<2100> 大和の花 (332) アカバナ (赤花) アカバナ科 アカバナ属
この項ではアカバナ科の草花を見てみたいと思う。まずはアカバナから。アカバナは山野の湿地に生える多年草で、茎は直立し、高さは30センチから80センチになる。茎には細かい毛が生え、茎の下部では対生し、上部では互生する葉は長さが2センチから6センチの卵形乃至は卵状楕円形で、基部は茎を抱くことが多い。茎や葉は赤みを帯びることもあるが、秋に紅葉するのでこの名があると言われる。
花期は7月から9月ごろで、葉腋に直径1センチほどの淡紅色の4弁花を開く。花弁の先端は2裂し、萼には腺毛が多く見られる。アカバナ属の仲間は子房が花の下側につき、花柄のように見えるのが特徴で、この細長い部分が棒状の蒴果となる。種子には先に種髪(しゅはつ)と呼ばれる毛がつき、タンポポの冠毛と同じく、種子を風に運ばせる役目を果たす。
北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でもときおり見かける。 写真はアカバナ。仲間に山地性のイワアカバナやケゴンアカバナが見られ、みなよく似るが、本種では雌しべの柱頭が棍棒状になる特徴があり、見分けのポイントになる。
丹精の証一面稔りゐる
<2101> 大和の花 (333) イワアカバナ (岩赤花) アカバナ科 アカバナ属
山地の湿り気のあるところに生える多年草で、高さ15センチから60センチほどの茎には屈毛が生える。長楕円状披針形の葉は長さが2センチから8センチで、鋸歯があり、対生し、一部互生する。花期は7月から9月ごろで、茎上部の葉腋にアカバナと同じく細長い棒状の子房の先に4弁の花をつける。花弁は白色から淡紅色で、先端が浅く2裂し、柱頭はアカバナと異なり頭状になる。
北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、アムール地方などに見えるという。大和(奈良県)では大峰山脈や台高山脈の標高1000メートルから1500メートルの深山でよく見かける。殊に湿った岩場に見られるのでこの名がある。 写真はイワアカバナ(稲村ヶ岳登山道ほか)。白い頭状の柱頭が見て取れる。 秋雨や傘の列見ゆ法隆寺
<2102> 大和の花 (334) ケゴンアカバナ (華厳赤花) アカバナ科 アカバナ属
冷温帯から亜高山帯の湿り気のあるところに生える多年草で、茎の高さは10センチから50センチほどになり、イワアカバナ(岩赤花)に似るが、茎の稜上2列に屈毛が生える特徴により判別される。イワアカバナには茎全体に伏毛が見られる。葉は概ね対生し、長楕円状披針形で、長さは2センチから7センチほど。縁には毛が目立つ。
花期は7月から9月ごろで、花は花柄のような長い子房の上に1個つき、淡紅色から白色の4弁花で、花弁の先端は他種と同様2浅裂する。雌しべの柱頭はイワアカバナと同じく頭状になる。北海道、本州の近畿地方以北、四国(標高の高い山岳帯)に分布し、国外では台湾、朝鮮半島、中国、アムール地方等に見られるという。大和(奈良県)では既知の自生地は1箇所とされ、個体数も少なく絶滅寸前種にあげられている。
写真はケゴンアカバナ。ケゴン(華厳)の名は日光の華厳の滝に由来するか。大和(奈良県)では大峰山脈の高所、標高1700メートル付近の湿気をともなった辺りにわずかに生えている。左の写真では茎の稜上に生える屈毛が確認出来る。近くにはクリンユキフデ(九輪雪筆)やヒナノウスツボ(雛の臼壷)が見られた。 秋天や空から物の降るニュース
<2103> 大和の花 (335) ミズタマソウ (水玉草) アカバナ科 ミズタマソウ属
山野の林内や林縁の草地などに生える多年草で、高さは20センチから60センチほどになり、茎には下向きの軟毛が生え、節は赤みを帯びるものが多い。葉は長さが5センチから大きいもので13センチほどになる長楕円形で先は尖り、縁には極めて浅い鋸歯が見られ、柄はなく対生する。
花期は8月から9月ごろで、上部葉腋に花序を出し、白色乃至は淡紅色の小さな花をつける。花は2数性で、萼、花弁、雄しべが2個ずつつく。アカバナ科特有の子房下位で、花の下側に実が出来る。実は堅果で、広倒卵形になり、直径数ミリ。表面をかぎ状の毛が被い、この子房、即ち実の部分が露の水玉のように見えることによってこの名があるという。北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でもときおり見られる。 写真はミズタマソウ(曽爾高原)。 秋天や平和主義なる鐘の音
<2104> 大和の花 (336) タニタデ (谷蓼) と ミヤマタニタデ (深山谷蓼) アカバナ科 ミズタマソウ属
タニタデ(谷蓼)は山地の湿ったところに生える多年草で、渓流沿いでよく見られるのと姿がタデに似ることによりこの名がある。茎や葉柄はほぼ無毛で、赤みを帯び、高さは20センチから50センチほど。葉は対生し、3センチから8センチの長卵形で、先は尖り、波状の鋸歯が見られる。
花期は7月から9月ごろで、茎頂に総状花序を出し、白色乃至は淡紅色の小さな花をつける。花はミズタマソウ(水玉草)と同じく2数性で、萼、花弁、雄しべが2個ずつつき、下向きに開く。アカバナ科の仲間らしく花弁は浅く2裂する。北海道から九州までほぼ全国的に分布し、大和(奈良県)でも登山道でときおり出会う。
ミヤマタニタデ(深山谷蓼)はタニタデとほぼ同じ分布域に自生し、全国的に見られ、花の時期もほぼ変わらないが、タニタデよりも小形の多年草で、葉が三角状広卵形であるため、長楕円形のタニタデとは一目で判別出来る。 写真は左の2枚がタニタデ、右の2枚がミヤマタニタデ。違いは葉の形でわかる。いずれも大峰山系の深山で。 庭の面(おも)小さな秋がそこここに
<2105> 大和の花 (337) チョウジタデ (丁字蓼) アカバナ科 チョウジタデ属
水田や湿地に生える1年草で、高さは大きいもので70センチほどになる。よく枝を分け、ほぼ直立し、水田の雑草として知られ、稲より高く伸び出しているのを見かけることがある。茎には稜があり、赤みを帯びるものが多い。葉は長さ3センチから10センチほどの披針形で互生し、秋が深まると紅葉する。
花期は8月から10月ごろで、稲が黄金色の穂を垂れるころ、葉腋に柄のないミリ単位の小さな黄色の花をつける。花は5弁花で、萼と同等か短い特徴がある。この花がチョウジ(丁子)の花に似て、全体的にタデ科を思わせることからこの名がつけられたという。別名のタゴボウ(田牛蒡)は根がゴボウに似るからと言われる。果実は蒴果。日本全土に分布し、大和(奈良県)でも普通に見られる。
写真は水田に生え出し、花を咲かせたチョウジタデ。花は小さく目立たない。なお、花弁の形が丸く、普通花弁と花弁の間に隙間が見られないウスゲチョウジタデ(薄毛丁字蓼)があり、間違いやすいが、こちらは萼片が花弁より短く、紅葉しない特徴がある。
花に実の概ね秋といふ季節
<2106> 大和の花 (338) ヒレタゴボウ (鰭田牛蒡) アカバナ科 チョウジタデ属
水湿地に生える熱帯米原産の1年草で、水田の傍などでよく見かける。昭和30年に松山市ではじめて見つかり、その後、四国から本州の関東地方以西、北部九州に広く繁殖し、今では普通に見られ、群生しているものにも出会う。所謂、外来の帰化植物である。大和(奈良県)でも年ごとに増える傾向にあり、水田雑草の1つになっている感がある。
4稜がある茎は直立し、大きいものでは高さが1メートルを越える個体も見られ、よく枝を分ける。葉は披針形で、先は尾状に尖り、基部は茎に流れて翼になってつく。花期は8月から10月ごろで、葉腋に直径2.5センチほどの黄色の4弁花をつけ、よく目につく。果実は蒴果。 ヒレタゴボウの名はチョウジタデと同じく根がゴボウに似、葉の基部の翼を鰭(ひれ)と見たことによる。別名はアメリカミズキンバイ(亜米利加水金梅)。 写真はヒレタゴボウ。戦後に入って来た草花であるが、昔から存在しているような雰囲気がある。 秋晴れや大和は黄金色の海