大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年06月25日 | 植物

<3447> 奈良県のレッドデータブックの花たち(69) カラタチバナ(唐橘)  サクラソウ科(旧ヤブコウジ科)

                                    

[別名] ヒャクリョウ(百両)

[学名] Ardisia crispa

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 山地の林内や林縁に生える常緑小低木で、高さは大きいもので70センチほど。あまり枝を分けず、葉は上部に集まって互生する、葉の長さは10~20センチの披針形で、先は尖り、縁には波状の鋸歯が見られる。両面無毛で、表面は鮮やかな緑色。花期は7月ごろで、葉腋に数センチの花序軸を斜上し、散形状に花序をつけ、直径1センチに満たない白い小さな花を多いもので10個前後下向きに咲かせる。花冠はマンリョウに似て、2~5裂し、完開すると裂片が反る。核果の実は直径6~7ミリの球形で、冬赤く熟し、翌年の春まで残るものが多い。園芸種には赤実のほか、白実や黄実も見られる。

[分布] 本州の茨城・新潟県以西、四国、九州、沖縄。国外では中国、台湾。

[県内分布] 北中部に散見。

[記事] 花の印象がミカン科のタチバナ(橘)に似るからともヤブコウジの古名ヤマタチバナ(山橘)に因むとも、どちらにしてもその名は花の印象による。漢名は百両金で、こちらは赤い実の印象によるもので、マンリョウ(万両)に比したものと言われる。なお、マンリョウによく似た赤い実をつける縁起植物は次の通りである。一両(アリドオシ)、十両(ヤブコウジ)、百両(カラタチバナ)、千両(センリョウ)、万両(マンリョウ)、億両(ツルシキミ・ミヤマシキミ)。写真はカラタチバナの蕾(左)と実(右)。

      あなたはあなたを生きている

   わたしはわたしを生きている

         みんなはみんなを生きている

   かけがえのない意味にありて

       


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2021年06月24日 | 写詩・写歌・写俳

<3446>  余聞 余話 「『宇宙からの帰還』に寄せて」

               私たち人間の能力において

                 及べないところを理解しようとするに

                 神の存在がイメージされ 意識される

 ジャーナリストで評論家の立花隆さん(八十歳)の訃報を知り、代表作の『宇宙からの帰還』(中央文庫)を久しぶりに本棚から取り出し、手元に置き、追悼を込め、この文章を書いている。表紙カバーの船外活動に当たる宇宙飛行士のカラー写真が懐かしい四百頁近いボリュームの文庫本である。扉には灰色がかった月面を手前に漆黒の宇宙空間に浮かぶ透明感のある青と白の模様の宝石のような地球のカラー写真が読者を導き迎えるよう工夫されている。手軽な文庫本であるが、私が読んだ本の中では感銘を受けた部類に入る。

                                                                 

 この本は月への有人宇宙飛行(月への着陸)を目的に米国が実施したアポロ計画のミッションに加わって月へ赴いた宇宙飛行士の宇宙体験、ことにその内的(精神的)体験を徹底した取材と卓越した聞き取りによって宇宙、地球、神、人間等について探求し、宇宙飛行士それぞれの生い立ち、ヒストリーも加味して構成し、まとめたノンフィクションである。

 私の印象では、生と死の境目に置かれた宇宙飛行士の勇気というよりもそうした極限の環境に置かれ、ミッションの任務に専念する人間の内面に関心が持たれた。インタビューもそこに重点を置いて聞き取りをしている。その生死の極限において神の存在に思い巡らせる宇宙飛行士の言葉は聞くに値すると思える。一方、無神論に行き着いた宇宙飛行士もいた。これも真実の声と感じられた。そして、人間はそれぞれで、多様性を内在して生を展開しているとも思えた。

 それは一人一人異なるキャラクターを持ってそれぞれ存在しているということ。また、その異なるキャラクターがまとまって月への有人宇宙飛行という過酷なミッションをこなしたということ。そして、『宇宙からの帰還』は、その任務が終了した宇宙飛行士の後の人生をもインタビューで聞き取っている。彼らは等しく有名になり、英雄視されたが、その名声をともなって大学の先生、伝道師、政治家、実業家とさまざまな道に進み、その後の日常生活を送った。

   そして、金や色に溺れ、精神を病んだものも出た。この文庫本のカバーの裏側にはこの本の書評の最後に宇宙飛行士によるところの「知的興奮と劇的感動をよぶ壮大な精神のドラマ」と評している。その通りであろう。神になったという宇宙飛行士はいないが、神を大いに意識したことは聞き取り内容の通りである。

 私が思うところ、各所に聞き取った珠玉の知的な言葉が散見され、理解される言葉として語られている。例をあげれば切りがないし、長くなってしまうので、諸兄諸氏には読んでもらうのが一番であると思う。神の存在に対する考え方にしても絶対的な宇宙飛行士がいるかと思えば、無宗教、無神論を宇宙体験によって確定した宇宙飛行士もいる。という具合である。 写真は文庫本の『宇宙からの帰還』。

 


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2021年06月23日 | 創作

<3445> 作歌ノート  曲折の道程 (十)

         雁の絵の雁の羽ばたき 雨の日の 風の日の 淋しかる日の君の

      言葉たらんとしてある言葉を信ずるなかれ

      思ひたらんとしてある言葉のみを信ずべし

 私には理解者がいないとあなたは嘆くか。孤独はかくして生まれるが、厳しく淋しい中で孤独は誇らしいものである。信念を持って歩きたまえ。あなたの道は険しいが、そうすれば、きっと開かれたものになろう。

 見え隠れする理解者の言動などが何になろう。あなたが期待する理解者はどれほどあなたに応え得るか。期待する理解者ほど当てにならないものはない。身勝手にして、平気であなたを裏切る。孤独自身があなたの一番の理解者である。もちろん、この孤独を曲解してもらっては困る。ここで述べたい孤独というのは、内に籠るという意味の孤独ではない。

                                           

 友よ、誇らしい孤独者であれ。思想、そう、巨視的眼差しをもってあること。人格、そう、孤独を分かつものたるところ。そして、すべてを包み込む、そう、愛する許容の器たらんこと。それでよい。これだけ揃えば、友よ、言うことはない。さあ、行くがよい。

 あなたは感じるはずである。雨の日も、風の日も、雪の降る日も、淋しさがつのる日も、雁の絵の雁の羽ばたきが天を指しただ一羽。そう、昇り行く姿に孤高の精神を見、画家がこの雁に憧れをもってあったことを。友よ。孤独を抱いて行くべくあれ、そして、誇る孤独者であれ。それが、あなたの自然体としてあれば、言うことはない。友よ、孤独は悪くない。そのことを雁の絵は語っている。

   なめらかに添ひ来るものを恐れゐよ心の襞を過る言葉も

   弾む声その足る声のさ中にてニーチェの声す友よ孤独を

 友よ。私たちの周りには、心を惑わせるものが多い。言葉もその一つである。言葉たらんと欲する言葉、例えば、滑らかに添い来る言葉、その言葉に気をつけよ。そして、思いとしてある言葉。例えば、心から弾んで出る声としてある言葉、この言葉に偽りはない。友よ、そこを見極めよ。私は『旧約聖書』「詩篇」の第一篇冒頭の言葉を思い起こす。

       悪しきものの謀略に歩まず

       罪人の道に立たず

       あざけるものと座を同じくせぬ

       その人に幸あれ                   (関根正雄訳)

 そして、友よ、雁の絵の羽ばたく雁とともに行くべくあれ。如何なる孤独も信念を曲げずあるものは美しい。友よ、美しく羽ばたくべくあれ。 写真は『旧約聖書』の「詩篇」。

 


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2021年06月22日 | 植物

<3444> 奈良県のレッドデータブックの花たち(68) カノコソウ(鹿子草)  スイカズラ科(旧オミナエシ科)

                                  

[別名] ハルオミナエシ(春女郎花)

[学名] Valeriana fauriei

[奈良県のカテゴリー]  絶滅危惧種

[特徴] やや湿気のある山地の草地に生える多年草で、根茎から匐枝を出し、繁殖する。茎は太く直立し、高さ40~80センチ。葉は羽状に全裂し、対生。小葉は2~4対で、先が尖り、縁に粗い鋸歯がある。苞葉は線形。花期は5~7月で、茎頂に散房状花序を出し、淡紅色乃至は白色の小さな花を多数密につける。花は筒状で、普通5裂する。花冠は直径3ミリほどで、雄しべ3個は長く、花冠から突き出る。また、花冠の片側が膨れる特徴がある。なお、カノコソウ(鹿子草)の名は蕾の形が鹿子絞りに似ることによる。

[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国。ヨーロッパには同類のセイヨウカノコソウ(西洋鹿子草)がある。

[県内分布] 御所市、宇陀市、曽爾村の山地、高原。

[記事] 大和地方では自生地も個体数も限られ、草地の管理が十分でなくなり、自生地の消滅が懸念されている。なお、カノコソウの乾燥した根茎は吉草根(きっそうこん)と呼ばれ、鎮静剤としてヒステリーに効能があると言われる。また、芳香のある精油が含まれ、香料としても用いられる。 写真は高原の草地で花を咲かせるカノコソウ(左)と淡紅色の蕾が開き始めた花(右)。

   現在にあるものにとって

         過去は静寂の領域であり

   現在は動揺の領域であり

   未来は夢幻の領域である

 


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2021年06月21日 | 創作

<3443> 写俳百句 (63) 夏 至

           今日は夏至小さき虫にも今日は夏至

       

 今日二十一日は二十四節気の夏至。昼が一番長い日。そして、一年の約半分終わったという思い。また、太陽が一番北側より昇り来る日でもある。この自然の仕儀、これは北半球の温帯に位置する四季の国日本に定住するものにとってみな同じ。冒頭の句はその思いによる。影響されるところはさまざまながら夏至は夏至で、身に及ぶところ等しく夏至である。

 写真は夏至の朝。奈良盆地の大和は朝焼けに染まった。(午前四時四十分ごろ、雲が少々厚く、日の出は遅れた。塔は法隆寺の五重塔)。塔はいつもながら悲願と祈願の象徴たる眺めである。