<2701> 大和の花 (806) ドウダンツツジ (満天星躑躅・灯台躑躅) ツツジ科 ドウダンツツジ属
山地、殊に蛇紋岩地に多い落葉低木で、高さは1、2メートルになり、公園などの庭木や生垣として植えられ、よく見かける。樹皮は灰色で、不規則に剥がれ、赤褐色で細い新枝が密に出る。葉は長さが2センチから3センチの長卵形であるが、変異が見られる。先は短く尖り、基部はくさび形で、縁には微細な鋸歯がある。無毛の短い葉柄を有し、互生する。
花期は4月から5月ごろで、葉の展開直前か、同時に開花する。花は純白の壷形で、大きさは幼児の小指の先ほど。花冠の先は5浅裂し、裂片は反り返る。雄しべは10個、花糸の基部には毛が生える。雌しべは1個で、花冠とほぼ同長。実は蒴果で、初秋のころ熟す。
本州の静岡、愛知、岐阜県、紀伊半島、四国の高知、徳島県、九州の鹿児島県に分布し、国外では台湾に見られるという。三重県の朝熊山(あさまやま)は自生地としてよく知られる。大和(奈良県)では南端部に当たる十津川村七色の果無峠(1050メートル)付近に数株が報告されているが、熊野古道の小辺路の傍であることから植栽起源の可能性が高いという見解がある。私は2度ほど現地にその花を追ったが、出会えなかった。ほかでの自生は聞かない。
ドウダンツツジ(満天星躑躅・灯台躑躅)の名は、「枝が分岐している形が結灯台の脚に似ていることから灯台の転」という。満天星は漢名によるもので、この名は花によるか、枝先の冬芽によるか。純白の花は印象的であるが、秋の紅葉も見応えがあり、冬芽の姿も悪くない。 写真はドウダンツツジ。春の花と秋の紅葉と冬芽の姿(いずれも植栽起源のもの)。 歩く先満天星躑躅の花盛り
<2702> 大和の花 (807) サラサドウダン (更紗満天星) ツツジ科 ドウダンツツジ属
深山の冷温帯域から寒温帯域の林内や林縁、岩場などに生える落葉低木で、高さは大きいもので5メートルほどになる。樹皮は暗赤褐色または灰褐色で、新枝は赤褐色。葉は長さが3センチから7センチの倒卵状楕円形で、両端がやや尖り、縁には微細な鋸歯が見られる。短い葉柄を有し、枝先に集まって互生する。ドウダンツツジと同じく、紅葉が美しい。
花期は5月から7月ごろで、枝先から長さが2、3センチの総状花序を垂れ下げ、5個から15個の花をつける。花は長さが1センチ前後の鐘形で、普通淡紅白色の地に紅色の縦条が入る。花の先は5浅裂し、裂片の先は丸くなる。実は蒴果で、秋に熟し裂開する。サラサドウダン(更紗満天星)の名はこの花の姿が更紗模様のようだからと言われるが、変異が多い。別名のフウリンツツジ(風鈴躑躅)の名は花の形に由来する。
北海道西南部、本州の近畿地方以北、四国の徳島県などに分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では主に紀伊山地の深山に見られる。なお、花が白色のものはシロフウリンツツジ(白風鈴躑躅)と呼ばれる。 写真はサラサドウダン(山上ヶ岳など・右端の写真はシロフウリンツツジタイプの花)。 囀れば聞くものがある五月かな
<2703> 大和の花 (808) カイナンサラサドウダン (海南更紗満天星) ツツジ科 ドウダンツツジ属
低山帯の林縁や岩場などに生える落葉低木で、高さは大きいもので5メートルほどになる。枝がほぼ水平に広がり、樹形が整って見える。葉は長さが2.5センチから7センチほどの倒卵形に近く、縁には波状の細かい鋸歯が見られる。ごく短い葉柄を有し、互生する。
花期は5月から6月ごろで、枝先から長さが5センチから10センチの総状花序を垂れ下げ、淡紅色の模様が入った広鐘形の小さな花を8個から20個つける。花冠は5浅裂する。雄しべは10個。実は蒴果で、果序は垂れるが、それぞれの果柄が湾曲し、実は上向きになり、秋に熟して裂開する。
本州の愛知県と紀伊半島、四国の徳島県に分布を限る日本の固有種で、大和(奈良県)では南部の紀伊山地に片寄って見える。カイナン(海南)は太平洋側を表すか。 写真はカイナンサラサドウダン。花期の樹冠(左)、花をぶら下げた枝の姿(右)。天川村北角の渓谷沿いで見かけた。花序の長さが他種に比べて長いのが特徴。
囀るは恋ひするもののゆゑ五月
<2704> 大和の花 (809) シロドウダン (白満天星) ツツジ科 ドウダンツツジ属
山地の岩の多い痩せ地や急斜地に生える落葉低木で、高さは2メートルから4メートルほどになる。樹皮は褐色で、小さな皮目が多い。葉は長さが2センチから5センチの倒披針形乃至は狹倒卵形で、縁には細かい鋸歯が見られ、ごく短い葉柄を有し、互生する。
花期は5月から6月ごろで、葉の展開後の枝先に長さが5センチ前後の総状花序を垂れ下げ、5個から12個の花をつける。花は長さが7ミリ前後の緑白色の鐘形であるが、ドウダンツツジやサラサドウダンの花と異なり、先があまり開かず、5浅裂し、更に裂片が細かく裂ける特徴を有している。雌しべの花柱は花冠よりやや突き出す。
本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では吉野川流域よりほぼ南側に分布している。花の色には変異が見られ、赤味を帯びるベニドウダン(紅満天星)との中間タイプが多く、私にはまだ純然たる緑白色のシロドウダンに出会っていない。どこまでがシロドウダンなのか、判別が難しい。 写真はシロドウダンの花(十津川村の釈迦ヶ岳ほか)。
野には野の山に山の花五月
<2705> 大和の花 (810) ベニドウダン (紅満天星) ツツジ科 ドウダンツツジ属
山地の岩尾根や渓谷の岩壁などに生える落葉低木で、シロドウダンの品種とする見解もあり、葉はシロドウダンとほぼ変わりなく、花が判別の決め手になる。ドウダンツツジやサラサドウダンとの違いは花冠の裂片がなお細かく裂ける点で、これが判別点になる。
ベニドウダンはシロドウダンと同じく、本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、チチブドウダン(秩父満天星)の別名がある。これは秩父地方に見られることによるものであるが、ベニドウダンとチチブドウダンを区別し、近畿地方以西に分布する花が淡紅色のものをベニドウダン、近畿地方以東に分布して花が紅色になり、花柱が花冠より長く突き出るものをチチブドウダンと見なす見解もある。
また、シロドウダンとベニドウダンの中間タイプの色合いの花を有する個体もあり、判別し難いところがある点はシロドウダンの項でも触れた。 写真は淡紅色の花をつけるベニドウダン(左)、花が紅色のチチブドウダンタイプの花(中・右)。釈迦ヶ岳ほか。
風渡る麦の穂波の輝くは
<2706> 大和の花 (811) コアブラツツジ (小油躑躅) ツツジ科 ドウダンツツジ属
山地の暖温帯域から寒温帯域の岩場に生える落葉低木で、高さが1メートルから3メートルになるアブラツツジに似るが、全体的にやや小さいのでこの名がある。アブラツツジの葉は長さが2センチから4センチの倒卵形乃至は楕円形で、縁には微細な鋸歯が見られ、油を塗ったような感触があり、艶があるのでこの名がある。この葉5個が枝先に輪生状に集まって互生する。アブラもコアブラも紅葉が美しい。
花期はともに5月から6月ごろで、枝先の葉腋から総状花序を垂れ下げ、長い花柄の先に長さ数ミリの緑白色の壷形の1花をつける。花は花序全体では5個から10個に及ぶ。コアブラツツジはこの壷形の花が少ないことと、花柄が湾曲し、花序の軸に毛がないのが見分けのポイントになる。
また、アブラツツジが本州の中部地方以北に分布する北域型であるのに対し、コアブラツツジは本州の東海地方(静岡、愛知両県)と紀伊半島、四国(徳島県)に分布するどちらかと言えば南域型で、ともに日本の固有種として知られる。大和(奈良県)では南部の紀伊山地に分布し、山岳の岩場に自生が見られる。大台ヶ原の大蛇嵓は産地としてよく知られる。 写真はコアブラツツジ。
新緑を頂き歩く齢かな
<2707> 大和の花 (812) ベニサラサドウダン (紅更紗満天星) ツツジ科 ドウダンツツジ属
サラサドウダン(更紗満天星)の変種で、花が濃紅色の特徴がある。本州の東北地方から中部地方北部の山岳に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)には自生しないが、上北山村の和佐叉山の草地のスロープの一角で見かける。植栽と見なせるもので、「和佐又山スキー場周辺に、近縁のベニサラサドウダンが植えられている。すぐ近くのブナ林にサラサドウダンがあり、この場所への侵入、交雑が懸念される」という『奈良県樹木分布誌』(森本範正著)による指摘があり、ここにとりあげた。
サラサドウダンの分布域である大和(奈良県)においてこのベニサラサドウダンは珍しいが、こうした植栽起源の個体を記録せず、そのまま年月が経ってしまうと自生か植栽起源か定かでなくなり、自然の分布状況に誤りを来たす恐れも考えられる。これは大和(奈良県)におけるタニウツギなどにも言えることで、ほかにも環境状況等に照らして考察されるべき樹種がある点に通じる。この『奈良県樹木分布誌』の指摘は人為の影響を考えさせるもので、自然観察の観点からするに注意を要すると考える。ということで、誤りを来たさないため記録することも意義のあることとしてここにとりあげた次第である。 写真はベニサラサドウダンの花。
花は時 季が来たりて花は咲く たとへば夏に夏の花々
<2708> 大和の花 (813) ツガザクラ (栂桜) ツツジ科 ツガザクラ属
高山から亜高山帯の岩崖地に生える常緑矮性低木で、高さは5センチから20センチほどになり、群落をつくることが多い。葉は長さが5ミリから8ミリほどの広線形で、密に互生する。花期は7月から8月ごろで、上部葉腋から数センチの花柄を立て、先に1花をっつける。花は長さが5ミリから6ミリの鐘形で、花冠は淡紅色、または白色。萼と花柄は紅紫色で、花はやや下向きにつき、触れるとポロリとこぼれやすい。この花をサクラ、葉をツガの葉に見立てたことによりこの名がある。
本州の東北地方南部から中部地方、奈良県、鳥取県、四国の愛媛県に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では標高1600メートル以上の大峰山脈の高所部に見られ、本州の南限と目されているが、極めて少なく、なお減少傾向にあり、奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』2016年改訂版は絶滅寸前種並びに注目種にあげている。なお、減少要因はシカによる食害、園芸採取、岩場の崩落などが考えられる。風の強い崩れやすい崖地の危険なところに生えているので、撮影には十分気をつけなくてはならない。 写真はツガザクラ。ツガザクラの見られる岩場(左)、群落の花(中)、果期の姿(右)。
抜歯され草田男の句を思ひ出す