大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年11月30日 | 植物

<2523> 大和の花 (670) イロハモミジ (伊呂波紅葉)                                 カエデ科 カエデ属

           

 山地の半日蔭になる谷筋などに生える落葉高木で、大きいものでは高さが15メートル前後、幹の太さが直径5、60センチになる。若木の樹皮は緑色を帯び、滑らか。成木の樹皮は淡灰褐色で、縦に浅い割れ目が入る。葉は直径4センチから7センチで、掌状に5裂から9裂する。裂片は披針形で、先は細く尖る。縁には重鋸歯が見られ、基部は浅い心形乃至は切形で、長さが2センチから4センチの柄を有し、対生する。新緑も錦織りなす紅葉も美しく、よく植栽される。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。枝の上部の花序に雄花と両性花が混生し、雄花からは雄しべが突き出し、葯は紫色。両性花にはほぼ水平に開く翼果の実がつき、7月から9月ごろ成熟する。イロハモミジ(伊呂波紅葉)の名は掌状に裂ける葉の裂片を「いろはにほへと」と数えたことによるという。別名イロハカエデ。京都の紅葉の名所高雄に因み、タカオモミジとも呼ばれる。

 本州の福島県以南、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に自生し、カエデ類の中ではもっともポピュラーで、「もみじ」と言えば本種を指し、よく植栽される。また、材が堅く、建築材、器具材、楽器材などにされる。 写真はイロハモミジ。左から雄花と両性花が混生する花序、緑が鮮やかな枝葉、紅葉に浮き立つ翼果、錦なす美しい枝葉。 鮮やかないろはもみじの渓の道

<2524> 大和の花 (671) ハウチワカエデ (羽団扇楓)                                      カエデ 科カエデ属

                                   

 山地の谷筋などに生える落葉高木で、高さは5メートルから10メートルほど、大きいものでは幹が直径25センチ前後になる。樹皮は灰緑色または灰褐色で、成木は縦に裂け目が入る。葉は直径が7センチから12センチの掌状で、7から11浅裂もしくは中裂する。裂片は狭卵形で、先が鋭く尖り、縁には重鋸歯が見られる。白い綿毛が生える葉柄は葉身の半分以下の長さで、対生する。質はやや厚く、紅(黄)葉が美しい。ハウチワカエデ(羽団扇楓)の名は葉の形を鳥の羽で作った団扇にたとえたもの。メイゲツカエデ(明月楓)の別名でも呼ばれる。これは明月の下でも紅(黄)葉が見られる意によるという。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。新葉の展開とほぼ同時に枝先の葉腋から散房状の花序を伸ばし、雄花と両性花を10個前後混生する。花序も同時に開く葉も白い綿毛が密生する。5個ずつつく花弁も萼片も濃い紅色で美しく、突き出る雄しべ8個の葯は黄色でよく目につき、カエデの仲間の中では印象的な花である。

 北海道と本州に分布する日本の固有種で、紀伊半島が分布の南限と見られ、大和(奈良県)では主に紀伊山地の標高1000メートル以上の高所に希産し、個体数が少なく、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はハウチワカエデの花。葉の展開と同時に見られる。雄花と両性花の混生しているのがわかる。 もみぢ照る晴れて宜しき渓の道

<2525> 大和の花 (672) コハウチワカエデ (小羽団扇楓)                               カエデ科 カエデ属

             

 山地の落葉樹林帯に多い落葉高木で、高さは大きいもので15メートル、幹は直径60センチほどになり、ハウチワカエデよりも大きい。樹皮は暗灰色で、成木では縦に浅い割れ目が入る。本年枝は緑色から紅紫色で、光沢があり、短毛が生える。

  葉はハウチワカエデによく似て、掌状に5裂から11裂するが、ハウチワカエデよりも直径が5センチから8センチと小さいのでこの名がある。また、葉柄が葉身の3分の2以上と長く、半分以下と短いハウチワカエデとはこの点で見分けられる。秋の紅(黄)葉は抜群で、美しく映えて見える。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。枝先の葉腋から複散房状の花序を伸ばし、雄花と両性花を混生する。花は淡黄色を帯び、ときに萼片が紫色のものも見られる。花序には白い綿毛が密生する。実は翼果で、翼はほぼ水平に開き、分果の長さは2センチ弱。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では南部の紀伊山地に多い傾向にある。イタヤメイゲツ(板屋明月)の別名を持つが、「イタヤ」は1説に葉がよく茂って重なり、板葺きの屋根のようになることによるという。「メイゲツ」の由来はハウチワカエデのメイゲツカエデ(明月楓)に等しい。庭木や公園樹として植えられ、材は堅く、器具材などにされる。  写真はコハウチワカエデ。左から葉の下に垂れ下がる多数の花、翼果をつけた枝、青空に映える紅葉(大台ヶ原山ほか)。

    もみぢ照る奥へ奥へと渓の道

 

<2526> 大和の花 (673) オオイタヤメイゲツ (大板屋明月)                              カエデ科 カエデ属

               

 ある程度の日当たりがある深山に自生する落葉高木で、高さは普通10メートルから15メートル。幹は直径30センチから40センチほどになり、中には高さが20メートル、幹が直径80センチに及ぶものもある。樹皮は暗灰色または灰褐色で、成木は浅く縦に割れ目が入る。

 葉はハウチワカエデやコハウチワカエデに似て、直径5センチから9センチの大きさで、掌状に9裂から11裂し、裂片は卵状披針形で、先は尖り、縁には細かい重鋸歯が見られる。質は洋紙質で、類似種の中では厚みがある。対生してつく葉柄はコハウチワカエデと同じく葉身の3分の2以上と長く、この点よく似るが、本種は無毛で、有毛のハウチワカエデやコハウチワカエデと判別出来る。本種も秋の紅(黄)葉が美しい。この仲間には今ひとつヒナウチワカエデ(雛団扇楓)があるが、葉の質が薄く、花序の花数が少ない。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。枝先の葉腋に複散房状の花序を伸ばし、雄花と両性花が混生し、花は10個から20個つく。花序は普通立つが、雄花のみの花序は垂れ気味になる。花弁は淡黄色で、雄しべは8個。雌しべの花柱は先が二股になり、湾曲する。萼は黄白色であるが、紅色を帯び、紅色の強いのが目につき、コハウチワカエデの花と印象を異にする。

 本州の福島県以南、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では大峰、台高山系の標高1000メートル以上の深山、山岳でよく見かける。オオイタヤメイゲツ(大板屋明月)の名はコハウチワカエデ(イタヤメイゲツ)に比べて葉が大きいことによるという。

  庭木や公園樹に植栽され、材は器具などに用いられる。 写真はオオイタヤメイゲツ。左からいっぱいに花をつけた樹冠、葉と花序のアップ、翼果をつけた果期の枝木、黄葉(十津川村の釈迦ヶ岳登山道及び上北山村の大台ヶ原山)。

  寒さなき師走も師走なりにけり

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年11月29日 | 写詩・写歌・写俳

<2522> 余聞、余話 「大和の地に思う」 

       雲間より射し来る日差し 天地の間 大和は神話の神々の国

 奈良盆地の大和平野の一角に住まいしていると、年に何回か写真のような風景を目にする。気象による天変の現象にほかならず、遠い昔から見られて来た風景であろうと、そのように思えるが、盆地を取り囲む青垣の山並みを望む位置的関係にもより、その風景は何か厳かなものが感じられ、『古事記』の神話の世界が想像されたりする。

 盆地の東に連なる青垣の山々の麓にはそこここに神社の神域が見られ、南から言えば大神神社、桧原神社、石上神宮、春日大社などの名高い古社があり、『古事記』の神話に通じるところがある。そして、これらの神社は背後の山や土地、即ち、その地の自然をもって御神体とし祀っている特徴がうかがえる。例えば、大神神社や桧原神社で言えば、三輪山があり、石上神宮で言えば、布留山があり、春日大社で言えば、御蓋山があるといった具合で、『万葉集』の古歌などにも、そこに位置する神体山の威光を恃みにし、愛着をもって詠んだものが見られたりする。

          

 反対側の西の青垣には金剛、葛城の山並みがあり、岩橋、二上の山に続き、北には信貴山から生駒山に稜線が伸びている。これらの山はそれぞれに由来のある山であるが、東の山並みからは朝日が昇り、西の山並みには夕日が沈む。その間に住居のある奈良盆地の大和平野の広がりがある。この地形的特徴をもって大和の地はあり、ここに国の発祥を見た。国をまとめるために奔走し命を落とした倭建命はこの大和国中の地を理想郷とし、その死に際し、望郷の思いを込めて「まほろば」という言葉をもって歌に詠んだ。

     大和は 国のまほろば

     畳なづく 青垣

     山籠れる 大和し美し

 これがその名高い歌で、『古事記』の景行天皇の条に見えるが、こういう大和の地形的な特徴は自然によってあるもので、その自然はその骨格において昔も今も変わりなく、何ものにも代えがたい尊厳の対象としてあることが、東の青垣の山並みに見えるそれぞれの神域、神社の神体山を望む度に思われることではある。

 その神体山の連なる稜線上の厚い雲間から射し来る朝の日差しが、なお、その自然の深さを思わせ、神との一体感をもって見る目に宿って来る雰囲気がある。この雰囲気はずっと昔からこの大和国中の「まほろば」の地にあり、その風景はこの地に住まいする者たちにずっとあって、今に引き継がれて来ていることが思われたりする。

 これは日本の神の初源の地の風景であり、自然に発している宇宙的思考に私たちを導く風景の感がある。言わば、「まほろば」の地、大和に住まいする者たちは神の座を仰ぎ見ながら日常坐臥にある。そして、その時々に写真のような風景が見られる。なお、この風景を深読みして考えると、この青垣の山々とともにあり、祀られている神々がそれぞれに自立して存在しているという日本の特徴的な多神教の精神風土ということなどにも思いがいったりする。 写真は雲間から射す朝の日差し(天理、桜井市方面を望む)。


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2018年11月23日 | 植物

<2516> 大和の花 (664) シラカシ (白樫)                                            ブナ科 コナラ属

               

 コナラ属の樹木には常緑性と落葉性があり、ここでは常緑性のカシ類の中で私が出会えているものについて触れてみたいと思う。まずは、シラカシ(白樫)から。シラカシは高さが20メートルに及ぶ常緑高木で、幹は直径80センチほどになる。樹皮は灰黒色で、縦に並ぶ皮目がある。枝は暗緑色乃至は黒紫色で、丸い小さな皮目が目立つ。

 葉は長さが7センチから14センチの狭長楕円形で、若葉はやわらかいが、その後、革質になる。先は細く尖り、基部はくさび形で、縁の3分の2以上に浅く鋭い鋸歯がまばらに見られ、両面とも無毛で、表面には光沢があり、裏面は灰緑色。1センチから2センチの葉柄を有し、互生する。

 雌雄同株で、花期は5月ごろ。雄花序は長さが5センチから10センチで、新枝の下部や前年枝の葉腋から伸びる短枝に垂れ下がり、多数の雄花をつける。雌花序は新枝の葉腋に直立し、雌花を3、4個つける。実は堅果で、長さが1.5センチから1.8センチの卵形。下部は同心円状の輪が6個から8個並んだ硬い殻斗に包まれる。

 本州の福島、新潟県以西、四国、九州に分布し、済州島、中国中南部にも見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に見られるが、奈良市月ヶ瀬桃香野の八幡神社の社叢はシラカシを優先とする照葉樹林として知られる。一方、庭木、公園樹として植栽されたものも多く、普通に見られる。シラカシ(白樫)の名は、アカガシ(赤樫)に対してつけられたと言われ、材は淡赤褐色で白いわけではない。材は堅く、鉋の台や金槌の柄のほか、建築材や船舶材に用いられ、シイタケの原木にも利用される。

  なお、『古事記』によると神武天皇が東征の後、最初に宮を開いたのが現在の橿原神宮に当たるところ。畝火(畝傍)の白橿原宮(かしはらのみや)で、当時、その一帯にはシラカシが多く生えていたことが推察される。また、『万葉集』には4首にカシが詠まれているが、シラカシは「あしひきの山道も知らず白橿の枝もとををに雪の降れれば」(巻十の2315番・柿本人麻呂歌集・三方沙彌)と見え、万葉植物としてもその名がうかがえる。 写真はシラカシ。左から春先の木、垂れ下がる雄花序、殻斗に包まれた実を生らせる枝(大和民俗公園)。 冬が来る足より冷ゆる齢かな

<2517> 大和の花 (665) アラカシ (粗樫)                                           ブナ科 コナラ属

                                                      

 山野に生える常緑高木で、高さは20メートル、幹は直径60センチほどになる。樹皮は暗灰色で、皮目と浅い窪みがある。本年枝は淡緑紫色で、葉は長さが7センチから12センチの倒卵状長楕円形。先は鋭く尖り、基部は広いくさび形になる。縁の上半部に大きくはっきりした鋸歯が見られ、この葉の特徴により他のカシ類と見分けられる。葉質は革質。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。雄花序は長さが5センチから10センチほどで、新枝の下部から垂れ下がり、雄花を多数つける。雄花は軟毛に被われた紫褐色の苞の腋に2、3個ついて連なる。雌花序は新枝の上部葉腋に立ち、雌花が3個から5個つく。実は卵球形の堅果で、秋に熟す。堅果の下部は鱗片が合着した環が6、7個重なって出来た殻斗に包まれる。

 本州の宮城県と石川県以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では済州島、中国、台湾、東南アジア、ヒマラヤなどに広く見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に自生し、カシ類の中ではもっともポピュラーで、普通に出会える。庭木や生垣に用いられ、公園などにも植えられる。また、材は堅く、器具材、建築材、シイタケの原木などに利用される。 写真はアラカシ。左から垂れ下がる雄花序、雄花序のアップ、実を生らせる枝木(馬見丘陵公園の公園樹)。    冷え込みし今朝北国は雪の報

<2518> 大和の花 (666) イチイガシ (一位樫)                                          ブナ科 コナラ属

                          

  平地から低山に見られる常緑高木で、高さは大きいもので30メートル、幹の直径は1.5メートルにも及ぶカシ類の中では一番大きいのでこの名がある。樹皮は黒褐色乃至は灰黒色で、古木になると薄くはがれる特徴があり、ほかのカシとの判別点になる。

  葉は長さが10センチ前後の倒披針形で、革質。先は鋭く尖り、上半分にはっきりした鋸歯が見られ、表面は濃緑色で光沢があり、裏面は黄褐色の星状毛が密生する。この葉の特徴からも他種と見分けがつく。柄は1センチ前後と短く、互生する。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。長さが5センチから15センチの雄花序が新枝の下部から数個垂れ下がる。雌花序は新枝の上部の葉腋に立ち、数個の雌花がつく。実は直径1センチ超の卵球形で、秋に成熟する。堅果の下部は環が6個から7個並んだ殻斗に包まれる。殻斗には星状毛が密生する。

 本州の関東地方以西の太平洋側、四国、九州に分布し、国外では済州島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では北、中部の社叢が主な生育地で、集中的に見られる傾向がある。これは神社に関わる植栽起源によるものではなく、奈良盆地における人間による照葉樹林の破壊の歴史に関わるものと推察されている。つまり、人の立ち入りを許さない自然と一体である神の領域にかろうじて残ったものということが出来るようで、日本人の宗教観、あるいは精神性に関わる存在と考えられる。

  春日大社の神域に当たる奈良公園におけるイチイガシの巨樹群はよく知られ、幹回りが3メートル以上のものが23本に及び、奈良市の市の木に指定されている。また、台風で傷んだが、葛城市の葛木坐火雷神社(かつらぎにいますほのいかづちじんじゃ・笛吹神社)と磯城郡田原本町の村屋坐弥冨都比売神社(むらやにいますみふつひめじんじゃ・村屋神社)のイチイガシを優先種とする境内林は奈良盆地の扇状地、あるいは沖積地の極相林の片鱗を呈するとして奈良県の天然記念物に指定されている。

  『万葉集』巻16の3858番の乞食者(ほかひびと)の長歌に登場するいちひ(伊智比)にイチイガシの説があり、イチイガシは万葉植物にあげられている。天理市の地名に櫟本(いちのもと)があるが、櫟(いち)はクヌギではなく、イチイガシであるとする説が強く、櫟本には二次林の一種であるクヌギではなく、極相林の一種であるイチイガシが多く生えていたことが想像される。

  なお、イチイガシは庭木、公園樹として植えられるほか、材が堅く丈夫なため、昔は舟の櫓に用い、今はフローリング材に当てられ、薪炭材や器具材としても利用されている。また、実の堅果は渋味が少なく、昔は食用にされた。 写真はイチイガシ。左からイチイガシの根、垂れ下がる雄花、堅果をつけた枝(奈良公園)。  もみぢ照る猪鹿蝶の鹿がゐる

<2519> 大和の花 (667) ウバメガシ (姥目樫)                                          ブナ科 コナラ属

            

 通常暖地の海岸に面した地方に見られる常緑低木で、よく枝を分け、普通高さが3メートルから5メートルほどになる。ときに大きいもので10メートルに及ぶものも見られる。樹皮は黒褐色で、老木になると、縦に浅く裂ける。枝は紫褐色で、丸い皮目が目立つ。葉は長さが3センチから6センチの楕円形で、質は革質で厚い。先や基部は丸く、上半分に浅い鋸歯が見られる。表面は濃緑色で光沢があり、裏面は淡緑色。葉柄はごく短く、互生する。他種に比べ葉が小さい。ウバメ(姥目)の名はこの葉が芽出しのとき茶褐色になることから姥芽と見、芽が目に転じたと一説にある。姥芽樫とも記す。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。新葉と同時に開花し、新枝の下部から長さが2センチから2.5センチの雄花序を垂れ下げ、多数の雄花をつける。雌花は新枝の上部の葉腋に1、2個つく。雄花は半端な数ではなく、樹冠を一変させるほどの量になる。実は堅果で、長さが2センチほどの楕円形で、1年目はほとんど成長せず、殻斗に被われ、2年目の秋に成熟する。花の割に実が少ないのは、雌花が少ないからである。

 本州の神奈川県以西の太平洋側、四国、九州、沖縄に分布し、国外では中国や台湾に見られるという。海に面した和歌山県には多く、材質が極めて堅いので薪炭材に用いられ、炭の中では最高級品と位置づけられている和歌山県特産の備長炭はウバメガシを原材にしていることで名高く、和歌山県はウバメガシを県の木に指定している。また、この地方では昔からウバメガシの葉を「ばめ茶」と称し、茶の代わりにしたことで知られる。

 海に面しない大和(奈良県)では南部の十津川や北山川などの流域に分布している。一方、奈良市の若草山には数本のウバメガシが見られるが、これは植栽起源であろう。日当たりのよい場所で、大量に花をつける。なお、葉が密生し、強く、刈り込みが容易に出来るため、生垣にされることが多い。 写真はウバメガシ。雄花に被われた春の樹冠(左)、殻斗に包まれた1年目の実がつく枝(中)、成熟した2年目の実(右・花の割に実が少ない感がある)。 どんぐりも夢の身にして落ちてゐる

<2520> 大和の花 (668) ウラジロガシ (裏白樫)                                         ブナ科 コナラ属

                

 山地に生える常緑高木のカシで、高さは20メートル、幹の直径は80センチほどになる。樹皮は灰黒色で、円形の白い皮目があり、滑らか。葉は長さが10センチから15センチの長楕円状披針形で、先は細くなって鋭く尖り、基部は広いくさび形。葉の縁の上部3分の2に鋸歯が見られる。表面は光沢のある濃い緑色。裏面は粉白色で、この名がある。葉の質は薄い革質で、主脈が裏面に突出する。葉柄は1、2センチと長く、互生する。

 雌雄同株で、花期は4、5月ごろ。新枝の下部に長さが5センチから7センチほどの雄花序を数個垂れ下げ、多数の雄花をつける。雌花序は新枝の上部葉腋に直立し、雌花を3、4個つける。堅果の実は長さが1.5センチ前後の広卵形で、下部が殻斗に包まれる。

 本州の宮城県、または新潟県以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では済州島、台湾に見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に自生し、主に谷筋の照葉樹として見える。庭木や公園樹として植えられ、材は建築材や器具材に用いられる。また、薬用として知られ、乾燥した葉を煎じて服用すれば、腎石や尿路結石、胆石などの結石症に効くという。樹皮にはタンニンが含まれる。 写真はウラジロガシ。花と実(奈良市の春日山ほか)。  冬が来(こ)ぬこれでよいのか四季の国

<2521> 大和の花 (669) ツクバネガシ (衝羽根樫)                                       ブナ科 コナラ属

                 

 山地の沢沿いなどに多い常緑高木で、高さは20メートル、幹の直径は60センチほどになる。樹皮は灰黒緑色または黒褐色で、縦に割れ目が入る。葉は長さが5センチから12センチほどの広披針形で、先は細く尖り、基部はくさび形。先端部のみに不明瞭な鋸歯がある。表面は光沢のある緑色で、裏面は淡緑色。質は革質で、主脈が裏面に突出する。葉柄は1センチ前後と短く、互生する。

 雌雄同株で、花期は5月ごろであるが、まだ写真に撮り得ていない。雄花序は新枝の下部から垂れ下がり、雄花を多数つける。雌花序は新枝の上部葉腋に直立し、3個から4個の雌花をつける。堅果の実は殻斗に下部が包まれ、長さが1.5センチほどの卵球形で、次の年の秋に成熟する。

 本州の宮城県と富山県以西、四国、九州に分布し、国外では台湾に見られるという。ツクバネガシ(衝羽根樫)の名は、枝先の葉が輪生状につく姿が羽根衝きの羽根に似るからと言われる。大和(奈良県)ではほぼ全域に見られ、標高500メートル前後に多く、国の特別天然記念物である春日山原始林の高木層の優占種として知られ、原始林の極相を形成している樹種の一つである。

 なお、上北山村小橡の水分神社の境内地に見えるツクバネガシの古木には国の天然記念物に指定されているイワタバコ科の小低木で知られるシシンランが着床している様子が観察出来る。シシンランは全国的に絶滅が危惧され、奈良県でも絶滅寸前の貴重種として保護されている。その保護にも欠かせないツクバネガシの古木の存在がある。

 写真はツクバネガシ。タチツボスミレを抱いた巨大な根(左・春日山)、幹にシシンランやマメヅタなどを養っている古木(中)、樹上に花を咲かせるシシンラン(右・中と右の写真は上北山村小橡の水分神社)。  こころ旅今日も果たせりもみぢ燃え

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年11月22日 | 写詩・写歌・写俳

<2515> 余聞、余話 「奈良公園のナンキンハゼに寄せて」

       功罪の相半ばして見ゆるこのありある常を現身と呼ぶ

 このブログの<2429>で、物事に生じるところの功罪について触れたが、この間、奈良公園をスタートして春日山から若草山を歩いたとき、この功罪を思わせる光景に出会った。以前から意識して見ていたことにもよるが、今日はその光景について考えてみたいと思う。

 歩いたのは十六日(先週の金曜日)だった。色づいたカエデ類の撮影が目的で、それなりにカエデ類の紅葉は見られたが、まだ色づきの始まっていない木々が多かった。そんな中で、紅葉の早いナンキンハゼが見ごろを迎え、奈良公園のそこここでイチョウの黄葉とともに訪れる人たちを魅了しているのが見られた。

 トウダイグサ科のナンキンハゼ(南京櫨)は、その名が示すように中国原産の落葉高木で、奈良には昭和時代の初めに公園樹として導入され、今に至っている。東大寺の参道と県の新公会堂の間の浮雲園地には導入初期の古木が多く、樹高15メートル以上に及ぶ公園樹としてみごとな風景をなしている。

  辺りには天然記念物のシカも多く、土産物店などが軒を並べる東大寺の参道に面していることにもより、四季を問わず、観光客の多いところで、ナンキンハゼの公園樹としての存在意義は大きい。殊にこの時期の紅葉は若草山を背景にみごとな彩で、訪れる人々を魅了している。

        

  この紅葉に目を見張りながら奈良公園を抜けて背後の春日山に入り、遊歩道を周遊して若草山に向かった。そして、草地の開けた山を下ったのであるが、その下りの斜面のそこここで刈り払われたナンキンハゼの幼木群に出会うことになった。

  以前から意識していたことで、驚きはしなかったが、その光景は、公園のナンキンハゼとは全く状況を異にするもので、若草山ではナンキンハゼが厄介な存在としてあり、植生の悩ましい問題を提起していることに改めて意識が向かい、ナンキンハゼの功罪が思われたことではあった。

  何故、若草山においてナンキンハゼは嫌われものとして刈り払われているのか。それは若草山がその名の通り、草山で、その草地を保つのに落葉高木のナンキンハゼが侵入して来るのは不都合だからである。若草山の山焼きは有名であるが、山焼きは山の草原を維持するために行われるものであることは誰もが知るところである。

  然るに、奈良公園のナンキンハゼは実を大量に産出し、その実を野鳥が食べて周辺の山野に赴き、糞とともにその種子を散布する。若草山にもやって来て草地に種子を落とす。種子は日当たりのよい草地ではよく発芽し、シカも食べないとあって増える。

  このナンキンハゼを放置すると、ナンキンハゼはどんどん成長し、日陰をつくるようになり、日当たりを好む草地の植生に打撃を与え、草地を消滅させてしまうことになる。若草山は葉の細いイトススキの群落地として知られるが、そのイトススキにもナンキンハゼは影響する。という次第で、このナンキンハゼの問題は植生への影響という意味において悩ましいものがあるわけである。

 この野鳥によるナンキンハゼの繁殖状況は奈良公園の周辺一帯に及び、その広がりは特別天然記念物である春日山原始林にも及び、その侵入が報告されて久しく、原始林への影響が心配され、管理者の奈良県は平成二十四年に「奈良公園植栽計画検討委員会」を立ち上げ、奈良公園の植生について検討を始め、ナンキンハゼの拡散問題についても検討課題として取り上げているのが現況になっている

 果たして、奈良公園のナンキンハゼは処分される方向にあると聞くが、どのようになるのだろうか。処分の理由に春日山原始林への侵入があげられているようであるが、この理由については議論の分かれるところだろう。春日山原始林は典型的な極相林で、落葉樹のナンキンハゼがその極相林に入り込んでその種を広げ、他の植生に影響を及ぼすとは考え難いところがあるから議論になる。

 これは私見であるが、仮に侵入したとしても、極相林において落葉樹のナンキンハゼが拡大して行く余地はなく、心配には及ばないと言える。思うに、その対策についてはナンキンハゼを駆逐するよりも、ナンキンハゼが侵入するような環境条件を原始林中に生じさせないことの方が大切で、火災とか台風などの災害が原始林に及ばないように管理することであるが、その管理は既に怠らず出来ているように思われる。

 仮に原始林中の隙に一本や二本のナンキンハゼが入り込んだとしても、それは春日山原始林の歴史の中の一端として見ればよかろうと思える。奈良におけるナンキンハゼの植生としての姿は昭和時代初期当時の一つの事情によるところの歴史的証人としての存在意義もあるから今少し大らかに極相林の自然に任せる方がよいように思える。

 言わば、原始林の自然における懐の深さを信じ、その深さを味わえばよいように思える。つまり、極相林たる原始林の強さは、落葉樹であるナンキンハゼの一本や二本の侵入によってその全体的植生の姿を壊してしまうというようなことにはならない。

 思うに、奈良公園におけるナンキンハゼの周辺への拡散問題は、春日山原始林よりもむしろ隣の草山である若草山への影響の方が大きく、実際にその影響が既に見られ、ナンキンハゼの功罪における罪のイメージを高めていることは若草山に赴けばわかる。

 しかし、若草山は昔から山焼きをしてその草地を保つべく努力が払われて来た山で、これからも草地を保つことを続けなければならない山である以上、人間による管理、保全が必要で、これはナンキンハゼの侵入如何にかかわらず続けて行かなくてはならず、その意味からして言えば、続ける一環の中で、ナンキンハゼへの対策も加えればよいということになる。

 以上のごとくで、立派に育った奈良公園のナンキンハゼをことごとく伐り倒すなどというのは愚策に思えるが、どうなるのだろうか。もちろん、公園は人々が集う憩いの場であり、古木になり幹や枝がもろくなって危険に及ぶものは処分しなければならない。だが、ナンキンハゼの公園樹は古都奈良の成り立ちにも沿う樹木であれば、軽々に伐り倒すようなことはよくないと考えられる。

 物事においては、功があれば、それにともなう罪も生じる。これが生における常の姿で、奈良公園のナンキンハゼの繁殖拡散がこれに当たるが、この状況にどう対処するかが問われているわけである。そして、ナンキンハゼには最も適した対処が望まれ、知恵が求められている次第である。知恵は功を高め、罪をなくすること。ここに発揮されなくてはならない。 写真は奈良公園のナンキンハゼの紅葉(左)と若草山の草地で切り払われたナンキンハゼの幼木群(中・後方は御蓋山)、ナンキンハゼの実を啄むカラス(右)。

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年11月16日 | 植物

<2509> 大和の花 (658) コウゾリナ (髪剃草)                                               キク科 コウゾリナ属

           

 山野の草地や道端に生える2年草で、枝分かれし、高さは30センチから1メートルほどになる。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は花の時期には枯れる。茎葉は下部の葉ほど大きく、長さが5センチから15センチほどの倒披針形で、基部が次第に細くなり、翼のある柄に続き、互生する。中ほどより上の葉は披針形になり、小さく、茎を抱く。

 花期は5月から10月ごろと長く、枝先に直径2センチ超の黄色い舌状花ばかりの頭花をつけ、次々に開花する。総苞は筒状鐘形で、濃緑色。実は痩果で、羽毛状の冠毛がつく。茎や葉や総苞の内片など全体に剛毛が生え、触れると切れそうなほどで、これをカミソリに擬え、この名があるという。コウゾリはカミソリが訛ったもの。ナ(菜)は食用にされた証で、茹でて和え物や浸し物にされた実績による。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、中国、モンゴル、ロシア方面に広く見られるという。大和(奈良県)では普通に見られるが、殊に標高のやや高い大和高原や宇陀地方に多い感がある。なお、この地方では冬に入ると冷え込みが厳しくなり、大霜になることが多く、寒中にコウゾリナの霜の花が生じるところがしばしば見られる。 写真はコウゾリナ(宇陀市大宇陀・右端は霜に被われたコウゾリナ)。 冷え込みし朝の一日の小春かな

<2510> 大和の花 (659) ブタナ (豚菜)                                                    キク科 エゾコウゾリナ属

             

 日当たりのよい草地に生え、マット状に群生することが多いヨーロッパ原産の多年草で、世界中に帰化している。日本にも昭和時代の初めごろ札幌と神戸で帰化の確認がされ、その後、全国各地に広まった外来種である。葉は根生してロゼット状になり、タンポポに似て羽状に切れ込む。

 花期は6月から9月ごろで、細くしなやかな花茎を立て、上部で1枝から3枝に分かれ、枝先に直径2.5センチほどの黄色い舌状花ばかりの頭花をつける。ブタナ(豚菜)とは奇妙な名であるが、フランスの俗名「Salade de pore」(ブタのサラダ)を訳した名であるという。フランスではブタに与えていたのだろう。実は痩果で、冠毛は羽毛状。大和(奈良県)では公園の草地などに生え出し、広く群生しているのが見られる。 写真は(県立馬見丘陵公園)。  もみぢ映ゆ大和は概ね平和なり

<2511> 大和の花 (660) ヤクシソウ (薬師草)                                        キク科 オニタビラコ属

                  

 日当たりのよい草叢や道端でよく見かける2年草で、茎は高さ30センチから1メートルほどになり、よく分枝して赤紫色を帯びるものが多い。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は花の時期になると枯れてなくなる。茎葉は長さが5センチから10センチのへら状卵形で、質は薄く、縁に浅い鋸歯が見られ、基部は丸い耳状に張り出し茎を抱いて互生する。また、葉は裏面が白みを帯び、切ると白い乳液が出て来る。

 花期は8月から11月ごろで、枝先や上部の葉腋に直径1.5センチほどの黄色い12、3個の舌状花ばかりの頭花を数個ずつつける。頭花は上向きに開き、花が終わると下向きになる。総苞は濃い緑色で、長さが7ミリから9ミリの円筒形。実は痩果で、白い冠毛がある。全体に無毛で、軟らかな感じを受ける。

 ヤクシソウ(薬師草)の名には葉が薬師如来の光背に似ているからとか薬用にされたからとか諸説見られるが、定かでない。別名にはチチクサ(乳草)、ウサギノチチ(兎の乳)、ニガミグサ(苦味草)などがある。なお、薬用としては腫れ物に用いられて来た。

 北海道から本州、四国、九州、屋久島まで分布し、国外では、朝鮮半島、中国、台湾、インドネシア、べトマム、インドなどアジアの一帯に広く見られるという。大和(奈良県)では各地で普通に見られる。 写真はヤクシソウ(平群町ほか)。

  草もみぢ日差しに馴染む暖かさ

 

<2512> 大和の花 (661) オニタビラコ (鬼田平子)                                 キク科 オニタビラコ属

          

 日当たりのよい道端や草地、棚田の畦などに生える2年草で、高さは20センチから1メートルほどになる。全体に軟らかく、茎には細かい毛がある。また、茎や葉を切ると白い乳液が出る。なお、茎が赤みを帯びるものをアカオニタビラコ、緑色のものをアオオニタビラコと区別する向きもある。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉はタンポポのようなロゼット状になり、長さが8センチから25センチほどで、羽状に深裂し、頂裂片は三角状卵形になり、他の裂片より大きい。茎葉は根生葉より小さい。

 花期は5月から10月ごろで、茎頂に直径7、8ミリの黄色の頭花を散房状につける。頭花は普通20個前後の舌状花からなり、よく開花して暖かなところでは冬でも花を見せる。総苞は円筒形で、総苞片は痩果の実が熟すと反り返る。冠毛は白い。日本全土に分布し、中国、インド、ヒマラヤ、オーストラリアなどに見られるという。大和(奈良県)では普通に見られる。 

  オニタビラコ(鬼田平子)のタビラコ(田平子)は平たく放射状に広がる根生葉によるもので、オニ(鬼)はコオニタビラコ(タビラコ)に比して大きいことによる。 写真はオニタビラコ(明日香村)。  秋日和三三五五の人出かな

<2513> 大和の花 (662) コオニタビラコ (小鬼田平子)                            キク科 ヤブタビラコ属

           

 日当たりのよい湿気のあるところを好み、水田に多い2年草で、高さは10センチほどになる。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は羽状に深裂し、ロゼット状になる。茎の葉はごく小さい。

 花期は3月から5月ごろで、根生葉の間から長いもので25センチほどの花茎を斜上し、その先に直径1センチほどの黄色い頭花を上向きに咲かせる。頭花は10個前後の舌状花からなり、花が終わると花柄が伸びて下向きになる特徴がある。総苞は円筒形で、冠毛はない。

 本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島と中国に見られるという。大和(奈良県)では、田ごしらえの始まらない春先の田で黄色い花を点々と咲かせるのに出会うことがある。単にタビラコ(田平子)とも言われ、春の七草のホトケノザ(仏の座)は、紅紫色の花を咲かせるシソ科のホトケノザ(仏の座)ではなく、本種をいうもので、若菜を正月の七草粥に用いる。 写真はコオニタビラコ(五條市)。   小春日や大仏殿へ人の群れ

<2514> 大和の花 (663) ヤブタビラコ (薮田平子)                                    キク科 ヤブタビラコ属

                                             

 田の畦などに生える2年草で、茎は高さが20センチから40センチほどになる。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は長さが5センチから15センチで羽状に深裂し、頂裂片は側裂片より大きく、茎葉は小さい。茎や葉には軟毛が生え、全体に軟らかく、切ると白い乳液が出て来る。

 花期は5月から7月ごろで、枝先の花序に直径8ミリほどの小さな頭花をまばらにつける。頭花は普通18個から20個の舌状花からなる。総苞は円筒形で、花が終わると、頭花は下向きになり、総苞は膨らんで卵球形になる。実は痩果で、冠毛はない。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)ではときおり見かけるが、仲間の中では地味で、見逃してしまうケースもある。写真はヤブタビラコ(馬見丘陵公園)。   いにしへもかくありけむか菊日和