<2523> 大和の花 (670) イロハモミジ (伊呂波紅葉) カエデ科 カエデ属
山地の半日蔭になる谷筋などに生える落葉高木で、大きいものでは高さが15メートル前後、幹の太さが直径5、60センチになる。若木の樹皮は緑色を帯び、滑らか。成木の樹皮は淡灰褐色で、縦に浅い割れ目が入る。葉は直径4センチから7センチで、掌状に5裂から9裂する。裂片は披針形で、先は細く尖る。縁には重鋸歯が見られ、基部は浅い心形乃至は切形で、長さが2センチから4センチの柄を有し、対生する。新緑も錦織りなす紅葉も美しく、よく植栽される。
雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。枝の上部の花序に雄花と両性花が混生し、雄花からは雄しべが突き出し、葯は紫色。両性花にはほぼ水平に開く翼果の実がつき、7月から9月ごろ成熟する。イロハモミジ(伊呂波紅葉)の名は掌状に裂ける葉の裂片を「いろはにほへと」と数えたことによるという。別名イロハカエデ。京都の紅葉の名所高雄に因み、タカオモミジとも呼ばれる。
本州の福島県以南、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に自生し、カエデ類の中ではもっともポピュラーで、「もみじ」と言えば本種を指し、よく植栽される。また、材が堅く、建築材、器具材、楽器材などにされる。 写真はイロハモミジ。左から雄花と両性花が混生する花序、緑が鮮やかな枝葉、紅葉に浮き立つ翼果、錦なす美しい枝葉。 鮮やかないろはもみじの渓の道
<2524> 大和の花 (671) ハウチワカエデ (羽団扇楓) カエデ 科カエデ属
山地の谷筋などに生える落葉高木で、高さは5メートルから10メートルほど、大きいものでは幹が直径25センチ前後になる。樹皮は灰緑色または灰褐色で、成木は縦に裂け目が入る。葉は直径が7センチから12センチの掌状で、7から11浅裂もしくは中裂する。裂片は狭卵形で、先が鋭く尖り、縁には重鋸歯が見られる。白い綿毛が生える葉柄は葉身の半分以下の長さで、対生する。質はやや厚く、紅(黄)葉が美しい。ハウチワカエデ(羽団扇楓)の名は葉の形を鳥の羽で作った団扇にたとえたもの。メイゲツカエデ(明月楓)の別名でも呼ばれる。これは明月の下でも紅(黄)葉が見られる意によるという。
雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。新葉の展開とほぼ同時に枝先の葉腋から散房状の花序を伸ばし、雄花と両性花を10個前後混生する。花序も同時に開く葉も白い綿毛が密生する。5個ずつつく花弁も萼片も濃い紅色で美しく、突き出る雄しべ8個の葯は黄色でよく目につき、カエデの仲間の中では印象的な花である。
北海道と本州に分布する日本の固有種で、紀伊半島が分布の南限と見られ、大和(奈良県)では主に紀伊山地の標高1000メートル以上の高所に希産し、個体数が少なく、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はハウチワカエデの花。葉の展開と同時に見られる。雄花と両性花の混生しているのがわかる。 もみぢ照る晴れて宜しき渓の道
<2525> 大和の花 (672) コハウチワカエデ (小羽団扇楓) カエデ科 カエデ属
山地の落葉樹林帯に多い落葉高木で、高さは大きいもので15メートル、幹は直径60センチほどになり、ハウチワカエデよりも大きい。樹皮は暗灰色で、成木では縦に浅い割れ目が入る。本年枝は緑色から紅紫色で、光沢があり、短毛が生える。
葉はハウチワカエデによく似て、掌状に5裂から11裂するが、ハウチワカエデよりも直径が5センチから8センチと小さいのでこの名がある。また、葉柄が葉身の3分の2以上と長く、半分以下と短いハウチワカエデとはこの点で見分けられる。秋の紅(黄)葉は抜群で、美しく映えて見える。
雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。枝先の葉腋から複散房状の花序を伸ばし、雄花と両性花を混生する。花は淡黄色を帯び、ときに萼片が紫色のものも見られる。花序には白い綿毛が密生する。実は翼果で、翼はほぼ水平に開き、分果の長さは2センチ弱。
本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では南部の紀伊山地に多い傾向にある。イタヤメイゲツ(板屋明月)の別名を持つが、「イタヤ」は1説に葉がよく茂って重なり、板葺きの屋根のようになることによるという。「メイゲツ」の由来はハウチワカエデのメイゲツカエデ(明月楓)に等しい。庭木や公園樹として植えられ、材は堅く、器具材などにされる。 写真はコハウチワカエデ。左から葉の下に垂れ下がる多数の花、翼果をつけた枝、青空に映える紅葉(大台ヶ原山ほか)。
もみぢ照る奥へ奥へと渓の道
<2526> 大和の花 (673) オオイタヤメイゲツ (大板屋明月) カエデ科 カエデ属
ある程度の日当たりがある深山に自生する落葉高木で、高さは普通10メートルから15メートル。幹は直径30センチから40センチほどになり、中には高さが20メートル、幹が直径80センチに及ぶものもある。樹皮は暗灰色または灰褐色で、成木は浅く縦に割れ目が入る。
葉はハウチワカエデやコハウチワカエデに似て、直径5センチから9センチの大きさで、掌状に9裂から11裂し、裂片は卵状披針形で、先は尖り、縁には細かい重鋸歯が見られる。質は洋紙質で、類似種の中では厚みがある。対生してつく葉柄はコハウチワカエデと同じく葉身の3分の2以上と長く、この点よく似るが、本種は無毛で、有毛のハウチワカエデやコハウチワカエデと判別出来る。本種も秋の紅(黄)葉が美しい。この仲間には今ひとつヒナウチワカエデ(雛団扇楓)があるが、葉の質が薄く、花序の花数が少ない。
雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。枝先の葉腋に複散房状の花序を伸ばし、雄花と両性花が混生し、花は10個から20個つく。花序は普通立つが、雄花のみの花序は垂れ気味になる。花弁は淡黄色で、雄しべは8個。雌しべの花柱は先が二股になり、湾曲する。萼は黄白色であるが、紅色を帯び、紅色の強いのが目につき、コハウチワカエデの花と印象を異にする。
本州の福島県以南、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では大峰、台高山系の標高1000メートル以上の深山、山岳でよく見かける。オオイタヤメイゲツ(大板屋明月)の名はコハウチワカエデ(イタヤメイゲツ)に比べて葉が大きいことによるという。
庭木や公園樹に植栽され、材は器具などに用いられる。 写真はオオイタヤメイゲツ。左からいっぱいに花をつけた樹冠、葉と花序のアップ、翼果をつけた果期の枝木、黄葉(十津川村の釈迦ヶ岳登山道及び上北山村の大台ヶ原山)。
寒さなき師走も師走なりにけり