大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年11月30日 | 植物

<3604> 奈良県のレッドデータブックの花たち(143) シギンカラマツ(紫銀唐松)        キンポウゲ科

                            

[学名] Thalictrum actaeifolium

[奈良県のカテゴリー]  希少種(旧無指定)

[特徴] 山地の渓流沿いの林内や礫地などに生える多年草で、細くやや硬い茎がよく分枝し、高さ30~60センチになる。全草無毛で、葉は2~3回3出複葉。葉柄を有し、小葉は長さが2~5センチの卵形または円形に近く、脈が裏面に隆起する。

   花期は7~9月で、枝先や葉腋から長い花序軸を伸ばし、複散房花序に直径1センチ前後の白い小さな花を多数つける。花には花弁がなく、萼片も早落性で、早くに姿を消し、多数の雄しべとわずかな雌しべが残る。雄しべの花糸も葯も白色で、花糸の先が葯の部分よりやや太い感がある。実は痩果。

[分布] 日本の固有種。本州の福島県以南、四国、九州。

[県内分布] 東吉野村、川上村、天川村、上北山村、十津川村。

[記事] 大和地方では台高、大峰山系の暖温帯上部から冷温帯域の渓流近くに見られ、自生地はかなり残されているが、個体数が少ないと報告されている。レッドデータブックは園芸栽培用採取、道路拡幅、植生の遷移などを減少要因にあげている。

      岩場に生える植物には

      貧弱で小さいものが多い

      これはどうしてだろうか

            二つの理由が考えられる

            一つは岩場の土壌において

            土が豊かでないことによる

            今一つは岩自体に由来する

            岩場に生える植物にとって

            岩は守護神のようなもの

            植物には安心な場所で

            所謂信頼の環境にあって

            小さい植物が率先して

            この安心な岩場に居つき

            長らえているからである

 


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2021年11月29日 | 写詩・写歌・写俳

<3603> 余聞 余話「初冬の平群の里へ」

    よき日差しまことさるとりいばらの実

 今日二十九日は生駒市の近畿大学医学部奈良病院での年に一度のエコー検査。ということで検査を受けた後、好天だったので平群の里を少々巡り、初冬の季を楽しんだ。奈良大和は今冬一番の冷え込みだったようで、紅葉も今が盛りの感。里山は明るく、にぎやかなその彩を見せていた。

                      

   紅葉に黄葉の映え平群の里

  山足に一歩踏み込んでみると、そのにぎわいは一層感じられた。例えば、サルトリイバラ科のつる性の落葉低木、サルトリイバラ(猿捕茨)が赤く色づいた球形の実をいっぱいにぶらさげ、暖かな初冬の日差しを受け、何か語らい合っているごとくに見えた。

                   

   道の駅店頭彩る蜜柑かな

 平群の里は「平群谷」と呼ばれるように西の生駒山系と東の矢田山系に挟まれた南北に細長い地形にあり、その底に当たる真ん中を北から南に向かって竜田川が流れ、その両岸に集落や田畑が見られ、小菊の産地として知られる。今まさにその東西両側の山の連なりに紅葉の時を迎えている次第。早朝は冷え込んだが、日中は暖かで、歩きは快適だった。

   車を駐車した道の駅では店頭に冬日が差し、並べられたミカンの彩が目についた。 写真上段は紅葉真っ盛りの矢田山系の山並(左)と赤い実をつけたサルトリイバラ(右)。写真下段は色づいた雑木林。


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2021年11月28日 | 植物

<3602> 奈良県のレッドデータブックの花たち(142) ジガバチソウ(似我蜂草)               ラン科

                 

[学名] Liparis krameri var. krameri

[奈良県のカテゴリー]    絶滅危惧種(旧無指定)

[特徴] 山地の林内や林縁に生えるクモキリソウ(雲切草)の仲間の多年草で、偽球茎を有し、2個の葉と1個の花茎を直立する。葉は長さが3~8センチの広卵形で、基部が狭くなり葉柄に続き、茎を抱いて向かい合うように斜上してつく。葉は縦脈のほか横脈の2次脈もはっきり見え、網目模様になる。この網目模様が似通うクモキリソウにはなく、両者の判別点になる。

 花期は5~7月で、高さが8~20センチの花茎上部に総状花序を出し、数個から20個の花を下から順に開花する。花は萼片、側弁、唇弁などからなり、花もクモキリソウに似るが、クモキリソウでは唇弁が下方に反曲する。これに対し、ジガバチソウでは反曲せず、先端が垂れ下がって細く尖り、両側に突起が見られる。

花の色は淡緑色から黒褐色まで変化があり、淡緑色のものをアオジガバチソウ(青似我蜂草)、黒褐色のものをクロジガバチソウ(黒似我蜂草)と呼ぶ場合もある。ジガバチソウ(似我蜂草)の名は花の形がジガバチ(似我蜂)、1名コシボソバチ(腰細蜂)に似ることに因むという。

[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島。

[県内分布] 奈良市、天理市、御所市、宇陀市、東吉野村、御杖村、川上村、天川村、十津川村。

[記事] 大和地方では「生育地ごとの個体数が少なく、花形が面白いので園芸栽培用にみつけ次第採取されることが多く、近年急速に生育地が減少している」とレッドデータブックは指摘している。 写真は花をつけたジガバチソウ(左)、花序のアップ(中)、葉のアップ(網目模様が浮き立って見える)。

   生きいることは

   働いていること

   生きものはみな

   それぞれにあり

   働いているから

   生きていられる

 


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2021年11月27日 | 創作

<3601> 写俳百句(98) 紅葉の名所竜田公園写俳散策

            陽に漱ぎ水面に映えて紅葉照る      紅葉(もみぢ)

                                       

 紅葉の見ごろを迎え、天気もよいので、紅葉の名所、斑鳩の里の竜田公園に出かけた。生駒の山域を源流に南流し大和川に至る竜田川の両岸が竜田公園で、朱塗りの欄干が映える歩道橋があって両岸が往来出来る。この川の一帯は平安時代の昔より紅葉で名高く、和歌にも詠まれ、ことに次の二首は今もよく知られている。

   ちはやぶる神世もきかずたつたがはから紅に水くゝるとは       在原業平

       嵐吹く三室の山の紅葉ばは竜田の川の錦なりけり           能因法師

 業平の歌は、屏風絵に寄せて詠んだもので、『古今和歌集』(秋歌下)に、法師の歌は歌合の歌で、『後拾遺和歌集』(秋下)に見え、ともに藤原定家の『小倉百人一首』に選ばれ、人口に膾炙するところとなり、後世に伝えられて今に至る。

 この和歌の影響は大きく、名所を不動のものにした。で、大和には桜の吉野山、梅の月ヶ瀬渓谷。そして、龍田姫の紅葉の竜田(竜田川)があるという次第である。もちろん、今の紅葉は近年栽植されたものがほとんどであろう。が、公園には、その古来よりの名が脈々と継がれている感が見受けられる。 写真は小春日の日差しを受け、竜田川の川面に映える紅葉。

  紅葉映ゆ紅葉の名所竜田川     紅葉(もみぢ)

  紅葉映ゆ名所の誉れ竜田川     紅葉(もみぢ)

  訪ふ人や今も紅葉の竜田川     紅葉(もみぢ)


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2021年11月26日 | 植物

<3600> 奈良県のレッドデータブックの花たち(141)シオガマギク(塩竈菊)  ハマウツボ科(旧ゴマノハグサ科)

                

[別名] シオガマソウ(塩竈草)

[学名] Pedicularis resupinata subsp. oppositifolia

[奈良県のカテゴリー]  絶滅危惧種

[特徴] 日当たりのよい山野の草地に生えるシベリアシオガマの亜種とされる半寄生の多年草で、紫褐色の茎はほとんど分枝せず、草丈60センチほどになる。根は傍の草木に差し込んでいるはずであるが、地上からの目にはわからない。葉は三角状狹卵形で、先が尖り、縁には重鋸歯が見られ、対生または互生する。花期は8~9月で、茎頂や上部葉腋に苞葉をともなう花茎を伸ばし、その先に筒状唇形の花を横向きにつける。花冠は鮮やかな紅紫色で、上唇は嘴状に尖り、下唇は横に広がり3浅裂する。

[分布] 北海道中南部、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国東北部

[県内分布] 御所市、明日香村、曽爾村、御杖村、天川村、下北山村、十津川村。

[記事] シオガマギク(塩竈菊)のシオガマ(塩竈)は浜で海水を煮詰めて塩を作る竈(かまど)のこと。その名はこの竈、即ち、浜に設えられた塩竃に因むと言われる。シオガマは「浜で美しい」とされ、本種の「葉まで美しい」という言葉に重ね、その言葉遊びからシオガマギク(塩竈菊)の名が発想されたようである。塩竈を知らない者には理解出来ない名であるが、命名譚はともかく、鮮やかな紅紫色の花の美しさが葉までも引き立てるということなのだろう。稀に白い花も見られる。

 「草地の減少やシカの食害によって個体数が減少知っている」とレッドデータブックは指摘している。なお、仲間で花の小さいコシオガマ(小塩竃)も大和地方では野生の個体数が減少し、絶滅危惧種にあげられている。 写真はシオガマギク。冷温帯域の花(左・稲村ヶ岳)、花のアップ(中・曽爾村)、突然変異か、白い花の個体(右・同)。

   生は働きであって

   全ての生きものは

   他を恃むにしても

   自らの働きにより

   生を全うしている