大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年02月19日 | 植物

<3323> 奈良県のレッドデータブックの花たち (22) イワカガミ (岩鏡)              イワウメ科

          

[学名] Schizocodon soldanelloides

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 山地、殊に深山、山岳の岩場や草地に生える常緑多年草で、群落をつくることが多い。葉は根際に集まってつき、直径3~6センチの円形乃至卵円形で、縁に先が尖った浅い鋸歯が見られる。また、葉には長い柄があり、厚みと光沢があるので、この葉を鏡に見立てた。花期は4月から7月で、葉腋から10~20センチの花茎を立て、その先に淡紅色または淡紅紫色の花を1~数個やや下向きに咲かせる。花は長さが2センチほどの筒状花で、先が5裂し、裂片は更に細かく裂ける。

[分布] 日本の固有種で、北海道、本州、四国、九州。

[県内分布] 奈良市、宇陀市、曽爾村、五條市、川上村、天川村、上北山村。

[記事] 奈良県のレッドデータブック2016改訂版には「大台ケ原、大峰山脈の高所岩場には、葉の小さい(葉身の直径1.5~6cm)変種イワカガミ(狭義)が、比較的低い山地の落葉樹林の林床や岩場には大きい(葉身5~14cm)変種オオイワカガミが分布する」と説明している。希少種としての理由に園芸用採取の被害が多いことをあげている。思うに、イワカガミは大峰山脈が誇る魅惑の草花の一つである。 写真は群落をつくって花を咲かせるコイワカガミタイプのイワカガミ(大峰山系の標高1700メートル付近の岩場)。

    今咲いている花は

    明日への可能性

    今を生きいる

          ものの証

          それは

    掲げ持つ

    行方を照らす

    ともしびに似る

    かけがえのない姿


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2020年01月12日 | 植物

<2924>  大和の花 (978) サギスゲ (鷺菅)                        カヤツリグサ科 ワタスゲ属

        

 湿地に生えるワタスゲ(綿菅)の仲間の多年草で、地下茎を伸ばして群生する。細長い根生葉とともに、高さが20センチから50センチほどの細い花茎を立てる。花期は6月から7月ごろで、花茎の先に2個から5個の小穂を出し、小穂全体が倒卵形の白い綿毛の束状になる。群生することによって白い小穂がシラサギの群れのように見えることからこの名が生まれたという。

 日本では本州の近畿地方以北と北海道に分布し、朝鮮半島からユーラシア、北アメリカ大陸の周極帯に広く見られるという。寒冷地においてはワタスゲとともに生えるが、近畿地方ではサギスゲしか見られないので、サギスゲの方がより温暖地への適応力があるとされている。大和(奈良県)では曽爾高原のお亀池の湿地に見られ、地球寒冷期の遺存種ではないかと言われ、学術的に貴重な存在として、保護の対象になっている。

 昨今地球温暖化が問題視されているが、お亀池のサギスゲは温暖化の影響によるものか、年々少なくなっている感があり、奈良県版レッドデータブックには絶滅寸前種としてあげられている。 写真は帯状に群生し、花期を迎えたサギスゲ(左・中・2008年撮影)と小穂のアップ(右・2006年撮影)。 冬の月孤高と言へば孤高なり


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2018年08月10日 | 植物

<2414> 大和の花 (579) ミゾホオズキ (溝酸漿)                         ハエドクソウ科 ミゾホオズキ属

       

 山間地から標高1000メートル以上の深山まで、水気の絶えないところに生える多年草で、群生することが多い。茎は4角形で、斜上し、高さは10センチから30センチほどになり、茎の下部の節から白いひげ根を出す。葉は長さが1センチから4センチほどの卵形もしくは楕円形で、先は尖り、縁には鋸歯が見られ、全体に軟らかい。上部の葉は無柄、下部の葉は有柄で、対生する。

 花期は6月から8月ごろで、上部の葉腋から細い花柄を出し、黄色の1花をつける。花冠は長さが1.5センチ弱。萼は緑色で、筒状。5本の稜があり、果期には実を包み、その形がナス科のホオズキ(酸漿)に似るのでこの名がある。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、ヒマラヤ地方に見えるという。大和(奈良県)には多く、登山道の水場などでよく見かける。よく似たものにオオバミゾホオズキ(大葉水酸漿)があるが、大和(奈良県)では見かけない。なお、ミゾホオズキはゴマノハグサ科からハエドクソウ科に変更された。 写真はミゾホオズキ(稲村ヶ岳登山道ほか)。

     科学は神へのアプローチ、神を理解するための方途

 

<2415> 大和の花 (580) クガイソウ (九蓋草)                              オオバコ科 クガイソウ属

           

 山地の日当たりのよい草地に生える多年草で、茎は直立し、高さが80センチから130センチほどになる。葉は長さが5センチから18センチの長楕円状披針形で、先は細く尖り、縁には細かい鋸歯が見られ、4個から8個が茎の数段に輪生する。この輪生して層をなす葉によりこの名がある。

 花期は7月から8月ごろで、茎頂に穂状の総状花序を出し、淡紫色乃至は淡青紫色の花を密につける。花が白色のものをシロクガイソウ(白九蓋草)という。花序軸に短毛が生える特徴があり、よく似るナンゴククガイソウ(南国九蓋草)との判別点になる。花冠は長さが5、6ミリの筒状で、基部に短い柄があり、先は4裂してやや尖る。雄しべは2個が花冠より伸び出し、糸状の雌しべの花柱も伸び出す。

  本州の青森県から滋賀県と紀伊半島、隠岐の島に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)で野生のものは紀伊山地の一部に見られるが、生育地も個体数も極めて少なく、シカの食害も懸念されるとして絶滅寸前種にあげられている。なお、クガイソウはゴマノハグサ科とされていたが、オオバコ科に変更された。

  あまりポピュラーではないが、食用や薬用として知られる。まず、春に若芽を採取し、ゆでて水で晒し、あくを抜くと、浸し物や和え物になる。また、根茎を日干しにしたものは草本威霊仙と呼ばれる民間薬で、これを煎じて服用すれば、リュウマチ、関節炎、利尿等に効能があると言われる。写真はクガイソウ(左の2枚は山上ヶ岳の個体・花序の中軸に短毛が見える。右の2枚は金剛山の個体・植栽起源と思われる)。 事実は一つ

<2416> 大和の花 (581) ナンゴククガイソウ (南国九蓋草)     オオバコ科 クガイソウ属

              

 クガイソウと同じくゴマノハグサ科からオオバコ科に変更された多年草で、山地の日当たりのよい草地に生える。茎は直立し、高さは80センチから130センチほど。葉は長楕円状披針形から楕円状披針形で、先は尖り、縁には鋸歯が見られ、クガイソウとほぼ同じく、数段に輪生する。

 花期は7月から8月ごろで、茎頂に穂状の総状花序を出し、淡青紫色の花を密につける。花冠は長さが数ミリの筒状で、先が4浅裂、雄しべ2個と糸状の雌しべの花柱一個が花冠より外に長く伸び出し、目につく。花は下から順次開き結実する。クガイソウとの判別は花序軸が無毛であることと葉の幅がこころなしか広いことによる。

 本州の紀伊半島、中国地方、四国、九州に分布する日本の固有種として知られ、大和(奈良県)では大峰山脈の一部稜線の岩場や草地に生えるが、自生地が限られ、個体数も少なく、シカの食害が懸念されるところから絶滅寸前種にあげられている。なお、食用や薬用はクガイソウに等しい。 写真はナンゴククガイソウ(山上ヶ岳の高所部)。 真実は顳顬の中

 


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2018年08月02日 | 植物

<2406> 大和の花 (572) ヒキオコシ (引起こし)                                           シソ科 ヤマハッカ属

                

 丘陵や高原の草むらなどに生える多年草で、草丈は大きいもので人の背丈ほどになる。茎の断面は4角形で、よく枝を分け、全体に細毛が密生する。葉は広卵形で、先が尖り、縁には鋸歯が見られ、対生する。

  花期は9月から10月ごろで、枝の上部に小さなミリ単位の唇形花を多数つける。花冠は淡青紫色で、上唇が反り返り、紫色の斑点が入る。花冠は光線の加減で、白く見えるときもあり、斑点がよりくっきり見えることがある。

 北海道南部から本州、四国、九州に分布する在来種で、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)でも普通に見られる。あまり目立たず、雑草然として生えていることが多いが、薬草として古くから知られる。

  エンメイソウ(延命草)の別名もあり、その名は弘法大師が行き倒れの行者にヒキオコシのしぼり汁を含ませたところ、たちどころに回復し、行者はまた旅を続けることが出来たという故事に因むもので、起死回生の妙薬、苦味健胃薬として広く一般にも知られるようになったという。これはつる性木本のマタタビ(木天蓼)と同根の名である。

 写真はヒキオコシと花のアップ(曽爾高原ほか)。  昭和あり且つ平成の時代あり我が顳顬の中の風景

<2407> 大和の花 (573) タカクマヒキオコシ (高隈引起こし)       シソ科 ヤマハッカ属

                         

 鹿児島県の高隈山に因んでその名がある多年草で、本州の福島県以南の主に太平洋側、四国、九州に分布する日本の固有種として知られる。茎は4角形で、下向きの毛が生え、高さが40センチから80センチほどになる。葉は長さが5センチから13センチの広披針形乃至は長卵形で、先は尖り、縁には鋸歯が見られ、対生する。

 花期は9月から10月ごろで、花は茎頂の花序に多数つく。花冠は淡青紫色で、長さ1センチ前後。上唇は4裂し、斑紋はなく、下唇は縁が巻き、舟の形になって突き出す。花冠、花柄、萼に腺毛が密生する。ミヤマヒキオコシによく似るが、本種は葉が細身。写真はタカクマヒキオコシ(川上村ほか、葉の形状によりタカクマヒキオコシと見た)。   如何にあっても生は現在進行形の存在である

<2408> 大和の花 (574) ミヤマヒキオコシ (深山引起こし)                      シソ科 ヤマハッカ属

        

 深山の林内に生える多年草で、茎は4角形、高さは40センチから80センチほどになる。葉は長さが3センチから8センチの卵形で、先端は長く尖り、縁には鋭い鋸歯が見られる。基部はくさび形になり、葉柄に続き、対生する。

 花期は8月から10月ごろで、茎長の花序に唇形花を多数つける。青紫色の花冠は長さ5、6ミリで、筒部が短い。萼は2唇形で、上唇は3裂し、裂片は三角形になり、反り返る。下唇は2浅裂し、上唇よりやや長い特徴があり、花が散っても残るものが多い。

 本州の紀伊山地と四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では、「1000m(時に800m)以上の高地に限られ、シカの食害が激甚で絶滅に瀕していることが最近判明した」と奈良県版レッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』2016年改訂版は懸念し、絶滅危惧種にあげている。写真はミヤマヒキオコシ(西大台ほか)。葉の形状などからミヤマヒキオコシと見た。

  痩身の父があり我が炎天下

<2409> 大和の花 (575) ヤマハッカ (山薄荷)                                            シソ科 ヤマハッカ属

             

 日当たりのよいやや湿り気のある山野の草むらに生える多年草で、茎は4角形。下向きの毛があり、高さは40センチから1メートルほどになる。葉は長さが3センチから6センチの長楕円形乃至は広卵形で、先は鈍く尖り、基部は急に細くなって葉柄の翼に続き、対生する。

 花期は9月から10月ごろで、茎の先と上部葉腋に唇形花を多数まばらに連ねる。長さが1センチ弱の花冠は青紫色。萼は赤褐色で、花後も残りよく目につく。この花が咲き始めると棚田の周辺はいよいよ秋の訪れである。 

  北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では山足や棚田の土手などで見かける。なお、ハッカに似るところからその名に「ハッカ」とあるが、ハッカ特有の匂いはない。 写真はヤマハッカ(五條市小和町ほか)。

      悲しいかな 熟さず落ちた ピーマンの実

      嬉しいかな 真っ赤に熟れた トマトの実

      ああ 言わば 悲喜こもごもは 生の一端

<2410> 大和の花 (576) アキチョウジ (秋丁字)                                           シソ科 ヤマハッカ属

                            

 半日蔭になる山地の草地などに生える多年草で、秋に丁字形の花をつけるのでこの名がある。木質化する地下茎より4角形で下向きの毛がある地上茎を出し、草丈は70センチから1メートルほどになる。葉は長さが7センチから15センチの卵形乃至は長卵形で、先は尖り、縁には鋸歯が見られ、基部はややくさび形で、葉柄に続き、対生する。

 花期は8月から10月ごろで、茎の上部にやや一方に片寄った細長い花穂を伸ばし、青紫色の唇形花を多数連ねて咲かせる。同属の中では筒部が著しく長いので判別点になる。上唇は浅く4裂し、下唇は舟形で、前に突き出す。

 本州の中部地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では南北にかかわらず見ることが出来る。なお、別種のセキヤノアキチョウジ(関屋の秋丁字)は花がまばらで、大和(奈良県)には分布しない。 写真はアキチョウジ。群落を作って花を咲かせるのに出会う。    体力と精神力を問ふ酷暑

 

 


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2016年11月28日 | 植物

<1795>大和の花(90)ナンバンギセル (南蛮煙管)とオオナンバンギセル (大南蛮煙管)  ハマウツボ科 ナンバンギセル属

                           

 今回から私が出会った寄生植物を紹介したいと思う。まずはナンバンギセルとオオナンバンギセル。ナンバンギセルはススキ、サトウキビ、ミョウガなどの根に宿り、その根から栄養分をもらって生活する1年生の寄生植物で、全国各地に分布し、アジアの温帯から熱帯にかけて広く見られ、ススキの群生地に赴けば、出会える。花期は7月から10月ごろで、地中の茎から花柄を真っ直ぐ20センチばかり立て、先端に淡紅紫色の筒状の花を横向きに開く。

 葉緑素を有する葉はなく、わずかに極小の鱗片葉が互生する程度である。花冠の先は浅く5裂し、鋸歯はなく全縁になっている。花の基部側は黄褐色に紅紫色の条が入る萼に包まれ、萼は下側が裂け、上側が尖る。この花と花柄の形が煙管に似るのでこの名がある。

 『万葉集』に登場する思草(おもひぐさ)はこのナンバンギセルであるというのが定説になっている。この古名も花柄と花の形から思いにふける人の姿を連想してつけられたという。集中にはわずか1首であるが、「道の辺の尾花が下の思ひ草いま更々に何をか思はむ」(巻10の1270番・詠人未詳)と見える。

  尾花は花穂を出したススキのことであるから、これは秋の歌で、ナンバンギセルの花の時期に符合する。また、「尾花が下」という表現がススキの根方に生える寄生植物のナンバンギセルにぴったり一致する。という次第で、思草イコールナンバンギセルで、ナンバンギセルは万葉植物ということになった。なお、漢名は野菰(やこ)で、薬用として全草を煎じて服用すれば、喉の痛みに効くという。

  オオナンバンギセルはススキやノガリヤスなどの根に寄生し、ナンバンギセルの花より少し大きく太めで、全体に白っぽく見える。紅紫色の花冠先端部が鮮やかで、5裂する縁に細かな鋸歯が目につく。本州、四国、九州に分布し、海外では中国でも見られるという。花期はオオナンバンギセルの方がナンバンギセルよりも心もち早い。 大和(奈良県)では曽爾高原などで見受けられるが、個体数が少なく絶滅危惧種にあげられている。 写真はナンバンギセル(左)とオオナンバンギセル(右)。ともに曽爾高原で。

  人はみな思ひ思はる思ひ草ときに思ひの雫に濡るる

 

<1796> 大和の花 (91) ヤマウツボ (山靫)                              ゴマノハグサ科 ヤマウツボ属

                                                           

  落葉樹林の少し湿り気のある林内においてブナの根などに宿り、その根から養分をもらって生育する葉緑素を有しない寄生植物の多年草で、光合成を行なう葉はなく、地中を這う根茎から高さ20~30センチほどになる太い花茎を立て、その全面に花を咲かせる。

  花期は5月から7月ごろで、花茎は成長するに従ってわずかに紅紫色を帯びる白い小花をいっぱいにつける。小花は筒状で、先はシソ科の花のように唇形に開く。本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではケヤマウツボ(毛山靫)を絶滅危惧種にあげている。

  写真(左)は金剛山(1125メートル)の山頂付近のブナ林下で撮影したもので、花は環境が整うと発生し、咲き出すようで、毎年とは限らないところがうかがえる。なお、ヤマウツボの名は筒状唇形の花をつけた花序を矢を入れる靫(うつぼ)に見立てたことによるもので、野に生えるシソ科のウツボグサに対し、山に生え出すことによる。 写真は(右)はウツボグサ。 

  風邪により微熱に籠る室の中(うち)覚束なくもありける一日

 

<1797> 大和の花 (92) キヨスミウツボ (清澄靫)                  ハマウツボ科 キヨスミウツボ属

                    

  カシやアジサイ類の根によく生える葉緑素を有しない寄生植物の多年草で、はじめ千葉県の清澄山で発見されたことによりこの名があるという。ハマウツボ科の植物はみな寄生植物で、このキヨスミウツボは1属1種の植物として知られ、全国各地に分布し、中国東北部から朝鮮半島、ロシアの東部一帯にも見られるという。日本では個体数が少なく、各地で絶滅が心配され、大和(奈良県)でも絶滅危惧種にあげられている。

  茎は叢生し、多数の鱗片葉がつくものの、光合成を行なう緑色の葉はない。花期は6月から7月ごろで、茎の頂に2センチばかりの筒状の花を多いもので10個ほどつける。花冠は最初白く、後に黄色っぽく変色する。私は7月初旬に天川村の稲村ヶ岳(1726メートル)の登山道で見かけた。

  このときのキヨスミウツボの花は、言わば、行きがけの駄賃のようなものだったが、この出会いには縁というものが感じられ、縁というのは意志と行動によって開かれるものなのだと思えたのを覚えている。極めて貧弱な花数だったが、撮影することが出来た。それから何年か経って、同じ天川村の観音峰(1347メートル)登山道で大きい群落に出会った。しかし、その群落は2年続けて見られたが、その後見られなくなった。 写真はキノコのようにも見えるキヨスミウツボの花群とつぼみ(観音峰登山道)。

  偶然と思へることも必然と見なせる出会ひの縁の不思議

 

<1798> 大和の花 (93) ネナシカズラ (根無葛)                                  ヒルガオ科 ネナシカズラ属

                                       

  蔓性一年生の寄生植物で、日当たりのよい山野に生え、蔓をほかの草木にからめて生育する。発芽からほかの草木に絡みつくまでは自力で成長するが、ツルから寄生根を出してほかの草木に吸着し、寄生状態に入ると、そこより下のツル茎は根まで枯れてしまい、宿主の草木に養分を頼る生活に入る。という次第で、この名がつけられた。

 学名はⅭuscuta japonicaで、全国各地に分布し、地方名もネナシクサ、モトナシカズラ、ウシノソウメン、ヤナギノツルなど根無しや細長いツルのイメージが名に反映している。ネナシカズラはヒルガオ科であるが、異色なためネナシカズラ科とする見解もある。

  黄色から紫褐色を帯びるツルは丈夫な針金状で、宿主の一面に絡みつくのが見られる。緑色の葉はなく、ツルにはごく小さな鱗片葉がつくのみ。花期は8月から10月ごろで、先が4、5裂する黄白色で鐘形の小花を紅紫色の斑点が目につく穂状の花序に密につける。蒴果(さっか)に包まる種子は黒色で、菟糸子(としし)と呼ばれ、滋養、強壮の薬用酒にされる。 写真はイタドリにツルを絡めて花を咲かせるネナシカズラ(左)と穂状に小花をつけるネナシカズラの花(右)。

    指の腹に黒き一本の我が睫毛悲哀は命のまたなる姿