大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年03月31日 | 植物

<2283> 余聞、余話 「桜に寄せて」

     誇らかな笑みのごとくに咲くさくら

      

 サクラは満開の季を迎え、週末の好天とあって、近畿地方ではそこここで花見の報。大和地方でも絶好の花見日和となり、サクラの名所は大いににぎわったようであるが、隠れ名所もある。広陵町の高田川畔もその一つで、枝ぶりのよい木が多く、約1キロの間、両岸の道はサクラの花のトンネルになって、訪れた人たちがその通り抜けを楽しんでいた。台風などで傷むこともあるが、地元の人たちが守り育てているという。 写真は広陵町の高田川畔のサクラ。  ああ桜何処に咲けど桜なり


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年03月25日 | 植物

<2277> 大和の花 (469) フキ (蕗)                                            キク科 フキ属

      

 山野の少し湿気のあるようなところに生える多年草で、地下茎を伸ばして繁殖し、群生することが多い。葉は幅が15センチから30センチの腎円形で、縁に不揃いの鋸歯があり、質は薄く、はじめ両面に灰白色の綿毛が密生するが、暫く後になくなる。長さが60センチ前後の肉質の葉柄を有し、根生する。

 花期は3月から5月ごろで、葉が開出する前に花茎を出し、淡緑色の苞に包まれた多数の頭花をつける。この若い花茎がフキノトウ(蕗の薹)で、ほろ苦い早春の味としてよく知られる。頭花は散房状につき、雌雄異株で、雄株は25センチほどに伸び、雄花は両性の筒状花で、黄色の葯筒から白い棍棒状の花柱が伸び出す。だが、この両性花は結実しない。

 一方、雌株は45センチほどに立ち上がり、その間に、多数の雌花を咲かせる。雌花は細く白い糸状の雌花に混じって雄花と同じような両性花が数個見られる。この両性花には花粉が出来ず、自家受粉の近親交配を避ける仕組みが整っている。実は痩果で、冠毛とともに飛散する。

 本州、四国、九州、南西諸島に分布し、大和(奈良県)でもいたるところに自生している。フキは古くから知られ、『万葉集』には登場を見ないが、フフキ或いはオオバと呼ばれていたようで、漢字が導入されてから、これに款冬、蕗の漢字が当てられたことが『本草和名』(918年)や『倭名類聚鈔』(932年)に見える。だが、フキ(蕗)の語源ははっきりしないという。

  なお、フキノトウは当時から食用に供せられていたようで、『延喜式』(927年)には宮中に献上されたことが記されている。また、フキノトウは薬用にされ、これを煎じて服用し、咳止めに用いたと言われる。葉柄が食用にされることもよく知られるところである。写真はフキ。左から群がって生え出した雄株の花、小川の岸辺に見られるフキノトウ、雄花(両性花の花柱は見えない)、雌花(白い糸状の花柱が雄花の花糸と見間違えるほど多数に及ぶ)。  蕗の薹採らねば花を咲かせけり

<2278> 大和の花 (470) ノブキ (野蕗)                                               キク科 ノブキ属

                                    

 山地の木陰や谷間の湿気の多いところに生える多年草で、高さは40センチから80センチになる。葉は長さが7センチから13センチの三角状腎円形で、フキの葉に似るが、先がやや尖り、裏面に白毛が密生する。茎の基部から伸びる長さが10センチから20センチの葉柄に狭い翼が見られるのもフキと異なる点である。

 花期は8月から10月ごろで、茎の先に円錐花序を出し、白色または淡紅色を帯びる頭花をつける。頭花は直径1センチ前後と小さく、普通外側に雌花が円環し、内側に筒形の両性花が集まり並ぶ。両性花は不稔性で、雌花のみが結実する。痩果の実は長さが7ミリほどで、冠毛はなく、放射状になり、先の部分に柄のある腺体が点在する。この腺体から出る粘液によって動物や人などに付着して種子の拡散を図る工夫をしている。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、南千島、中国、ヒマラヤなどに見られるという。大和(奈良県)では普通に見られ、登山道などで出会う。花に比して茎が太い印象を受ける。 写真はノブキ。根元に大きい葉が集まってつく(左)、小さく地味な頭花(中)、腺体が点々と見える放射状の痩果(右)。   春が来て花そこここに奈良大和

<2279> 大和の花 (471) ハハコグサ (母子草)          キク科 ハハコグサ属

            

 道端や田の畦、休耕田などに生える高さが15センチから40センチほどになる越年草で、全体が綿毛に被われ、白っぽく見えるところがある。葉は根生葉と茎葉が見られ、根生葉は越冬時にロゼット状につき、花が咲くころには枯れるものが多い。茎葉は長さが2センチから6センチほどのへら形乃至は倒披針形で、茎は其部で枝分かれする。

 花期は4月から6月ごろで、茎頂や枝先の短い柄に、黄色の小さな頭花を多数つける。総苞は長さが約3ミリの球状鐘形で、頭花は両性花の周囲に細い雌花がつく。痩果の実は0.5ミリほどの長楕円形で、2ミリほどの冠毛に被われる。

 全国各地に分布し、大和(奈良県)でも普通に見られる。ハハコグサ(母子草)の名は全体に綿毛が多く、冠毛がほおけだつことから古くはホウコグサ(鼠麹草)と呼ばれ、この名が転じたものと言われる。綿毛に被われる茎葉は軟らかく粘りがあるので、今はヨモギであるが、江戸時代のころまではこの茎葉を搗き込んで草餅にしていた。

  また、オギョウ(御行・ゴギョウ)の名があり、こちらは春の七草として知られ、正月の七草粥に用いられる。一方、民間薬としても開花時に全草を採取し、煎じて咳止めに用いる。なお、ハハコグサ(母子草)の対として、チチコグサ(父子草)がある。 写真はハハコグサ。休耕田でゲンゲなどと混生し、黄色い花が際立つ(左)、茎の基部で分枝する(中)、花のアップ。

  母子草農夫田を鋤く日和かな

 

<2280> 大和の花 (472) チチコグサ (父子草)                                  キク科 ハハコグサ属

                                                                     

 山野の草地や道端などに生える高さが15センチから30センチほどになる多年草で、匐枝を伸ばして増え、ときに群生する。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は花どきにも枯れることなく残る。長さは3センチから10センチほどの線状披針形で、裏面には綿毛が密生し白っぽく見える。綿毛は表面にも少し生えるが、白っぽくなるほどには生えない。茎葉は線形で小さい。

 花期は5月から10月ごろで、分枝しない花茎の先に頭花が集まってつく。頭花は褐色を帯び、地味で、黄色い花のハハコグサ(母子草)に対し、この名がある。また、花序の下に細長い苞葉が放射状につく特徴があり、他種との見分けのポイントになる。痩果の実は冠毛とともに散る。ハハコグサと同様、全国各地に自生し、大和(奈良県)でも普通に見られる。 写真はチチコグサ。

  生きてゐる証 芽吹ける木々の色

 

<2281> 大和の花 (473) チチコグサモドキ (父子草擬)                              キク科 ハハコグサ属

                                                             

 熱帯アメリカ原産の1、2年草で、大正年間に帰化した外来種。チチコグサの仲間で、チチコグサによく似ているのでこの名がある。草丈は10センチから30センチで、全体に綿毛が多く、白色を帯びる。葉は根生葉と茎葉からなり、長さは1.5センチから4センチほどのへら形で、根生葉は花期にも見られる。

 花期は4月から9月ごろで、茎上部の葉腋から花柄のように伸びる枝の先に小さな頭花を集めてつける。頭花は淡褐色で、1箇所に数個ずつつく。 実は痩果で、冠毛によって飛散する。 写真はチチコグサモドキ。日当たりのよい草地に生えるが、屋根の上に着床して生え出したもの。 

     詩歌はどこに生まれるのか    それは心の中 私で言えば自身の精神に発するもの

     詩歌は何を目的にするのか   それは幸せ 生の目的に等しいものにほかならない

     詩歌は何を素材にするのか   それは万物の姿 生きとし生けるものたましいの姿

     詩歌はどこに行き着くのか     それはあまたの人 私と生を同じくする人々の心の中

     詩歌はつまり何であるのか     それは生のつぶやき 貴方への心からなるメッセージ

     願わくはほのかに灯す灯火    それは私の心持ちなれば そう受け止められんことを

<2282> 大和の花 (474) ウスベニチチコグサ (薄紅父子草)                    キク科 ウスベニチチコグサ属

                                                                        

 南北アメリカ原産の1、2年草で、昭和時代のはじめごろ帰化した外来種。草丈は20センチから50センチほど。茎はチチコグサより太めで、根元から分枝して直立する。全体に綿毛が密生し、白っぽく見える。葉は根生葉と茎葉からなり、披針形乃至はへら形で、根生葉の方が大きいが、花どきにはほとんど見られない。

 花期は4月から8月ごろで、茎の頂部に小さな頭花が集まってつく。成長して茎が伸びるに従って頭花の固まりは離れ、とびとびになるが、枝分れはしない。頭花は周囲に雌花を多数つけ、中央に両性花が数個集まる。花冠の先は紅紫色で、この名がある。実は痩果で、冠毛がある。

 関東地方から四国、九州にかけて帰化し、日当たりのよい草地に繁茂。公園の芝地などにも進出し、外来の仲間の中では一番繁茂している。 写真は雑草の中から伸び出し花を咲かせるウスベニチチコグサ(左・黄色の花はミヤコグサ)と花のアップ(右)。

   春来たる蝶きらきらと花の上

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年03月24日 | 写詩・写歌・写俳

<2276> 余聞、余話 「花の季節を迎えた公園」

        くさぐさの花にしてまづ春の花思ふに日本は四季の国なり

             

 降り続いた冷たい雨が止んで、昨日より晴天が戻り、近くの馬見丘陵公園へ歩きに出かけた。陽光あふれる公園では、春咲きの花が一気に開き、花々には待ちに待ったという気負いが見られ、目に眩しく映った。

               

 その主な花をあげてみると、まず、黄色系のレンギョウ、サンシュユ、トサミズキ。白色系のハクモクレン、コブシ類、ユキヤナギ。赤色系ではツバキ、コバノミツバツツジ、ボケ等々。ソメイヨシノは咲き始めであるが、早咲きのケイオウザクラは満開で、メジロの群が来ていた。

                              

  四月七日から十五日の間開かれるチューリップフェアのために植えられたチューリップも咲き始め、これから園内は咲き継ぐ花の彩が楽しめる。その中でも、まず、サクラ(ソメイヨシノ)とチューリップがあり、花盛りには人出が多くなる。 写真上段は咲き始めたチューリップ。 写真中段は左からレンギョウ、サンシュユ、トサノミズキ、シデコブシ、ユキヤナギ。 写真下段はツバキ、コバノミツバツツジ、ボケ、ケイオウザクラ。


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2018年03月19日 | 植物

<2271> 大和の花 (464) オガタマノキ (招霊の木・小賀玉木)             モクレン科 オガタマノキ属

               

 温暖地の沿岸地方に自生する常緑高木で、高さは15メートルほど。古木では20メートルに及ぶものも見られる。樹皮は暗灰褐色で、枝は暗緑色。葉は長さが大きいもので12センチほどの倒卵状楕円形で、やや肉厚の革質。縁には鋸歯がなく、表面は濃緑色で光沢があり、裏面は白色を帯びる。葉柄は2、3センチで、互生し、珍蝶ミカドアゲハの食樹として知られる。

 花期は早春のころで、直径3センチほどの香りのよい花が枝先に近い葉腋に1個ずつつく。花冠は花弁状の花被片12個からなり、上向きに開く。花被片は乳白色で、基部が紅紫色になる。実は袋果の集合果で、秋に熟す。袋果には2、3個の種子が入っている。

 本州の関東地方南部以西の太平洋側、四国、九州、西南諸島の沿岸地に分布し、国外では台湾、フィリピンに見られるという。センダン科のセンダンと同じく、海に面しない大和(奈良県)では自生しないと見られているが、神社や公園等に植栽されているのを見かける。東大寺の法華堂(三月堂)の並びに位置する手向山八幡宮には高さ約20メートル、推定樹齢300年の古木が見られ、春日若宮神社にも本殿前に植えられている。

  オガタマノキの名は、神を招く招霊(おぎたま)、或いは、神を拝する拝魂(おがみたま)から来ているとする説がある一方、花に香があり、実が玉のようであることによる小香玉(おがたま)から来ているとする説もある。という次第で、古くは賢木・栄木(さかき)として神事に用いられ、本来は、サカキ(榊)でなく、このオガタマノキであったと言われ、この木が神社の境内に見えるのもこの由緒によるという。なお、集合果はこれを振ると、妙なる鈴の音がするので、神楽鈴の起源だとも言われている。 写真は手向山八幡宮の本殿前に聳えるオガタマノキの古木(左)、オガタマノキの花(中)、花のアップ(右)。    花は時しかれど本木あらざれば時は虚しく花には会へず

<2272> 大和の花 (465) タムシバ                                           モクレン科 モクレン属

                          

 日当たりのよい山地に生える落葉高木で、高さは大きいもので10メートルほどになる。樹皮は灰色または灰褐色。滑らかで、縦に皮目が並ぶ。新枝は緑褐色。葉は長さが6センチから12センチの卵状披針形、乃至、長楕円形で、先はとがり、基部はくさび形。縁に鋸歯はなく、葉裏は白色を帯びる。1センチほどの葉柄を有し、互生する。葉は揉むと芳香があり、噛むと甘みがある。

 花期は3月下旬から5月上旬で、ほかの木々に先がけ、葉の展開前、微かに芳香のある直径10センチほどの白い花を開く。花は花被片9個からなり、外側の3個は萼状で小さく、内側の6個が花弁となって開く。花の中央に淡緑色の突起状の雌しべが集まり、その回りを淡紅色の雄しべが多数囲む。実は袋果が集まった集合果で、秋に赤く熟す。遠目には見分けがつかないほどコブシ(辛夷)に似るが、近くに寄って花を見れば判別出来る。コブシでは花のつけ根に葉が1個見られるのに対し、タムシバでは見られない。

 本州、四国、九州に分布する日本固有の植物で、本州では日本海側に片寄って多く見られるが、大和(奈良県)ではほぼ全域に見られ、暖温帯から冷温帯まで垂直分布でも広く見られる。これに対し、大和(奈良県)におけるコブシの自生は稀で、紀伊山地の近寄りがたい山岳に春を告げて咲く白い花はコブシでなく、十中八九タムシバと見て差し支えないと言える。

  なお、タムシバの名は、地方名のカムシバ(噛柴)が転じたものと言われ、サトウシバ(砂糖柴)の名もある。また、ニオイコブシ(匂い辛夷)の名もあるが、これらの名はみな葉や花に芳香があり、葉を噛むと甘い特徴によってつけられたものである。 写真はタムシバ。山中に散見される白い花(左・赤っぽく見えるのはカエデ類の芽立ち。宇陀市榛原)、葉の展開前の枝につく白い花々(中・野迫川村)、花のアップ(右・花のつけ根に葉がついていない)。  四季の国この身に春の来るゆゑも

<2273> 大和の花 (466) コブシ (辛夷)                                          モクレン科 モクレン属

          

 丘陵や山地に生える落葉高木で、高さは15メートル以上になる。樹皮は灰白色。滑らかで、皮目がある。新枝は緑紫色で、無毛。葉は長さが数センチから15センチの倒卵形で、先は短く尖り、基部はくさび形。縁には鋸歯がなく、葉裏は淡緑色。この葉を揉むと芳香がある。1センチほどの葉柄があり、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、葉が展開する前に枝先に白い芳香のある花を単生する。花は直径10センチ弱で、花被片9個からなり、外側の3個は小さく、内側の6個が大きく花弁状に開く。花の中央には淡緑色の雌しべを黄橙色の雄しべが多数囲む。花は同属のタムシバに酷似するが、花のつけ根に新葉が1つつくので、つかないタムシバと判別出来る。実は袋果が集まった集合果で、秋に熟し、裂けて赤い種皮に包まれた種子が現われ、糸状の柄にぶら下がる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮(済州島)にも見られるという。コブシは「白樺 青空 南風 こぶし咲くあの丘 北国の ああ 北国の春」(『北国の春』)と歌にも歌われているように北国に多く、大和(奈良県)における自生は稀で、タムシバが圧倒的に多い。コブシとタムシバの似る事情によるからか、大和地方ではタムシバをコブシと呼ぶ地域もあり、その地方名の認識は混乱しているところがある。

  大阪・奈良府県境の金剛山(1125メートル)山頂付近一帯に野生しているコブシの古木はよく知られるが、完璧な自生かどうかは問われるところとなっている。私は大台ヶ原山の周遊道の傍らでコブシの花に出会ったことがあるが、わずか一本のみで、高さは7、8メートルだった。見るからに貧弱な個体で、花は数個しか見られなかったが、花にコブシの証である新葉がついていたのでタムシバではないとカメラを向けたことではあった。わずか1本というのは自生の裏付けに乏しく思われるが、果たしてどうなのであろうか。

  最近では、公園や街路などに植栽されることが多くなり、珍しくなくなって、ハクモクレン(白木蓮)と混同されたりしているが、大和(奈良県)における野生のコブシについては自生の分布状況が明らかでなく、情報不足種として扱われている。植栽は増えているが、自然のものは減少傾向にあり、近畿地方では絶滅危惧種Cにあげられている。

  なお、コブシの名は集合果が拳(こぶし)に似ることによると言われる。辛夷は同属モクレンの漢名で、コブシは中国になく、コブシに当てるのは誤りであると言われている。写真はコブシ。左から金剛山頂付近の古木の花群、花のアップ(花に新葉が一つ見える)、大台ヶ原山で見かけた花(やはり花の下に新葉が1つ見える)、集合果の夏姿(秋に赤く熟し裂開する)。   花冷えや三寒四温の寒の意地

<2274> 大和の花 (467) モクレン (木蓮・木蘭)                                     モクレン科 モクレン属

                                    

 中国原産の落葉低木乃至は小高木で、高さは数メートル。樹皮は灰白色で滑らか。葉は長さが10センチから15センチの広倒卵形で、先は短く尖り、基部はくさび形。縁には鋸歯がなく、葉柄は1センチほどで、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、葉の展開とほぼ同時に紅紫色の花を咲かせる。花は直径10センチほどで、9個の花被片からなり、外側の3個は萼状で小さく、内側の6個が花弁の役割を担い、上を向いて咲く。別名のシモクレン(紫木蓮)はこの花の色による。仲間に花全体が白いハクモクレン(白木蓮)があり、これとの雑種に花被片の内側が白いトウモクレン(唐木蓮)がある。トウモクレンは低木で、ヒメモクレン(姫木蓮)とも呼ばれる。また、色合いに変化が見られるニシキモクレン(錦木蓮)があり、みな観賞用に植えられている。

 日本への渡来は古く、平安時代の『倭名類聚鈔』(938年)に記載がある。モクレン(木蓮)の名は、花の形がハス(蓮)、または、ラン(蘭)に似るからという。モクレンの漢名は辛夷(しんい)で、花の観賞だけでなく、蕾を生薬名辛夷として、漢方では鼻炎や蓄膿症、頭痛等に用いられる。日本では野生のコブシやタムシバの蕾をこれに代用したことによりコブシの漢字表記には中国のモクレンに当たる辛夷が用いられ、今に至っている。 写真は左からシモクレンのモクレン、トウモクレン、ニシキモクレン。   春彼岸妻手作りのおぼたかな

<2275> 大和の花 (468) ハクモクレン (白木蓮)                                      モクレン科 モクレン属

          

 中国原産の落葉高木で、高さは20メートルにもなる。樹皮は灰白色で滑らか。葉は長さが8センチから15センチの倒卵形で、先は短く尖り、基部はくさび形、もしくは円形。縁には鋸歯がなく、葉裏は淡緑色で、脈上に軟毛が生える。長さが1センチほどの柄を有し、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、モクレンよりも開花が少し早く、葉の展開前に直径が10センチほどの白い花を咲かせる。花被片は9個、すべてが花弁状で、上を向いて咲く。日本には自生しない外来で、観賞用として人気があり、社寺や民家の庭、公園などに植えられ、よく見られる。また、花卉農家の多い大和(奈良県)の山里では植栽起源の半野生のものも見られる。葉も花も冬芽も全体的にコブシに似るが、花にボリュームがある。

  日本にはモクレン(シモクレン)より遅れ、江戸時代に現われ、純白の花が高く評価されて来た。欧米には18世紀後半に広まり、品種改良されて、今や数十種の品種に上るという。なお、ハクモクレンの蕾も漢方では辛夷(しんい)と呼ばれ、鼻炎や蓄膿症、頭痛等に用いられる。 写真はハクモクレン。みごとな満開の花(平群町)と毛に被われた花芽。   球春や雨のち晴れの開花かな

 

 

 


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2018年03月18日 | 写詩・写歌・写俳

<2270> 余聞、余話 「帰るカモに寄せて」

      帰る鴨往くも帰るも無事でこそ

 肌寒い日であったが、昨日、東京ではサクラの開花宣言があった。大和地方でも近いはずである。この花の季節になると、自分たちの季節は終わったとばかり冬鳥のカモたちは北への旅に立つ。昨日、奈良市佐紀町の水上池の周辺を歩いたら、いつもは水面にあって静かに漂っているマガモが、数羽ごと群になって池の上を飛びまわるのが見られた。それは遠路はるかな旅に備えている光景に違いないと思えた。

          

 周辺のサクラは花芽を膨らませ、先の部分に花びらの白いのがのぞいている蕾も見られる。花はもうすぐ開花し、花盛りも遠くない。しかし、冬鳥のカモたちは、その花や瑞々しい新緑に背くがごとく北に向かって帰って行く。水面が花と緑を映して艶やかに彩られるころになると、カモたちの姿はめっきり少なくなり、池面はさびしくなる。

 これも花と新緑の季節のまたの一景である。北へ向かう遠路の旅を前に元気よく飛んでいるカモの姿は何よりのこと。「無事であれ」とは、カモの群を見上げながら思う陰ながらの心持ち。 写真は池の上空を飛ぶマガモたち(左)と池水に別れを告げる日の近いマガモの飛翔(右)。なお、思うに、今一句。  帰る鴨帰るところのある御身