大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年06月30日 | 祭り

<1645> 夏越しの行事

         無事願ふ 夏越しの茅の輪 くぐりかな

 六月三十日は一年の前半最後の日(晦日)。この日は前半無事に過せたことへの感謝と身に積もった穢れを祓い、一年の後半の日々を無事に過せることを願って行なわれる夏越(なご)しの大祓(おおはらえ)の日で、この日は茅の輪を作ってくぐる慣わしがあり、多くの神社で行なわれている恒例の厄除け神事の日である。

 夏越しの大祓は六月祓(みなつきはらえ)とも呼ばれ、大晦日に行なわれる年越しの大祓と対の宮中の年中行事として大宝律令(七〇一年)に定められた。その後、養老律令に定められた形式が今に伝わるという。奈良大和には古社寺が多く、この大祓の行事は各地で行なわれている。茅で作った茅の輪をくぐるのが慣わしで、四季の国日本ならではの行事として夏の風物詩になっている。

 今日は、第十代崇神天皇のとき創建されたとされ、『延喜式』や『日本書紀』等にその名が見える龍田大社に出かけてみた。龍田大社は、その後天武天皇のとき、五穀豊穣と国の繁栄を願って大和川を挟む対岸の廣瀬神社とともに改めて祀られた神社で、廣瀬神社が水を司るのに対し、龍田大社は風を司る風神として大和の国の守護を担って今にある。

 台風の襲来が多くなる真夏の到来する時期の七月第一日曜日(今年は三日)に行なわれる風鎮祭の手筒による風鎮花火が名高く、この日は多くの人出でにぎわうが、例年、その前に地元の人たちによる夏越しの大祓の茅の輪くぐりの行事が行なわれる。今年も例年通り、拝殿前の広庭に直径二.五メートル超の茅の輪が設えられ、午後三時からその前で大祓の神事が行なわれた。

      

  参拝者に紙の人形が配られ、その人形をそれぞれが体の各所に触れ、息を三回吹きかけて穢れを移し、人形とともに渡された紙きれを自分の体に振りかけて清めた。その後、左右左中央の順に茅の輪を四回くぐって参拝した。茅の輪くぐりには地元三郷町の西部保育所の園児たちも加わり、約三百人が行列をつくりにぎわった。穢れを移した紙の人形は大和川に流されるという。では、今一句。 無事願ひ六月祓する人ら  写真は左から神職ら、保育所園児ら、一般の参拝者らによる茅の輪くぐり。

 

 

 


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2012年02月06日 | 祭り

<157> おんだ祭り (御田植祭) (2)
        春よ来い 来い来い春よ 大和なる おんだ祭りの 神さまの前
  昨日に続き、今日は桜井市の大神神社でおんだ祭りが行なわれた。生憎の雨模様だったが、神事はすべて拝殿上で行なわれ、滞りなく進んだ。五穀豊穣と子孫繁栄の祈願奏上に始まり、その後、神社の職員が扮した農夫による田起こしから苗床づくり、籾播きまで、口上もおもしろく、農事の所作が披露された。
  ここの牛は面ではなく、木で模ったものを農夫が一人で操り、見物衆に向かって大暴れをするところも所作に加えられ、口上とともに笑いを誘うところがあった。また、ここの祭りでは田仕事の昼休みの所作も行なわれ、これが特徴的で、口上にはアドリブも加えられ、参拝者や見物衆とのやり取りもおもしろかった。なお、現代風な手品(マジック)も出て来るといった具合で、その都度、見物衆から笑いが立ち上がった。
 農夫による田づくりが終わると、巫女さん二人が早乙女になって苗松による田植えの所作が披露され、神楽の舞いが奉納された。最後は神田で収穫された籾種が紙袋に入れられて参加者にふるまわれ、おんだ祭りの一連の神事は終わった。
                                
 大神神社のおんだ祭りでは夫婦和合の演目はないが、役者顔負けの所作や口上の明るさとおもしろさによって祭りは盛り上がった。この明るさやユーモアによるおもしろさは、おんだ祭りが祈願のみならず、予祝にも重きを置いて開かれていることを物語るもので、一つの特徴と言える。
 また、機械化していなかった昔の田仕事は重労働で厳しかったわけで、その厳しさをユーモアのある笑いの明るさで乗り越えようとした民衆の姿が透けて見え、おんだ祭りが自然と向き合って生きていた時代の土俗的光景の一端を示すものと思えて来る。
   奏上に 花咲き実る そのよしを 思へば 予祝にありける 御田植祭(まつり)
 写真は左から神官によるお祓い、神官から鍬を受け取る農夫の所作役、鍬を振るう所作役、大きなおにぎりを食べる所作役、木で模った牛で田起こし、暴れる木の牛を演出、田植えの後に神楽の舞いを披露する巫女さん、籾種を参拝者や見物衆に投げる所作役。所作役は一人でこなす。