大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年03月27日 | 植物

<2638> 大和の花 (756) ユキヤナギ (雪柳)                                  バラ科 シモツケ属

          

 川岸の岩場や崖地に生える落葉低木で、株立ちすることが多く、細い枝をよく分け、高さが1メートルから2メートルになり、しなやかな枝を有し、垂れる傾向がある。樹皮は暗灰色を帯び、新しい枝は褐色で、縦に条が入る。葉は長さが2センチから4センチほどの狭披針形で、先が尖り、基部はくさび形。縁には細かで鋭い鋸歯が見られる。表面は無毛で、緑色。裏面は脈上にわずかながら軟毛があり、白色を帯びる。葉柄はほとんどなく、互生する。

 花期は3月末から4月ごろで、前年枝に柄のない散形花序を多数つけ、花序には直径8ミリほどの白い花が2個から7個つき、枝にびっしりと連らなる。花弁は5個で、雄しべは20個ほど。雄しべの基部の内側には黄色の蜜腺があり、虫を誘う虫媒花である。実は袋果で、5、6月ごろ熟す。

 本州の東北地方南部以西、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では南部の吉野川、北山川、十津川などの川筋で見かけるが、それほど多くない。庭木として人気があり、公園や庭園に植えられることが多く、目に触れる機会は多い。これは刈り込みが容易で、庭木として管理しやすく、白い花のボリュウムが魅力であるためと思われる。

 ユキヤナギ(雪柳)の名は白い小さな花が枝木いっぱいに咲く姿を積もった雪に見立て、葉や枝が柳に似ることによる。別名のコゴメバナ(小米花)は、散り敷く花びら1つ1つが小米に似るからという。なお、日本に自生するユキヤナギは栽培されていたものが野生化したとする説がある。これについては、奈良時代頻繁に行われていた行幸の地、吉野離宮の吉野川宮滝付近にユキヤナギが多く見られ、毎春、その白い花を咲かせることがこの野生化の説に通じるということも考えに及んで来る気がする。

  つまり、行幸に際してはそこで詠まれた歌などが多く、文献に残されているが、その文献等にユキヤナギの姿が見えて来ないということがある。これはその当時、宮滝付近にユキヤナギが存在していなかったことの証に違いないと思えるからで、その後のいつの時代にか、そこに存在するようになったと考え得る点、外来種の野生化と見なす説に符合するものとしてあげられる次第でる。これはユキヤナギの人気に裏付けられる。 写真はユキヤナギ。野生種の花(左・吉野町の吉野川宮滝付近)、植栽の花(中・奈良市の海竜王寺)、花のアップ(右)。 雪柳縁取る道に誘はれ

<2639> 大和の花 (757) シモツケ (下野)                                          バラ科 シモツケ属

          

 日当たりのよい岩崖地や岩礫地に生える落葉低木で、高さは大きいものでも1メートルほど。樹皮は暗褐色で、縦に剥がれる。葉は長さが3センチから8センチの狭卵形から広卵形で、先は尖り、基部はくさび形から円形まで変化がある。縁には不揃いの重鋸歯が見られ、裏面は淡緑色で網目模様がある。葉柄はごく短く、有毛で、互生する。

 花期は5月から8月ごろで、枝先にこんもりとした複散房花序を出し、直径数ミリの小さな5弁花を多数つける。花弁は濃紅色、紅色、淡紅色、白色と変化に富む。雄しべは25個から30個ほどで、花弁より長く伸び出す。雌しべは5個。実は袋果で、5個集まり、秋に熟して裂開する。実の先には花柱が残る。

 シモツケ(下野)の名の由来は、下野(現在の栃木県)で最初に見つけられたことによる。草本のシモツケソウ(下野草)に対し、木本の意によりキシモツケ(木下野)の別名もある。学名はSpiraea japonica。Spiraeaはユキヤナギで、日本のユキヤナギという意。

  本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)では、公園などに植えられているものをよく見かけるが、野生のものは大峰山脈の高所部と北山川(瀞峡)の岩場のごく限られたところにしか見られず、自生地も個体数も極めて少ないうえ、シカの食害が著しいことによりレッドリストの絶滅寸前種にあげられている。

 写真はシモツケ。花の色に変化が見られる花期の野生種(左)、艶やかな花を咲かせる岩礫地の個体(中)、紅色の花をびっしりとつけた花序のアップ(右・虫媒花らしく花にはハチの仲間が来ていた)。いずれも天川村の山上ヶ岳。 花びらの一つ一つに生の意味一つ一つによってその花

<2640> 大和の花 (758) イブキシモツケ (伊吹下野)                                 バラ科 シモツケ属

                     

 日当たりのよい山地や川沿いの崖地、岩礫地に生える落葉低木で、高さは1メートルから1.5メートルほどになる。樹皮は暗灰褐色で、新しい枝は黄褐色を帯び、短毛が密生する。葉は長さが3センチから5センチの卵形または菱形状長楕円形で、先はやや尖り、基部はくさび形に近い。縁には鋸歯乃至は重鋸歯が見られ、上部は浅く3裂するものがある。葉の表面は濃緑色で葉脈が凹む。裏面は淡緑色で、軟毛が密生し、葉脈が網目のように浮き立つ。軟毛が生える葉柄はごく短く、互生する。

 花期は4月から6月ごろで、枝の上部葉腋に直径2.5センチから3.5センチのドーム形の散房花序を立て、直径7ミリほどの小さな白い花を多数開く。花弁はほぼ円形で、5個。雄しべは20個ほどで、雌しべは5個。花柄には縮れた軟毛がある。実は袋果で、7月から8月ごろ褐色に熟す。イブキシモツケ(伊吹下野)の名は、滋賀県の伊吹山で最初に見つかったことによる。シモツケ(下野)はシモツケ属の仲間であることに因む。

 本州の近畿地方以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)では紀伊半島に見られるが、自生地も個体数も少なく、道路の拡幅工事などで失われるケースが見られ、レッドリストの希少種にあげられている。 写真はイブキシモツケ。川岸の崖地に咲く花(左)、盛りを迎えた花(中)、花序のアップ(右)。いずれも十津川村。    如何にあれ想像するは自由なり果たして思ひは妨げられず

<2641> 大和の花 (759) イワガサ (岩傘)                                           バラ科 シモツケ属

                 

 日当たりのある明るい山地や海岸の岩場や礫地、崖地などに生える落葉低木で、高さは大きいもので1.5メートルほど。樹皮は暗褐紫色で、若い枝は褐色。葉は長さが2センチから4センチの菱状卵形から広倒卵形で、先は丸く、基部は広いくさび形。縁の上部に不揃いの鋸歯が見られ、ときに3中裂から5中裂する。

 花期は5月から6月ごろで、枝に直径2センチから4センチのドーム形の散房花序を出し、直径7ミリほどの白い小さな5弁花を20個から40個つける。花弁は円形で、雄しべは20個ほど見られ、花弁とほぼ同長。実は袋果で、夏の盛りに熟す。

 本州の近畿地方以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)は海に面しておらず、山地のごく一部に稀産し、絶滅危惧種にあげられているが、殊に大峰山脈の高所(寒温帯域)の酸性岩の崖地に生えるものは中生代の海辺隆起による地形的遺存植物の可能性を秘めているところがうかがえる。なお、イワガサ(岩傘)の名は、岩場に生え、長い柄を有する傘のような花序の形による。

  中国原産のコデマリ(小手毬)やイブキシモツケ(伊吹下野)は同属でよく似るが、コデマリもイブキシモツケも葉の先が尖り気味になり、本種は鈍頭。 写真はイワガサ。絶壁の岩壁に生えて花を咲かせる個体(左・つる性植物のごとくに見える)、花期の姿(中)、花序のアップ(右)。いずれも天川村の大日山。    子は親をして子となれり親は子を持って即ち親とはなれる

<2642> 大和の花 (760) コゴメウツギ (小米空木)                                  バラ科 コゴメウツギ属

          

 明るい山地の林縁などに叢生する落葉低木で、1メートルから2メートルの高さになって、細い多数の枝を垂れ下げるように繁らせる。樹皮は灰褐色で、若い枝は赤褐色になることが多い。葉は普通長さが2センチから4センチの三角状広卵形で、先が尾状に尖り、基部は切形もしくは心形になり、縁には重鋸歯が見られる。葉柄は短く、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、円錐花序乃至は散房花序を出し、直径4ミリから5ミリの白い小さな5弁花を集めてつける。花弁はへら形で5個、萼片も白色で、これも5個。萼片は花弁より短く、花弁と花弁の間に現れるので、全体が白い10弁花のように見える。雄しべは10個で、花弁より短く、内側に曲がる。葯は黄色。袋果の実は直径2、3ミリの球形で、萼に包まれ、秋に熟す。

 コゴメウツギ(小米空木)の名は、ウツギ(空木)に似た白い小さな花を小米に見立てたことによる。北海道、本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも見られるという。大和(奈良県)では広い範囲に見られるが、点在的で、個体数はそれほど多くない。なお、コメウツギに似るカナウツギ(金空木)は中部地方以北に分布し、大和(奈良県)では見かけない。  写真はコゴメウツギ。開出した葉とともに際立つ白い花々(左)、葉と花序のアップ(中)、花のアップ(右)。いずれも金剛山山頂付近。   動ぜざる心を欲し来し旅の人生未だその志に立てず

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年03月26日 | 写詩・写歌・写俳

<2637> 余聞、余話 「人生を考える」

       歩くとは生きてゐること歩きつつ詩をなすことも生きゐる証

 室に籠っていると、無性に歩きたくなることがある。昔、寺山修司は『書を捨てよ、町へ出よう』というエッセイ集を出した。これは「遊んでばかりいないで、勉強しなさい」という世上一般の常識的な言葉に対する修司らしい言いで、知識ばかり詰め込んで頭でっかちになるより、外に出て体験した方がよいということを言っていると捉えられる。仕事や勉強に追い立てられる身には頷きたいところのある言いだった。

  最近ではNHKの各地に赴いて地勢や地質によってその地の成り立ちを解き明かす「ブラタモリ」という番組の主題歌に「テレビなんか見てないで どこかへ 一緒に行こう」という件がある。テレビが「テレビなんか見てないで」とは辛辣な自虐に思えて来るが、敢て言っているところが案外視聴者に受ける。これも、『書を捨てよ、町に出よう』と同じニュアンスの言葉であり、テレビばかり見ている視聴者がときとして抱く自らの行動願望に取り入る様が想像される。言ってみれば、無性に歩きたくなる私のような者への誘い文句ということになる。

  だが、しかし、時間というのは私たち生きとし生けるものにとって有限であり、外に出て歩いてばかりいると、今度は歩いてばかりではいけないという気分が逆に襲い来たって、室に籠る誘惑が願望の形で現れて来るということになったりする。短い人生、本当はどちらかに集中し、一途を通した方がよいと思えるが、凡人にはそれがなかなか出来ない。

                                  

  このほど引退したイチロー選手の非凡は自身の体形に現れていると思っていたが、つまり、この体形は凡人が陥る誘惑の願望を振り切る意志の強さにあると言ってよいのではなかろうか。ときにはストイックという言葉でも示されるが、日米通算4367本の前人未到の安打総数は、揺るぎない自身の一途な努力で成し遂げられた。

  このイチロー選手の一途な生き方は人生を成功に導くということにおいて誰もが納得するところであろうが、凡人にはその一途がなかなか通せず、ときには「人生楽しまなくて、何が人生か」というような誘惑の囁きが自らの中に湧いて来たり、年齢が差し迫って来ると、諦観状態に入るということなども起きて来ることになる。こういうことがわかっていながら、実行は難しく、一生は中途半端に終わるということになる。どちらにしても、人生は有限の時間を歩くことであり、その有限の時間をどのように活用するかは本人の意志次第ということになる。

 写真はイメージで、誰においても人生には道があり、道の先は明るい。しかし、その道は誰もが有限の時間を費やして歩くわけで、ここに歩くものの意志の重要性が指摘されることになる。ということで、次のようにも言える。人生は有限の時空と無限の可能性を秘めた意志の整合性の上に成り立つ。言い換えれば、人生は意志の顕現であって、この顕現によって有限の時空に成り立つものとも言える。

 

 

 

 


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2019年03月23日 | 植物

<2634> 大和の花 (753)シキミ (樒・梻)                                                    シキミ科 シキミ属

    

 山地に生える常緑小高木で、全木に芳香がある香木として古来より宗教色の強いところが見られ、寺社の境内や墓地などに植えられていることが多い。高さは2メートルから5メートルになり、樹皮は淡褐色で、縦に細かい線状の皮目がある。葉は長さが4センチから10センチの長楕円形で、先も基部もやや尖る。縁に鋸歯はなく、質はやや厚く、表面に光沢がある。葉柄はごく短く、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、葉腋に直径2、3センチの淡黄白色の花をつける。花は両性で、細長い花弁が10個から20個開く。輪生する雌しべ8個を多数の雄しべが囲み、黄色の葯が目につく。実は袋果が集まった集合果で、秋に熟す。有毒植物として知られ、木全体に毒を有するが、殊に袋果の実は猛毒で、食べると死に至ることもある危険な代物である。

 本州の宮城県以南、四国、九州、沖縄に分布し、国外では中国、台湾、済州島に見られるという。大和(奈良県)では全域的に自生するが、それほど多くない。シキミ(樒・梻)の名の由来については、実が重なってつく重実または敷き実によるとか実に毒がある悪しき実の「あ」を省いたもの、また、四季を通して美しい四季美によるとか、諸説がある。

 古い時代にはサカキ(栄木)の一つとして神事に用いられたが、仏教が広まった平安時代中頃以降仏事主流になり現在に至るという。昔から人との関りが深く、シキビをはじめ別名、地方名が多く、芳香に因むコウシバ(香柴)、コウノキ(香の木)、マッコウギ(抹香木)、花に因むハナノキ(花の木)、ハナシバ(花柴)、ハナエダ(花枝)。ほかにもハカバナ(墓花)、ハカシバ(墓柴)、ブツゼンソウ(仏前草)等々があげられる。

 因みに梻という字はサカキの榊と同じく、日本で作り出された国字として知られる。『万葉集』には之伎美の万葉仮名表記によって1首に登場する。所謂、万葉植物である。土葬だった昔は遺体を獣から守るためシキミの枝を墓の周囲に挿したという。樹皮や葉は抹香や線香に用い、材は緻密で、粘りがあるため樽材にし、細工物や数珠などに用いて来た。 写真はシキミ。一面に花を咲かせる枝木(左)、花のアップ(中)、自生の花(右・金剛山)。  視野にして一木一草これらみな生の存在それぞれにあり

<2635> 大和の花 (754) ヤマモモ (山桃・楊梅)                                   ヤマモモ科 ヤマモモ属

                   

 温暖な海岸付近に自生することが多い常緑高木で、高さは普通5メートルから15メートルほどになるが、大きいものでは25メートルに達するものもあるという。主幹から太い幹を周囲に分けて伸ばし、さらに分枝して丸まった樹形になる特徴がある。

 樹皮は灰白色から赤褐色で、細かい皺があり、古木では浅く縦に裂ける。葉は枝の上部に集中し、長さは5センチから10センチの倒披針形。質は革質で、先は尖らず、縁に鋸歯がないかまばらにあり、基部は狭いくさび形になって短い柄に流れる。なお、葉は両面とも無毛で、表面は光沢のある濃緑色。裏面は淡黄緑色で、透明な油点が散在し、芳香のある揮発成分を含む。

 雌雄異株で、花期は3月から4月ごろ。枝先の葉腋に花序を出し、雄株では長さが3センチ前後の円柱形の雄花序を伸ばし、多数の雄花をつける。雄花はつぼみのとき赤褐色で、開花すると淡黄褐色になる。雌株も葉腋に長さ1センチほどの花序を出し、赤褐色の雌花をつける。核果の実は直径2センチ弱の球形で、6月ごろ紅色から暗紅色に熟し、表面には粒状の突起が見られ、甘く食べられる。

 実は生食のほかジャムや果実酒にし、樹皮はタンニンを含み、漁網などの染料にする。また、これを乾燥したものを楊梅皮(ようばいひ)と称し、下痢や打撲傷などの薬用としても利用されて来た。材は器具材として用いられる。ヤマモモ(山桃・楊梅)の名は山に生え、実の味がモモに似ることによるなど諸説がある。漢名は楊梅(ようばい)で、ヤマモモの名はこの漢名の音読みヤンメイの転訛とも言われる。

 本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島南部、中国、台湾、フィリピンなどに見られるという。海に面しない大和(奈良県)でも野生のヤマモモがそこここで見られる。だが、自生かどうかははっきりしない。『奈良県樹木分布誌』(森本範正著)には「県南部のものは自生とみられるが、庭木として多用されるので、中・北部のものは春日山も含めて逸出の可能性が大。ただし、6000年ほど前には大阪湾が生駒山麓にまで達していたというから、王寺町明神山のものは自生かもしれない。云々」と説明している。

 なお、大和(奈良県)には下市町栃原に推定樹齢400年、五條市西吉野町奥谷に推定樹齢300年を誇るヤマモモの古木が存在する。両古木とも雌株で、毎年実を生らせ、栃原の方はこのヤマモモに因んでバス停の名を「桃の木」とし、奥谷の方は樹冠がみごとで、奈良県の天然記念物に指定されている。

  因みに、栃原の古木は高さが15メートル、幹回りが5メートル。奥谷の古木は高さが12.7メートル、幹回りが6.2メートルで、ともに風格があり、その地のシンボル的存在として見られ、大切にされている。 写真はヤマモモ。左から雄花をいっぱいに咲かせた雄株、雌花、紅く熟し始めた実、樹齢を誇る栃原の古木。  蕗の薹花の姿となり立てり

<2636> 大和の花 (755) ユズリハ (譲葉)                                      ユズリハ科 ユズリハ属

               

 暖地の林内に生える常緑高木で、高さは15メートルほど。樹皮は灰褐色で皮目が散在する。新枝は緑色。葉は長さが5センチから15センチの長楕円形または倒披針形で、先が短く尖り、基部はくさび形。縁に鋸歯はなく、質は革質で、表面は光沢のある緑色。主脈と側脈が目立つ。裏面は白色を帯びる。葉柄は3センチから6センチと長く、普通紅色を帯びて美しく、枝先に集まって輪状に互生する。

 雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ、前年枝の葉腋から総状花序を出し、花は花序枝の上部に固まってつくことが多い。雄花は花弁も萼片もなく、雄しべが10個前後、花糸は離生し、褐紫色の葯が目につく。雌花は雌しべが1個で、褐紫色の柱頭が目立つ。核果の実は長さが9ミリ弱の楕円形に近く、初冬のころ藍黒色に熟し、表面に粉を吹くことが多い。

 本州の福島県以南、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島南部、中国に見られるという。大和(奈良県)では南部の紀伊山地に多く見られる。古くはユヅルハの名で知られ、『万葉集』には弓弦葉、由豆流葉の表記で短歌2首に登場する。所謂、万葉植物である。

 ユズリハ(譲葉)の名は、旧葉と新葉が引き継ぐように入れ替わるので、親から子へ代を譲る意に捉えたことによるもので、子孫繁栄の縁起によるウラジロやダイダイなどとともに、正月飾りに用いられ、大和(奈良県)でも地域によって見られる。また、ユヅルハ(弓弦葉)については、弓の弦を張ったときの形に葉の形が似ることによる。漢名は交譲木で、中国でも新旧交代の葉により譲の字を用いている。 写真はユズリハ。雄花(左)と雌花(右・上は新葉、下は旧葉で、旧葉は間もなく脱落する)。

  春寒や外(と)に出で歩くに丁度よし

 

 


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2019年03月22日 | 写詩・写歌・写俳

<2633> 余聞、余話 「彼岸の時期」

    いま少し日差しが欲しい余寒かな

 正岡子規に「毎年よ彼岸の入りに寒いのは」という句がある。二月初旬の立春のころから三寒四温の寒暖を繰り返しながら徐々に暖かくなるのが日本の冬から春への季節的移ろいで、この寒暖は「暑さ寒さも彼岸まで」の三月二十一日の彼岸のころまで続く。因みに、彼岸は春の彼岸と秋の彼岸(九月二十三日)があり、「暑さ寒さ」という言葉が納得される。

  しかし、寒さが彼岸にピリオッドを打つかと言えば、自然は気ままで、なお寒さがぶり返すということがある。で、「花冷え」などという日本特有の言葉なども存在する。それでも二月初旬の立春のころの寒さと四月初旬の「花冷え」のころの寒さとは自ずと違い、年によって変化が見られるものの、「暑さ寒さも彼岸まで」というのが、私たち日本人の感覚的常識になっている。

                                 

  今年の奈良大和は東大寺二月堂のお水取りが終わってからも冷え冷えとした日があり、三月十八日の彼岸の入りには子規の句を彷彿させる寒さがあった。この寒さの状況は四季の国日本の自然の移ろいの特徴的なところで、この状況を感じ取ったところに「余寒」というような季語も生まれた。立春から彼岸の間には、虫が這い出して来るという啓蟄(三月五日前後)も設けられている。言わば、私たち日本人はこの自然の移ろいに対し、実に細やかに感じ、応じているということが言える。

  今年は子規の句の通り、彼岸の入りの十八日ごろまで寒い日があり、彼岸期間の二十日あたりから急に暖かくなった。これは大陸から張り出し居座って日本列島の上空にも及んだ寒気帯によるもので、急に暖かくなったのは、この寒気帯が北に退き、代わりに太平洋上の高気圧の勢力が影響するに及び、暖かい大気が日本列島を支配するに至ったからである。子規が「毎年よ」と詠んだ句は、彼岸の時期に日本列島が拮抗する南北の気圧配置の影響を受けることを示すものと捉えられる。そして、「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉に重なる。

    花よりも 開花宣言 人の数

 この冬から春への寒暖の変化はまさに例年通りで、奈良大和では東大寺二月堂のお水取りが終わると春本番を迎えると言われ、これは三月中旬に当たり、それからほどなくして春分の彼岸を迎えるわけである。思えば、一週間ほど前までは冒頭の句のごとく、木々の梢や梢にとまる小鳥にもまだどこか寒さが纏い、余寒の感じがあった。それが彼岸のさ中に桜の開花宣言が各地で行われ、テレビなどでもそれが放映され、一転して花見の話題に移り、気分は春本番へと勢いづいて来た。

                          

    暖かき雨のち晴の春彼岸

  で、ここまで来れば、私たちには季節の後戻りはないという気分になる。しかし、心模様というのは定まることがなく、花が咲いて爛漫を満喫しながらも、「花に嵐の譬えもあるぞ」などという言葉が聞こえて来たりし、「花冷え」などの訴えもある。という次第で、この時期の移ろいへの思いは尽きないと言える。とにかく、彼岸はこのような季節的変化の時期にあるということが言える。そして、時は止まることなく進み、次の季節へと向かう。

      真っ先に白木蓮の白き花

 公園では桜(ソメイヨシノ)よりも白木蓮の花が早く、これは毎年のことで、トサミズキやユキヤナギの花も咲き始め、草地ではタンポポの黄色い花が増え、ミツバツツジの類も間もなくである。彼岸が過ぎると、春咲きの草木が次々と花を開いて、公園のみならず、山野でも彩を増す。言わば、この冬から春へのこの時期というのは一日一日の変化が著しく、冬の風景と春の風景が混在し、次第に春の風景が増えて、私たちの心身に及ぶ。 上段の写真はモミジの枝に見える彼岸前のジョウビタキ(メス)の姿(まだ冬が纏っている感じを受けた)。下段の写真は彼岸に入って花を咲かせたハクモクレン。

 

 


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2019年03月16日 | 植物

<2627> 大和の花 (747) スノキ (酢の木)                                             ツツジ科 スノキ属

                   

 ブルーベリーやクランベリーの仲間で、北半球を主にして世界に450種ほどあるスノキ属の中の1種、オオバスノキの変種として知られる。山地の林内や林縁に生える落葉低木で、よく枝を分け、高さが1、2メートルになり、樹皮は暗褐色から灰褐色。新枝は緑色乃至は紅紫色で、水平に伸びる特徴があり、灰白色の毛が表裏に帯状をなして生える。葉は長さが1センチから4センチの倒卵形乃至は楕円形で、先が尖り、縁には内側に曲がる細かい鋸歯が見られる。脈上にはまばらな毛が生え、葉柄はごく短く、互生する。

  花期は6月から7月ごろで、前年枝の葉腋に総状花序を出し、紅色を帯びた花を1個から4個つけ、下向きに咲く。花冠は長さが6ミリほどの鐘形で、浅く5裂し、裂片は反り返る。萼も5裂し、裂片の縁に腺毛が見られる。雄しべは10個。花柄は1センチ未満で無毛。液果の実は直径が8ミリ前後の球形で、7、8月ごろ黒紫色に熟す。熟した実は甘酸っぱく、食べられる。

 本州の関東地方以西、四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では、葉柄に毛が密生するものが分布し、カンサイスノキ(関西酢の木)として扱う向きもある。スノキ(酢の木)の名は実や葉に酸味があることによる。 写真はスノキ。5月の日を浴びて咲く花(吉野町の竜門岳)と熟し始めた実(7月8日、天川村の観音峰)。   それぞれに一木一草それぞれにありけるそれは生の存在

<2628> 大和の花 (748) オオバスノキ (大葉巣の木)                                   ツツジ科 スノキ属

         

 スノキ(酢の木)の母種として知られる山岳高所の明るい岩場や低木林の林縁に生える落葉低木で、高さは1メートルから1.5メートルほどになる。葉は長さが3センチから8センチの長楕円形乃至は卵状長楕円形で、先はやや尖り、基部はくさび形。縁には細かい鋸歯が見られる。表面は緑色で、裏面は淡緑色。主脈に毛が生える。

 花期は6月から7月ごろで、スノキと同じく前年枝の葉腋に総状花序を出し、緑白色または紅色を帯びた花を多いもので数個、下向きにつける。花冠もスノキよりやや大きく、長さが7ミリ前後の鐘形で、先が浅く5裂し、裂片は反り返る。液果の実は直径1センチ弱の球形で、秋に黒紫色に熟す。葉や花が大きいのでこの名がある。学名はVaccinium smallii。smalliiは江戸時代の末、日本に派遣されたアメリカの北太平洋調査探検隊のスモールによって採取され、その名に因むもので、学名はスモールのスノキの意。

  北海道、本州の東北地方、中部地方中北部、近畿地方、中国地方の日本海側、四国北東部に分布し、南千島、サハリンにも見られるという。大和(奈良県)では標高1400メートル以上の冷温帯域から寒温帯域の日当たりのよい明るい岩場に見えると言われるが、自生地、個体数とも少なく、奈良県版レッドデータブックには希少種としてあげられている。 写真は花期のオオバスノキ(天川村の山上ヶ岳)。なお、写真については標高1650メートル付近の岩崖地に生え、撮影が7月11日であるのと左の写真の花柄に苞葉が残っている点からウスノキやスノキでなく、オオバスノキと判断した。   伊達に咲く花などあらずどの花も使命において咲ける花なり

<2629> 大和の花 (749) ウスノキ (臼の木)                                          ツツジ科 スノキ属

                                  

 山地の明るい林内や林縁に生える落葉低木で、高さは大きいもので1.5メートルほどになる。樹皮は褐色で、新枝は赤紫色に帯状の短毛が生える。葉は長さが2センチから5センチほどの卵状楕円形乃至は広披針形で、先はやや尖り、縁には細かい鋸歯が見られる。裏面には短毛が生え、脈上には白い毛がある。

 花期は4月から6月ごろで、前年枝の葉腋に総状花序を出し、赤味を帯びた黄緑色の花を2、3個下向きにつける。花冠は長さが6、7ミリの鐘形で、先が浅く5裂し、裂片は反り返る。萼には5個の稜がある。液果の実は直径7、8ミリの卵形で、5個の稜があり、7月から9月ごろに熟して、光沢のある深紅が映える。実は先端が窪み、臼に似た形になるのでウスノキ(臼の木)の名がある。カクミノスノキ(角実の酢の木)の別名を持つが、これは実に稜があり、角ばっているから。

 北海道、本州、四国、九州北部に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では広く分布しているが、南より北に多い傾向にある。 写真はウスノキ。鮮やかな紅色の実をつけた枝(左)と臼に似た形をした真紅の実のアップ(右)。 判別の難しき花に触れるたび先人の偉業の資料に縋る

<2630> 大和の花 (750) ナツハゼ (夏櫨)                                           ツツジ科 スノキ属

         

 山地や丘陵地の明るい二次林帯の林内や林縁に生える落葉低木で、高さは1メートルから3メートルほどになる。幹が株立ちになるものが多く、枝が横に広がる傾向がある。樹皮は灰褐色で、縦に裂け、薄片になって剥がれる。新枝は赤褐色で、稜があり毛が生える。葉は長さが3センチから5センチの楕円形もしくは広卵形で、両端とも尖り、縁に鋸歯はないが、先端が腺になった細かい毛が生える。葉柄はごく短く互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先から総状花序を水平に伸ばし、赤味を帯びた淡黄緑色の花を多数連ねるようにつけ、下向きに開く。花冠は直径4、5ミリほどの鐘形で、先が浅く5裂し、裂片は反り返る。萼も5裂し、裂片の先は尖る。雄しべは10個、雌しべは1個。花序の軸や花柄、萼には褐色の毛が生え、腺毛が混じる。液果の実は直径5ミリ前後の球形で、秋のころ黒く熟し、光沢があって、甘酸っぱく、食べられる

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島南部と中国に見られるという。大和(奈良県)では、主として吉野川に沿う中央構造線の北側に当たる内帯に片寄って分布している。ナツハゼ(夏櫨)の名は初夏に展開する新葉が赤く色づくのを紅葉が美しいウルシ科のハゼノキ(黄櫨)に擬えたことによるという。 写真はナツハゼ。水平に伸びた花序軸に連なり、下向きに咲く花(左・生駒市高山町)、花のアップ(中・同)、紅葉する葉とともに黒く熟す実をつけた枝々(右・下市町)。    地味であれ花は花なりその使命その意義つまり明日への希望

<2631> 大和の花 (751) シャシャンボ (小小ん坊・南燭)                               ツツジ科 スノキ属

            

 明るい二次林の林縁などに生える常緑低木あるいは小高木で、よく分枝し、高さが1メートルから5メートルほどになる。樹皮は灰色で、薄片が剥がれ落ちると、赤褐色の木肌が現れる。新枝は赤褐色。葉は長さが3センチから7センチの卵状楕円形乃至は楕円形で、先が鋭く尖り、基部はややくさび形。縁には浅い鈍鋸歯が見られる。質は厚い革質で、表面に光沢がある。葉柄はごく短く、互生する。

 花期は5月から7月ごろで、前年枝の葉腋から長いもので8センチほどの総状花序を出し、白色ときに赤味を帯びた花を多数下向きにつける。花冠は長さが7ミリほどの筒状壷形で、先が5裂し、裂片が反曲し、花冠の外面には軟毛が密生する。雄しべは10個。花柱は花冠より少し突き出る。萼や花柄や花序軸には毛が生える。液果の実は直径5ミリほどの球形で、秋ごろ黒紫色に熟し、白い粉を被るが、甘酸っぱく、食べられる

 シャシャンボ(小小ん坊)の名は、沢山枝につく小さな球形の実を坊やに擬えたことによるという。古くはサシブ、サシブノキ(烏草樹・佐斯夫)と呼ばれ、『古事記』に登場を見る。また、ワクラハ(病葉)の別名でも知られ、こちらは常緑の葉が年を越すと、褐色や紫褐色に変色し、白い病斑様の汚れたような色になるからと言われる。

 本州の関東地方南部、中部地方南部、石川県、近畿地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、東南アジアに広く見られるという。大和(奈良県)では暖温帯域に分布し、標高の高い深山や山岳では見ない。 写真はシャシャンボ。多数の白い花をつけた花序(左・花序軸は淡緑色)、実(中・葉に汚れが目立つ)、幹(右・樹皮の薄片が目立つ)。    勢ぞろひ遅れしものもみな芽吹く

<2632> 大和の花 (752) アクシバ (灰汁柴)                                          ツツジ科 スノキ属

                                               

  山地の林下や林縁などに生える落葉低木で、高さは20センチから80センチほどになる。まばらに枝分かれして水平に広がる特徴がある。樹皮は灰黒褐色で、枝は緑色。葉は長さが1センチから6センチの卵形乃至は広披針形で、先は尖り、基部はほぼ円形。縁には先が腺になった細かい鋸歯が見られる。葉の質は厚く、表面は緑色で脈が凹み、裏面は淡緑色で網目が目立つ。葉柄はほとんどなく、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、葉腋に長さが1、2センチの花柄を垂れ、淡紅白色の1花を下向きに咲かせる。花冠は4深裂し、裂片は長さが1センチほどの披針形で、外に反り返って巻く。雄しべは8個で、4個は退化。花糸は短く、赤褐色の線形の葯が長く、雌しべの花柱とともに花冠から突き出し、集まってくちばし状になる。萼は浅く4裂する。液果の実は直径7ミリほどの球形で、秋に赤く熟し、甘みがあり、食べられる。

 学名はVacciniom japonicumで、日本のスノキの意。アクシバ(灰汁柴)の名の由来については、枝や葉が緑色の小さい雑木と見た青木柴がアクシバに訛ったという説とこの木の灰から作った灰汁をあく抜きに用いたことによるという説がある。 写真はアクシバの花(左・天川村の山上ヶ岳山頂付近)と赤く熟した実(右・同村の観音峰登山道)。

 北海道南西部、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島南部の済州島に見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に分布するが、新枝に腺毛があるものについてはアクシバの変種ケアクシバ(毛灰汁柴)とされ、本州の近畿地方以西、四国、九州に分布する日本の固有変種とされる。ここに紹介した2枚の写真でははっきりしないが、写真を拡大してみると、新枝に白い毛(腺毛と思われる短毛)が生えているのでヶアクシバとする方がよいかも知れないが、ここではアクシバとした。因みにアクシバはアクシバ属とする説もある。  春彼岸妻が牡丹餅買ひて来ぬ