<2157> 大和の花 (377) ニシキギ (錦木) ニシキギ科 ニシキギ属
丘陵や山地の落葉樹林内やその林縁に見られる落葉低木で、幹の下部でよく枝を分け、1メートルから3メートルの高さになる。緑色の若い枝には4稜があり、稜には薄い板状の翼が見られる特徴がある。葉は長楕円形乃至倒卵形で、先は鋭く尖り、基部はほぼくさび形になる。縁には鋭く細かな鋸歯があり、両面とも無毛で、秋には紅葉する。この紅葉が美しいのでこの名が生まれた。葉柄は極めて短く、対生する。
花期は5月から6月ごろで、本年枝の芽鱗痕の腋から2、3センチの柄を有する集散花序を出し、小さな花を数個つける。花は直径7ミリ前後、緑白色の4弁花で、雄しべは4個、雌しべは1個。萼は4浅裂し、果期にも残る。実は蒴果で、2個に分果するものが多く、10月から11月ごろ熟して裂開し、橙赤色の仮種皮に包まれた楕円形に近い種子をぶら下げる。種子の基部には裂開してめくれ黒ずんだ外果皮が帽子のようにつく。
北海道から本州、四国、九州まで全国的に分布し、国外では朝鮮半島から中国東北部、サハリン、ウスリーに見られると言われ、大和(奈良県)では山地の林縁でときおり見かけるが、公園などでは植栽されているのが見られる。また、薬用にも供せられ、和漢で用いられて来たようで、江戸時代の『大和本草』などによると、翼のある枝を煎じて、心痛に用いたとされる。
また、この板状の翼を鬼箭(きせん)と呼んで、これを黒焼きにして飯粒で練ったものを患部に貼ると刺抜きの効能があるとされて来た。一方、漢方では衛矛(えいぼう)の生薬名で知られ、翼の部分を特に鬼箭羽(きせんう)と呼んで、これを煎じて月経不順に用いて来たという。
なお、枝に板状の翼が出来ないものをコマユミ(小真弓)と言い、この中で葉の大きいものをオオマユミ(大真弓)と言う。コマユミの花には葛城山で出会った。 写真は左から花を咲かせたニシキギの枝(翼が見える)、珍しい5弁の花(雄しべも5個見える)、実のアップ(裂開した外果皮が黒ずんで残っている)、紅葉と橙赤色の実。右端の写真はコマユミの花。
日溜まりに目を細くして冬の猫
<2158> 大和の花 (378)マユミ (檀・真弓) ニシキギ科 ニシキギ属
丘陵から山地の疎林や林縁などに生える落葉小高木で、高さは普通5メートル前後になり、大きいものでは10メートルに及ぶものもある。幹は灰褐色で、老木になると縦に筋が入る。葉は長さが5センチから15センチほどの長楕円形で、縁には細かい鋸歯がある。両面とも無毛で、短い柄を有し、対生する。
花期は5月から6月ころで、本年枝の葉の下の芽鱗痕の腋から短い柄を有する集散花序を出し、小さな花をまばらにつける。花は直径1センチほどの緑白色の4弁花で、あまり目立たない。実はニシキギ(錦木)と同じ蒴果で、直径1センチほど。秋が深まるころ淡紅色に熟し、熟すと4裂して、艶のある橙赤色の仮種皮に包まれた種子を見せる。
北海道から、本州、四国、九州とほぼ全国的に分布し、国外では朝鮮半島の南部とサハリンに見られるという。大和(奈良県)では低山から標高1500メートル付近まで見かける。東吉野村の高見山(1248メートル)には高さが10メートルに及ぶ古木も見られる。象牙色の材は緻密で堅く、木工に適し、将棋の駒やこけし、玩具に用いられる。また、枝のしなりがよく、昔から上質の弓材にされたことは有名で、この名がある。『万葉集』の歌にもこの弓材に関して詠まれている。所謂、万葉植物で、集中には次のような1首も見える。
南淵の細川山に立つ檀弓束(ゆづか)纏くまで人に知らゆな 巻7-1330 詠人未詳
歌の意は、「南淵(みなぶち)の細川山のマユミの木よ、大きくなって弓が作れるほどになるまで人に知られずにいて欲しい」というもので、当時から貴重な弓材として知られ、大切にされていたことがこの歌からはうかがえる。なお、若葉と実は食用にされる。写真はマユミの花と実。花は雄しべが短いタイプ。実は花より彩りがありよく目につく。 自然とは大いなり且つ飛蝗の死
<2159> 大和の花 (379) サワダツ (沢立) ニシキギ科 ニシキギ属
高さが1メートルから2メートルになる落葉低木で、沢筋の少し湿った林内や林縁に生えるにのでこの名がある。幹や枝など木全体が緑色で、アオジクマユミ(青軸真弓)の別名でも呼ばれる。枝は丸く、4個の細い筋が入る。葉は長さが2センチから8センチの卵形で、先は尾状に長く尖り、基部は円形、縁には鋭く細かい鋸歯がある。両面とも無毛で、短い柄を有し、互生する。
花期は6月から7月ごろで、葉腋から花序を出し、直径8ミリ前後の小さな花を1個から3個つける。花は暗紫色の5弁花でかわいらしい。雄しべは5個、雌しべは1個で、葉に隠れるように下向きに咲く花が多く、写真に撮り辛い花である。実は蒴果で、秋になると紅色に熟し、裂開して仮種皮に包まれた種子を見せる。
本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では山地の川筋で見かけるが、個体数が非常に少なく、レッドリストの希少種にあげられている。 写真は崖上に生えるサワダツ(左)と葉の下に隠れるように咲く花(中)と花のアップ(右)。
ハナムグリ汝の形見の柚子稔る
<2160> 大和の花 (380) ツリバナ (吊花) ニシキギ科 ニシキギ属
丘陵地から山地の林内や林縁に生える落葉低木で、高さは1メートルから4メートルほどになる。幹はなめらかな灰色で、本年枝は丸く緑色。葉は長さ3センチから10センチほどの卵形乃至は長楕円形で、先は細く尖り、基部はややくさび形。両面とも無毛で、短い柄を有し、対生する。
花期は5月から6月ごろで、葉腋から集散花序を垂れ下げ、緑白色または淡紫色の花を普通数個、多いものでは30個ほどもつける。花は直径8ミリ前後の5弁花で、緑黄色の花盤が発達する。雄しべと萼片は5個で、雌しべは1個。蒴果の実は直径1センチほどの球形で、秋になると紅色に熟し、熟すと5つに裂開し、橙赤色の仮種皮に包まれた種子5個が現われる。
北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、南千島に見られ、大和(奈良県)では山地の谷筋で出会うことが多い。標高の高いところには仲間のオオツリバナ(大吊花)やヒロハツリバナが自生すると言われるが、まだ、出会っていない。 写真はツリバナ(左は淡紫色、右は緑白色タイプ)と裂開して種子の見える蒴果(花は金剛山と東吉野村山中、実は下北山村山中)。
ああ紅葉食へば美しくなれさうな
<2161> 大和の花 (381) ツルマサキ (蔓正木・蔓柾) ニシキギ科 ニシキギ属
山野に自生する常緑つる性の木本植物で、蔓から気根を無数に出して樹上に這い上がるのが見られる。樹皮は暗褐色で、本年枝は緑色で丸い。葉は長さが2センチから6センチほどの楕円形もしくは長楕円形で、先は鋭く尖らず、基部はややくさび形で、縁には浅い鋸歯がある。両面無毛で、極めて短い葉柄を有し、対生するものが多いが、ときに互生する。
花期は6月から7月ごろで、葉腋から集散花序を出し、黄緑色や緑白色の花を数個から多いもので10数個つける。花は直径5ミリほどの4弁花で、雄しべ4個が発達する花盤の縁につき、花盤中央の雌しべの柱頭を囲む形になり、目につく。蒴果の実は直径が数ミリの球形で、ぶら下がり、秋になると熟して4裂し、橙赤色の仮種皮に包まれた種子が現われる。
北海道、本州、四国、九州、沖縄とほぼ全国的に分布し、国外では朝鮮半島と中国に見られるという。大和(奈良県)では全域的に見られ、標高1000メートル以上の深山でも見かける。 写真はツルマサキ(花は天川村の観音平、実は御所市の高天彦神社)。
因みに、ツルマサキは古来より知られ、『古事記』の神話に登場する眞拆(まさき)に比定されている。即ち、天照大神が須佐之男命の狼藉によって天石屋戸(あまのいはやと)に籠って姿を隠したとき、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)が裸踊りをして誘い出す下りに、「天の香山の天の日影を手次(たすき)に繋(か)けて、天の眞拆を鬘(かづら)として、天の香山の小竹葉(ささば)を手草(たぐさ)に結びて、云々」とある。
つまり、天宇受賣命はヒカゲカズラの日影をたすきにし、ツルマサキの眞拆を髪に挿し、笹の葉を手にして裸踊りをした。すると見守っていた神々がこの踊りを見て笑い出したので、天照大神は何ごとかと外をうかがい、姿を見せたという。ツルマサキは地味なつる性植物であるが、『古事記』の記事には神聖な植物として見える。なお、『古事記』の眞拆についてはマサキカズラ(真折葛)の別名を有するキョウチクトウ科のつる性木本植物のテイカカズラ(定家葛)とする見解もある。 紅葉の麓に至り尽くしけり
<2162> 大和の花 (382) ツルウメモドキ (蔓梅擬) と オオツルウメモドキ (大蔓梅擬) ニシキギ科 ツルウメモドキ属
山野の林縁などに生える落葉つる性の木本植物で、他の樹木に絡んで這い上がる。大きいものでは8メートルほどに伸びて繁茂する個体も見られる。蔓は灰色に近く、本年枝は緑黄色で、次第に褐色へと変化する。葉は長さ4センチから10センチの楕円形もしくは倒卵形で、先はあまり尖らず、縁には浅い鋸歯があり、1センチから2センチの葉柄があって互生する。
雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ。葉腋の集散花序に雄株では数個、雌株では1個から3個の花をつける。花は雌雄ともに直径7、8ミリで、黄緑色の花弁5個からなり、雄花では雄しべが発達し、雌花では雌しべの柱頭が抜き出て大きい。蒴果の実は直径が8ミリほどで、10月から12月ごろ淡黄色に熟し、3つに割けて橙赤色の仮種皮に包まれた種子を1個現わす。仲間のオオツルウメモドキ(大蔓梅擬)は葉が円形に近く、ツルウメモドキより一回り大きい。
ツルウメモドキは北海道、本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島から中国・南千島にも見られ、オオツルウメモドキは本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島の南部にも見られるという。大和(奈良県)ではともに見られ、ツルウメモドキが圧倒的に多く、生駒山系ではヤマザクラに高く這い上がり、枝木に絡まる個体に出会ったこともある。花は地味であるが、蒴果の実はよく目立ち、蔓の枝とともに花材に用いられる。
写真は左からツルウメモドキの雄花、雌花、繁茂していっぱいに実をつけた個体、実のアップ(五條市大塔町ほか)。右端の写真はオオツルウメモドキの雄花(天理市の天理ダム湖付近。なお、写真のオオツルウメモドキについては、葉が広楕円形でツルウメモドキよりも大きいところから判断した)。 しぐるるや青垣山の空の色
<2163> 大和の花 (383) サイゴククロヅル (西国黒蔓) ニシキギ科 クロヅル属
山地の明るい林縁で、他の樹木に絡んだりして生える落葉つる性の木本植物で、長さは数メートル。蔓は灰色で、本年枝は黄褐色から赤褐色になって目につき、ベニヅル(紅蔓)の別称でも知られる。葉は長さが5センチから15センチほどの卵形もしくは楕円形で、先が急に細くなり尖る。
花期は7月から8月ごろで、枝先に大きい円錐花序を出し、直径数ミリの小さな緑白色の花を多数つける。雌雄同株で、同じ株に雄花と両性花がつく。両性花は5数性で、花弁と雄しべは5個、雄しべは淡緑色の花盤の縁につく特徴がある。実は翼果で、長さが1センチ前後、3個の翼があり、普通淡緑色であるが、ときに紅色を帯びるものも見かける。
なお、サイゴククロヅルは、東日本に見られるクロヅル(黒蔓)に対し、本州の紀伊山地と中国山地、四国、九州に分布する。葉の形状や実の大きさが異なるため、クロヅルの変種ということで、サイゴククロヅル(西国黒蔓)と呼ばれるに至った。写真はサイゴククロヅル。左から青空の下で映える円錐花序の花群、両性花を多数つける花序の一部、紅色タイプの翼果群(いずれも大台ヶ原山)。
遠くより犬の鳴き声冬が来る