大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年05月28日 | 植物

<2341> 大和の花 (519) ムラサキケマン (紫華鬘)                                       ケシ科 キケマン属

           

 ここでは、ケシ科の中のキケマン属を見てみたいと思う。後ろに突き出た距を有する花が特徴的で、地下に根塊が出来ないキケマンの仲間と根塊が出来るエンゴサクの仲間に分けられる。まずは、キケマンの仲間のムラサキケマン(紫華鬘)から。なお、ケマン(華鬘)は仏堂内陣の欄間などに掛ける飾りで、花をこの華鬘に擬えたことによる。

  本種はやや湿っり気のある草地や道端などに生える越年草で、草丈は普通30センチ前後。葉は根生葉と茎葉からなり、2、3回羽状に裂け、セリ科のセリ(芹)やシャク(杓)に似る。茎も葉も全体に軟らかく、傷つけると悪臭のするものが多い。

  花期は4月から6月ごろで、茎の上部に長さが1.5センチ前後の紅紫色の筒状花を多数総状につける。花は左右相称で、花弁は4個、内外に2個ずつあり、外側の上部の花弁が後ろに袋状の距を持ち、横向きになる。実は長さが1.5センチほどの狭長楕円形の蒴果。

  日本全土に分布し、中国にも見られるという。全草に毒性を含む有毒植物で、中国では毒性を生かして殺虫剤やタムシの外用薬に用いるという。茎や葉が軟らかいので食べられそうだが、食べてはいけない。写真はムラサキケマン。 父と母 思ふにありて 蛙の子

<2342> 大和の花 (520) ミヤマキケマン (深山黄華鬘)                                ケシ科 キケマン属

          

 山間地の道端や林縁などに生える高さが20センチから40センチの越年草で、茎は赤みを帯びるものが多い。葉は1、2回羽状複葉で、小葉は更に羽状に深裂する。花期は4月から6月ごろで、茎の先に3センチから10センチの総状花序を出し、距を持つ黄色の筒状花を多数密につける。蒴果の実は長さが2、3センチの線形で、数珠状になる。

 本州の中部地方以西に分布するフウロケマン(風露華鬘)の変種とされ、本州の近畿地方以東に分布する。国外では中国に見られるという。漢名は深山黄菫。大和(奈良県)には多く、山間地では普通に見られる。なお、ムラサキケマンとほぼ同じく、アルカロイドのプロトピンを含む有毒植物で、中国ではタムシなど皮膚病の外用薬として用いられるようであるが、日本で用いた例は見られないという。 写真はミヤマキケマンの花(川上村)と数珠状の実(東吉野村)。 小さくも命なりけり小さくも生の存在カナブンが飛ぶ

<2343> 大和の花 (521) ジロボウエンゴサク (次郎坊延胡索)                          ケシ科 キケマン属

                                                  

 丘陵や林縁の草地などに生える草丈が10センチから20センチの多年草で、キケマン属の中では地中に塊茎が生じるタイプに属する。不定形の塊茎は古い塊茎の上につき、直径1センチほどの大きさで、数個の葉や茎を出す。有柄の葉は長さが7センチ前後の2回3出複葉で、小葉はさらに3裂して、裂片は長さが1センチから2センチの狭楕円形。

 花期は4月から5月ごろで、茎頂に総状の花序を出し、長さが2センチ前後の筒状の花をやや横向きにつける。花は淡い紅紫色から青紫色で、筒部は白色に近くなる。花の先端は唇形に開き、後ろ側に距がある。花柄を有し、花柄の基部にごく小さな苞葉がつく。この苞葉が他種との判別点で、本種は苞葉に歯牙或いは鋸歯がなく、全縁であるのが特徴。実は蒴果で、長さが2センチほどの線形。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では吉野地方でよく見かける。延胡索は漢名で、次郎坊は伊勢地方の方言と言われ、和名のジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索)は、スミレの太郎坊に対し、本種を次郎坊と呼んで子供たちが両方の花を絡めて引っ張り合い遊んだことに由来するという。これは延胡索の意に通じる。別名のスモウトリクサ(相撲取草)も同じ意による。

 なお、本種はアルカロイドのプロトピンなどを含む。有毒植物であるが、塊茎を蒸して日干しにしたものを漢名に等しい延胡索と呼び、これを煎じて腹痛や月経痛に用いると言われる。だが、在来種は劣るとされ、外来のものが用いられるという。 写真はジロボウエンゴサク(五條市西吉野町)。左の写真の白い花はニリンソウ(二輪草)、右の写真の花柄の基部に見える苞葉に鋸歯がない。これが本種の特徴。  時の鳥今も変はらずほととぎす

<2344> 大和の花 (522) ヤマエンゴサク (山延胡索)                                   ケシ科 キケマン属

                                                  

 山地の疎林内や林縁などに生える多年草で、草丈は20センチほど。茎も葉も花もジロボウエンゴサクによく似るので間違いやすいが、花柄の基部につくごく小さな苞葉の形の違いによって判別出来る。苞葉に鋸歯のないジロボウエンゴサクに対し、ヤマエンゴサクではギザギザの歯牙状の鋸歯が見られる。ヤブエンゴサク(薮延胡索)の別名でも知られるが、本種も有毒植物である。

 本州、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では、吉野山と金剛山で見かけた。ほかには日本の固有種として知られるエゾエンゴサク(蝦夷延胡索)、ミチノクエンゴサク(陸奥延胡索)、ヒメエンゴサク(姫延胡索)、キンキエンゴサク(近畿延胡索)などがあり、分布域を異にするが、概して苞葉に違いが見られる。 写真はヤマエンゴサク(吉野山・右の写真では花柄の基部についている苞葉に歯牙状の鋸歯が見える)。   実質を秘めてこそ花 花の映え 数ある花の数ある姿

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年05月27日 | 写詩・写歌・写俳

<2340> 余聞、余話 「 懸 命 」

 五月十五日にこのブログで紹介したコサメビタキの子育ては、この間無事に巣立ったようである。残念ながらそのときの写真は撮れていないが、よかった。ヒナ鳥は確認出来ていないが、聞くところによると、近辺を飛び回っているという。まずは、ご報告まで。

             

 この度は、野鳥のさえずりについて見てみたいと思う。さえずりは、概してオスが縄張りを主張し、メスの気を引く行為として見られ、春から夏の繁殖期によく聞かれる。さえずりはなるべく遠くまで聞こえるように樹木のてっぺんなど高いところにとまって行われることが多く、力を振り絞ってさえずっているのが見られる。そのさえずる鳴き声は、それぞれ特徴をもってあるが、耳障りのよい美しくも印象的なものが多い。

             

 ここでそのさえずりを聞いてもらうことは出来ないが、私が撮り得たさえずっている姿の写真を紹介したいと思う。そのさえずる姿は、そのさえずる声によって確認しやすく、撮影の障害になるものが少ないところでさえずることが多いので、思ったよりも撮影しやすく、写真に出来るところがある。という次第で、ここでは、よく知られるさえずる声の主をあげてみたいと思う。ウグイス、ホオジロ、ヒバリ、オオルリ、ミソサザイ、オオヨシキリ、キセキレイ、シジュウカラ。ほかにもホトトギス、コマドリ、イソヒヨドリなどがよく聞かれる。

 このさえずりは、嘴を大きく開き、毛を逆立て震わせながらなされることが多く、まさにその姿は「懸命」という言葉がぴったりな感がある。聞くものには麗しく、中には鋭くインパクトをもって響いて来るが、さえずるその姿には種を繋ぎ、子孫を残すまこと真剣な鳥たちの一端が見え、懸命にならざるを得ない生の厳粛なところがうかがえる。 写真は上段左からホオジロ、ウグイス、オオルリ、オオヨシキリ、下段左からミソサザイ、ヒバリ、キセキレイ、シジュウカラのさえずる姿。  蟻一つ花の台をさまよへる


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年05月23日 | 植物

<2336> 大和の花 (515) クサノオウ (草黄・草王)                                      ケシ科 クサノオウ属

               

 ここからは、ケシ科の草本を見てみよう。まずはクサノオウ(草黄・草王)から。日当たりのよいところに生える2年草で、道端や林縁の草地に群がって黄色い花を咲かせているのによく出会う。高さは30センチから80センチほど。茎は中空で、全体に縮れた毛が多いので、白っぽく見えることもある。葉は1、2回羽状に裂け、互生する。

 花期は4月から7月ごろで、枝先に直径2センチ前後の鮮やかな黄色の4弁花を開く。花は多数の雄しべと1個の雌しべで、太い雌しべが印象的。同じ時期に黄色の花を咲かせるキンポウゲ科のウマノアシガタ(馬の脚形)に似て、遠目には判別し難いところがあるが、近づいて見れば、容易にわかる。実は長さが3、4センチの細長い円柱形の痩果で、この実も特徴的である。

  クサノオウの名は、茎や葉を傷つけると黄色い乳液が出るので「草黄」。また、この乳液は有毒であるが、鎮痛の効能や皮膚病にもよいところから「瘡(くさ)の王」、或いは、薬草の王様の意により「草王」。という次第で、クサノオウと名づけられたという。いずれの説も納得される。クサノオウはこれらすべての理由を含んだ名かも知れない。

  漢方の生薬名は漢名の白屈菜(はっくつさい)に同じで、湿疹やいぼ、たむしに効くという。地方名にもタムシグサ、イボクサ、チドメグサなどの名が見られ、みな皮膚病との関係にある薬用植物としての名であるのがわかる。写真はクサノオウ。   魂の声魂の杜鵑

<2337> 大和の花 (516) ヤマブキソウ (山吹草)                                       ケシ科 クサノオウ属

                    

 林内に生える多年草で、根茎を有し群生する。草丈は30センチから40センチ。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は有柄の奇数羽状複葉で、広卵形乃至楕円形の小葉が5個から7個つき、不揃いの鋸歯が見られる。茎葉は茎の上部に数個つき、小葉は3個が普通。茎や葉を傷つけると、クサノオウと同様、黄色の乳液が出る。

 花期は4月から5月ごろで、上部の葉腋に4センチから6センチの花柄を出し、直径4センチから5センチの鮮黄色の4弁花をほぼ上向きに咲かせる。雄しべは多数、雌しべは1個。この花がヤマブキの花に似るのでこの名がある。実は蒴果で、長さが3センチほどの細い円柱形。クサノオウに比べ、種子はよく実る。

 本州、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では金剛山の山頂近くの落葉広葉樹林の林床に自生し、群落をつくっているが、分布が限られ、金剛山でしか見ていない。個体数が極めて少なく、奈良県では絶滅寸前種にあげられている。 写真はヤマブキソウ(いずれも金剛山)。 次々に起きる出来事世の中のトラブル事件絶えざるは何故

<2338> 大和の花 (517) ヒナゲシ (雛罌粟)と ナガミヒナゲシ (長実雛罌粟)   ケシ科 ケシ属

                            

 ケシ(罌粟・芥子)の未熟果に含まれる乳液を乾燥させたものがアヘン(阿片)で、これを生成しモルヒネ等を作る。また、化学的処理を施し、麻薬のヘロインを作る。モルヒネは鎮痛の効能が著しく、医療に用いられ、評価されているが、使用量を誤ると人体に大きな損傷を及ぼすので使用が厳しく制限されている。

  ヘロインは人体への影響が甚大で、常習性が強く、使用者を廃人に導く恐ろしさがあるので、規制によってケシの栽培を厳しく制限し、許可なく所有したり、使用することを禁じている国が多い、このような事情により、日本も厳しく取り締まっている。

 こうしたケシの実情によって、ケシと聞けば身構える心持ちになるが、ここでとりあげる花の観賞を目的のヒナゲシとナガミヒナゲシはアヘンが採れないので栽培の制限がなく、自由に植えられ、植えられたものが逸出して野生化しているものも見られる。

 ヒナゲシもナガミヒナゲシもヨーロッパ原産の1年草の帰化植物で、高さは60センチ前後になる。花期はともに4月から5月ごろで、しなやかで長い花柄の先に、ヒナゲシは真紅の4弁花をつけ、ヨーロッパでは道端の雑草として知られる。園芸種では白色やピンクの花も見られ、その彩りは豊富で、八重咲も見られる。

  ヒナゲシはケシよりも全体に小さく、かわいらしいのでこの名がある。なお、ヒナゲシは7世紀ごろ中国にもたらされ、虞美人の伝説に因み、虞美人草の名でも知られる。一方、ナガミヒナゲシは橙紅色の花が特徴的で、ヒナゲシに比べ蒴果の実が細長いことによりこの名があるという。ナガミヒナゲシはヒナゲシよりも野生化が進み、路傍や川土手などでよく見られる。 写真はヒナゲシ(左・栽培による)とナガミヒナゲシ(右・日当たりのよい大和川の川西町付近の川岸)。

   世の中に事件と称するトラブルの絶へぬは欲の果てなき証

 

<2339> 大和の花 (518) タケニグサ (竹似草)                                            ケシ科 タケニグサ属

                       

 日当たりのよい荒れ地や林縁、道端などに生え、伐採跡地に逸早く生え出し、ときとして群生することもある高さが1メートルから2メートルになる大形の多年草で、直立する茎が中空で竹に似るのでこの名がある。茎や葉は全体的に白っぽく、切ると有毒な黄色の乳液が出る有毒植物である。この乳液は古来より害虫の駆除に用いられて来た。今や日本では厄介者の雑草であるが、欧米では園芸植物として愛好されているという。

 長さが30センチにもなる大きな葉は菊の葉のように裂け、裏面には毛が密生する。花期は7月から8月ごろで、茎の先に大きな円錐花序を立て、白い花を多数つける。花に花弁はなく、開花と同時に萼片も落ち、多数の雄しべが目立つ。チャンパギク(占城菊)の別名があるように、インドシナのチャンパ(占城)から渡来したとされていたが、その後、日本を含む東南アジアに広く自生していることがわかったという。日本では、本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも普通に見られる。

 写真は群生して花を咲かせるタケニグサ(左)、大形の円錐花序と柄を有する大きな葉のタケニグサ(中)、花序のアップ(右・花は花序の下から咲き始め、下側の茶色くなっているのは既に実になっているもの。花序の真ん中辺りは開花して細い雄しべが多数見える。上部は白い萼に包まれた蕾。萼は開花と同時に剥落する)。  雨傘が行き交ひ梅が実りゐる思想心情思はしめつつ

 


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2018年05月22日 | 植物

<2335> 余聞、余話 「柳絮のバッコヤナギ」

             旅立ちだ

             旅立ちだ

             旅立ちの時だ

             日の光の祝福と

             やさしい風の励ましに

             旅は始まる

             バッコヤナギの

             柳絮の五月

 

             青空に向かうもの

             木陰に向かうもの

             明日への夢は

             開かれている

             あこがれと

             喜びの姿

             バッコヤナギの

             柳絮の五月

                    

   五月のこの時期、大和(奈良県)の山々ではバッコヤナギが種子をつけた綿毛である柳絮(りゅうじょ)を飛ばしているのが見られる。晴れ渡った青空の下、薫風が枝木を渡って行くたびに柳絮が飛散し、日の光に白くきらきらと輝きながら舞う。柳絮には、まさに、門出、旅立ちの時である。直ぐに木陰に隠れてしまうものがあるかと思えば、空高くに飛んで行くものも見られる。

                                      

   バッコヤナギ(跋扈柳)はヤナギ科の落葉高木で、大きいもので高さは15メートルほど。雌雄異株で、ネコヤナギと同じタイプのヤナギで、春先、葉の展開前に尾状花序の花を咲かせるが、山地の乾燥気味の土地に生え、ヤマネコヤナギ(山猫柳)の別名でも知られる。山にいち早く春を告げる樹木の一つであるが、種子をつけた白い綿毛の柳絮を飛ばす五月のバッコヤナギもまたの眺めである。 写真は柳絮を飛ばすバッコヤナギ(大台ヶ原ドライブウエイ)。

 


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2018年05月16日 | 植物

<2329> 大和の花(509) ジシバリ (地縛)                                     キク科 ニガナ属

               

 山野の日当たりのよい草地や裸地、岩場などに生える多年草で、細長い茎が地面を這い、節から根を下ろして広がる。葉は長い柄を有し、長さが1センチから3センチほどの卵円形で、薄く軟らかい。茎や葉を傷つけると、乳液が出て来る。

 花期は4月から6月ごろで、高さが8センチから15センチの細い花茎を立て、直径2センチから2.5センチの黄色い頭状花を開く。花はタンポポに似るが、花茎が細く、タンポポほどがっしりしていない。実は痩果で、白い冠毛を有し、風に飛んで種子を遠くに運ぶ。日本全土に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。

 大和(奈良県)では平地から標高1500メートル以上の山岳でも見られ、岩場にもよく生えるので、イワニガナ(岩苦菜)の別名でも呼ばれる。ジシバリ(地縛)の名は、茎が地面を這い広がることによる。なお、全草を健胃薬として用いるところもある。 写真はジシバリ(岩上の花は大台ケ原ドライブウエイ、右端の写真は冠毛)。   一発の原爆三十万の死者アメリカに核持つ資格なし

<2330> 大和の花 (510) オオジシバリ (大地縛)                                 キク科 ニガナ属

              

 少し湿り気のある草地や道端、或いは休耕田などに生える多年草で、ジシバリによく似るが、葉も花も一回り大きいのでこの名がある。茎は地を這って長く伸び広がり群生することが多い。葉は長さ6センチから20センチのへら状楕円形、もしくは倒披針形で、ときに下部の葉は羽状に切れ込むものも見られる。

 花期はジシバリより短く、4月から5月ごろ。高さが約20センチの細くてしなやかな花茎を立て、先端に直径3センチ弱の黄色い頭状花を2個から3個つける。日本全土に分布し、朝鮮半島から中国、台湾にも見られるという。ジシバリと同じく、茎や葉を傷つけると白い乳液が出る。ジシバリとは花のつき方と葉の形状、大きさによって判別出来る。実は痩果。

  なお、オオジシバリは剪刀股(せんとうこ)の生薬名で知られる薬用植物、全草を日干し、煎じて鼻詰まりの副鼻腔炎や健胃に用いられる。 写真は舌状花ばかりからなるオオジシバリの花。   命とは 緑 溢るる五月かな

<2331> 大和の花 (511) ニガナ (苦菜)                                     キク科 ニガナ属

           

 日当たりのよい草地などに生える多年草で、細い茎は高さが20センチから50センチほど。葉は根生葉と茎葉からなり、根生葉は長さが3センチから10センチの倒卵状長楕円形で、縁は切れ込み、長い柄を有する。茎葉は根生葉よりやや小さく、基部が耳形になり茎を抱くように互生する。

  花期は5月から7月ごろで、タンポポが花を終え、冠毛が目立つころ、黄色い頭状花を枝先に咲かせる。花は直径約1.5センチと小さく、舌状花の花弁は5、6個と少なく、かわいらしいが、8、9個に及ぶものも見られる。実は痩果で、紡錘形。

 日本全土に分布し、東アジアの温帯から亜熱帯地域に広く見られるという。大和(奈良県)では、タンポポの花と入れかわるように咲き始め、広い草原を有する奈良市の橿原市の藤原宮跡、馬見丘陵公園などでは一面に群生するのが見られる。

 ニガナ(苦菜)の名は、茎や葉に乳液があり、食べると苦みがあることによる。なお、ニガナ(苦菜)は「菜」の字が用いられているように食用とされる。ウサギの好物としても知られ、オオジシバリと同じく、全草を日干しにし、煎じて健胃、副鼻腔炎に用いられる薬用植物でもある。

 写真は群生して花を咲かせるニガナ(左)、花弁が少ない典型的なタイプ(中・傍らにタンポポの冠毛が見える)、花弁の多いハナニガナ(花苦菜)に近いタイプ(右)。  草原は時のステージ移りゆく タンポポの花過ぎいまニガナ

<2332> 大和の花 (512) シロバナニガナ(白花苦菜)と シロニガナ(白苦菜) キク科 ニガナ属

                                          

 シロバナニガナは、ニガナの亜種である新潟県の海辺に自生する日本の固有種として知られるイソニガナ(磯苦菜)の変種とされる多年草で、日当たりのよい草叢や草地に生える。茎は細く、高さは30センチから70センチほどになり、よく枝を分ける。葉は根生葉と茎葉からなり、茎葉は長さ3センチから10センチほどの広披針形で、茎を抱く。

  花期は5月から7月ごろで、枝先に直径2センチほどの白い頭状花をつけるのでこの名がある。花は舌状花ばかりで、8個から10個つき、ニガナの5個から7個より多い。ほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)では大峰山脈の北の主峰の1つ山上ヶ岳(1719メートル)の山頂付近でよく見かける。

  なお、シロバナニガナの黄色花品種としてハナニガナ(花苦菜)があり、舌状花が多く、ニガナと区別されている。舌状花の数がニガナの5個から7個に一致する白花種についてはシロニガナ(白苦菜)と呼ばれるが、舌状花の数については枝によって異なる場合があるので、判別に迷いが生じる。 写真は左がシロバナニガナ、右がシロニガナ。   本棚の古書にも言へる夏は来ぬ

<2333> 大和の花 (513) ハナニガナ (花苦菜)                                       キク科 ニガナ属

           

 ハナニガナはシロバナニガナの黄花品種とされ、小花の舌状花はニガナの舌状花よりも多く、8個以上に及ぶ。つまり、ハナニガナはシロバナニガナの花の色違いということになる。分布もシロバナニガナに準ずるが、大和(奈良県)においてはハナニガナが圧倒的に多く、山道や林縁、平地でも普通に見られる。中にはニガナとハナニガナの中間タイプがあり、判別し難い個体にも出会う。別名オオバナニガナ(大花苦菜)。 写真はハナニガナ(左は平地、中は山地、右は花のアップ)。   友人の電話 窓には皐月空

<2334> 大和の花 (514) ドロニガナ (瀞苦菜)                                      キク科 ニガナ属

               

 大台ヶ原を源流とする北山川の川岸の日当たりのよい明るい岩場に生えるとされて来た多年草で、渓谷美で名高い熊野の名所瀞八丁に因んでこの名がある紀伊半島南部特産の固有種として知られるニガナの仲間であるが、最近、奈良県内では南部のそこここで発見の報告がなされている。草丈は大きいもので30センチほど。よく分枝し、葉は柄のある披針形で、茎の下部に集まり、互生する。

  花期は4月から6月ごろで、枝先に集散花序を出し、直径2センチ前後の黄色い頭状花をつける。小花の舌状花は10個前後で、ハナニガナに似るが、茎や葉に違いがある。「和歌山、奈良、三重、福井各県のごく一部にのみ知られている」と言われ、環境省の絶滅危惧Ⅱ類に登録されているが、調査が行き届き、発見箇所が増えたことにより、奈良県では絶滅危惧種から希少種にランク下げされた。

  私も川上村の吉野川の岩場でドロニガナ1株を見かけた。自生か人為によってもたらされたものか定かでないが、周辺をみると、写真の1株だけだった。葉や花の形状に照らして間違いないと思われる。同じ大台ヶ原を水源とするが、吉野川水系に見られるのは如何なる理由によるものか。1株だけというのが実に意味深長ではある。  写真はドロニガナ。左の2枚は北山川の瀞峡付近。右の1枚は川上村の吉野川の岩場での撮影。  

        小さいものも 大きいものも 中間のものも

        みんな 喜びがあれば 悲しみもある

        だが しかし みんな 同じく

        如何にあっても 未来に向かって 歩いている

        これだけは 確かなことだ

        そして また 言える

        歩くということが 僕らには 貴いということ

        過去に向かって歩いているものは まずいない

         みんな 未来に向かって 歩いている