大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年09月28日 | 植物

<2100> 大和の花 (332) アカバナ (赤花)                                         アカバナ科 アカバナ属

                                        

 この項ではアカバナ科の草花を見てみたいと思う。まずはアカバナから。アカバナは山野の湿地に生える多年草で、茎は直立し、高さは30センチから80センチになる。茎には細かい毛が生え、茎の下部では対生し、上部では互生する葉は長さが2センチから6センチの卵形乃至は卵状楕円形で、基部は茎を抱くことが多い。茎や葉は赤みを帯びることもあるが、秋に紅葉するのでこの名があると言われる。

 花期は7月から9月ごろで、葉腋に直径1センチほどの淡紅色の4弁花を開く。花弁の先端は2裂し、萼には腺毛が多く見られる。アカバナ属の仲間は子房が花の下側につき、花柄のように見えるのが特徴で、この細長い部分が棒状の蒴果となる。種子には先に種髪(しゅはつ)と呼ばれる毛がつき、タンポポの冠毛と同じく、種子を風に運ばせる役目を果たす。

  北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でもときおり見かける。 写真はアカバナ。仲間に山地性のイワアカバナやケゴンアカバナが見られ、みなよく似るが、本種では雌しべの柱頭が棍棒状になる特徴があり、見分けのポイントになる。

   丹精の証一面稔りゐる

 

<2101> 大和の花 (333) イワアカバナ (岩赤花)                                 アカバナ科 アカバナ属

                          

 山地の湿り気のあるところに生える多年草で、高さ15センチから60センチほどの茎には屈毛が生える。長楕円状披針形の葉は長さが2センチから8センチで、鋸歯があり、対生し、一部互生する。花期は7月から9月ごろで、茎上部の葉腋にアカバナと同じく細長い棒状の子房の先に4弁の花をつける。花弁は白色から淡紅色で、先端が浅く2裂し、柱頭はアカバナと異なり頭状になる。

  北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、アムール地方などに見えるという。大和(奈良県)では大峰山脈や台高山脈の標高1000メートルから1500メートルの深山でよく見かける。殊に湿った岩場に見られるのでこの名がある。 写真はイワアカバナ(稲村ヶ岳登山道ほか)。白い頭状の柱頭が見て取れる。   秋雨や傘の列見ゆ法隆寺

<2102> 大和の花 (334) ケゴンアカバナ (華厳赤花)                               アカバナ科 アカバナ属

                  

 冷温帯から亜高山帯の湿り気のあるところに生える多年草で、茎の高さは10センチから50センチほどになり、イワアカバナ(岩赤花)に似るが、茎の稜上2列に屈毛が生える特徴により判別される。イワアカバナには茎全体に伏毛が見られる。葉は概ね対生し、長楕円状披針形で、長さは2センチから7センチほど。縁には毛が目立つ。

  花期は7月から9月ごろで、花は花柄のような長い子房の上に1個つき、淡紅色から白色の4弁花で、花弁の先端は他種と同様2浅裂する。雌しべの柱頭はイワアカバナと同じく頭状になる。北海道、本州の近畿地方以北、四国(標高の高い山岳帯)に分布し、国外では台湾、朝鮮半島、中国、アムール地方等に見られるという。大和(奈良県)では既知の自生地は1箇所とされ、個体数も少なく絶滅寸前種にあげられている。 

  写真はケゴンアカバナ。ケゴン(華厳)の名は日光の華厳の滝に由来するか。大和(奈良県)では大峰山脈の高所、標高1700メートル付近の湿気をともなった辺りにわずかに生えている。左の写真では茎の稜上に生える屈毛が確認出来る。近くにはクリンユキフデ(九輪雪筆)やヒナノウスツボ(雛の臼壷)が見られた。   秋天や空から物の降るニュース

 <2103> 大和の花 (335) ミズタマソウ (水玉草)                              アカバナ科 ミズタマソウ属

                  

   山野の林内や林縁の草地などに生える多年草で、高さは20センチから60センチほどになり、茎には下向きの軟毛が生え、節は赤みを帯びるものが多い。葉は長さが5センチから大きいもので13センチほどになる長楕円形で先は尖り、縁には極めて浅い鋸歯が見られ、柄はなく対生する。

   花期は8月から9月ごろで、上部葉腋に花序を出し、白色乃至は淡紅色の小さな花をつける。花は2数性で、萼、花弁、雄しべが2個ずつつく。アカバナ科特有の子房下位で、花の下側に実が出来る。実は堅果で、広倒卵形になり、直径数ミリ。表面をかぎ状の毛が被い、この子房、即ち実の部分が露の水玉のように見えることによってこの名があるという。北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でもときおり見られる。 写真はミズタマソウ(曽爾高原)。   秋天や平和主義なる鐘の音

<2104> 大和の花 (336) タニタデ (谷蓼) と ミヤマタニタデ (深山谷蓼)  アカバナ科 ミズタマソウ属

                  

 タニタデ(谷蓼)は山地の湿ったところに生える多年草で、渓流沿いでよく見られるのと姿がタデに似ることによりこの名がある。茎や葉柄はほぼ無毛で、赤みを帯び、高さは20センチから50センチほど。葉は対生し、3センチから8センチの長卵形で、先は尖り、波状の鋸歯が見られる。

 花期は7月から9月ごろで、茎頂に総状花序を出し、白色乃至は淡紅色の小さな花をつける。花はミズタマソウ(水玉草)と同じく2数性で、萼、花弁、雄しべが2個ずつつき、下向きに開く。アカバナ科の仲間らしく花弁は浅く2裂する。北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でも登山道でときおり出会う。

  ミヤマタニタデ(深山谷蓼)はタニタデとほぼ同じ分布域に自生し、全国的に見られ、花の時期もほぼ変わらないが、タニタデよりも小形の多年草で、葉が三角状広卵形であるため、長楕円形のタニタデとは一目で判別出来る。 写真は左の2枚がタニタデ、右の2枚がミヤマタニタデ。違いは葉の形でわかる。いずれも大峰山系の深山で。   庭の面(おも)小さな秋がそこここに

<2105> 大和の花 (337) チョウジタデ (丁字蓼)                               アカバナ科 チョウジタデ属

                                                       

 水田や湿地に生える1年草で、高さは大きいもので70センチほどになる。よく枝を分け、ほぼ直立し、水田の雑草として知られ、稲より高く伸び出しているのを見かけることがある。茎には稜があり、赤みを帯びるものが多い。葉は長さ3センチから10センチほどの披針形で互生し、秋が深まると紅葉する。

 花期は8月から10月ごろで、稲が黄金色の穂を垂れるころ、葉腋に柄のないミリ単位の小さな黄色の花をつける。花は5弁花で、萼と同等か短い特徴がある。この花がチョウジ(丁子)の花に似て、全体的にタデ科を思わせることからこの名がつけられたという。別名のタゴボウ(田牛蒡)は根がゴボウに似るからと言われる。果実は蒴果。日本全土に分布し、大和(奈良県)でも普通に見られる。 

  写真は水田に生え出し、花を咲かせたチョウジタデ。花は小さく目立たない。なお、花弁の形が丸く、普通花弁と花弁の間に隙間が見られないウスゲチョウジタデ(薄毛丁字蓼)があり、間違いやすいが、こちらは萼片が花弁より短く、紅葉しない特徴がある。

   花に実の概ね秋といふ季節

 

<2106> 大和の花 (338) ヒレタゴボウ (鰭田牛蒡)                           アカバナ科 チョウジタデ属

             

 水湿地に生える熱帯米原産の1年草で、水田の傍などでよく見かける。昭和30年に松山市ではじめて見つかり、その後、四国から本州の関東地方以西、北部九州に広く繁殖し、今では普通に見られ、群生しているものにも出会う。所謂、外来の帰化植物である。大和(奈良県)でも年ごとに増える傾向にあり、水田雑草の1つになっている感がある。

 4稜がある茎は直立し、大きいものでは高さが1メートルを越える個体も見られ、よく枝を分ける。葉は披針形で、先は尾状に尖り、基部は茎に流れて翼になってつく。花期は8月から10月ごろで、葉腋に直径2.5センチほどの黄色の4弁花をつけ、よく目につく。果実は蒴果。 ヒレタゴボウの名はチョウジタデと同じく根がゴボウに似、葉の基部の翼を鰭(ひれ)と見たことによる。別名はアメリカミズキンバイ(亜米利加水金梅)。 写真はヒレタゴボウ。戦後に入って来た草花であるが、昔から存在しているような雰囲気がある。 秋晴れや大和は黄金色の海

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年09月27日 | 写詩・写歌・写俳

<2099> 余聞、余話 「衆院解散に思う」

           政治は遍く照らす日の光のようでなくてはならない

        政治が個の利益に偏って為されることは許されない

 安倍首相は二十五日、記者会見し、二十八日に召集される臨時国会の冒頭において衆院を解散すると表明した。会見では概ね二つの解散理由をあげた。一つは平成三十一年年十月に消費税率を10パーセントに引き上げる際、増収分の使途を1000兆円超に及ぶ国の借金返済から幼児教育の無償化などに変えること。これによって少子高齢化の問題に対するという。このため借金返済は予定通りにならなくなり、なお借金が増えることになるという。今一つは米国に対する対抗行動に激しさを増している北朝鮮問題に触れ、「国難突破解散だ」と述べてアピールしたことである。

 この二点の解散理由を思うに、この理由は取ってつけたような実に矛盾を思わせるところがあり、有権者を納得させるに少々欺瞞的な臭いがする。というのは、解散して国民の信を問うほどの政策転換ならば、現国会で打ち出し、政策を進めた方が過半数を有している点、実現可能なはずである。それなのになぜそれを避け、わざわざ膨大な費用がかかる選挙を行なう必要があるのか。野党も教育無償化には熱心であることを考えれば、解散などしないで、国会において提案した方がよほどましである。それをしないで、解散はまさしく言っていることとやっていることが違い、矛盾していることになる。矛盾でないとするならば、欺瞞ということになる。

 今一つの北朝鮮の状況に対する「国難突破解散」発言の意味もよくわからない。解散すれば北朝鮮情勢に何がどう影響して国難突破に繋がるのか、少しもわからない。解散して自民圧勝ならば、北朝鮮は大人しくなって弾道ミサイルも核爆弾の実験も中止して平穏になるというのだろうか。どのような今後を想定してこの言葉は発せられたのか。米国との蜜月をもって一強政権を築き上げて来た安倍首相のその姿がいよいよ見透かされているように感じられる。

                                                      

  森友、加計問題でピンチに陥り、支持率が落ちて政権維持が怪しくなって来たとき、急に北朝鮮の問題が浮上して来た。この問題は北朝鮮が仕掛けたというよりは、米国が仕掛けたという方が当たっていよう。言わば、安倍首相のピンチに対応するために北朝鮮に意識が向くように仕向けた。つまり、米政権は蜜月関係にある安倍首相に助け船を出したという趣が、緊張を募らせる北朝鮮の動向には感じられる次第である。

  つまり、話題のすり替えによって安倍政権のピンチを救った。こうしたやり方は政治の世界ではよくある話で、安倍首相の支持率は持ち直した感がある。しかし、北朝鮮の抵抗は思ったよりも強く、巧みで、現在に至り、予定通りとは行かず、緊張が続く状態に陥ってしまった。今度はこちらを何とかしなければならないということになり、これが解散の理由になったと想像される。

  もとをただせば、権力者が陥りやすい権力の私有化が安倍一強の体制に表面化し、追及されるところにことは始まったと言える。安倍首相にはこの森友、加計騒動の窮地をかわさなければ、先はない。如何に蜜月にあっても、もっともこの種のスキャンダルを嫌う大義名分の国米国がこの権力の私有化を許すはずはない。米国にはこれ以上この問題を大きくするわけにはいかない。韓国の前大統領が弾劾で葬られたのも権力の私有化であった。だが、日本と韓国では事情が異なる。それは蜜月度の差である。言わば、そこには米国の忖度が外交の裏で働いていると見て取れるのであるが、穿った見方だろうか。

  このように想像してみると、安倍首相の今回の衆院解散の表明意図が透けて見え、納得されて来る。つまり、森友、加計隠し解散だとする野党の政治絡みの言い分も説得力を得て来ることになる。しかし、北朝鮮への対抗措置による緊張関係は遠い距離にある同盟国米国よりも隣接国である韓国や日本がまともに影響を受ける。この緊張状況における日本国民の心理状況はほぼ一つであり、その緊張の状況が長く続けば続くほど北朝鮮はもとより、隣接国の韓国も日本も意味のない深刻さへと陥ることになる。

  米国のトランプ政権は、何を思って緊張を煽っているのか。想像するにこれは日本向けのメッセージにも思えるが、果して、これで米国はいいのかということが思われる。というのは、ここに中国の存在が見られるからである。中国は世界を中国に取り込む一帯一路という経済圏構想を進め、シナ海を視野に置いて南沙諸島や西沙諸島に着々とその体制を築いている。北朝鮮の緊張に意識が向いている間に、近隣諸国をも取り込んで、一大経済圏構想を順次進めている。

  北朝鮮の挑発があってからは尖閣諸島の「せ」の字も忘れられたように言われなくなった。この仕儀はどういうことを示しているのか。それは、米政権が話題を逸らして、北朝鮮に振り向けたのと同時に、シナ海の問題からも意識を逸らせたことになるのである。言わば、これは中国にとって実に好都合なことで、南沙も西沙も思い通りにことを進めることが出来る。言ってみれば、トランプ大統領の緊張を高める北朝鮮へのツイッタ―による発信は、中国にとって極めてよろこばしいことになるわけである。

  日本は核とミサイルの開発を急ぐ北朝鮮との緊張関係によって、いよいよ日本列島を要塞化し、防衛の楯化を進めざるを得ない心理状況に陥り、強いては憲法改革に歩を進め、被爆国のタブーとされている核爆弾の保有に関しても議論されるようになり、軍事にいよいよのめり込んで戦争の出来る国にする勢いに弾みをつけることになる。しかし、それは反面、外交の発展を阻害することに繋がり、危機状況を生むことになる。

  例えば、軍事による要塞化によって未来に希望が持てずにいる立地や風土の将来性に富む沖縄が思われるところである。日米同盟の足かせによってその豊かな可能性にともなう発展が殺がれている損失が思われる歯痒さにある間に中国の一帯一路の経済圏構想は進み、沖縄、強いては日本の将来への夢を失墜させるという事態に至っていることが想起されるのである。TPPを反故にしてしまったアメリカファーストの内向きのトランプ政権にこのような視点はないのかも知れない。日本という国は何か弄ばれている観が透けて見えるところがある。

  所謂、この解散は権力者の陥りやすい権力の私有化による森友、加計問題が端緒になっていると言えるが、それのみではなく、以上のような広がりにも影響していると見るのがよいように思われる。プライマリーバランスの問題にも言えることであるが、ビジョンがあまりにも希薄に思えてならない。これは政治の貧困、即ち、森友、加計問題にも通じることである。ころころと変わる政策内容については、現実に向き合う政治には必要な面もあるが、ビジョンが見えない朝三暮四のやり方が見え見えではどうしようもない。このようなことも今回の解散宣言には考えられる次第である。 写真はイメージで、朝日。暗雲が覆えども、日は昇り来て遍く照らす働きをなす。 政治も日の光的であってもらいたいと思う。

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年09月24日 | 植物

<2095> 大和の花 (328) ヌスビトハギ (盗人萩)                                                マメ科 ヌスビトハギ属

             

  エンドウのようにマメ科の実は1心皮1室の子房からなるもので、豆果といい、その中で種子と種子の間がくびれて節になるものを節果と呼ぶ。この節果は熟してもはじけることがなく、種子が入った小節ごとにちぎれ、表面にかぎ状の毛があるので、これによって動物や人の衣服などにくっついて種子を広く拡散する。これは実に巧みな子孫拡大の1つの方法で、マメ科のヌスビトハギ属の仲間はこの節果を特徴とする。この項ではこの節果を有するヌスビトハギ属の仲間を紹介したいと思う。

  まずは、ヌスビトハギ(盗人萩)から。ヌスビトハギとはヘクソカズラ(屁糞葛)やイヌノフグリ(犬の陰嚢)に比する悪名であるが、命名者には実感なのであろう。その名はこの節果によると一説にはある。所謂、この節果の形から忍び足で歩く盗人の足跡を思いついたのだという。悪名ながら憎めない名ではある。

  山野の路傍などに生える多年草で、少し湿気のあるところでは群生することもあり、山歩きをしているとときに出会う。高さは50センチから1メートル。茎の下部は木質化する。葉は3小葉からなり、卵形乃至は長卵形で、側小葉より頂小葉の方がやや大きく、長さは4センチから8センチほど。

  花期は7月から9月ごろで、上部の葉腋から細長い花序を伸ばし、淡紅色の小さなミリ単位の蝶形花をまばらにつける。節果は普通2個の小節果からなる。写真には撮り得ていないが、この節果は盗人の足形ではなく、顔を知られたくないためにかけるサングラスがお似合で、私にはこれにイメージされる。 全国各地に分布し、朝鮮半島から中国にも見られる。 写真はヌスビトハギ。 蚯蚓鳴く弱きも強くあるが生

<2096> 大和の花 (329) ヤブハギ (薮萩)                            マメ科 ヌスビトハギ属

                                                  

 山地の林内や林縁に生えるヌスビトハギ(盗人萩)の変種で知られる多年草で、高さは60センチから1メートルほどになる。葉は狭卵形の3小葉からなり、小葉は長さが4センチから6センチ、裏面は淡緑色で、茎の下部に集まり、互生する。

 花期は8月から9月ごろで、茎頂に細長い総状花序を伸ばし、淡紅色の小さな5ミリ程度の蝶形花をまばらにつける。実は節果で、表皮には鉤状の毛が生え、この毛が動物や人の衣服などについて運ばれる。北海道から本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも山地で見かける。 写真はヤブハギ。   争ひの尽きぬがこの世か赤とんぼ

<2097> 大和の花 (330) アレチヌスビトハギ (荒地盗人萩) と イリノイヌスビトハギ        マメ科 ヌスビトハギ属

         

 アレチヌスビトハギもイリノイヌスビトハギも北米原産の外来種で、アレチヌスビトハギが1年草であるのに対しイリノイヌスビトハギは1年草乃至は多年草で、ともに近畿地方でよく見られ、殊にアレチヌスビトハギには繁殖の拡大が著しく、在来のハギ類にとって代わる勢いを見せている。

 アレチヌスビトハギは高さが50センチから1メートルほどで、葉は3小葉からなり、小葉は卵形から長楕円形までさまざま見られ、両面に毛が生え、裏面は淡緑色を帯びる。花期は8月から10月ごろで、上部葉腋から長い花序を伸ばし、長さが1センチ弱の明るい紅紫色の蝶形花を多数つける。実は3節から6節の節果で、よく似たものに節の少ないアメリカヌスビトハギ(亜米利加盗人萩)があるが、判別は難しい。

 イリノイヌスビトハギは茎が直立し、高さが1メートルほどになる。葉は3小葉で、長い柄があって互生する。花期は8月から10月ごろで、白い蝶形花をつける。こちらも明るい花で、道端や荒地などで見かける。 写真は左の3枚がアレチヌスビトハギ。満開の花と花のアップ、いっぱいついた節果。右の2枚はイリノイヌスビトハギ。直立する姿と花のアップ。 生きるとは生かされてあることの言ひ今日を重ねて生きゐるところ

<2098> 大和の花 (331)フ ジカンゾウ (藤甘草)                                                マメ科 ヌスビトハギ属

                              

  山野の林内に生える高さが50センチから1メートルの多年草で、茎には毛がある。葉は5対から7対の奇数羽状複葉で、小葉は長さが8センチから15センチ。卵形から長楕円形で、互生する。花期は8月から9月ごろで、長い総状花序に1センチ弱の透明感のある淡紅色の蝶形花を多数つける。フジカンゾウ(藤甘草)の名はユリ科のカンゾウ(甘草)を連想させるが、ヌスビトハギ属で、花がフジ(藤)に似、葉の繁り具合がカンゾウ(甘草)に似るからという。本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国東北部に見られるという。大和(奈良県)では稀に見られる。 写真はフジカンゾウ(宇陀市の山中)。   秋晴や老爺三人高らかに

 

 

 

 

 

 

 

 


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2017年09月20日 | 植物

<2091> 大和の花 (324) メドハギ (蓍萩・目処萩)                                              マメ科 ハギ属

               

 日当たりのよい草地や道端などに生える多年草で、細い茎が伸び上がり、高さ80センチ前後になる。よく枝を分けるが、やや木質化する硬くて真っ直ぐな茎は占いの筮(めどき)にされたことによってこの名が生まれた。この占いはメドハギ(蓍萩)の茎50本で行なわれたもので、後に材が竹に変えられ、筮竹(ぜいちく)と言われるようになった。

 葉は3小葉からなり、小葉は2センチ前後の倒披針形で、茎や枝に密生する。花期は8月から10月ごろで、葉腋ごとに数個の小さな蝶形花をつける。花は黄白色の1センチより小さいミリ単位の大きさで、旗弁には紅紫色から青紫色の模様がある。葉腋には閉鎖花もつく。

 日本全土に分布し、大和(奈良県)ではよく見かける。仲間にハイメドハギ(這蓍萩)やカラメドハギ(唐蓍萩)があり、前者は本州、四国、九州に分布し、後者は中部地方以北で稀に見られるという。 写真はメドハギ。   生きるとは存在すること赤とんぼ

<2092> 大和の花 (325) ハイメドハギ (這蓍萩)                                            マメ科 ハギ属

          

  日当たりのよい池の土手などに生えるメドハギの変種で知られる多年草で、茎が地を這うのでこの名がある。葉は3小葉でメドハギに似るが、小葉の長さが短いので判別出来る。花期は8月から10月ごろで、花は蝶形花で、旗弁ほとんどと他の弁の先が紫色の特徴があり、葉腋ごとに数個ずつつくので賑やかに見える。本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)でも見かけるが、一見するとネコハギ(猫萩)とも思えるが、葉の形と花の数で判別出来る。 写真はハイメドハギ。    おーい秋何処かへ行きたくなってゐる

<2093> 大和の花 (326) イヌハギ (犬萩)                                                 マメ科 ハギ属

           

  日当たりのよい土手などの草地に生える多年草で、普通高さが1.5メートルほどになり、茎の下部は木質化し、全体に黄褐色の軟毛が生えるので、この特徴からイヌを連想したか、この名がある。葉は3小葉で、柄があり互生する。小葉は長さ数センチの長楕円形もしくは卵状楕円形で、先は鈍頭。厚みと光沢があり、脈が目につく。

  花期は7月から9月ごろで、茎頂もしくは上部の葉腋から長い総状花序を出し、多数の花をつける。花は白色もしくは黄白色の蝶形花で、旗弁の基部に淡紅紫色の模様が入る。また、花序の葉腋には閉鎖花が多数つくのが特徴で、写真にも見える。 

  本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国、インドなどにも見られるという。全国的に減少傾向にあり、環境省は絶滅危惧Ⅱ類に指定。大和(奈良県)ではもっと厳しい状況と見て、絶滅寸前種にあげられている。 写真はイヌハギの花。斑鳩町で撮影したものであるが、拡幅工事の行なわれた道路の法面部分の一角で普段人の立ち入りがないところであるが、草刈りにより大きくなれず、矮小化して倒れ気味に花をつけている状態にあるのが見られる。   静かなり聞かせよ虫たち秋ゆゑは

<2094> 大和の花 (327) ネコハギ (猫萩)                                                 マメ科 ハギ属

                                 

  日当たりのよい草地に生えるメドハギ(蓍萩)と同じ多年草で、ハギ属の仲間であるが、一般に言われる低木のハギ、即ち総称で呼ばれるハギとは花の目立たないところがあり、一線を画している印象がある。茎は基部で分枝し、地を這って伸び広がる特徴がある。葉は3小葉からなり、小葉は長さ1センチから2センチほどの広楕円形乃至は広卵形で、丸く見える。

  ネコハギ(猫萩)の名は、イヌハギ(犬萩)に対するもので、茎や葉に黄褐色の毛が密生することによると一説には言われる。花期は7月から9月ごろで、葉腋に旗弁の基部が紅紫色の白い蝶形花を咲かせ、上部の葉腋には閉鎖花が見られる。本州、四国、九州に分布し、大和(奈良県)ではそこここに見られる。 写真はネコハギ。   聴くほどに尊厳高らか百舌の声

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年09月19日 | 植物

<2090> 大和で見かける紛らわしいハギについて

          山上憶良の秋の七草は七草ならず「七種」となむ

 ハギ(萩)はサクラ、ツツジ、アザミ、スミレなどと同じくそれぞれの種属の総称で、ハギという種名の植物は存在しない(但し、スミレの場合はスミレという固有種の名が存在する)。一般にハギという場合は、この総称の言いで、ハギ属ヤマハギ亜属に属する低木をいうものとして短歌や俳句のような文芸においては大体この総称をもって表現され、それで納得されている。しかし、植物の分類上においては、個々の特質によって細分され、種名がつけられているので、その個々の個体は単にハギで間違いはないものの、十分な説明とはならず、納得されない。

 つまり、ハギと言っても、ハギにはヤマハギ(山萩)を筆頭に、ミヤギノハギ(宮城野萩)、ケハギ(毛萩)、ツクシハギ(筑紫萩)、ニシキハギ(錦萩)、マルバハギ(丸葉萩)、キハギ(木萩)、シロバナハギ(白花萩)、マキエハギ(蒔絵萩)などが日本ではよく知られ、それぞれにかなりの相違点をもって区別されるところとなっている。

  ところが、この相違点が生える場所の環境の影響によってはっきり現われず、判別し難い個体が見られること。また、人の手によって開発された園芸種が野生の域にも紛れ入り、判別に混乱を来たしていることも見られるといった具合になっている。で、写真には撮ったものの、その個体と種名との一致が難しく、説明し難いというものが結構見られる次第である。もちろん、これは私の勉強不足に負うところではあるが、一般にも間違われやすいと言える。ここでは私がこれまでに出会った紛らわしいハギについて触れてみたいと思う。

         

             (1)            (2)            (3)                (4)                     (5)

  写真の順で見れば、(1)の写真は楕円形乃至は長楕円形の葉の形状からニシキハギと思えるが、環境によるヤマハギの変形の可能性も捨てきれない。(2)(3)の写真は花に紅白のコントラストが見られ、全体に白っぽく見えるので、ツクシハギと思われるが、道路の法面に植栽されたものであり、園芸種の可能性が強いので、純然たるツクシハギとは断定し難いところがある。(4)の写真については5月末の撮影で、花期の早いミヤギノハギの品種だろうが、これも植栽で、園芸種と見られる。(5)のシロバナハギは曽爾高原で見かけたものであるが、これも植栽起源であろう。自生とは考え難いところがある。  我迷妄蟋蟀一途闇に鳴く