<969> 花の大和 (4) シャクナゲ (石楠花)
石楠花や 平和憲法 掲げ咲く
シャクナゲは前回のツツジの項で触れたように、ツツジ科ツツジ属シャクナゲ亜属の常緑低木で、大きいもので七メートルほどになる。冷涼多湿で水はけのよい尾根の斜面などに群落をつくり自生している。全国的に分布するが、地方によって特徴が見られ、大和に自生するものは南部の紀伊山地に多く、九州や四国に見られるのと同じツクシシャクナゲと本州の中部に多く自生するホンシャクナゲであると言われる。
自生する野生のシャクナゲをあげると、大台ヶ原山(駐車場・一五八〇メートル)があり、大蛇周遊コースのシャクナゲ廻廊のツクシシャクナゲはよく知られる。ほかには、天川村の稲村ヶ岳(一七二六メートル)、五條市大塔町の七面山(一六二四メートル)、上北山村の七曜岳(一五八四メートル)等がある。十津川村の玉置山(一〇七六メートル)山頂にも群落が見られるが、これは植栽によるホンシャクナゲだと言われる。
また、平地部で見られるシャクナゲについて見れば、宇陀市室生の室生寺がよく知られ、ほかには明日香村の岡寺、村おこしで植えられた室生上田口の弁財天石楠花の丘がある。平地ではないが、十津川村の玉置神社のシャクナゲは古社に彩りを添える。玉置山の麓にある21世紀の森・紀伊半島森林植物公園では世界から集められたシャクナゲが見られる。
園芸種のシャクナゲには春に咲く花もあるが、自生の花は概ね標高一〇〇〇メートル以上の深山に見られ、初夏の花の印象がある。大和の山岳に見られる花は五月から六月にかけて咲く。平地部のお寺の花はゴールデンウイークが例年見ごろとなる。室生寺のシャクナゲは長谷寺のボタンと花期を同じくするので、セットにしたバスツアーなども組まれている。
なお、シャクナゲは深山の花で、近年まで一般には知られていなかったのだろう。古文献には登場を見ず、江戸時代中期の『和漢三才図会』に「石南」として登場するくらいである。シカの食害に悩む紀伊山地でよく群落が残っているのは、ツツジと同じく毒性を有するからだろう。
ただ、シャクナゲは魔除けの木として崇められ、修験信者の土産に採取された天川村の山上ヶ岳(一七一九メートル)ではほとんど見られなくなっている。谷を隔てた同じ山容の稲村ヶ岳では採取を厳しく取り締まり、今もシャクナゲの群落が残っているが、自然保護の意識が芽生えた証と言えよう。よく守られたと思う。
このようなシャクナゲであるが、その花は五月の花であり、五月と言えば、憲法記念日が思われ、五月晴れの下に咲くこの気品に満ちた花に平和憲法がイメージされ、私には重なって来るところがある。 写真は左が室生寺のシャクナゲ、中央は大台ヶ原の日出ヶ岳(一六九五メートル)直下のホンシャクナゲ、右は21世紀の森・紀伊半島森林植物公園の西洋シャクナゲ。