<2007> 大和の花 (255) オオバギボウシ (大葉擬宝珠) ユリ科 ギボウシ属
ここではギボウシ(擬宝珠)類を見てみたいと思う。ギボウシの仲間は東アジアの特産とされ、約40種が見られるという。葉や花が好まれ、丈夫でもある植物で園芸用に改良されたものも多く、また、交雑による中間種も見られるといった状況にある。
単子葉植物特有の平行脈が目立つ葉が根生し、花が花茎の先に総状に連なり咲く。花は花被片が6個あり、中ほどで合着して筒状になる。この筒状の花の蕾の形が橋の欄干につけられる擬宝珠(ぎぼし)に似るのでこの名があるという。
花は朝開いて夕方には閉じる1日花であるが、上に蕾が出来、下から次々と咲き出すので一斉に花が開くことはまずない。オオバギボウシ(大葉擬宝珠)、コバギボウシ(小葉擬宝珠)、イワギボウシ(岩擬宝珠)、キヨスミギボウシ(清澄擬宝珠)、ミズギボウシ(水擬宝珠)、バランギボウシ(葉蘭擬宝珠)、スダレギボウシ(簾擬宝珠)などが一般的によく知られるが、雑種や中間的なもの、または地域的変異が見られ、ギボウシは判別し難いものが多いという定評がある。
という次第で、ここではオオバギボウシ、キヨスミギボウシ、コバギボウシ、ミズギボウシについて見てみたいと思う。イワギボウシは撮影した写真との一致に及ばず、ここでは同定を見送った。ほかについては、まだ出会っていない。では、オオバギボウシからみてみたいと思う。
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オオバギボウシは他種に比べ茎や葉が大きいのでこの名がある多年草で、山野の草地や林縁などに生える。葉は長い柄を有し、卵状楕円形で、葉脈は片側に10から17あるとされ、裏面に隆起する。基部は心形で、鋸歯はない。若葉はウルイと呼ばれ、ぬめりがあって、おいしく、山菜として好まれ、お浸しや和えものにされる。
花期は7月から8月ごろで、1メートルほどになる花茎の先端部に白色乃至は淡紫色の花をほぼ横向きに多数つける。花被は5センチ前後の筒状鐘形で、花のつけ根には緑白色の苞が開出する。全国的に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では自生か否かわからない雰囲気の個体がときに見られる。 写真はオオバギボウシ。左は茶店の門先に植えられたもの。右は野生化したものか(奈良市郊外)。 心得てゐるがピーポー熱中症
<2008> 大和の花 (256) キヨスミギボウシ (清澄擬宝珠) ユリ科 ギボウシ属
東大の演習林で知られる房総半島(千葉県)の清澄山(別称妙見山・350メートル)においてはじめて見つかったギボウシで、この名がある。本州の近畿地方から関東地方南部の太平洋側に分布する日本の固有種で、オオバギボウシに似るが、ひと回り小さく、葉脈が少ない。山地の林内や林縁、道路脇の草むらなどに生える多年草で、大和(奈良県)では最も普通に見られるギボウシである。
草丈は30センチから60センチ。長い柄を有する卵形の葉は根生し、ロゼット状に伸びる。先は尖り、基部は心形で、縁は微細な鋸歯状となり、葉と柄ははっきり区別出来る。葉脈の数は個体によってさまざまであるが、普通片側8つ以下と言われる。
花期は7月から8月ごろで、茎の先端部において苞をともなう1花ずつつける。花は淡紫色の筒状鐘形で、上下に連なるように咲く。苞は開花時にも完開せず、ボート状になる。 写真はキヨスミギボウシ(ともに十津川村)。 健脚の芭蕉羨(とも)しく夏を歩く
<2009> 大和の花 (257) コバギボウシ (小葉擬宝珠) ユリ科 ギボウシ属
山野の日当たりのよい湿地や湿気のあるところに生える多年草で、狭卵形から卵状長楕円形の先が尖る葉を多数根生する。葉の表面は淡緑色で光沢のないものが多く、葉脈が凹み、基部は翼状になって柄に流れ、斜上する特徴がある。
花期は7月から8月ごろで、高さが40センチほどに直立する花茎の上部に淡紫色から濃紫色の筒状鐘形の花を横向きに咲かせる。花の基部にはボート状の苞がつく。その姿は全体的にミズギボウシ(水擬宝珠)に似るが、ミズギボウシの方が、花数が少なく、葉も細い。
北海道、本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では渓谷の岩場や川岸などでよく見かける。 写真はコバギボウシ (天川村川迫川、下市町の丹生川)。 遠近(をちこち)に訃報今年の夏越しかな
<2010> 大和の花 (258) ミズギボウシ (水擬宝珠) ユリ科 ギボウシ属
日当たりのよい湿地や湿気のある草地に生える多年草で、草丈(花茎)は5、60センチになる。根生する葉は線状倒披針形で、日本のギボウシの中ではもっとも細く、葉の基部は翼状になって柄に流れる。花期はよく似るコバギボウシ(小葉擬宝珠)より遅く、8月から10月ごろで、60センチ前後に直立または斜上する花茎に普通数個の筒状鐘形の花をつける。花の基部には普通緑色のボート状の苞が見られる。
本州の愛知県以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では北部に自生地が集中しているが、圃場整備や開発などによって減少の傾向にあり、希少種にあげられている。5年ほど前まで見られた群生場所にその姿がないといった例もあり、草叢に紛れて密かに花を咲かせているのに出会ったりするのが現況である。 写真はミズギボウシ(奈良市の大和高原)。
山野行花を思へばこの夏も
<2011> 大和の花 「ギボウシ追記」
生きとし生けるものはみな
誰もが過去を持っている
過去は経験の集積であり
経験は経験知
乃至は経験値であって
産物にほかならず
如何なる者にとっても
この産物は財産になる
もちろん 財産には
負の財産もあるけれど
過去の経験による財産は
その良し悪しにかかわらず
未来に向かって歩む
進行形の今において
生かすことが求められる
私が写真に撮り溜めている「大和の花」のフォトライブラリーには種が同定出来ないギボウシが何点か見られる。アザミにもこの状況があって、以前、このブログで触れたが、写真を撮ったものの、撮りっ放しにして写真の検証を怠ったツケのようなものと言ってよい。つまり、写真にした花の種名が特定出来ないということで、その花に説明を施す段になってこの問題が浮上し、考えさせられるということになった次第である。
どの種であれ生命体たる個体の尊厳という観点において言えば何ら変わるところはなく、その存在は尊いものであるが、属する種の特定が出来ないというのは落ち着かない状況にあると言え、アザミとかツツジとかこのギボウシとか単に総称としてその個体を見る立場では何ら問題になることはないが、種によってその個体を検証するといった場合などは判別点が気になって、写真も使いづらいという事態が生じて来ることになる。
この事態は、写真を撮り、その写真に検証を加える私の能力によって生じ来たるもので、勉強不足は否めず、何処に訴えることも出来ない。ということで、実に悩ましいところではあるが、日の目を見ないでは撮った甲斐もなく、被写体の花にも申し訳けないという気持ちも働く。ということで、種名がはっきりしないギボウシの花にも登場願うことにした次第である。
(1) (2) (3) (4) (5) (6)
(1)(2)の写真は、大峰山脈の標高1500メートル付近の尾根筋の岩上に着床し生えている個体で、大岩が砦とも聖域の楽園ともとれるシカの食害を免れている観のギボウシである。岩上の花であればイワギボウシの名が浮かぶが、葉柄に暗紫色の斑点が見られない点で、イワギボウシではないとわかる。では何かと考え、キヨスミギボウシが浮上するところとなった。だが、葉が翼状になって柄に沿っている点が見られるので、これも怪しく思われ、未だ種の同定に至れずにいるといった具合である。
(3)(4)の写真は曽爾高原で撮影したものであるが、単にギボウシの花の風景として撮り、撮影時に種の問題など意識になかった。現在、この場所にギボウシの姿は皆無状態になっているが、このギボウシは如何なるギボウシか、消えてなくなったのは如何なる理由によるものか。こうした点が、時を隔てて思われるようになった。なくなったのは、多分、シカの食害によるものであろう。十年ほど前までは高原の夏の風景として見られた。写真ではわずかに見える葉の感じからキヨスミギボウシに思えるが定かでない。
(5)(6)の写真は天川村の川迫川の岩場に生えるギボウシで、ともに川が増水すると濁流に呑まれてしまう環境下に生育している個体である。密につく根生葉の形からすると、コバギボウシに思えるが、葉が斜上している感じがなく、葉の色も緑が濃いのでこの点も気になるところで、種の同定に自信が持てずにいるといった次第である。