大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年09月13日 | 植物

<2806> 大和の花 (892) リョウブ (令法)                                              リョウブ科 リョウブ属

             

 丘陵や山地の日当たりのよい明るいところに生える落葉小高木で、高さは6メートルから10メートルほどになる。樹皮は茶褐色で、老木になると不規則に剥がれてまだら模様になり、ナツツバキの幹に似るところがある。葉は長さが数センチから15センチほどの倒卵状長楕円形で、先が短く尖り、基部はくさび形。縁には鋭く尖る細かい鋸歯が見られ、長さが1センチから4センチの柄を有し、互生する。

 花期は6月から8月ごろで、枝先に10センチから20センチの総状花序を数個出し、白い5弁花を多数つけ、花序軸には白い星状毛が密生する。花弁は長さが6、7センチの長楕円形で、先がやや凹む。雄しべは10個あり、花弁より長く伸び出す。雌しべは1個。萼は鐘形で、萼片は5個。外側に軟毛が密生する。蒴果の実は平たい球形で、熟すと褐色になり、裂開する。

 北海道南部、本州、四国、九州に分布し、国外では韓国の済州島に見られるという。1科1属で、世界には約60種と言われるが、日本には本種のみという孤独で淋しい樹種であるが、繁殖力は抜群で、暖温帯域から寒温帯域まで、垂直分布の幅が広く、群生することも多い。大和(奈良県)には多く、全域で普通に見られる。

  リョウブ(令法)の名は、令法(りょうぼう)の転と言われ、令法(りょうぼう)は若葉を食用にし、救荒植物として扱われ、若葉の採取と貯蔵を命ずる令法が発せられたことによるという。なお、食用のほか、材が緻密で美しいことから、建築材や器具材に用いられ、殊に床柱がよく知られる。また、薪炭材としても知られ、庭園などの植木としても用いられる。まことに重宝な樹種である。  写真はリョウブ。左から花盛りの群落、花を咲かせる山岳の尾根筋の個体、花序と葉のアップ。、樹氷の雪片がついた実(大台ヶ原山と高見山)。 名月やああ名月や名月や

<2807> 大和の花 (893) ウリノキ (瓜木)                                      ウリノキ科 ウリノキ属

                

 山地の林内に生える落葉低木で、高さは3メートルほどになる。樹皮は灰色で、滑らかにして丸い皮目がある。葉は長さ幅とも7センチから20センチで、浅く3裂から5裂し、裂片が鋭く尖る。基部はやや心形で、質は薄く、5センチから10センチの柄を有し、互生する。この葉の形状により、花がなくても判別出来る。この大きい葉がウリの葉に似るのでこの名がある。

 花期は6月ごろで、葉腋に集散花序を出し、白い6弁花を数個つける。花弁は長さが3センチ超の線形で、外側にくるりと巻き、長さが3センチほどの雄しべ12個が総状に伸び出し黄色の葯が目につく。雌しべの花柱は白色で、一個が雄しべより長く、柱頭が見える。実は楕円形の核果で、藍色に熟す。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では南部の山中に多く、暖温帯域から冷温帯域に見られる。 写真はウリノキの花(東吉野村)。    秋日和鐘穏やかに法隆寺

<2808> 大和の花 (894) ヒロハツリバナ (広葉吊花)                               ニシキギ科 ニシキギ属

          

 深山の林内や林縁に生える落葉小高木で、高さは3メートルから6メートルほどになる。樹皮は滑らかな灰色で、本年枝は緑色。葉は長さが3センチから12センチの倒卵状楕円形。先は長く尖り、縁には細かい鋸歯。両面とも無毛で、短い柄を有し対生する。

 花期は5月から7月ごろで、葉腋から集散花序を垂れ下げ、黄緑色の小さな花を多数つける。花は直径6ミリほどで、花弁、萼片、雄しべは4個。花盤が発達し、雄しべは花盤の上につき、花糸はごく短い。蒴果の実は発達した翼が四方に出来、直径2センチほど。秋に紅色に熟し4裂して橙赤色の仮種皮に包まれた種子を見せる。

 北海道、本州、四国に分布し、朝鮮半島、シベリア東部、中国東北部に見られるという。大和(奈良県)では大峰、台高山地の深山に自生、よく出会う大台ヶ原山の個体は花ほど実はつかず、赤く熟して裂開した実は未だ見ていない。何らかの原因で未熟のまま落果するのではなかろうか。

  ヒロハツリバナ(広葉吊花)の名はツリバナより葉が大きく、花や実が垂れ下がってつくことによる。 写真は左から垂れ下がって咲く花、下から見上げた花群、一つだけぶら下がる若い実、幹(シカの食害はないようである)。   秋は来ぬ哲学しよう思ひ切り

<2809>大和の花(895)ミツバウツギ(三葉空木)                           ミツバウツギ科ミツバウツギ属

               

 日当たりのよい山地の湿ったところに生える落葉低木で、高さは3メートルから5メートルほどになる。よく分枝し、小枝が対生状に伸び、全体にこんもりと繁った樹形になる。葉は3出複葉で、頂小葉が側小葉より大きい長卵状楕円形から卵形となり、頂小葉は長さが8センチから16センチほどになる。小葉の先は尖り、縁には芒状の鋸歯が見られる。

 花期は5月ごろで、本年枝の先に円錐花序を出し、微かに芳香のある白い花をつける。花は長さが1センチ弱で、花弁と萼片と雄しべは5個、雌しべは一個つく。花弁は雄しべと雌しべを囲んで直立し、平開しない。萼片はほぼ平開し、花弁と見間違うところがある。蒴果の実は幅が2センチ超の扁平な矢筈形で、横皺が入り、矢筈の両端は尖る。秋になると実は褐色に熟す。

 北海道、本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では奈良盆地の平野部を除いてほぼ見られるようであるが、個体数は多くないとの報告がある。私は下市町の長谷川(丹生川支流)沿いと天川村の大峯奥駈道(標高1450メートル)付近の石灰岩地で見かけた。

  なお、ミツバウツギ(三葉空木)の名は葉が3出複葉で、幹がウツギ(空木)のように中空であることによる。 写真はミツバウツギ。白い花をいっぱいにつけた花期の姿(左)、爽やかな花をつけた枝木(中)、扁平な矢筈形の実(右・熟すと褐色になる)。         秋風や柚子実太り増しにけり

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年01月06日 | 植物

<2558> 大和の花 (697) モミ (樅)                                                  マツ科 モミ属

           

 モミ属の仲間は世界に40種あると言われ、日本にはモミ(樅)、ウラジロモミ(裏白樅)、シラビソ(白檜曽)、オオシラビソ(大白檜曽)、トドマツ(椴松)の5種が分布し、大和(奈良県)にはモミ、ウラジロモミ、シラビソの3種が自生している。この3種はよく似るが、標高によって住み分け、この垂直分布における住み分けは近畿の最高峰、大峰山脈の主峰八経ヶ岳(1915メートル)の周辺において見ることが出来る。

  その住み分けを八経ヶ岳に照らしてみると、モミはほぼ平地からブナ帯上部の標高1500メートル付近まで分布し、これより上部はウラジロモミに入れ替わり、標高1800メートル付近の八経ヶ岳の山域においてシラビソが優先して見える分布状況になっている。モミ属の特徴は上向きにつく球果の種鱗が中軸を残してばらばらに落ちることにある。では、低山帯でよく見かけるモミから見てみたいと思う。

                          *                                     *                        

 モミは低山帯を中心に標高1500メートルのブナ帯上部まで見られる常緑高木の針葉樹で、高さは25メートルに及び、幹は直径1メートルに達するものもある。寿命は短く、200年ほどと言われる。樹皮は灰白色で、若い枝には短い毛が生じる。葉は長さが2、3センチほどの線形で、先がわずかに凹む。上部の日当たりのよい枝では螺旋状につき、若い木や日があまり当たらない枝の葉は先が2裂して鋭く尖り、2列に並んでつく。

 雌雄同株で、花期は5月ごろ。雄花は黄緑色で、前年枝の葉腋に多数つく。雌花は直立してつき、球果の実は長さが6センチから10センチ、太さが直径3センチほどの円柱形で、くすんだ緑色をし、徐々に茶色がかってくる。また、苞鱗が突き出て、螺旋状に並ぶ特徴があり、別種との判別点になる。開花結実は3年に1回ほどで、開花後の秋に成熟し、熟すと種鱗が中軸から離れて飛散する。

  青森県を除く本州、四国、九州(屋久島まで)に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)ではほぼ全域に見られ、春日山原始林には巨木が多い。モミはマツと同じく古来より知られ、『日本書紀』や『万葉集』にオモノキ(母の木)、オミノキ(臣の木)の古名で登場を見る。所謂、万葉植物である。なお、材は白く腐りやすいことから棺や卒塔婆などに使用されて来た。 写真は左から雄花、若い球果(突き出て螺旋状につく種鱗が見える)、秋の成熟した球果。   継がれゆく時代と人との懐かしきあるは記憶の中の風景

2559> 大和の花 (698) ウラジロモミ (裏白樅)                                         マツ科 モミ属

          

   ブナ帯の上部から亜高山帯の冷温帯域に生え、高低差でモミとシラビソの中間に分布する常緑高木の針葉樹で、ヒノキやコメツガなどと混成することが多い。普通高さは20メートル前後、幹の太さは直径80センチほどであるが、大きいものでは高さが40メートルにも達するものがある。樹皮は灰褐色で、赤味を帯びることが多い。枝は対生し、美しい。

  葉は長さが1センチほどの線形で、表面は濃緑色、裏面は幅の広い白色の気孔帯が2本あり、白っぽく見えるのでウラジロモミ(裏白樅)の名がある。また、葉はモミと同じく、日当たりのよいところでは螺旋状につき、若い木や日の当たらない部分では2列になる特徴が見られる。

 雌雄同株で、花期は6月ごろ。黄緑色の雄花は短い円筒形で、前年枝の葉腋に多数つく。雌花は赤紫色で、前年枝に直立する。球果は長さが5センチから10センチ、太さが直径3センチ前後の円柱形で、濃紫色から褐色がかってくる。透明な脂(やに)の出て来るものが多く、苞鱗は種鱗より短く、モミのように球果の外面に突き出ることはない。

 本州の福島県から紀伊半島、四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では紀伊山地の大峰、台高山脈の高所が主産地として見られ、大台ヶ原のブナ、ウラジロモミ群集はよく知られる。なお、材は建築、パルプ、クリスマスツリーに用いられる。 写真は左から雄花、雌花、球果、脂が出た球果(釈迦ヶ岳登山道ほか)。  時を得て輝けるもの生命のそれぞれにありさまざまにして

<2560> 大和の花 (699) シラビソ (白檜曽)                                         マツ科 モミ属

              

 ウラジロモミよりも上部の亜高山帯の寒温帯域に分布する常緑高木の針葉樹で、高さは大きいもので35メートルほどになるが、山頂部に生えることが多く、風雪の影響を受けやすく、高さが抑えられるものが多い傾向にある。また、寿命が短く、樹齢数十年にして帯状に枯れる縞枯れの起きることで知られ、通常、時を経て種子の発芽があり、幼樹の生え出しによって復活する。

 樹皮は平滑な灰白色で、脂(やに)の溜まった袋状の皮目があり、これを傷つけると香りのよい脂が出て来る。葉は長さが2センチから2.5センチほどの線形で、先端が凹む。表面は青味を帯びた緑色で光沢があり、裏面は白色の気孔帯が2本あり、ウラジロモミに似て白っぽく見える。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。雄花は前年枝の葉腋に垂れ下がり、雌花は上部の枝につき、暗紅色で直立し、先の尖った苞鱗が外面に突出て目立つ。実の球果は長さ5センチから6センチの円柱形で、若い実は青紫色を帯びる。3年に1回くらいの割合で開花結実するため、花や実の見られない年もある。

 本州の福島県から中部地方と紀伊半島、四国に分布する日本の固有種で、シラベ(白檜)の別名もある。なお、四国に分布するものは球果が小さく、シコクシラベ(四国白檜)として区別する向きもある。大和(奈良県)では標高1700メートル以上に見られ、殊に大峰山脈の主峰八経ヶ岳(八剣山・仏経ヶ嶽・1915メートル)の山頂部一帯にトウヒ(唐檜)と混生し、優占種として山頂付近はほぼ純林状態で、国の天然記念物である「仏経嶽原始林」の主要樹種として注目されている。

 また、山頂付近は風雪の厳しいところで、台風などによる被害とともにシカの食害もあって消滅が懸念され、奈良県では絶滅寸前にあるとされて来た。だが、最近、シカの対策などが功を奏したからか、幼樹の成長も見られ、絶滅寸前種から絶滅危惧種に危険度の評価が1ランク見直された。なお、南限として注目種にもあげられている。材は白くて軟らかく、ウラジロモミと同様、樹形がよいのでクリスマスツリーに用いられる。

 写真はシラビソ。左から花盛りの雌花、灰白色の幹、縞枯れが見られる2003年の八経ヶ岳の山頂周辺、縞枯れの中に見られるようになった幼樹(2016年撮影)。 希望とは生の展望未来への明るさ或るは再生に見ゆ

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年07月27日 | 植物

<2401> 大和の花 (568) ハルノタムラソウ (春の田村草)                               シソ科 アキギリ属

                                              

 シソ科に春、夏、秋を冠したタムラソウ(田村草)の名を有する多年草が見られる。ここではそのアキギリ属の多年草と属名になっているアキギリ(秋桐)を見てみたいと思う。まずはハルノタムラソウから。本種はやや湿った谷間の岩上や木陰に生え、断面が四角い茎を直立させ、10センチから20センチの高さになる。葉は1、2回羽状複葉で、長い柄を有し、基部に集まって対生する。小葉は卵形から楕円形で、側小葉より頂小葉の方が大きい。縁には鋸歯があり、表面にはまばらに毛が生える。

 花期は4月から6月ごろで、茎の先の部分に白色の唇形花を数段に輪生する。花冠は長さ8ミリほど。萼は長さ5ミリほど。花が散った後も残る。本州の紀伊半島、四国、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系植物の分布域に重なる。大和(奈良県)では分布が南部に限られ、「北限か」と言われ、個体数が少なく、希少種にあげられている。 写真はハルノタムラソウ(十津川村の玉置山)。   人間は感性と知性の存在

<2402> 大和の花 (569) ナツノタムラソウ (夏の田村草)                               シソ科 アキギリ属

                     

  山地の林縁や木陰の草地などに生える多年草で、ハルノタムラソウと同じく、断面が四角形の茎を直立させ、草丈は20センチから50センチほどになる。葉は普通1、2回羽状複葉で、小葉は卵形から楕円形。側小葉より頂小葉が大きく、表面にまばらな毛、縁には鋸歯が見られる。葉柄は3センチから7センチほどで、対生する。

 花期は5月から8月ごろで、茎の先端部に濃青紫色の唇形花をまばらに輪生する。花冠は長さ8ミリから10ミリで、萼は鐘形で2唇形。花はアキノキリンソウに似るが、雌しべが花冠より長く伸び出す特徴がある。日本の固有種で、神奈川県から近畿地方の太平洋側に分布し、大和(奈良県)では暖温帯上部から冷温帯域に見られるという。だが、生育地も個体数も少なく、絶滅危惧種にあげられている。山上ヶ岳から大峯奥駈道を南に向かって歩くと出会える。 写真はナツノタムラソウ(大峰山脈の尾根筋)。                    過去があって 現在はあり 現在があって 未来は開けゆく

<2403> 大和の花 (570) アキノタムラソウ (秋の田村草)                                  シソ科 アキギリ属

                          

 棚田の畦や山足の草むらなどに生える多年草で、断面が四角形の茎が伸びて高さが20センチから80センチほどになる。葉は普通1、2回羽状複葉で、小葉は広卵形から狭卵形。縁には鋸歯が見られ、長い柄を有し、対生する。

  花期は7月から11月ごろで、上部で分枝する枝の先に淡青紫色の唇形花を何段かに輪生する。イヌゴマに似るが、本種の花は青味が強い。本州、四国、九州、沖縄に分布し、東アジアに広く見られるという。大和(奈良県)では各地で普通に見られる。なお、タムラソウ(田村草)の語源は不明。 写真はアキノタムラソウ(矢田丘陵ほか)。   万能でない生に 懐疑はついてまわる

<2404> 大和の花 (571) アキギリ (秋桐)                                          シソ科 アキギリ属

                         

 やや湿り気のある山地の木陰などに生える多年草で、茎が地表を這って群生することが多い。高さは20センチから50センチほどになり、長さが6センチから10センチの三角状鉾形の葉は先が尖り、縁には鋸歯が見られる。葉には長い柄があり、対生する。

 花期は8月から10月ごろで、枝先に紅紫色の唇形花が集まってつく。花冠は長さが2センチから4センチほどで、仲間の中では大きく、上下に口を開けて咲く。下唇は垂れ、直立気味に開く上唇部分から糸状の雌しべが長く外に伸び出し、先端部で⒉分する。雄しべは花冠の内にあり、花冠の内面には長毛が生える。

  本州の秋田県から近畿地方にかけて分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では山足や山道の傍などでときおり見かける。アキギリ(秋桐)の名は秋に咲くキリに似た花に因む。 写真はアキギリ(金剛山)。花はママコナに似るが、花冠より雌しべが長く伸び出すので判別出来る。ママコナは花の内側に白い米粒のような突起が2個見える。   平成のゆく夏毛虫が這ってゐる

 

 


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2017年04月30日 | 植物

<1949> 大和の花 (205) スズシロソウ (蘿蔔草)                         アブラナ科 ヤマハタザオ属

                        

 山地の谷沿いや山足などに生える多年草で、本州の近畿地方以西と九州に分布し、国外では中国東部に見られるという。大和(奈良県)では吉野川沿いや金剛葛城山系の山裾などでよく見かける。草丈が25センチほどになり、へら形で切れ込みのある根生葉に、さじ形から卵形の茎葉を有し、茎葉には粗い鋸歯が見られ、全体に柔軟な感じを受ける。

 花期は4月から6月ごろで、茎頂に総状花序を出し、小さな白色の4弁花を開く。角果は線形で3センチほどになる。蘿蔔(すずしろ)は漢名によるダイコンの古名で、花がダイコンの花に似るのでこの名がある。花後に走出枝を伸ばして広がり、群生することが多い。 写真はスズシロソウ。花の一つ一つが命の燃えである。   か弱きも強きもともにある命 生きるといふは意味多きこと

<1950> 大和の花 (206) カワチスズシロソウ (河内蘿蔔草)                アブラナ科 ヤマハタザオ属

                    

 スズシロソウ(蘿蔔草)の変種で知られる多年草で、金剛葛城山地に特産することから、その名にカワチ(河内)が冠せられた日本の固有変種。草丈は25センチほどになり、花も白色4弁花でスズシロソウに似るが、花後に走出枝を出さないので、盛んに走出枝を伸ばすスズシロソウとこの点が異なる。

 1995年に発表された新変種で、話題になったが、「渓流沿いの斜面下部に生育していることが多いと考えられ、河川改修、砂防工事、道路改修及び登山道の整備が生育地及び個体の減少の影響要因にあげられる」という報告があり、環境省のレッドリストに絶滅危惧Ⅱ類として加えられ、奈良県側にも稀産するため、大和(奈良県)でも絶滅危惧種にあげられている。

 写真はカワチスズシロソウ。走出枝の形跡が見られず、ヘラ形で切れ込みのある根生葉が目につく。崩れやすい崖や崩れ落ちて堆積した土に生育し、その姿は群生するというより1株1株花を咲かせている印象がある。 花の籠思へば春の奈良盆地

<1951> 大和の花 (207) タネツケバナ (種漬花)                            アブラナ科 タネツケバナ属

                 

  水辺や湿地、水田などに生える2年草で、まだ寒さの残る早春のころ、いち早く花を見せはじめ、最初のうちは遠慮がちにちらほら咲いているが、春もたけなわのころになると旺盛になり、休耕田などでは一面被い尽すほどになる。で、稲の種もみを水に漬けて苗代の準備をするころ花の盛りを迎えるのでこの名があるとされ、稲作の「作物暦だったのではないか」とも言われる。

  草丈は25センチほどになり、茎は下部からよく分枝し、奇数羽状に裂ける葉をつける。円形から長楕円形の小葉が10数個つくが、頂小葉が一番大きい。花期は3月から7月ごろで、直径3、4ミリの白色4弁花を総状につける。群生して一斉に花が咲くと雪を被ったように見えるときもある。日本全土に分布し、国外では朝鮮半島をはじめ、中国からアジア一帯、北米や欧州にも及ぶ。

 ナズナ(ペンペングサ)に似る田の雑草の1つであるが、乾燥した全草を煎じて服用すれば、利尿、整腸に効能があるとされ、民間薬として用いられて来た。 写真はタネツケバナ。   来る時と去り行く時の接点にありて移ろふ生の身のほど

<1952> 大和の花 (208) オオバタネツケバナ (大葉種付花)                   アブラナ科 タネツケバナ属

                    

 日当たりのよいところを好む2年草のタネツケバナと同属であるが、本種は山地の谷川沿いの少し湿った半日陰のようなところに生える多年草で、高さが40センチほどになり、毛の生える茎も奇数羽状の葉もタネツケバナより大きく、殊に頂小葉が大きい違いが見られ、この名がある。伊予の松山市が特産のテイレギはオオバタネツケバナを食用に改良したものである。

 花期は3月から6月ごろで、総状花序に白色の4弁花を咲かせる。同じような場所に白い花をつけるセリ科のセントウソウ(仙洞草)やオミナエシ科のツルカノコソウ(蔓鹿の子草)が見られるが、葉や花の形状によって判別出来る。なお、オオバタネツケバナはワサビ(山葵)と同じく、全草に辛みがあり、山菜として知られ、薬草としても全草を日干しにし、煎じて服用すれば、利尿、整腸に効能があると言われる。 写真はオオバタネツケバナ。 一推しの花は何処か五月晴れ

<1953> 大和の花 (209) ヒロハコンロンソウ (広葉崑崙草)                       アブラナ科 タネツケバナ属

                                       

  山地の渓流や滝の傍、あるいは溝などの水湿地に生える越年草で、草丈は60センチほどになる。茎は無毛で稜があり、葉は奇数羽状複葉で、卵状楕円形の小葉が5個から7個つく。花期は5月から6月ごろで、茎の先端部の総状花序に白い4弁花を咲かせる。ハンカチの花の別名で知られる花弁様の萼片が純白のコンロンカ(崑崙花)と同じくこの白い花に中国の雪を頂く崑崙山に因んでこの名がつけられたと一説にある。

  ヒロハコンロンソウはコンロンソウとよく似ているが、長い葉柄の基部が耳状に張り出し茎を抱くようにつく特徴がある。コンロンソウは全国的に分布するのに対し、ヒロハコンロンソウは本州の中部地方以北とされている日本の固有種であるが、大和(奈良県)には葉柄が茎を抱くヒロハコンロンソウが稀産し、自生地、個体数とも限られて少なく、レッドリストに絶滅危惧種としてあげられている。 写真は白い花が印象的なヒロハコンロンソウ(左)と茎を抱く葉柄(右)。  五月とは平和憲法高々と   

<1954> 大和の花 (210) マルバコンロンソウ (丸葉崑崙草)                   アブラナ科 タネツケバナ属

                                    

  コンロンソウ(崑崙草)の仲間で、コンロンソウに比べ小葉が丸いのでこの名がある。山野の林内などあまり日の当たらないような湿り気のあるところに生える越年草で、草丈は20センチほど。全体に白毛があり、地を這うように茎を伸ばし、長い柄のある奇数羽状複葉を互生する。前述したように小葉は円心形で、ほかの仲間より丸い特徴がある。

  花期は4月から6月。茎頂部に総状花序を出し、白色4弁花を数個開く。実は長角果。本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)にも自生するが、私は奈良市の春日山でしか見ていない。 写真はマルバコンロンソウ。オオバタネツケバナとの違いは、小葉に丸みがあり、頂小葉と側小葉の大きさにオオバタネツケバナほど差異がないこと。 健やかなことは何より子供の日

<1955> 大和の花 (211) ワサビ (山葵)                                               アブラナ科 ワサビ属

                           

 清流が見られる山地や山間地の渓谷などに生え、太くなる根茎を香辛料にすることで知られる日本原産の多年草で、和食には欠かせないものとして今も大いに用いられ、植栽による生産も盛んに行なわれている。産地としては静岡県や長野県が有名であるが、大和(奈良県)でも紀伊山地の山懐に当たる野迫川村などで栽培されている。

 沢山葵とか水山葵と呼ばれる自生種は北海道から本州、四国、九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)では吉野地方の一帯に多く自生しているが、シカの食害などで減少していると見られ、レッドリストの希少種にあげられている。なお、上北山村にはワサビダニという深い渓谷がある。私はまだ入っていないが、ワサビが多く自生していたのだろうと想像される。

 草丈は40センチほど、長い柄を有する根生葉は直径10センチ前後の円心形で、波状の鋸歯を有し、表面に光沢が見られる。花期は3月から5月ごろで、茎頂部の総状花序に長さ6ミリほどの倒卵形の花弁4個の白い花を咲かせる。雄しべは6個で、葯は黄色。実は長角果。

 ワサビの名はワサとビの合体によるとされ、ワサは早春に花を咲かせる早生(わせ)の転訛であり、ビはひりひりと辛いヒビナのビという説などがある。また、山葵はワサビの葉がアオイ(葵)の葉に似るからと言われる。なお、香辛料のほか、食用には茎、葉を漬けものや浸しものなどにする。一方、薬用にもされ、根茎を摩り下ろしたものをリュウマチや神経痛の患部に当てると効能があると言われる。

 このように利用価値が高く、古くからよく知られていたようで、平安時代前期に出された『延喜式』には若狭、丹後、但馬、因幡、飛騨の諸国から宮廷に献納されたことが記録され、当時の『本草和名』や『倭名類聚鉦』には和佐比として登場を見る。学名はWasabia jyaponica。 写真は花を咲かせる自生種(五條市西吉野町)。右端は水が滴る岩間のもの(天川村)。

  清らかに水滴れる新緑下岩間の山葵も濡れて新し

 

<1956> 大和の花 (212) ユリワサビ (百合山葵)                               アブラナ科 ワサビ属

                                        

  山地の湿り気のある渓谷沿いなどの礫地に生えるワサビの仲間の多年草で、根茎がユリ根に似るのでこの名がある。茎は地を這い、斜上して高さが25センチ前後になる。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は長い柄を有し、卵円形または腎円形で、直径5センチほどになる。茎葉は小さく互生する。

  花期はワサビと同様、3月から5月ごろで、茎頂の総状花序に小さな白色の4弁花を開く。実は長角果で長さが1.5センチほど。日本の固有種で、本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)では山地の渓谷や川沿いで小形の個体をよく見かける。ほかの草木が生えないような礫地の環境下に生えるので、小さいながらも目につくところがあり、シカの食害により減少しているとされ、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はユリワサビ。   夏は来ぬ妻の素足のかはいらし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年04月27日 | 植物

<1581> ザイフリボクとヒトツバタゴ

          似て非なる日々の営み積み重ね移り変はりてゆく世のならひ

 草木を問わず植物にはよく似たものがあって間違いやすいところがある。花にも言えることで、判別がつかないものに出会うことがある。こういうときには図鑑が頼りになるが、植物の細部にわたる観察が必要で、写真による比較が一つの方法としてある。最も確かな方法は標本をとることであろうが、貴重な植物ではそこまでの勇気が湧かない。スケッチするのもよいが、信頼性が問われるし、面倒だというのが先に立つ。

 ということもあって、私は専ら手っ取り早い写真に収めて図鑑と対比するやり方をしている。大方はこれで賄えるが、写真だけでは判別出来ないときもある。このほど馬見丘陵公園で花を咲かせるヒトツバタゴに出会ったのであるが、まだ若い木で、ザイフリボクと間違えた。公園の樹木には名前を書いた札が立てられているので間違いに気づいた。

  この二つはよく似た白い花を樹冠いっぱいに咲かせる。花期が晩春から初夏のころであるのも間違いの元になった。もちろん、知識が豊富で観察が行き届いていれば、間違うことはないが、遠目には間違うおそれがあるザイフリボクとヒトツバタゴの若木ではある。

        

 では、二つの木を見てみよう。まず、ザイフリボクはバラ科の落葉小高木で、高さは十メートルほどになる。葉は互生し、楕円形で、先端は尖り、縁に細かい鋸歯がある。花は白い線形の五弁花で、四月から五月にかけて咲く。花が神前に捧げる玉串につけられる幣(しで)に似るところからシデザクラ(四手桜)の名でも呼ばれる。本州の岩手県以西、四国、九州に分布し、大和でも林縁などで見かける。

 次にヒトツバタゴはモクセイ科の落葉高木で、高さは三十メートルほどにもなる。葉は対生し、長楕円形から広卵形で、縁に鋸歯はない。四月から五月ごろ新枝の先に円錐花序を出し、白い多数の花をつける。花冠は四深裂し、裂片が線状披針形になる特徴を有する。長野、岐阜、愛知県、長崎県の対馬、朝鮮半島、中国、台湾ととびとびに分布するが、最近は公園樹として多く植えられている。

  奇妙な名の持ち主であるが、タゴは野球バットの用材や器具材にされる同じモクセイ科のトネリコのことで、ヒトツバは単葉であることによるという。別名はナンジャモンジャで、これは珍しい木だったからと言われる。 写真は左二枚がヒトツバタゴ、右二枚がザイフリボク(宇陀市で)。