大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年01月29日 | 植物

<2222> 大和の花 (429) ミヤマシキミ (深山樒)                                  ミカン科 ミヤマシキミ属

          

 主に暖温帯域から寒温帯域下部の林床に生える常緑低木で、厳密には茎が根元から直立するミヤマシキミと茎の下部が地を這って斜上するツルミヤマシキミ(蔓深山樒・ツルシキミ)とが見られるが、ここでは一括してミヤマシキミとして採り上げた。写真はツルミヤマシキミと思われる。

 高さは大きいもので1メートルほど。地を這って群生することが多く、林床を一面に被う光景にも出会うことがある。葉は長さが10センチ前後の倒卵状楕円形で、先は鈍く尖るものが多く、基部はくさび形。縁に鋸歯はなく、質は革質で、表面には光沢があり、裏面には透明な油点が見られる。赤紫色を帯びる短い柄を有し、互生する。

 雌雄異株で、花期は4月から5月ごろ。枝先に円錐花序を出し、香りのよい白い小さな花を多数つける。花は直径1センチほどで、長楕円形の花弁4個が平開する。雄花では雄しべが4個、雌花では球形の子房に4、5裂する平たい雌しべの柱頭がある。萼や花柄、花序軸などは赤紫色を帯びる。核果の実は直径7ミリ前後で、12月から翌年の2月ごろ光沢をもって赤く熟し、花の開花時期の春まで残るものも見られる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、台湾にも見られるという。大和(奈良県)では金剛・葛城、龍門、宇陀山地以南に分布し、東大台や西大台では広い範囲に群生するのが見られる。なお、ミヤマシキミは葉がシキミ(樒)に似るのでこの名がある。葉にはアルカロイド系の物質が含まれ、シキミと同じく有毒植物であるが、この毒性を利用し、葉や実を日干しにし、乾燥したものを茵芋(いんう)と称し、殺虫剤に用いて来た。

 写真はミヤマシキミ。群生するものはツルミヤマシキミと思われる(稲村ヶ岳の標高1300メートル付近と金剛山の標高800メートル付近ほか)。左から花を咲かせた群落、花と実が同時に見られる3月ごろの姿、雄花、雌花、実のアップ。

   初場所や晴れて優勝栃ノ心

 

<2223> 大和の花 (430) キハダ (黄蘗)                                                 ミカン科 キハダ属

                                        

 山地沢沿いの林内に多い落葉高木で、高さは20メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、縦に細かな溝があり、若い枝は赤褐色から黄褐色。葉は長さ20センチから40センチの奇数羽状複葉で、小葉が2対から6対つく。小葉は長さが5センチから10センチの卵状長楕円形で、先は細くなって尖り、基部は広いくさび形もしくは心形。縁には浅く粗い鋸歯があり、対生する。

 雌雄異株で、花期は5月から7月ごろ。新しい枝の先に円錐花序を出し、小さな黄緑色の花を多数つける。雄花では雄しべ5個が花弁より長く突き出し、雌花では緑色の子房が目につく。核果の実は直径1センチ弱の球形で、熟すと黒くなり、野鳥が好んで食べる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、アムール地方、中国北部にも見られるという。大和(奈良県)では南部に分布が片寄り、「やや深い谷沿いで見ることが多い」という報告がある。キハダ(黄蘗)の名は幹の外皮の厚いコルク層の内側にある内皮が黄色い黄膚・黄肌(きはだ)から来ていると言われる。

  この内皮は苦味があるが、薬効成分を含むすぐれもので、漢方では黄柏(おうばく)と称せられ、健胃整腸、下痢止めに用いられ、奈良県吉野地方の陀羅尼助(だらにすけ)や山陰地方の煉熊(ねりくま)、木曽地方のお百草(おひゃくそう)は名高く、陀羅尼助は大峯奥駈の山岳修行に励む修験者の携行薬として知られる。また、粉末にしたものを酢で練って湿布薬にも用いるという。

 一方、内皮は黄色の染料として知られ、古くに中国から伝来したもので、黄色の中では高級な色として扱われていたと言われる。また、紅花染めの下染めなどにも用いられて来たという。このキハダによる染色は防腐効果があるとも言われ、写経用紙などにも活用されて来た。材はやや軟らかく、木目に特徴があり、器具や内装材などに用いられるという。

  所謂、キハダは、樹形としては雑木然としてあまり特徴のある木ではなく、存在感は薄いが、薬用植物としても、染料植物としても第一級の評価を受け、昔から人との関わりが深い有用植物としてある。 写真はキハダ。雄花(左)と黒く熟した実(左)。

   枯れ原野群鳥上がりまた下りる

 

<2224> 大和の花 (431) コクサギ (小臭木)                                           ミカン科 コクサギ属

                 

 1属1種で知られ、やや湿った沢や谷筋の林縁などに見られる落葉低木で、高さは1メートルから大きいもので5メートルほどになる。樹皮は灰白色乃至は灰褐色で、小さな皮目がある。新枝は緑色を帯び、赤紫色のものも見られる。葉は長さが5センチから10センチ前後の倒卵状長楕円形もしくは菱形状卵形で、先はわずかに尖り、基部はくさび形。縁には鋸歯のないものが多い。葉柄は極めて短く、枝に対し、交互に2個ずつ4列に互生する。珍しい葉のつき方で、コクサギ型葉序という呼び方で捉えられている。

雌雄異株で花期は4月から5月ごろ。前年枝の葉腋に淡黄緑色の小さな花をつける。雄花は長さが数センチの総状花序に10個ほどつき、雌花は長さが1センチほどの柄の先に1個つく。雄花には雄しべが4個、雌花には緑色の子房が目につく。ともに花弁と同色の萼片が4個つく。実は蒴果で、3個から4個に分果、夏から秋にかけて裂開し、黒褐色で光沢のある球形乃至は卵形の種子を現わす。

 本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島の南部、中国でも見られる。大和(奈良県)には広く自生しているが、個体数はそれほど多くない。コクサギ(小臭木)の名は、独特の臭気があるクマツヅラ科のクサギ(臭木)に似て、クサギよりも小さいことによる。薬用として、枝や葉を煎じ、その煎液を腫れものに、また、家畜の害虫駆除に用いる。また、枝葉は水田の肥料として直接入れられることもあった。 写真はコクサギ。左はコクサギ型葉序がはっきりしている雄株の枝。中は雄花。右は雌花 (ともに金剛山の谷筋)。

  凍星や大いなるかなその孤独 

  

 

 


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2018年01月28日 | 写詩・写歌・写俳

<2221> 余聞、余話 「2018年・若草山の山焼き」

       山焼きやよく燃えたるはまことよし

 奈良の新春を彩る若草山の山焼きが第四土曜日の二十七日夜行なわれた。例年通り、午後六時十五分から行なわれ、十五分間打ち上げ花火があった後、午後六時半に点火され、山焼きがスタートした。寒波による厳しい冷え込みの中、空気が乾燥し、適度な風もあって、よく燃え上がり、午後七時には山のほぼ全域を焼いた。 

                                                   

 山焼きが終わると、間もなく立春であるが、奈良に本格的な春が訪れるのは三月一日より行なわれる東大寺二月堂のお水取りが終わってからと言われる。まだ、当分の間、寒い日が続くことになるが、春は一歩一歩やって来て、山焼きの後の末黒(すぐろ)にも芽出しが見られるようになる。

   山焼きのよく燃えたればよき年に

  山焼きは、一種祈願成就の予祝の意味も込められているから、よく燃えることはよいとされる。その燃えをよくするには草原の豊かさ、殊に若草山が産するイトススキの生育とその日の気象条件にかかっている。よく燃えれば、草地の芽出しもよく、成長が期待できる。言わば、山焼きが勢いよく燃えることは五穀豊穣にも通じるわけで、盛んに燃え上がることをよしとする。そして、今年の山焼きはよく燃えた。 写真は若草山の山焼き。大和郡山市山田町より撮影。約二十分間の多重露光による。


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2018年01月27日 | 写詩・写歌・写俳

<2220> 余聞、余話 「寒中の梅の花に思う」

       寒梅や一輪咲いて次を待つ

 花は植物の生殖器官であり、象徴的存在であることに概ね違いはないだろう。それぞれの植物は自らの一番好ましい時期(季節)に花を咲かせる。梅は早春が開花の好適時期で、昔からよく知られている。それは夏でもなければ、秋でもない。まことに不思議であるが、このことは数多あるほかの植物にも当てはめることが出来る。だが、例外なきにしもあらずで、梅にしても寒梅という言葉があるように、一年の中で一番寒い寒中に花を咲かせるものもあるので一概には言えないが、梅は概ね早春の花である。

  この梅が寒中、厳しい寒さの中で蕾を膨らませている。そんな蕾の連なる枝の一つにただ一輪花を開く紅梅を見かけた。立春のころにはもう少し花も開くのだろうと思われるが、今のところ一輪である。今年は二月も寒い日が続くという予報が出ているので、開花は遅れるかも知れない。

                               

  それにしても、一番に咲く魁の花があれば、花期の殿を受け持って咲く花もある。同じ枝に咲く同じように見える花でも、それは一輪一輪それぞれに存在する花であり、価値を共有する花である。もちろん、梅の花は一つの例で、この世に生を得ているものに共通するところである。このことが寒中の一輪には思われて来る。では、その意味における一首。

    それぞれにあるのがこの世の生と知るたとへば春を待たず咲く花

 ところで、寒梅にはニュアンス的に二通りの意味があるように思われる。一つは十二月ごろから咲く花に当てられる寒中を花の盛りにする種類の梅に用いる場合。今一つは早春を花の盛りにする普通の梅が立春前の寒中に咲き出す花に対して用いられる場合。どちらも寒梅と表現出来るのだろうと思われるが、この意味における寒梅という言葉のニュアンスの差は結構大きい。季節感を重視する俳句などでは、句の内容に合せて吟味されるということになるのだろう。それでは後者の意味における梅の句を少し。

    紅梅の一輪咲いて春を呼ぶ

    紅梅のただ一輪の寒さかな

 このところ、厳しい寒さの日が続いているので、梅の開花に向かう足取りも停滞状況にあると言えようか。それゆえに、一輪の花に寄せる気持ちも何とはなし生じて来ることになる。今夜は春の芽出しを促す若草山の山焼きである。よく燃えるのをよしとする。   写真は寒中一輪の紅梅。


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2018年01月26日 | 写詩・写歌・写俳

<2219> 余聞、余話  「文化財防火デー」

    冬晴れへ一斉放水高々と

 文化財防火デーの二十六日、世界文化遺産の奈良県・斑鳩町の法隆寺で消防演習が行なわれた。防火祈願の法要の後、午前十一時から境内の鏡池において世界最古の木造建築物である国宝の五重塔や金堂などの塔頭伽藍を背にして一斉放水が行なわれた。

       

 この消防演習は、昭和二十四年一月二十六日に法隆寺の金堂から出火し、国宝の壁画を焼損したことをきっかけに、同三十年、この日が文化財防火デーと定められたことにより、行なわれるようになり、法隆寺の恒例行事の一つとして今では斑鳩の里の風物詩のようになっている。

 今日は寒波襲来で、早朝には雪が舞う厳しい寒さになり、鏡池には氷が張り、その上に薄っすらと雪が積もっていたが。消防車四台が出動し、参拝者や関係者らが見守る中、五重塔や金堂を背に冬晴れの空に向かって高々と一斉放水が行なわれ、水面上には虹が出来た。 写真は法隆寺の消防演習の一斉放水(左)と一面に氷が張った上に薄っすらと雪の積もった鏡池(右)。


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2018年01月23日 | 植物

<2216> 大和の花 (426) オオアブラギリ (大油桐)                  トウダイグサ科 アブラギリ属

          

 シナアブラギリ(支那油桐)の別名でも呼ばれる中国原産の落葉高木で、高さは10数メートルになる。樹皮は灰褐色で滑らか。枝ははじめ緑色で、その後暗褐色になる。葉は長さが20センチほどの卵形もしくは広卵形で、先は尖り、基部は心形になる。基部の表面に疣状の2個の腺があるのが特徴。縁には鋸歯がなく、上部で浅く3裂するものも見られ、10センチ前後の柄を有して互生する。

 花期は5月ごろで、枝先に円錐花序を出し、白い花をつける。雌雄同株で、雄花序には雄花が多数つき、わずかに雌花が混じることもある。雌花序ははっきりせず、単生か少数がつく。花弁は5個から10個で、基部には褐紫色の条模様が入る。雌雄の花は雌雄のしべのつき方で判別出来る。雄花では雄しべの葯が目立ち、雌花では先が2裂する雌しべの花柱が目につく。堅果の実は直径4センチ前後の球形で、先端部分が急に尖る。10月から11月ごろ熟すが、裂開せず落ちる。堅果には4、5個の種子が入っている。同属のアブラギリ(油桐)によく似るが、花も実もオオアブラギリの方が大きく、この名がある。葉の表面基部に出来る腺でも見分けられる。腺に柄がないのが本種である。

 アブラギリと同じように、種子から桐油と呼ばれる乾性油をとるため植えられ、それが野生状態に置かれているものが大和(奈良県)では南部の十津川村と上北山村で見られる。桐油は毒性を有し、食用にはされないが、乾性の特色を生かし、油紙、提灯、和傘、印刷用インク、ペンキ、ニスなどに用いられて来た。樹皮はタンニンを含み、漁網の染料、革なめしなどに、材は軟らかく、下駄や家具の部材などに用いられて来た。 写真はオオアブラギリ。左から雄花、雌花、実。   寒波来ぬ日本列島荒れ模様

<2217> 大和の花 (427) アカメガシワ (赤芽柏)                       トウダイグサ科 アカメガシワ属

          

 二次林の林縁、伐採跡地、川筋、池辺などの日当たりのよい明るいところに多く見られる陽樹として知られる落葉高木で、高さは大きいもので15メートルほど。幹の太さは直径50センチに達する。樹皮は灰褐色で、縦に浅い裂け目が出来る。新枝は灰色で、褐色の星状毛が密生する。葉は長さが7センチから20センチの卵形または広卵形で、先は尖り、縁には鋸歯がなく、上部が3浅裂するものも見られる。両面には星状毛があり、基部に腺体が2個つくのはアブラギリに似る。長さが7センチから20センチの柄を有し、互生する。

 雌雄異株で、花期は6月から7月ごろ。枝先に長さが7センチから20センチの円錐花序を出し、多数の花をつける。雄花では雄しべが目立ち、雌花では子房が濃い紅色の星状毛に被われ、3個の花柱に黄色の突起が密生しているのが観察出来、雌雄は花序のボリュームによって見分けられる。雌花の花序の方が太く、整然として見える。蒴果の実は直径1センチ弱の扁球形で、刺状突起が密生し、9月から10月ごろ褐色に熟す。熟すと3裂から4裂し、直径数ミリの鈍い光沢のある扁球形の種子が3、4個姿を見せる。

 本州、四国、九州、琉球に分布し、朝鮮半島南部、中国にも見られるという。大和(奈良県)では全域に見られ、個体数も極めて多く、そこここで出会う。アカメガシワ(赤芽柏)の名は若芽が紅色を帯び、カシワ(柏)のようにその葉に食物を載せたことによる。別名のゴサイバ(御菜葉)、サイモリバ(菜盛葉)も同様の意による。『万葉集』の歌に詠まれているヒサキ(久木、歴木)に同定されている万葉植物としても知られる。

  なお、材はよく床柱に利用され、葉や種子は赤系染料に。薬用としては、樹皮を煎じて胃腸病に用い、乾燥した葉を煎じてその汁を腫れものに外用するという。アカメガシワは以上のような経歴の持ち主で、雑木ながら古来より知られる利用価値の高い木としてあった。 写真はアカメガシワ。左から雄花と雄花のアップ。次は雌花と雌花のアップ。右端は紅色の若芽。   寒波来ぬ風強ければ跼る

<2218> 大和の花 (428) コバンノキ (小判の木)                       トウダイグサ科 コミカンソウ属

                                                     

 山地の林内や川筋などのあまり日が当たらないようなところに生える落葉低木で、高さは2メートルから3メートルほどになる。樹皮は褐色で、前年枝の葉腋から普通2個の新枝が出て、長さが10センチほどの小枝になり、数個の葉が2列に互生するので、一見偶数羽状複葉に見える。葉は長さが2センチから4センチの卵形または楕円形で、縁には鋸歯がなく、両面とも無毛で、裏面は粉白色を帯び、質は軟らかい。この葉が小判の形に見えるのでこの名がつけられた。

 雌雄同株で、花期は5月から6月ごろ。新枝に開出した葉の腋ごとに1センチに満たない小さな花が数個ずつ束生する。雄花は小枝の基部に、雌花は雄花と混生して小枝の上部につく。雄花は暗紫色の花弁状の萼片が4個、雌花は平開しない淡緑色の萼片の中から柱頭が3個伸び出す。

  花は概ね下向きに開くので、下側から撮影することになるが、下からの角度によると、葉も花も陽光を受けて鮮やかに映え、印象的である。液果の実は直径6ミリほどの球形で、9月から10月ごろ黒く熟す。熟し終えると、小枝は枝ごと脱落し、花のつかなかった枝先の小枝のみが残って分岐し、次の年の枝になる。 本州の福井、岐阜両県以西、四国、九州、沖縄に分布し、中国からヒマラヤの一帯にも見られるという。大和(奈良県)では北部を除いて全域的に見られるが、個体数は多くなく、山に出かけてときおり見かける程度である。 写真はコバンノキ。左は花をつけた枝々。右は花が咲いた新枝の部分。花は雄花(東吉野村大又ほか)。

   寒波来ぬ完全武装の人に会ふ