大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年09月30日 | 植物

<3544> 奈良県のレッドデータブックの花たち(116) コガンピ(小雁皮)    ジンチョウゲ科

                   

[別名] イヌガンピ(犬雁皮)

[学名] Diplomorpha ganpi

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 日当たりのよい山野の草地に生えるガンピの仲間の落葉小低木で、株立ちして高さは大きいもので1メートル足らず。草本と見間違う個体もある。樹皮は赤褐色で、枝には白い伏毛が密生する。葉は長さが2~4センチの長楕円形で、先は尖らず、縁に鋸歯はなく、ごく短い柄を有し、互生する。枝は基部を残して毎年枯れ落ちる。

 花期は7~8月で、枝先に白色乃至淡紅色の花を多数つける。花は長さが1センチ弱の萼筒で、先が4裂して開く。萼筒の外側にも伏毛が見られる。核果の実は萼筒に包まれる。

[分布] 本州の東海地方以西、四国、九州。国外では台湾とされるが、台湾には記録がないということで、日本の固有種の可能性が高いという。

[県内分布] 奈良市、山添村、平群町、香芝市、曽爾村。

[記事] ガンピより小さいのでこの名がある。別名のイヌガンピ(犬雁皮)は樹皮が脆く、製紙の原料にならず、役に立たないことによる。山の草地が少なくなり、産地が減少したと言われる。奈良市の若草山には異常に多いが、これはシカが食べず、ほかのものを食べ、草地が維持されているからという。写真は株立ちして花を咲かせるコガンピ(左)、花序のアップ(中)、果期の姿(右)。

   変わりものがいれば

   評価されないものも

   これが言わば

         生きとし生ける

         ぼくらを含む

         この世の世界だ

           


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2021年09月29日 | 創作

<3543> 作歌ノート  曲折の道程(二十)

               人生が淋しさつのる旅ならば白鶺鴒の須臾の輝き

 辛さや淋しさのない人生などなかろう。みな平然と生きているように見えるが、人はそれなりに辛さや淋しさを味わいながら孤独を抱いて生きている。そして、その辛さや淋しさをいかに飼い馴らし、克服して行くか。人によってはそれに気づかないでいるものもいるだろうが、人生においてこの克服の課題は大切である。で、支え合うというようなことも言われたりする。

 書物を読み、書物に勇気づけられるということもある。音楽を聴き、音楽に慰められるということもある。絵画を見、絵画によって晴れやかな気持ちになれるということもある。演劇に心を癒すということもある。このように心を解放してくれるという点において、書物も音楽も絵画も演劇もみな同じような効用にあると言えよう。

                               

   私の場合、落ち込んで気持ちが塞ぐようなときには野山に出かけて自然に触れることにしている。自然には思惑がなく、直で、直は私の心にとって一番の癒しになるからである。例えば、白鶺鴒の須臾の輝き。私にとって、この輝きはまたたく星のそれに似ている。

 貴方が人生において、もし淋しさのつのるような思いに至ることがあったら、是非この歌を思い出してほしい。淋しさがつのればつのるほど白鶺鴒の須臾の輝きは一層美しく輝く。切羽詰まったようなとき、この白鶺鴒の須臾の輝きが貴方の心にも現出することを願いたい。白鶺鴒でなくても、白鶺鴒と同等の何かを持つことを奨めたい。思いに沈むときには野山に出かけてみよう。そこここで白鶺鴒の須臾の輝きのごとく直である光景に出会うことが出来るはずである。 写真は岩にとまる白鶺鴒

 


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2021年09月28日 | 植物

<3542>  奈良県のレッドデータブックの花たち(115) コガマ(小蒲)                              ガマ科

                   

[学名] Typha orientalis

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] ガマやヒメガマと同じく、浅い池や沼、溝または湿地に群生する多年草で、ガマやヒメガマと混生することもある。茎は高さ1~1.5メートルで、葉は幅が1センチほどと細く、鞘状になって茎を抱く。雌雄同株で、花期は6~8月。花は雌雄とも褐色で、茎頂につき、長さ6~10センチの円柱形の雌花穂の上部に接して細く小さい雄花穂がつく。これはガマと同じであるが、ヒメガマは雌雄の花穂が離れてつく特徴がある。因みに本種の花穂はガマの半分以下で、比べれば一目瞭然である。

[分布] 本州、四国、九州。国外では中国、台湾、ロシア、ミヤンマー、フィリピン、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド。

[県内分布] 県中北部一帯(南部には見られない)。

[記事] ガマはごく普通に見られるが、コガマとヒメガマの自生地は少なく、殊にコガマは少なく、レッドリストにその名が見える。奈良県版レッドデータブック2016改訂版はその理由について「土地造成や再耕作による自生地の消失」をあげている。

   足らざるを生きいるがこれ人生

   足るべく生きるがこれまた人生


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2021年09月27日 | 植物

<3541> 余聞 余話 「ヤマトウバナの変種コケトウバナに寄せて」

      生き延びるためには変異も試みる弱きは弱きなりの懸命

 山地の木陰に生える草花にコケトウバナ(苔塔花)というシソ科トウバナ属の多年草がある。ヤマトウバナ(山塔花)の変種とされ、奈良県の春日山周辺と鹿児島県の屋久島に分布を限る日本の固有変種として知られて来た。草丈が5センチ前後と低く、葉も長さが4ミリから7ミリの卵形乃至は長卵形で、ヤマトウバナに比べ、全体に小さいので、これをコケ(苔)に見立てることによってこの名がついたという。

 なぜ、遠く離れた春日山周辺と屋久島のみに自生分布するのか、この二箇所はかなり地勢的乃至は気候的に差があり、その点、植物の生育環境がかなり異なると思われる。なのに、この二箇所に限って分布するのはなぜか。それはコケトウバナにとってこの二箇所が生育環境的に一致を見る条件にあるからではないかということが考えられる。

                                          

 私は以前、コケトウバナを求めて春日山の一帯を何回か歩いたことがあるが、出会うことが出来ず、歩いている間に若草山の山頂付近で、葉が小さく、形状がコケトウバナによく似た白い花の個体に遭遇した。花も葉も長さが1センチ弱と小さいので、コケトウバナだと思い写真に撮った。

   九月初めの撮影で、その写真と図鑑を照らしてみると、草丈が低く、葉が花と同長で小さく、明らかにヤマトウバナではなく、仲間のイヌトウバナでもない。しかし、ほとんどの葉は小さいものの一部に二倍ほどの大きさのものも見られるのでコケトウバナでもない感がある。それに若草山は日当たりのよい草地で、コケトウバナの生育条件に合致しない。

   そこで思われたのがシカの存在で、ヤマトウバナ或いはイヌトウバナがシカの食害を逃れるため、自らを矮小化して生き延びようとしている姿と見た。言わば、葉の形状から見て、若草山の個体の姿は、シカの食害を自ら小さくなることによって免れたものということが思い浮かんだ。

   で、葉の大きいものが混じるその個体は、ヤマトウバナやイヌトウバナとヤマトウバナの変種であるコケトウバナの中間タイプではないかということが推察される。で、小さいコケトウバナの由来は主にシカの食害に起因するという仮説に行き着いた。屋久島も野生のシカが多いところである。変種が母種から変異したものと考えるならば、春日山周辺にも屋久島にもヤマトウバナやイヌトウバナが分布していなければならないが、ともに分布している。

   ということで、コケトウバナの自生場所の生育環境にシカの食害が影響し、ヤマトウバナやイヌトウバナの類は、種を永らえるために、シカに食べられないように自らを矮小化して変異したと考える。所謂、変種コケトウバナの由来は主にシカの食害に対することによるというのが私の考えるところである。

   そして、若草山の葉の形状に大小が見られる個体群はその中間タイプではないかと考えが進むわけで、シカの影響があるのではないかというのが私の仮説である。なお、コケトウバナについては、最近、兵庫県など他の地方でも発見の報告があるようであるが、これについてもヤマトウバナやイヌトウバナの矮小化ということが大いに考えられる。それがシカによるものかどうかについてはいま少し掘り下げた調査が必要という気がする。

 何にしても、コケトウバナには厳しい生育環境に違いなく、環境省は準絶滅危惧に、奈良県は絶滅寸前種にあげて、保護が呼びかけられている存在である。 写真はヤマトウバナやイヌトウバナとコケトウバナの中間タイプのように思われる若草山の花期の個体群(左)と花のアップ(右)。

 


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2021年09月26日 | 植物

<3540>  奈良県のレッドデータブックの花たち(114) コガネネコノメソウ(黄金猫目草)     ユキノシタ科

                     

[学名] Chrysosplenium pilosum var. sphaerospermum

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴] 山地の渓谷沿いなどやや湿ったところに生えるネコノメソウの変種で知られる多年草で、花茎の高さは10センチ前後。柄のある葉は長さが1.5センチほどのまるみのある扇形で、縁には鋸歯がある。

花期は3~5月で、花茎の先に鮮黄色の萼裂片4個が角状に直立し、これも鮮黄色の葯を有する雄しべ8個を囲むようにつき、小さいながらもよく映えて見える。この花の印象によってコガネネコノメソウ(黄金猫目草)の名はある。不思議にも花が終わると、萼裂片は緑色になり目立たなくなる。

[分布] 本州の関東地方以西、四国、九州。国外では韓国の済州島。

[県内分布] 御所市、五條市、御杖村、川上村、天川村、上北山村、十津川村。

[記事] 「金剛山や紀伊山地の渓側にみられるが、数は少ない」として奈良県のレッドリストにあげられている。レッドリストの仲間であるユリワサビなどと場所を同じくして見える。 写真は小群落をつくって花を咲かせるコガネネコノメソウ(左)と小さいアブ?の仲間が姿を見せる黄色が鮮やかな花(右)。れっきとした虫媒花である。

    頷いて「ん!」

    首を傾げて「ん?」

    人生は 言わば

    「ん!」と「ん?」

     最後に納得のそれ

    「ん!」にして

      尽きればよし