片の先は丸くなる。実は蒴果で、秋に熟し裂開する。サラサドウダン(更紗満天星)の名はこの花の姿が更紗模様のようだからと言われるが、変異が多い。別名のフウリンツツジ(風鈴躑躅)の名は花の形に由来する。

 北海道西南部、本州の近畿地方以北、四国の徳島県などに分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では主に紀伊山地の深山に見られる。なお、花が白色のものはシロフウリンツツジ(白風鈴躑躅)と呼ばれる。 写真はサラサドウダン(山上ヶ岳など・右端の写真はシロフウリンツツジタイプの花)。   囀れば聞くものがある五月かな

<2703> 大和の花 (808) カイナンサラサドウダン (海南更紗満天星)          ツツジ科 ドウダンツツジ属

                               

 低山帯の林縁や岩場などに生える落葉低木で、高さは大きいもので5メートルほどになる。枝がほぼ水平に広がり、樹形が整って見える。葉は長さが2.5センチから7センチほどの倒卵形に近く、縁には波状の細かい鋸歯が見られる。ごく短い葉柄を有し、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先から長さが5センチから10センチの総状花序を垂れ下げ、淡紅色の模様が入った広鐘形の小さな花を8個から20個つける。花冠は5浅裂する。雄しべは10個。実は蒴果で、果序は垂れるが、それぞれの果柄が湾曲し、実は上向きになり、秋に熟して裂開する。

 本州の愛知県と紀伊半島、四国の徳島県に分布を限る日本の固有種で、大和(奈良県)では南部の紀伊山地に片寄って見える。カイナン(海南)は太平洋側を表すか。 写真はカイナンサラサドウダン。花期の樹冠(左)、花をぶら下げた枝の姿(右)。天川村北角の渓谷沿いで見かけた。花序の長さが他種に比べて長いのが特徴。 

   囀るは恋ひするもののゆゑ五月

 

<2704> 大和の花 (809) シロドウダン (白満天星)                           ツツジ科 ドウダンツツジ属

           

 山地の岩の多い痩せ地や急斜地に生える落葉低木で、高さは2メートルから4メートルほどになる。樹皮は褐色で、小さな皮目が多い。葉は長さが2センチから5センチの倒披針形乃至は狹倒卵形で、縁には細かい鋸歯が見られ、ごく短い葉柄を有し、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、葉の展開後の枝先に長さが5センチ前後の総状花序を垂れ下げ、5個から12個の花をつける。花は長さが7ミリ前後の緑白色の鐘形であるが、ドウダンツツジやサラサドウダンの花と異なり、先があまり開かず、5浅裂し、更に裂片が細かく裂ける特徴を有している。雌しべの花柱は花冠よりやや突き出す。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では吉野川流域よりほぼ南側に分布している。花の色には変異が見られ、赤味を帯びるベニドウダン(紅満天星)との中間タイプが多く、私にはまだ純然たる緑白色のシロドウダンに出会っていない。どこまでがシロドウダンなのか、判別が難しい。 写真はシロドウダンの花(十津川村の釈迦ヶ岳ほか)。

  野には野の山に山の花五月

 

<2705> 大和の花 (810) ベニドウダン (紅満天星)                                 ツツジ科 ドウダンツツジ属

           

 山地の岩尾根や渓谷の岩壁などに生える落葉低木で、シロドウダンの品種とする見解もあり、葉はシロドウダンとほぼ変わりなく、花が判別の決め手になる。ドウダンツツジやサラサドウダンとの違いは花冠の裂片がなお細かく裂ける点で、これが判別点になる。

  ベニドウダンはシロドウダンと同じく、本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、チチブドウダン(秩父満天星)の別名がある。これは秩父地方に見られることによるものであるが、ベニドウダンとチチブドウダンを区別し、近畿地方以西に分布する花が淡紅色のものをベニドウダン、近畿地方以東に分布して花が紅色になり、花柱が花冠より長く突き出るものをチチブドウダンと見なす見解もある。

  また、シロドウダンとベニドウダンの中間タイプの色合いの花を有する個体もあり、判別し難いところがある点はシロドウダンの項でも触れた。 写真は淡紅色の花をつけるベニドウダン(左)、花が紅色のチチブドウダンタイプの花(中・右)。釈迦ヶ岳ほか。

  風渡る麦の穂波の輝くは

 

<2706> 大和の花 (811) コアブラツツジ (小油躑躅)                                  ツツジ科 ドウダンツツジ属

           

 山地の暖温帯域から寒温帯域の岩場に生える落葉低木で、高さが1メートルから3メートルになるアブラツツジに似るが、全体的にやや小さいのでこの名がある。アブラツツジの葉は長さが2センチから4センチの倒卵形乃至は楕円形で、縁には微細な鋸歯が見られ、油を塗ったような感触があり、艶があるのでこの名がある。この葉5個が枝先に輪生状に集まって互生する。アブラもコアブラも紅葉が美しい。

  花期はともに5月から6月ごろで、枝先の葉腋から総状花序を垂れ下げ、長い花柄の先に長さ数ミリの緑白色の壷形の1花をつける。花は花序全体では5個から10個に及ぶ。コアブラツツジはこの壷形の花が少ないことと、花柄が湾曲し、花序の軸に毛がないのが見分けのポイントになる。

 また、アブラツツジが本州の中部地方以北に分布する北域型であるのに対し、コアブラツツジは本州の東海地方(静岡、愛知両県)と紀伊半島、四国(徳島県)に分布するどちらかと言えば南域型で、ともに日本の固有種として知られる。大和(奈良県)では南部の紀伊山地に分布し、山岳の岩場に自生が見られる。大台ヶ原の大蛇嵓は産地としてよく知られる。 写真はコアブラツツジ。 

   新緑を頂き歩く齢かな

 

<2707> 大和の花 (812) ベニサラサドウダン (紅更紗満天星)                  ツツジ科 ドウダンツツジ属

                     

 サラサドウダン(更紗満天星)の変種で、花が濃紅色の特徴がある。本州の東北地方から中部地方北部の山岳に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)には自生しないが、上北山村の和佐叉山の草地のスロープの一角で見かける。植栽と見なせるもので、「和佐又山スキー場周辺に、近縁のベニサラサドウダンが植えられている。すぐ近くのブナ林にサラサドウダンがあり、この場所への侵入、交雑が懸念される」という『奈良県樹木分布誌』(森本範正著)による指摘があり、ここにとりあげた。

 サラサドウダンの分布域である大和(奈良県)においてこのベニサラサドウダンは珍しいが、こうした植栽起源の個体を記録せず、そのまま年月が経ってしまうと自生か植栽起源か定かでなくなり、自然の分布状況に誤りを来たす恐れも考えられる。これは大和(奈良県)におけるタニウツギなどにも言えることで、ほかにも環境状況等に照らして考察されるべき樹種がある点に通じる。この『奈良県樹木分布誌』の指摘は人為の影響を考えさせるもので、自然観察の観点からするに注意を要すると考える。ということで、誤りを来たさないため記録することも意義のあることとしてここにとりあげた次第である。 写真はベニサラサドウダンの花。 

  花は時 季が来たりて花は咲く たとへば夏に夏の花々

 

<2708> 大和の花 (813) ツガザクラ (栂桜)                                           ツツジ科 ツガザクラ属

            

 高山から亜高山帯の岩崖地に生える常緑矮性低木で、高さは5センチから20センチほどになり、群落をつくることが多い。葉は長さが5ミリから8ミリほどの広線形で、密に互生する。花期は7月から8月ごろで、上部葉腋から数センチの花柄を立て、先に1花をっつける。花は長さが5ミリから6ミリの鐘形で、花冠は淡紅色、または白色。萼と花柄は紅紫色で、花はやや下向きにつき、触れるとポロリとこぼれやすい。この花をサクラ、葉をツガの葉に見立てたことによりこの名がある。

 本州の東北地方南部から中部地方、奈良県、鳥取県、四国の愛媛県に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では標高1600メートル以上の大峰山脈の高所部に見られ、本州の南限と目されているが、極めて少なく、なお減少傾向にあり、奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』2016年改訂版は絶滅寸前種並びに注目種にあげている。なお、減少要因はシカによる食害、園芸採取、岩場の崩落などが考えられる。風の強い崩れやすい崖地の危険なところに生えているので、撮影には十分気をつけなくてはならない。 写真はツガザクラ。ツガザクラの見られる岩場(左)、群落の花(中)、果期の姿(右)。 

  抜歯され草田男の句を思ひ出す

 

 

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年05月28日 | 写詩・写歌・写俳

<2700> 余聞、余話「凝灰岩層の屯鶴峯を歩く」

       遥かなる歴史にありて今があるそしてぼくらは今を旅せる

 大阪・奈良府県境の二上山(510メートル)の北西約2キロ(近鉄南大阪線の直ぐ北側)の香芝市穴虫に灰白色の凝灰岩が露出する奇岩の低い山並みがある。この奇岩群が白い鶴が屯(たむろ)しているように見えるところから屯鶴峯(どんづるぼう)と名づけられ、地質的に貴重なところとして、昭和26年(1951年)11月、奈良県の天然記念物に指定され、今に至っている。

        

 凝灰岩は火山灰や火山屑の堆積によって出来るもので、屯鶴峯(154メートル)の奇岩群の奇勝は地質時代第3紀(人類が現れるずっと以前の1000万年以上前)に二上火山群の活動が活発だったとき、二上山の噴火によって大量に降った瀝青岩などを含む火山灰が湖の水底に堆積し、その後の隆起と風雨の浸食によって露出し、出来たものと言われる。

 凝灰岩は軟らかく軽い特質を持つため、古くから古墳の石棺や寺院の基壇などに用いられ、量の多い屯鶴峯の凝灰岩はこうした石材としてことあるごとに運び出された言われる。また、戦時中に造られた防空壕があり、その一部が今も京都大学防災研究所の地震予知研究センター屯鶴峯観測所として利用されているという。

              

 凝灰岩地にはどんな植生があり、どんな花が見られるのだろうと、出かけた次第であるが、歩いたのは5月初旬で、クロバイ、ツクバネウツギ?、アカマツなどが目についた。サルトリイバラは実をつけ、テリハノイバラが多く見られたが、花はなかった。入口から歩いて10分ほどの山頂からの眺めはよく、南東方向に二上山の雄岳と雌岳、その向こうに遠く葛城山や金剛山の連なりが望まれ、樹木に被われた屯鶴峯には凝灰岩の灰白色の岩頭を覗かせ、悠久の時の流れの今という時を感じさせるところがあった。

 写真上段は左が屯鶴峯の山頂から二上山方面を望む一景。中央奥が二上山の雄岳と雌岳、その右奥に葛城山と金剛山の連なりが望める。手前の二次林の中に白い肌を見せるのが凝灰岩の奇岩群の一部。右は広がる灰白色の凝灰岩層。写真下段は左から花期のクロバイ、花期のツクバネウツギ?、アカマツの花、実をつけたサルトリイバラ。 生はみな個性の発露ほかになき一存在の意義にしてある


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年05月24日 | 植物

<2696> 大和の花 (802) ホオノキ (朴木)                                      モクレン科 モクレン属

          

 暖温帯域から冷温帯域に生える落葉高木で、幹の太さが直径1メートル、高さが30メートルに達するものもある。樹皮は灰白色で、平滑。皮目が多い。葉は長さが20センチから40セントの倒卵形から倒卵状長楕円形で、縁に鋸歯はなく、裏面は白色を帯び、2センチから4センチの葉柄を有し、枝先に輪生状に互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先の葉の展開後、輪生状の葉の中心に直径15センチほどの芳香のある乳白色の1花を上向きに開く。花被片は9個から12個で、外側の3個は萼片状で短く、淡緑色、ときに紅色を帯びることもある。内側の6、9個は湾曲した花弁状で、紅紫色の雌しべを紅色の花糸と乳白色の葯が取り囲み花の中央にそそり立つ形になる。雄しべは早落性で開花とほぼ同時落ちるので、完全な花を見るのは案外難しい。袋果が集まった集合果は長さが10センチから15センチの長楕円形で、秋に熟す。

 北海道、本州、四国、九州と一部南千島に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではほぼ全域的に見られる。古くから知られ、『万葉集』にはホホガシハの名で2首に見える万葉植物で、2首は花を詠んだものではなく、輪生状につく大きい葉のついた枝を折り取って翳し、その姿を傘のようだと形容した宴席での歌である。現代では「朴の花高々と咲く真昼間を水上にさみし高見の山は」と詠んだ吉野下市の歌人前登志夫の花の歌が思い出される。

 ホオノキ(朴木)のホオはホウ(包)の意で、大きい葉で食物を盛ったことによる。古名のホホカシハ(ホホガシハ)にも通じる。日本特産であるが、漢名の厚朴(こうぼく)に倣い和名のホオに朴を当てている。ホオノキは全国的に見られ、一般に馴染みが深く、地方名の多い木の1つである。

  なお、材は軟らかく、刀の鞘、朴歯の下駄、版木、ピアノの鍵盤、精密機械の木部などに用いられ、葉は朴葉味噌や朴葉寿司で知られる。また、樹皮は乾燥したものを厚朴(コウボク)と称し、利尿、去痰、健胃に用いられ、漢方の生薬にも名を連ねている。 写真はホオノキの花。花を咲かせる枝(左)、開き始めたツボミ(中)、完全に開いた花(右)。   朴の花ほぐれるやうに開きけり

<2697> 大和の花 (803) タイサンボク (泰山木)                           モクレン科 モクレン属

                    

 北アメリカ原産の常緑高木で、樹高20メートルほどになる。樹皮は灰褐色。葉は長さが10センチから25センチの長楕円形で、大きい。縁には鋸歯がなく、質は厚い革質で、表面は艶やかな濃緑色、裏面は赤褐色の細い毛が密生する。2センチから3センチの葉柄を有し、枝の上部に集まり、輪生状に互生する。

 花期は6月ごろで、枝先に直径15センチから25センチの芳香のある白い大きな花を上向きに開く。花は普通9個の花被片からなり、外側の3個は花弁状の萼片で、内側の6個は花弁の役目を果たしている。雌しべ多数を雄しべ多数が囲んでつき、花の中央にそそり立つ。実は袋果が集まった集合果で、晩秋のころ熟し、赤い種子を現わす。

 日本には明治6年(1873年)に渡来した外来種で、明治12年、アメリカのグラント大統領が来日したとき、東京の上野公園に記念植樹、大統領の名に因み「グラント玉蘭」と名づけられた。今もこの木は健在であるが、この植樹によってタイサンボクは一般に知られるようになったという。

   因みに玉蘭はタイサンボクの漢名で、タイサンボクの名は葉や花が大きいことに由来すると言われ、泰山木の字は当初、大山木と書かれていたのを園芸植物の権威松崎直枝の『趣味の樹木』(1932年)によって用いられ、以後、この泰山木が主流になったと言われる。大盞木とも書かれる。

 庭園樹や公園樹として植えられることが多く、樹木の多い公園で見られる。大和(奈良県)では広陵町の馬見丘陵公園に観察しやすい個体がある。 写真はタイサンボク。白い花が点々と咲く花期の樹冠(左)、花のアップ(中)、袋果が集まる若い集合果(右)。

     生の意を示唆し泰山木の花

 

<2698> 大和の花 (804) オオヤマレンゲ (大山蓮華)                               モクレン科 モクレン属

                

 寒温帯域(大和(奈良県)で言えば、最も寒冷な気候帯に当たる大峰、台高山脈の標高1500メートル以上の深山)に自生する落葉低木で、高さは大きいもので5メートルほどになる。樹皮は灰白色。葉は長さが6センチから20センチの倒卵形または広倒卵形で、先は短く尖り、縁に鋸歯はなく、裏面は白色を帯びる。2センチから4センチの葉柄を有し、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、葉の展開後の枝先に直径5センチから10センチの白い1花を横向き乃至はやや下向きにつける。花には花被片が9個から12個見られ、外側の3個は短く萼状で、内側の6個から9個は花弁状になる。雄しべ多数が雌しべ多数を囲んで花の中央に立ち、淡紅色を帯びたその姿には仏塔パゴダが想像される。微かに香る花もあり、咲き始めの花は清々しい感がある。実は袋果が集まった集合果で、秋に熟す。

 本州の関東地方以西、四国、九州、屋久島まで点在的に分布し、中国にも見られると言われる。殊に大和(奈良県)の大峰山脈の産地はよく知られ、近畿の最高峰八経ヶ岳(1915メートル)周辺から南の明星ヶ岳(1890メートル)、北の弥山(1895メートル)の一帯は世界に類例を見ない大群落地として昭和3年(1928年)、国の天然記念物に指定された。その後、シカによる食害が著しく、壊滅的打撃を受け、激減して絶滅が懸念され、環境省は奈良県や地元天川村等の協力を得て、シカ避けの防護柵やネットを張り巡らし、トウヒやシラビソなどの貴重種も合わせオオヤマレンゲの保護対策に乗り出した。

 また、奈良県のレッドデータブックは絶滅寸前種に、近畿地方においても絶滅危惧種Bにあげ、保護の啓蒙に努め、現在に至る。結果、防護ネット内では生育状況がよく、絶滅のピンチを脱した感がある。しかし、他の植生にも言えることであるが、地球温暖化や酸性雨等の悪影響も考えられることから手放しで喜べるところまでには至っておらず、これからも十分な観察が必要と考えられる。

 別名はミヤマレンゲ(深山蓮華)。また、中国名に由来する天女花の名でも呼ばれる。 写真はオオヤマレンゲ。霧の晴れ間に花を見せる個体(左)、花のアップ(中)、袋果が集まった集合果(右)。いずれも八経ヶ岳の自生地。   大峰山大山蓮華天女花

<2699> 大和の花 (805) ユリノキ (百合の木)                                       モクレン科 ユリノキ属

                    

 北アメリカ原産の外来種で、明治時代初期に渡来。各地に植えられ、最近、公園などでよく見かける落葉高木で、幹は直立し、高さが20メートル以上に及ぶものもある。樹皮は灰褐色で、縦に浅く裂ける。葉は長さ幅とも10センチから15センチほどで、縁に大きな切れ込みがある独特の形をしている。質は薄く、両面とも無毛で、3センチから10センチの長い葉柄を有し、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先の葉腋に微かな芳香のある直径5センチから6センチのチューリップ形の1花を上向きに開く。花被片は9個で、外側の3個は緑白色の萼片状、内側の6個は淡黄緑色の花弁状で、基部にオレンジ色の斑紋が入る。雄しべは線形で、多数が円柱形の花床につく雌しべ多数を囲み、花を形成する。実は翼果が集まった集合果で、秋の遅くに熟し、風によって飛散する。

 街路樹や公園樹として植えられ、大和(奈良県)では公園に植えられているケースが多く、公園樹の印象が強い。ユリノキ(百合の木)の名は花の姿によるもので、別名のチューリップノキも同様、学名のLiriodendron tulipiferaはチューリップのようなユリの木の意。また、ハンテンノキ(半纏の木)とも呼ばれるが、これは大きい葉の形に半纏をイメージしたことによる。  写真はユリノキ。新葉の展開後に花期を迎えた樹冠(左)、花のアップ(中・ミツバチが来ていた)、花と翼果が同時に見られる花期の樹冠(右)。

  百合の木の花高く咲き日傘行く

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~小筥集

2019年05月23日 | 写詩・写歌・写俳

<2695> 余聞、余話 「カモたちが去った池」

      行っちまった鴨たち池の面しづか                  面(おも)

 五月も中旬を過ぎ、奈良盆地の一角にある県営馬見丘陵公園の上池と下池では水面を賑わしていたカモたちが姿を消し、水面に映り込んでいた春の花も一段落して、その風景は夏の佇まいへと移り、今は濃淡の緑を映し込んで静かである。これも池における四季の風景の一端であるが、ずっと池を見て来ている身にはカモたちが去っていない今の池の風景は少し淋しいような感がある。という次第で、句の中の「しづか」を「さみし」とする案もあるかと思えるが、「しづか」に止めた。

          

      帰る雁いまはの心有明に月と花との名こそをしけれ       藤原良経 (『新古今和歌集』巻第一春歌上62)

 良経は平安末期から鎌倉時代の人で、九条兼実を父に持つ名門。土御門天皇(後鳥羽上皇)のとき、摂政太政大臣を務めるが、若くして怪死した。歌人としても知られ、『新古今和歌集』に名を連ね、自選による家集『秋篠月清集』がある。カモが去って静かな池の佇まいに接していると、新古今を代表するこの良経の歌を思い出したりする。

 この歌は『古今和歌集』の「春霞立つを見すててゆく雁は花なき里に住みやならへる」(巻第一春歌上31・伊勢)を本歌としていると言われ、「雁が有明の月(明け方の空に残る月)と花の美しさを見捨てて(見ずに)帰るのは、月と花との名折れになることで惜しまれる」となる。帰る雁に旅たちを今少し遅らせることは出来ないかと促す心持ちによる歌であると言われる。まこと悩ましい季節の移ろいの光景であり、そこに思いが生まれる心情の歌と知れる。  写真は初夏の青空と周囲の緑を映す馬見丘陵公園の下池。では、今一句。 何処にや花に背いて去りし鴨

 


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2019年05月20日 | 植物

<2692> 大和の花 (799) ナヨクサフジ (弱草藤)                                          マメ科 ソラマメ属

          

 ヨーロッパ原産のつる性1年草または越年草で、戦時中の1943年長崎県の天草島で見つかった帰化植物、家畜の飼料や緑肥としていたが、逸出して野生化し、広がって全国的に行き渡り、日当たりのよい道端や川岸などでその群落が見られるようになった。

 つるになる茎はよく分枝し、伸び広がり、長さが2メートルほどになる。葉は狹長楕円形の小葉が5対から12対つく奇数羽状複葉で、先が巻きひげになり、他物に絡む。基部には托葉が見られ、互生する。

 花期は4月末から7月ごろで、葉腋に花序を立て、長さが1.5センチほどの青紫色の蝶形花を一方向に多数穂状につけ、斜め下向きに開く。在来種のクサフジ(草藤)に似るが、花の開口部の反り返る旗弁の舷部の長さが爪部に当たる筒部の半分ほどで、花柄が花の萼に対し下側についてT字状になる特徴がある。

 大和(奈良県)ではいたるところに野生化して見え、拡大の傾向にある。殊に大和川をはじめ、奈良盆地の各河川の岸辺や道端などで、群落をつくっているのを見かける。花の時期になると、場所によっては岸辺や草叢を青紫色に染めるほどになり、夏の到来を印象づける。 写真はナヨクサフジ。草叢を被って青紫色に染める花群(左・大和川の岸)、花群のアップ(中)、花にアゲハが来ていた(右)。  ほととぎす今年は五月十九日

<2693> 大和の花 (800) オオバクサフジ (大葉草藤)                           マメ科 ソラマメ属

                         

 山地や丘陵地の林縁や草地に生えるつる性の多年草で、稜のある茎は他物に絡まって伸び、1.3メートルから1.5メートルほどになる。葉は長さが3センチから5センチの卵形乃至は楕円形の小葉を4個から10個つける偶数羽状複葉で、茎の先は分枝する巻きひげとなり、短い柄の基部には托葉があって互生する。

 花期は8月から10月ごろで、葉腋に長い柄を有する総状花序を出し、青紫色で、長さが1.3センチから1.5センチほどの蝶形花を多数つける。豆果の実は短い柄のある狹楕円形で、長さが3センチほどになる。花がフジに似て、他種より葉が大きいことによりこの名がある。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、ウスリー、アムール、シベリア東部などに見られるという。大和(奈良県)では自生地、個体数とも極めて少なく、奈良県のレッドデータブックには絶滅寸前種としてあげられている。 写真はオオバクサフジ。葉腋から伸びた花序の花(左)と花序のアップ(右・イチモンジセセリが花に来ていた)。ともに金剛山。 

   黒揚羽柚子の若葉に触れて去る

 

<2694> 大和の花 (801) ナンテンハギ (南天萩)                                       マメ科 ソラマメ属

                

 山野の日当たりのよい草叢などに生える多年草で、根茎は木質化して太く、茎は同属のクサフジなどと異なり、つるにならず、巻きひげもなく、直立して草丈30センチから60センチほどになる。

  葉は2個の小葉からなる偶数羽状複葉で、小葉は3センチから9センチの先が尖る菱状卵形であるが、変異が見られる。この小葉がメギ科のナンテン(南天)に似るのでこの名がある。別名のフタバハギ(二葉萩)、アズキッペ(小豆っぺ)も小葉に由来する。葉柄の基部には托葉が見られる。

 花期は6月から7月ごろで、葉腋から花柄を伸ばし、長さが1.5センチほどの青紫色から紅紫色の蝶形花を総状につける。実の豆果は偏平な長楕円形で、長さは2、3センチ。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、モンゴル、ロシアに見られるという。大和(奈良県)では生育地も個体数も少なく、奈良県のレッドデータブックには希少種としてあげられている。 写真はナンテンハギの花(左は葉と花。中は花序を上から見たもの。右は花序を横から見たもの。いずれも天理市の山の辺の道付近)。   揚羽訪ひ黒揚羽訪ひ庭の夏