大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2012年05月19日 | 祭り

<260> 唐招提寺のうちわまき

         律すれば こそなれ立つ身 梵網会

 鑑真和上のお寺として名高い奈良市五条町の唐招提寺で、唐招提寺中興の祖と言われる覚盛(かくじょう)上人の遺徳を偲ぶ法要の梵網会が、上人の命日に当たる五月十九日に行われ、舞楽奉納の後、恒例の「うちわまき」が催されにぎわった。

 「うちわまき」は、覚盛上人が夏の法要をつとめていたとき、上人の肌に蚊がとまり、これをたたこうとした弟子に「殺生はよくない。蚊に自分の血を与えるのも菩薩行である」と説いて法要を続けたという逸話があり、この逸話が基になっているという。

  話を聞いた法華寺などの尼僧がこれに感銘を受け、建長元年(一二四九年)に上人が亡くなった後、蚊を追い払う宝扇と呼ばれるハート形のうちわを作って供えた。これが「うちわまき」に発展したと伝えられている。

 用意された千五百本ほどが今日は午後三時、鼓楼の上から先着順に選ばれた二百人の参拝者に対し、三回の「うちわまき」が行なわれ、残りは先着順と抽選によってそれぞれに手渡された。「うちわまき」に人が集まり過ぎて危険になったためという。

 うちわは雷難、火難等の厄除けになり、農家では苗代に立てて病虫害を防ぐということが行なわれ、遠路の人や毎年訪れる人もいるという。今日は修学旅行生なども見られ、唐招提寺周辺は大変な人出になった。

 唐招提寺は鑑真和上が東大寺で五年過した後、天平宝字三年(七五九年)に新田部(にたべ)親王の旧宅に建立したもので、仏教の戒律を学ぶ修行道場として開かれた南都六宗の一つに数えられる律宗の総本山で知られる。戒律が厳しく、覚盛上人の蚊の逸話もこの厳しさの現われと言ってよかろうか。

 覚盛上人の蚊の話は、小林一茶の「やれうつな蠅が手をする足をする」を思い起こさせるが、手をするとは拝む意であり、足をするとは手で足りず足までもという意が込められていて、ハエに対する観察の行き届いた句であるのがわかるが、この句にも慈悲心が見て取れる。慈悲心は悟りへの道筋であろう。一生において、未だ哀れを知らないものは成熟に遠く、未熟と言えよう。そこに思いがゆく。写真は左から奉納される舞楽、うちわまき、うちわを求める人たち。