大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年11月24日 | 植物

<2157> 大和の花 (377) ニシキギ (錦木)                                         ニシキギ科 ニシキギ属

               

 丘陵や山地の落葉樹林内やその林縁に見られる落葉低木で、幹の下部でよく枝を分け、1メートルから3メートルの高さになる。緑色の若い枝には4稜があり、稜には薄い板状の翼が見られる特徴がある。葉は長楕円形乃至倒卵形で、先は鋭く尖り、基部はほぼくさび形になる。縁には鋭く細かな鋸歯があり、両面とも無毛で、秋には紅葉する。この紅葉が美しいのでこの名が生まれた。葉柄は極めて短く、対生する。

 花期は5月から6月ごろで、本年枝の芽鱗痕の腋から2、3センチの柄を有する集散花序を出し、小さな花を数個つける。花は直径7ミリ前後、緑白色の4弁花で、雄しべは4個、雌しべは1個。萼は4浅裂し、果期にも残る。実は蒴果で、2個に分果するものが多く、10月から11月ごろ熟して裂開し、橙赤色の仮種皮に包まれた楕円形に近い種子をぶら下げる。種子の基部には裂開してめくれ黒ずんだ外果皮が帽子のようにつく。

 北海道から本州、四国、九州まで全国的に分布し、国外では朝鮮半島から中国東北部、サハリン、ウスリーに見られると言われ、大和(奈良県)では山地の林縁でときおり見かけるが、公園などでは植栽されているのが見られる。また、薬用にも供せられ、和漢で用いられて来たようで、江戸時代の『大和本草』などによると、翼のある枝を煎じて、心痛に用いたとされる。

  また、この板状の翼を鬼箭(きせん)と呼んで、これを黒焼きにして飯粒で練ったものを患部に貼ると刺抜きの効能があるとされて来た。一方、漢方では衛矛(えいぼう)の生薬名で知られ、翼の部分を特に鬼箭羽(きせんう)と呼んで、これを煎じて月経不順に用いて来たという。

 なお、枝に板状の翼が出来ないものをコマユミ(小真弓)と言い、この中で葉の大きいものをオオマユミ(大真弓)と言う。コマユミの花には葛城山で出会った。  写真は左から花を咲かせたニシキギの枝(翼が見える)、珍しい5弁の花(雄しべも5個見える)、実のアップ(裂開した外果皮が黒ずんで残っている)、紅葉と橙赤色の実。右端の写真はコマユミの花。

  日溜まりに目を細くして冬の猫

 

<2158> 大和の花 (378)マユミ (檀・真弓)                                         ニシキギ科 ニシキギ属

                

 丘陵から山地の疎林や林縁などに生える落葉小高木で、高さは普通5メートル前後になり、大きいものでは10メートルに及ぶものもある。幹は灰褐色で、老木になると縦に筋が入る。葉は長さが5センチから15センチほどの長楕円形で、縁には細かい鋸歯がある。両面とも無毛で、短い柄を有し、対生する。

 花期は5月から6月ころで、本年枝の葉の下の芽鱗痕の腋から短い柄を有する集散花序を出し、小さな花をまばらにつける。花は直径1センチほどの緑白色の4弁花で、あまり目立たない。実はニシキギ(錦木)と同じ蒴果で、直径1センチほど。秋が深まるころ淡紅色に熟し、熟すと4裂して、艶のある橙赤色の仮種皮に包まれた種子を見せる。

 北海道から、本州、四国、九州とほぼ全国的に分布し、国外では朝鮮半島の南部とサハリンに見られるという。大和(奈良県)では低山から標高1500メートル付近まで見かける。東吉野村の高見山(1248メートル)には高さが10メートルに及ぶ古木も見られる。象牙色の材は緻密で堅く、木工に適し、将棋の駒やこけし、玩具に用いられる。また、枝のしなりがよく、昔から上質の弓材にされたことは有名で、この名がある。『万葉集』の歌にもこの弓材に関して詠まれている。所謂、万葉植物で、集中には次のような1首も見える。

    南淵の細川山に立つ檀弓束(ゆづか)纏くまで人に知らゆな                                      巻7-1330 詠人未詳

 歌の意は、「南淵(みなぶち)の細川山のマユミの木よ、大きくなって弓が作れるほどになるまで人に知られずにいて欲しい」というもので、当時から貴重な弓材として知られ、大切にされていたことがこの歌からはうかがえる。なお、若葉と実は食用にされる。写真はマユミの花と実。花は雄しべが短いタイプ。実は花より彩りがありよく目につく。    自然とは大いなり且つ飛蝗の死

<2159> 大和の花 (379) サワダツ (沢立)                                           ニシキギ科 ニシキギ属

              

 高さが1メートルから2メートルになる落葉低木で、沢筋の少し湿った林内や林縁に生えるにのでこの名がある。幹や枝など木全体が緑色で、アオジクマユミ(青軸真弓)の別名でも呼ばれる。枝は丸く、4個の細い筋が入る。葉は長さが2センチから8センチの卵形で、先は尾状に長く尖り、基部は円形、縁には鋭く細かい鋸歯がある。両面とも無毛で、短い柄を有し、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、葉腋から花序を出し、直径8ミリ前後の小さな花を1個から3個つける。花は暗紫色の5弁花でかわいらしい。雄しべは5個、雌しべは1個で、葉に隠れるように下向きに咲く花が多く、写真に撮り辛い花である。実は蒴果で、秋になると紅色に熟し、裂開して仮種皮に包まれた種子を見せる。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では山地の川筋で見かけるが、個体数が非常に少なく、レッドリストの希少種にあげられている。 写真は崖上に生えるサワダツ(左)と葉の下に隠れるように咲く花(中)と花のアップ(右)。

  ハナムグリ汝の形見の柚子稔る

 

<2160> 大和の花 (380) ツリバナ (吊花)                                         ニシキギ科 ニシキギ属

           

 丘陵地から山地の林内や林縁に生える落葉低木で、高さは1メートルから4メートルほどになる。幹はなめらかな灰色で、本年枝は丸く緑色。葉は長さ3センチから10センチほどの卵形乃至は長楕円形で、先は細く尖り、基部はややくさび形。両面とも無毛で、短い柄を有し、対生する。

 花期は5月から6月ごろで、葉腋から集散花序を垂れ下げ、緑白色または淡紫色の花を普通数個、多いものでは30個ほどもつける。花は直径8ミリ前後の5弁花で、緑黄色の花盤が発達する。雄しべと萼片は5個で、雌しべは1個。蒴果の実は直径1センチほどの球形で、秋になると紅色に熟し、熟すと5つに裂開し、橙赤色の仮種皮に包まれた種子5個が現われる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、南千島に見られ、大和(奈良県)では山地の谷筋で出会うことが多い。標高の高いところには仲間のオオツリバナ(大吊花)やヒロハツリバナが自生すると言われるが、まだ、出会っていない。 写真はツリバナ(左は淡紫色、右は緑白色タイプ)と裂開して種子の見える蒴果(花は金剛山と東吉野村山中、実は下北山村山中)。

 ああ紅葉食へば美しくなれさうな

 

<2161> 大和の花 (381) ツルマサキ (蔓正木・蔓柾)                            ニシキギ科 ニシキギ属

         

 山野に自生する常緑つる性の木本植物で、蔓から気根を無数に出して樹上に這い上がるのが見られる。樹皮は暗褐色で、本年枝は緑色で丸い。葉は長さが2センチから6センチほどの楕円形もしくは長楕円形で、先は鋭く尖らず、基部はややくさび形で、縁には浅い鋸歯がある。両面無毛で、極めて短い葉柄を有し、対生するものが多いが、ときに互生する。

 花期は6月から7月ごろで、葉腋から集散花序を出し、黄緑色や緑白色の花を数個から多いもので10数個つける。花は直径5ミリほどの4弁花で、雄しべ4個が発達する花盤の縁につき、花盤中央の雌しべの柱頭を囲む形になり、目につく。蒴果の実は直径が数ミリの球形で、ぶら下がり、秋になると熟して4裂し、橙赤色の仮種皮に包まれた種子が現われる。

 北海道、本州、四国、九州、沖縄とほぼ全国的に分布し、国外では朝鮮半島と中国に見られるという。大和(奈良県)では全域的に見られ、標高1000メートル以上の深山でも見かける。 写真はツルマサキ(花は天川村の観音平、実は御所市の高天彦神社)。

  因みに、ツルマサキは古来より知られ、『古事記』の神話に登場する眞拆(まさき)に比定されている。即ち、天照大神が須佐之男命の狼藉によって天石屋戸(あまのいはやと)に籠って姿を隠したとき、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)が裸踊りをして誘い出す下りに、「天の香山の天の日影を手次(たすき)に繋(か)けて、天の眞拆を鬘(かづら)として、天の香山の小竹葉(ささば)を手草(たぐさ)に結びて、云々」とある。  

  つまり、天宇受賣命はヒカゲカズラの日影をたすきにし、ツルマサキの眞拆を髪に挿し、笹の葉を手にして裸踊りをした。すると見守っていた神々がこの踊りを見て笑い出したので、天照大神は何ごとかと外をうかがい、姿を見せたという。ツルマサキは地味なつる性植物であるが、『古事記』の記事には神聖な植物として見える。なお、『古事記』の眞拆についてはマサキカズラ(真折葛)の別名を有するキョウチクトウ科のつる性木本植物のテイカカズラ(定家葛)とする見解もある。 紅葉の麓に至り尽くしけり

<2162> 大和の花 (382) ツルウメモドキ (蔓梅擬) と オオツルウメモドキ (大蔓梅擬)      ニシキギ科 ツルウメモドキ属

              

 山野の林縁などに生える落葉つる性の木本植物で、他の樹木に絡んで這い上がる。大きいものでは8メートルほどに伸びて繁茂する個体も見られる。蔓は灰色に近く、本年枝は緑黄色で、次第に褐色へと変化する。葉は長さ4センチから10センチの楕円形もしくは倒卵形で、先はあまり尖らず、縁には浅い鋸歯があり、1センチから2センチの葉柄があって互生する。

 雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ。葉腋の集散花序に雄株では数個、雌株では1個から3個の花をつける。花は雌雄ともに直径7、8ミリで、黄緑色の花弁5個からなり、雄花では雄しべが発達し、雌花では雌しべの柱頭が抜き出て大きい。蒴果の実は直径が8ミリほどで、10月から12月ごろ淡黄色に熟し、3つに割けて橙赤色の仮種皮に包まれた種子を1個現わす。仲間のオオツルウメモドキ(大蔓梅擬)は葉が円形に近く、ツルウメモドキより一回り大きい。

 ツルウメモドキは北海道、本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島から中国・南千島にも見られ、オオツルウメモドキは本州の関東地方以西、四国、九州に分布し、朝鮮半島の南部にも見られるという。大和(奈良県)ではともに見られ、ツルウメモドキが圧倒的に多く、生駒山系ではヤマザクラに高く這い上がり、枝木に絡まる個体に出会ったこともある。花は地味であるが、蒴果の実はよく目立ち、蔓の枝とともに花材に用いられる。

  写真は左からツルウメモドキの雄花、雌花、繁茂していっぱいに実をつけた個体、実のアップ(五條市大塔町ほか)。右端の写真はオオツルウメモドキの雄花(天理市の天理ダム湖付近。なお、写真のオオツルウメモドキについては、葉が広楕円形でツルウメモドキよりも大きいところから判断した)。  しぐるるや青垣山の空の色

<2163> 大和の花 (383) サイゴククロヅル (西国黒蔓)                           ニシキギ科 クロヅル属

                              

 山地の明るい林縁で、他の樹木に絡んだりして生える落葉つる性の木本植物で、長さは数メートル。蔓は灰色で、本年枝は黄褐色から赤褐色になって目につき、ベニヅル(紅蔓)の別称でも知られる。葉は長さが5センチから15センチほどの卵形もしくは楕円形で、先が急に細くなり尖る。

 花期は7月から8月ごろで、枝先に大きい円錐花序を出し、直径数ミリの小さな緑白色の花を多数つける。雌雄同株で、同じ株に雄花と両性花がつく。両性花は5数性で、花弁と雄しべは5個、雄しべは淡緑色の花盤の縁につく特徴がある。実は翼果で、長さが1センチ前後、3個の翼があり、普通淡緑色であるが、ときに紅色を帯びるものも見かける。

 なお、サイゴククロヅルは、東日本に見られるクロヅル(黒蔓)に対し、本州の紀伊山地と中国山地、四国、九州に分布する。葉の形状や実の大きさが異なるため、クロヅルの変種ということで、サイゴククロヅル(西国黒蔓)と呼ばれるに至った。写真はサイゴククロヅル。左から青空の下で映える円錐花序の花群、両性花を多数つける花序の一部、紅色タイプの翼果群(いずれも大台ヶ原山)。

 遠くより犬の鳴き声冬が来る

 

 

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年11月23日 | 写詩・写歌・写俳

<2156> 余聞、余話  「横綱日馬富士による暴行騒動に寄せて」

      真実は顳顬のうち噛み締めてあるは男といへる存在

 モンゴル人力士の親睦会の酒席において起きた横綱日馬富士の平幕貴ノ岩に対する暴行事件は、連日報道されて世間を騒がせているが、ことの起こりは単純で、その因は、二人の仲違いと酒の飲み過ぎによるものと推察される。これは二人の個人的な関係によって起きたことで、この点をして言えば、この暴行は世間一般によくある事例と言え、起こるべくして起きたということが思われる。加害者の立場になった日馬富士の仕儀は世の中でよく言われる酒を飲んで酒に呑まれたという結果にほかならない。

  酒は人を変える。これは昔から言われていることで、酒席に侍る者は誰もが多少は経験して知っている。笑い上戸に、泣き上戸、酒の量が進んで来ると必ず怒り出す怒り上戸もいる。また、眠ってしまう眠り上戸というような酒飲みも見られる。こうした中で最も質が悪いのは暴力を奮う御仁である。今回の事件では昔から言われて来た酒飲みに纏わる教訓のようなものが見えて来る感じがする。つまり、今回の暴行事件は仲互いプラス酒量によるところと推察出来る。

 言わば、酒は魔物であり、怖いということであって、そこそこにしないと取り返しのつかないことになる。しかし、酒に強い御仁は飲み始めると切りがなくなる。この度の暴行事件ではこの酒が災いしたと言えるが、日馬富士には暴行を認めた以上、横綱という立場においてその責を負うことは免れない。この点、けじめをつけなければならないところであるが、この事件の始末がどうもすっきりしないところでぎくしゃくしている。

  思うに、この件の要は内容の異なる二通の診断書に秘められていると察せられるが、暴行もさることながら、この事件から明らかになった問題の方が大きいと言える。その問題というのは、モンゴル人力士による親睦会自体の寄り集まりのことで、大相撲を仕切る日本相撲協会には、組織運営の点においてみると、個人的なトラブルである暴行事件よりもむしろこちらの方が重大なことであると思われて来る。では、このことについて私なりの私見を述べてみたいと思う。

                                

  私はこの暴行事件が起きるまでモンゴル人力士がことあるごとに親睦会なる酒席を設けて寄り集まっていたということを知らなかった。多分、相撲フアンも世間一般も知らず、この事件でこのことを知ったのではなかろうか。私はこのことを知ったとき気色の悪さを感じた。それは大相撲が他のスポーツ競技の選手と異なり、部屋割された個々の力士が一対一でぶつかり合って戦い、十五人と戦ってその勝敗の差をもって優勝を競うというもので、原則同部屋力士以外の総当たりで取り組みが成り立ち、その取り組みが公正を期して行なわれるというものである。

  つまり、力士は相撲協会のどこかの部屋に属し、その部屋ごとに稽古を積んで本番の相撲(試合)に臨む。部屋は現在六門の四十五に及び、規約改正によって原則一部屋一外国人力士の制限が設けられている。これは外国人力士が強くなり過ぎたため、日本の力士の活躍の場が少なくなり、国技である相撲の立場から大相撲を仕切っている日本相撲協会は外国人力士の制限に当たり、原則一部屋一外国人力士という制限を加え、現在に至っている。結果、モンゴル人力士が上位を占有する勢いにあって現在の大相撲の勢力図、即ち番付の状況がある。同部屋力士の取り組みを避けているのは、手心が加わる懸念が大きいからである。

  こうした部屋を単位にして成り立っているというのが大相撲の公正を期する仕組みなのである。然るに、この度の暴行事件でモンゴル人力士の親睦会の酒席の寄り集まりが一般世間に知られるところとなったという次第で、私たちに疑問を投げかけるところとなったわけである。この親睦会なるものは部屋を越えた力士の集まりで、大相撲の公正を期して出来ている部屋による仕組みを崩しかねない懸念を含むものであることが言えるわけである。

  この度の暴行事件はこの寄り集まりの人間関係がマイナス方向に働いて騒動になっているわけであるが、部屋を越えたこの親睦会の寄り集まりが人間関係の親密さにおいてプラスに働き、その仲間が過度に親しくなったりすると、その親密な間柄において本番の相撲にも手心が加えられたりして、昨今問題にされている忖度なども生じ、不正へと繋がりかねない懸念が生じて来るということになる。暴行もさることながら、大相撲の組織としてはこちらの方が重大な問題を孕んでいると言ってもよかろう。はっきり言えば、このモンゴル人力士のみによる親睦会の酒席の寄り集まりは八百長の素地を生むことに繋がる。

  そこで思われるのであるが、親睦会の酒席というのはどのくらいの頻度で行なわれ、その費用はどのようにして捻出されているのかということが問われて来る。このことは琑抹なことのように思われがちであるが、勝負を仕事にしている力士においては重要なことである。個人一律に積み立てた会費によって寄り集まりを行ない、親睦に当っているのであればまだよいが、横綱とか上の力士が面倒を見るというようなやり方であれば、下の力士は上の力士に従わなければならない雰囲気が生じ、そこには自ずと心遣いの忖度も働いて来ることになり、これが本番の取り組みにも反映されるということになれば、取り組の公正さが保てなくなる。

  暴力沙汰で傷害に至ったということも大きい問題であるが、大相撲の組織の上において見れば、こちらの懸念の方が重大性を秘めていると言える。大相撲が勝負に勝つことによってものごとの評価が決せられるという性格のものであれば、なおさらのことで、同郷とか、愛国心とかという精神的なバックボーンを考えると、ここのところは曖昧に出来ないけじめが必要に思えて来る。

  同胞による飲み会において異郷の淋しさを癒すというような単純な同情心のみでは済まされないところがこの親睦会には見え隠れしている。大相撲の成り立ちを考えると、この問題はいつの時代にあってもついて回るものであって、このモンゴル人力士のみによる親睦会なる酒席というのは、気色の悪さが拭えないのである。

  大相撲を人体に例えれば、四十五に上る力士が所属する部屋というのは部位であって、個々の力士は細胞に当たる。この細胞が健全であれば、人体である大相撲は公明正大で健全な活動(運営)が出来る。ところが、その部位以外に、別の浮遊する部位が現れて今までの範囲を越えて細胞が人体内で動いているという風に見えるのがモンゴル人力士の親睦会の図で、これは規約に則って出来ている部屋にとって、まことに異様な存在と言え、正常な部位における細胞を狂わせ、人体である大相撲の健全な活動(運営)の支障になることに繋がる。一年に一度くらいの親睦会ならまだしも、場所ごとに行なわれているとすれば、これは深刻に考えた方がよいように思われる。

  この度の暴行事件は以上のようなことも考えさせるところがある。日本相撲協会は果してこの問題についてどこまで把握し、どのように考えているのだろうか。外国人力士はモンゴル人のみならず、もっと遠くの異国から来ている力士もいる。この力士の孤独を踏まえて考えるならば、自ずとその厳しさは納得されよう。国技とされる大相撲が公正で健全に行なわれてはじめて国技たる精神性を保つことが出来るということが思われるゆえに敢えてここにこの問題を取り上げた次第である。親睦会を全くなくせよというわけではない。節度というものについて一考が必要と思われる。  写真はカットで、大相撲九州場所。  

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年11月20日 | 植物

<2153> 大和の花 (374) ヤマブドウ (山葡萄)                                                ブドウ科 ブドウ属

           

 山地の林縁や沢沿いなどに生える落葉つる性の木本で、他物に巻きひげを絡めてよじのぼって広がる。樹皮は濃褐色で、節ぐれ立ち、縦に長く裂けて剥がれる。葉は長さ10センチから30センチほどの5角状円心形で、普通、3浅裂し、縁には鋭い鋸歯がある。基部は深い心形で、20センチほどの葉柄を有し、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、葉と対生して長さが20センチほどの円錐花序に黄緑色の小花を多数つける。雌雄異株で、雄株の花では雄しべの機能しか発揮されず、雄花の雄しべが長い特徴がある。雌株の花では雌しべの機能しか展開されず、両性花が展開し、雄しべは短く、不能で、5個の花弁は開花と同時に脱落する。

 実は液果で、直径が1センチ足らずの球形になり、ブドウの房状に集まってつく。秋になると紫黒色に熟し、粉白色になる。実は完全に熟すと美味で、生食するほか果実酒にしたり、ジュースやジャムなどに用いる。薬用としては疲労回復によいとされている。

 北海道、本州、四国に分布し、南千島、サハリン、アムール、鬱稜島などにも見られるという。大和(奈良県)では吉野の標高1000メートル以上の山中で見かけるが、産地が限られ、個体数も少ないとしてレッドリストの希少種にあげられている。 写真はヤマブドウ。左から若葉に対生してつく花序。円錐状の花序の花。花序につく小花のアップ(雄しべの短い雌花序)。紅葉の中で熟した実。  真っ先に足の冷えあり冬来たる

<2154> 大和の花 (375) サンカクヅル (三角蔓)                                              ブドウ科 ブドウ属 

                       

 山地の林縁などに生える落葉つる性の木本で、他の木々に絡んで伸び上がる。葉は長さが4センチから9センチの三角状から三角状卵形で、この名がある。葉の縁には歯牙状の浅い鋸歯があり、基部は心形。葉の表面は無毛で、裏面の脈上には短毛が生え、長い葉柄を有し、互生する。

 花期は5月から6月ごろ、雌雄異株で、雄株の花では雄しべの機能しか発揮されず、雌株の花では雌しべの機能しか発揮されないのはヤマブドウと同じく、葉と対生して長さ5センチから9センチほどの円錐花序を出すのもヤマブドウと同様である。花序には黄緑色の小花が多数つく。全体的にはアマヅル(甘蔓)によく似るがサンカクヅルでは葉の先端が細く尖る。実は液果で直径7ミリほどの球形で、黒く熟し光沢を帯びて、ヤマブドウより若干小さく、果序に集まりつく。甘みがあり食べられる。

 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られる。ギョウジャノミズの別名を持つが、これは修行する行者がサンカクヅルのつるを切ってこの樹液によって喉の乾きを凌いだという謂われによるという。 写真はサンカクヅルの実(上北山村の山中、標高900メートル付近)。花の写真なし。 列島に冬の来る報笹さやぐ

<2155> 大和の花 (376) ノブドウ (野葡萄)                                                   ブドウ科 ノブドウ属

                

 山野の林縁や草叢など至るところに生える落葉つる性の木本で、葉と対生して出る2分岐する巻きひげによって他物に絡んで伸びる。茎は暗灰褐色で、節の部分が膨らむ。茎葉は毎年枯れるが、基部は木質化して残る。葉は長さが10センチ前後の円形に近く、3裂から5裂して、個体によって変化が見られ、葉だけを見ると、別種に思える個体にも出会う。葉の基部は心形で柄があり、互生する。

 花期は7月から8月ごろで、葉と対生して集散花序を出し、黄緑色の小さな花を多数つける。花弁と雄しべは5個、雌しべは1個で、花を形成する。実はほぼ球形の液果で、直径数ミリ程度、碧色や紫色に赤みの加わったものなど変化に富み美しいが、花の時期にブドウタマバエなどが雌しべの子房に産卵し、実の中で卵が孵り、実の中に幼虫が寄生し、虫えいの出来ることが多く、まともな実がない個体も見られる。

  実は食べられないので、イシブドウ(石葡萄)、イヌブドウ(犬葡萄)、ウシブドウ(牛葡萄)、ドクブドウ(毒葡萄)などの地方名が見られるが、春先の若葉を食べる地方もある。また、漢名は蛇葡萄(じゃぶどう)で、漢方では根を薬用とし、乾燥したものを煎じて服用すれば関節痛によく、煎じた汁で洗眼すれば目の充血に効くという。全国的に分布し、アジアの北東部一帯にも自生すると言われ、大和(奈良県)ではそこここで見られる。 写真はノブドウの花と色とりどりの実、葉の深裂が見られる個体。   行き交へる人みな冬を纏ひけり

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年11月19日 | 写詩・写歌・写俳

<2152> 余聞、余話 「柿の木」

         柿たわわ登って取るなと父の声

 柿の実が色を増し、収穫の時期である。大和(奈良県)は日本でも有数の柿の産地で、柿の実る風景はそこここに見られる。昔から存在する甘柿も渋柿も、近年改良された種無し柿のような柿も見られる。生産目的で植えられた柿畑の柿の木は作業がしやすいように幹を低く抑えるべく育てているが、自然本来の柿の木は高さが十メートルほどになる落葉高木で、こうした柿の木が田舎では民家の傍などにも見られ、実が赤くなる晩秋から初冬のころになると、柿の木は里の風景の中で主役的役割を果たし、日本の原風景として私たちの心の中にもしまわれている。こうした柿の木をともなう風景が山国である大和の田舎には普通に見られる。

             柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺                                                  正岡子規

 この句はこうした柿と日本の田舎の風景を代表している大和という土地柄をよく示すもので、この句に接していると、鐘を聞きながら柿を食っている旅人子規の姿を想起するに止まらず、お寺と実を生らせた柿の木の日本を代表する大和の秋の風景へ導かれゆく心地のよさに浸れる。ほかにも大和において柿を詠んだ句は多く、柿と大和の相性のよさが感じられる。『地名俳句歳時記』(山本健吉監修)によると、次のような大和における柿を詠んだ句が見える。

                             

          柿稔り大和は白き壁多し                                                      倉田青雞

          遠こちに塔見え大和柿日和                                                    堤 剣城

          柿落葉白毫寺坂急にせり                                                    米沢吾亦紅

          斑鳩の塔見ゆ里は柿の秋                                                     岡村紅邨

          斑鳩の三塔めぐり柿の秋                                                      村上杏史

          斑鳩の柿たわわなり旅疲れ                                                    藤田厚子

          子規の句碑に柿供へあり法隆寺                                                米倉明司

          柿落葉踏みて到りぬ法隆寺                                                 長谷川零余子

          明日香路を畦伝ひ来る柿売女                                                  猿渡青雨

          岡寺の大きな柿を買ひにけり                                                   日野草城

          当麻寺の塔の見えゐし柿を食む                                                 細見綾子

          熊野より吉野に入り柿の里                                                     嶋田一歩

 という次第で、落葉を詠んだ冬の二句以外は秋の句として見えるが、これらの句をうかがうと、大和が柿の一大産地であるということもさることながら、子規が食ったとされる御所柿をはじめ、大和には昔から柿の木の存在があり、この柿の木が里の風景にあって、実を生らせる秋にはその実の生る姿によってその里の風景を一段と引き立てて来たことが思われる。この柿の木の存在は、もちろんのこと、大和に止まらず、北海道を除く日本各地の田舎に通じるところで、瀬戸内に育った私なども柿の木の思い出がある。

 私が子供のころ、私の家には一本の甘柿の木と三本の渋柿の木があった。いずれも畑田の畦にあって甘柿の木は三メートルほど、渋柿の木は三本いずれも七、八メートルの高さがあった。みなよく実を生らせ、実ると先を割いて尖らせた竹竿を用いて実の生る枝ごと竹竿の先に挟んで捻り折って一つ一つ収穫した。柿の木の枝は極めて脆いので、こうした方法を用いて取っていた。実をたわわに生らせる柿の木を見ていると、今もそうした光景が思い出されるが、枝の脆さゆえに「登ってはならん」と子供に言い聞かせていた父の声があったことも思い出されて来る。 写真は実を生らせる柿の木と熟した柿を啄みに来た目白(天理市の山の辺の道ほか)。


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年11月13日 | 植物

<2146> 大和の花 (368) ツルマメ (蔓豆)                                                     マメ科 ダイズ属

                 

 草地や道端の草叢などに生えるつる性の1年草で、他物に茎を絡めて伸び、全体に細毛が見られる。長い柄を有する葉は3小葉からなり、小葉は狭卵形から披針形で、長さは3センチから6センチほどになる。花期は8月から9月ごろで、直径が1センチに満たない紅紫色の小さな蝶形花を葉腋の総状花序に3、4個つけ、順次開花する。実は豆果で、淡褐色の毛が密生する。

 日本全土に見られ、朝鮮半島から中国、シベリアにも分布し、大和(奈良県)では普通に見られる。醤油や味噌の原料に用いられ、枝豆で知られるダイズ(大豆)の原種と言われ、種小名の「soja」は「しょうゆ」の転訛によるという。別名ノマメ(野マメ)。家畜の飼料にされる。 写真はツルマメ。左から蔓茎の葉腋に咲く花。花のアップ。淡褐色の毛に被われた豆果。  秋深み実りゐるものそこここに

<2147> 大和の花 (369) ヤブマメ (薮豆)                                                   マメ科 ヤブマメ属

                                          

 日当たりのよい林縁や山道の傍などに生えるつる性の1年草で、他物に茎を絡めて伸び上がる。葉は3出複葉で、小葉は長さが3センチから6センチの広卵形乃至は卵状菱形。脈が目立つ。花期は9月から10月ごろで、葉腋の短い花序柄に数個の蝶形の小花をつける。小花は長さ2センチ前後。旗弁は紫色、翼弁と竜骨弁は白色で、長さが2センチから3センチの扁平な豆果を結ぶ。豆果には3個から5個の種子が入る。

 なお、ヤブマメには地中に閉鎖花が出来るのが特徴で、閉鎖花も結実し、閉鎖花の豆果には1個の種子が含まれる。日本全土に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られる。ヤブマメの名は薮に生えるマメの意によるもので、大和(奈良県)でも薮状になった日当たりのよい外面でよく見かける。なお、地中の閉鎖花に出来る豆果は食用にされる。 写真はヤブマメ。左から茎を絡めて花を咲かせる個体、花のアップ、毛が生え淡褐色を帯びた豆果。   どの道も秋は即ち秋の道

<2148> 大和の花 (370) ヤブツルアズキ (薮蔓小豆)                                       マメ科 アズキ属

                           

 日当たりのよい草地に生えるつる性の1年草で、他物に絡んで伸び上がる茎や葉には黄褐色の軟毛が見られる。葉は3小葉からなり、小葉は長さが1.7センチ前後の狭卵形乃至は卵形で、浅く3裂するものもある。花期は8月から10月ごろで、葉腋に花序柄を出し、先端に数個の蝶形花をつける。蝶形花は黄色で、直径2センチ弱、筒状の竜骨弁がくるりとねじれて丸るまり、左方の翼弁がこれに被さり、右方の翼弁が竜骨弁の基部を抱くような形になる。実の豆果は大きいもので長さが9センチほどの線形で毛はない。

 名にアズキとあるように、赤いダイヤとして投資対象にされたこともある作物のアズキ(小豆)の原種として知られ、本州、四国、九州に分布する。アズキは古くに中国から渡来したとされ、中国や朝鮮の南部地方でも栽培され、昔から暗赤色の種子は食用にされ、祝い事などに赤飯として用いて来た。アズキのアは赤い意で、ズキは解ける意のツキから来ているという。これは小豆がほかの豆よりも早く煮られるからからという。ほかにも諸説あるが、この説がもっとも説得力があるように思われる。アズキを小豆というのは実が小さく、大豆との対比によった漢名によるものである。 写真はヤブツルアズキ。花と実が同時に見られる。 冷ゆる夜熱き生姜湯いただきぬ

<2149> 大和の花 (371) ノアズキ (野小豆)                           マメ科 ノアズキ属

             

 山野の日当たりのよいところに生えるつる性の多年草で、全体的に軟毛があり、ヤブツルアズキによく似るが、属を異にする。ノアズキは葉裏と萼に赤褐色の腺点があり、3小葉からなる小葉の形状が長さ2センチから3センチほどの卵状菱形で、この葉の比較によって判別出来る。

 花期は8月から9月ごろで、ヤブツルアズキと同じような黄色の蝶形花をつける。花の中央の竜骨弁がくるりとねじれ、左の翼弁が上に見られ、右の翼弁が竜骨弁の基部に見える。豆果は細い棒状のヤブツルアズキと異なり、ノアズキはより扁平で、この違いでも判別出来る。ノアズキの名はヤブツルアズキに似て野に見えることによる。本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも各地で見かける。写真はノアズキ。左から群生して花をつける個体、花のアップ、豆果。  それぞれのそれぞれにある秋の色

<2150> 大和の花 (372) ノササゲ (野豇豆)                                                マメ科 ノササゲ属

                                                   

 山地の林縁や山道の傍などに生えるつる性の多年草で、本州、四国、九州に分布し、ヤブマメほどではないが、大和(奈良県)でも各地で見られる。葉は長い柄のある3小葉からなり、小葉は長卵形で、質は薄く、裏面はまばらな毛があり白っぽい。

  花期は8月から9月ごろで、葉腋に総状花序を出し、数個の蝶形花をつける。蝶形花は長さが2センチ前後、黄色から淡黄色で、筒状の萼を有し、旗弁が紫色のヤブマメとは好対照な花である。豆果は長さ2センチ弱で、熟すと紫色になり、実の部分が膨らみ、数珠状になる。

 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。ノササゲの名はササゲ属のササゲ(豇豆)に似て、野生であることによる。別名のキツネササゲ(狐豇豆)も野生で役に立たない意。 写真はノササゲ。右は花のアップ。花は黄色から淡黄色で、筒状の萼が斜めにカットされたようになるが特徴として見える。   室の奥に冬日差し入る温さかな

<2151> 大和の花 (373) タンキリマメ (痰切豆) と トキリマメ (吐切豆)                    マメ科 タンキリマメ属

           

 タンキリマメ(痰切豆)は実を食すと痰を止めると言われ、トキリマメ(吐切豆)は吐き気を止めるということか。その名には薬効がにおわされているが、これは俗説で、効き目はないと言う。山野の日当たりのよいところに生えるつる性の多年草で、毛の生える茎は他物に絡んで這い上る。

  葉は3小葉で、この2種はよく似るが、タンキリマメの小葉は卵状菱形で先があまり尖らず、裏面に黄褐色の腺点が見られるのに対し、トキリマメは倒卵形で、タンキリマメより少し大きく、先が細く尖る特徴により判別出来る。トキリマメの別名はオオバタンキリマメ(大葉痰切豆)で、これは葉の形状の比較によってつけられた名である。

 花期はともに7月から9月ごろで、筒状の萼を有する黄色から淡黄色の蝶形花を数個総状につける。豆果は熟すと鞘がともに濃い赤色になり、裂開して黒色で光沢のある球形の種子2個が現われる。この黒色の種子も似るが、トキリマメの種子はタンキリマメのそれよりも少し大きい。

 タンキリマメが関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布するのに対し、トキリマメは関東地方以西、四国、九州に分布し、大和(奈良県)ではともに山地の林縁や道端などで見かける。 写真の左3枚はトキリマメ。右端の実の1枚はタンキリマメ。   大和なる初冬ぴーかーんと晴渡る