大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年02月28日 | 植物

<2611> 大和の花 (735) ウ ド (独活)                                            ウコギ科 タラノキ属

            

 山野に生える多年草で、高さは1.5メートルほどになる。茎は太く、葉は2回羽状複葉で、先が尖り、縁に鋸歯が見られる卵形の小葉が5個から7個つき、両面に短毛がある。葉柄は長く、互生する。花期は8月から9月ごろで、茎の上部で枝を分け、球状の散形花序を多数円錐状につけた大形の花序を出す。

  花は淡緑白色の5弁花で、直径3ミリほどと小さく、雄しべも雌しべも5個で、葯は白色。円錐花序の上部に両性花、下部に雄花がつき、両性花の子房は下位で、結実を見る。液果の実は直径3ミリほどの卵球形で、秋になると、黒紫色に熟す。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国、千島、サハリンに見られるという。大和(奈良県)では山野の林縁や草地で見られる。山野に自生するものをヤマウド(山独活)、太陽光を遮断して暗闇で育てる軟白栽培のものをシロウド(白独活)と呼ぶ。

 ヤマウドは香りが強く、若芽、若葉、つぼみ、茎をてんぷら、ぬた、酢味噌和え、味噌汁の実などにする山菜として名高い。シロウドはサラダや煮浸しなどにする。また、ウドは根茎を独活(どくかつ)と称し、乾燥して煎じたものを服用すれば、頭痛、目まい、歯痛などに効くという。

 なお、ウドの名は土に埋めて育てる埋土(うど)による説などがある。独活の語源ははっきりしない。「ウドの大木」とは、大きいウドが役に立たないことから図体ばかりでかく中身がともなわない意に用いられる。 写真はウド。左から自生のもの、花序がはっきり見えるもの(大が両性花序、小が雄花花序)、両性花序のアップ、果期の姿(奥宇陀の曽爾高原ほか)。

   実は成果種子は明日への望みなり思へば種子は恃みなりけり

<2612> 大和の花 (736) トチバニンジン (栃葉人参)                          ウコギ科 トチバニンジン属

                                  

 山地の林内に生える多年草で、茎は直立し、高さは50センチから80センチほどになる。葉は5小葉からなる掌状複葉で、長い柄を有し、3個から5個が茎頂に輪生してつく。花期は6月から8月ごろで、茎頂から一個の長い花茎を立て、その先端に球状の散形花序を出して黄緑色の小さい花を多数つける。この花は地味であるが、液果の実は赤く熟し、よく目立つ。

 北海道(南西部)、本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では南部の紀伊山地でよく見かける。トチバニンジン(栃葉人参)の名は葉が栃の葉に似て、横に這う根茎を人参に見立てたことによる。別名のチクセツニンジン(竹節人参)は根茎が竹の根節に似ることによるという。また、大和の吉野地方ではヨシノニンジン(吉野人参)の名で呼ばれるが、これは吉野地方に産する意による。

 トチバニンジンが発見されたのは江戸時代初期のころで、亡命帰化人の何欽吉(かきんきち)という明国人が亡命先の薩摩で医業の傍ら見つけたという。トチバニンジンが中国の薬用人参に似ていたことがきっかけだったようで、これを和人参とし、薩摩人参の名で広く行き渡らせたという。根茎を日干しにし、煎じて健胃、去痰に用いられる。

 写真はトチバニンジン。左から花期の姿(天川村の山中)、渓谷の岩場にソバナの花と隣り合わせの赤い実をつけた個体、赤い実のアップ(上北山村の山中)。    幸運もあれば不運もあるこの世努力のほかに努力のほかに

<2613> 大和の花 (737) カクレミノ (隠蓑)                                            ウコギ科 カクレミノ属

                

 海岸の近くに多く見られる暖地性の常緑小高木で、高さは3メートルから8メートルほどになる。樹皮は灰白色で滑らか。丸い皮目がある。この樹皮にはウルシ(漆)成分の白い樹液が含まれ、傷をつけると出て来るが、皮膚につくとかぶれるので注意が必要と言われる。この樹液は黄漆(おうしつ)と称せられ、ウルシの代用として家具などに塗布される。

 葉は長さが7センチから12センチほどの広卵形乃至は菱形状広卵形で、表面は濃緑色で光沢があるが、木の成長に従って変化が見られ、若木のときは3裂から5裂し、成木になるに従って3浅裂の葉と縁の全く裂けない葉とが混生するようになり、この葉の変異によって別種を思わせるところがある。写真は春日大社神苑の萬葉植物園で撮らせてもらったものであるが、2株あり、2株はその特徴をよく示している。

 雌雄同株で、花期は7月から8月ごろ。枝先の葉の付け根から長い花序柄を伸ばし、球形の散形花序を1個から3個つけ、淡黄緑色の小さな花を多数咲かせ、花序には両性花ばかりのものと、両性花と雄花の混生するものとがある。花弁、雄しべとも5個、花柱は1個で数裂する。液果の実は長さが1センチほどの広楕円形で、晩秋のころ黒紫色に熟し、先に花柱が残る。

 本州の関東地方南部以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島南部と台湾に見られるという。大和(奈良県)では南部の紀伊山地に点在するが、あまり多くない。カクレミノ(隠蓑)の名は茂る葉を蓑に見立てたことによるという。花や実が葉に隠れるようにつくからだろう。

  仁徳天皇の皇后磐之媛命が大嘗会の酒器を盛るミツナカシハ(御綱葉)を採取のため紀伊国熊野の岬に赴いた。その間に天皇が八田皇女を妃に迎え入れたことに磐之媛命は激怒し、ミツナカシハを捨てて天皇の元に帰らなかったという逸話が『日本書紀』や『万葉集』等に見える。また、『延喜式』には三津野柏とあり、このミツナカシワにオオタニワタリ(大谷渡)やカクレミノの説が有力視されている。

  大和(奈良県)ではポピュラーな木でなく、一般にあまり知られていない樹種であるが、この説によると、万葉植物として相当昔からその存在が知られていたことになる。 写真はカクレミノ。実(左)、枝葉(中2枚)、幹(右)。

    日常の日々を重ねて時は往きゆきゆきゆきて今日の日常

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年02月27日 | 写詩・写歌・写俳

<2610> 余聞、余話 「雛祭りに寄せて」

       雛飾り雪洞の灯の暖かさ

 三寒四温はあるものの、三月の声を聞くようになっていよいよ春めいて来たという感がある。地球温暖化の影響か、暖冬は年々強まっているといったところ。奈良では、東大寺二月堂のお水取りが終わると春本番と言われが、この言葉が当てはまらないような昨今の暖かさであり、季節の移ろいではある。

 そんな季節感の今日このごろであるが、雛祭りの三月三日が近づき、例年どおり、我が家でも雛飾りを出した。雛祭りは上巳の節句に行われるもので、元は旧暦の三月三日(今年で言えば四月七日)の行事だった。それが戦後になって間もなく、節句も新暦に合わせるに至り、上巳の節句は今の三月三日に固定した。

       

  この上巳の節句は女の子の節句で、桃の節句とも呼ばれる。節句が旧暦で行われていたころは桃の花が盛りに当たること。また、桃に霊力が宿るとする中国古来よりの言い伝えがあり、この桃によって女の子が元気に育ち、子孫繁栄に繋がるという意味が込められているなどにより、雛祭りに桃の花は欠かせないという次第である。

  しかし、今の三月三日は梅の花の時期で、桃の花には届かず、苦肉の策として室咲きの温室育ちの花桃が用意されるといった風になっている。ところが、今年の暖かさは桃の花の咲く時期の気温にも感じられ、桃の花が今にも咲き出しそうな気配に思いが行くといったところにある。

 写真は古民家を背景に咲く薄紅梅の枝垂れ(左・大和郡山市の大和民俗公園)、我が家の雛人形(中)、畑一面に咲く菜の花(右・同民俗公園)。 それにしても、自然とともにあったこうした暦にある節句に因む雛祭りのような年中行事も純然たるところが薄れ、人の思惑にはめ込まれているように感じられるところが年々強くなっているのに気づく。

      古き家に添ふごと枝垂れ梅の花

    菜の花のしあはせ色に染まりゆく


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年02月24日 | 植物

<2607> 大和の花 (732) タラノキ (楤木)                                  ウコギ科 タラノキ属

         

 丘陵や山地の荒地などに多く見られる落葉低木または小高木で、普通ほとんど分枝せず、高さは2メートルから6メートルになる。樹皮は灰褐色で、短く鋭い刺がある。葉は長さが50センチから1メートルの2回羽状複葉で、羽片は5個から9個、各羽片には小葉が多数つき、小葉は長さが5センチから12センチの卵形乃至は楕円形で、各葉とも同等。先は尖り、縁には不揃いの鋸歯が見られる。葉にも葉柄にも刺があり、傘を開いたように四方へ突き出す。

 雌雄同株で、花期は8月から9月ごろ。幹の先端に長さが30センチから50センチの複散形花序を広げ、緑白色の小さな花を多数つける。花序の枝の上部には両性花、下部には雄花がつくことが多い。両性花は雄しべが先に熟し、花弁や雄しべが落ちてから雌しべが熟すようになっている。液果の実は直径3ミリほどの球形で、秋に黒く熟す。

 幹頂の若芽はウド(独活)の芽に似ているので、ウドメ、ウドモドキとも言われる。てんぷら、お浸し、ごま和え、刻んでタラ飯などにして食べるので、「春の山菜の王者」と言われるほどである。また、樹皮は薬用にされ、糖尿病の民間薬としてビワの葉などと煎じて飲めば効能があるという。

  北海道、本州、四国、九州、沖縄と全国各地に分布し、朝鮮半島、中国東北部、サハリン、東シベリアなどに見られるという。大和(奈良県)では全域に見られ、垂直分布の幅も極めて広く、近畿の最高峰である大峰山脈の主峰八経ヶ岳(1915メートル)の山頂付近でも見かける。 写真はタラノキ。花期の姿(左は山足、右は八経ヶ岳山頂付近の個体。背後にシラビソが見られる)、次ぎは花序のアップ(小さい5弁花が多数に及ぶ)、右端は若芽。 

  それぞれに役目を負へる花の数枝木いっぱいにぎやかに見ゆ

<2608> 大和の花 (733) キヅタ (黄蔦)                                           ウコギ科 キヅタ属

           

 照葉樹の林内や林縁などに生える常緑つる性の木本で、気根を出して他樹や岩崖などに這い上って生育する。樹皮は灰色で、気根が目立つ。本年枝は緑色。葉は長さが3センチから7センチほどの3角形乃至は5角形で、掌状に浅く3裂から5裂する。先は尖り、基部は切形または心形で、縁に鋸歯はない。質は革質で、表面には光沢がある。

 花期は10月から12月ごろで、枝先に花軸を出し、その先から放射状に花柄を伸ばし、黄緑色の小さな花を多数つける。花弁、雄しべとも5個、葯は黄色から開花すると赤褐色に変化する。花盤は暗紅色。液果の実は直径1センチ弱のほぼ球形で、はじめ赤紫褐色になり、翌年の5、6月ごろ黒紫色に熟す。先端に花柱が残り、よく目につく。実には種子が5個入っている。

 北海道南部、本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では、朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域に分布する。キヅタ(木蔦)の名はツタに似て、木本のため。古名はカベクサ(壁草)。フユヅタ(冬蔦)の別名でも知られる。

  日本ではあまり利用されていないが、ギリシャ神話では酒の神バッカスに捧げられたことで知られ、居酒屋の目印に飾られたりして来た。茎や葉には毒性があるが、漢方では、葉の煎汁を発汗のために服用し、生の葉はすりつぶして、皮膚病に塗布し用いて来た。 写真はキヅタ。左から花をつけた花序(雄しべの葯が黄色と赤褐色の両方見える)、5弁花のアップ(葯は赤褐色)、実をいっぱいつけた果期の姿、若い実をつけた枝(広陵町の馬見丘陵公園ほか)。 思惑は人の数ありそれぞれにしてある常を世の中といふ

<2609> 大和の花 (734) ヤツデ (八手)                                           ウコギ科 ヤツデ属

              

 暖地の海岸近くの山地に生えることが多い常緑低木で、人家の近くや社寺林などでも見かける。高さは1メートルから3メートルほどになり、樹皮は灰褐色。若い枝は緑色で、褐色の長い毛が生える。葉は直径20センチから40センチほどで、掌状に深く7裂から9裂する。この葉の形によりヤツデ(八手)の名がある。裂片には鋸歯があり、質は厚く、表面に光沢がある。葉柄は30センチほどと長く、互生する。

 雌雄同株で、花期は11月から12月ごろ。枝先に球形の散形花序を円錐状につけ、白い小さな花を多数つける。花序の上部には両性花、下部には雄花がつく。花弁と雄しべは5個で、花弁は完開すると反り返る。葯は白色。両性花では雄しべが先熟し、自家受粉を避ける仕組みになっている。液果の実は直径1センチ弱の扁球形で、次の年の春に赤紫褐色から黒紫色に熟し、先端に花柱が残る。

 本州の福島県以南の太平洋側、四国、九州、沖縄に分布し、国外での分布ははっきりしていない。学名はFatsia japonica。大きい葉の形状によりテングノハウチワ(天狗の葉団扇)の別名で呼ばれることもある。大和(奈良県)では北部地域の二次林の林縁などに多く見られるが、純然たる自生はなく、植栽起源による野生化と見られている。

 ヤツデの葉や実にはヤツデサポニンという有毒物質が含まれ、昔は大きい葉の形状にもより魔除けとして民家の庭に植えられて来た。殊に便所の傍でよく見られたが、これは葉を蛆殺しに用いたことによると言われる。だが、葉を乾燥させたものを八角金盤と称し、去痰薬としたほか、葉を風呂に入れてリュウマチにも用いたと言われる。

 写真は左から花期の姿(球形の大きいのが両性花、小さいのが雄花)、両性花が見られる花序(白い雄しべが目立つ雄性期の花と淡緑色の実のように見える雌性期の花)、雪を被った実(生駒山ほか)。 意思意思意思意思の表出その行方涙ぐましくまた悩ましく

 


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2019年02月23日 | 写詩・写歌・写俳

<2606> 余聞、余話 「フキノトウとツクシ」

      はやぶさ2着陸成功蕗の薹

 三寒四温のこのところ四温を思わせる日々が続いている。ロウバイは花を終え、このところウメが花数を増やして辺りを明るくしている。奈良ではアセビがそろそろである。めっきり少なくなったが、山里の川筋ではネコヤナギがあの銀白色の花穂を軟らかな日差しに輝かせているころである。西吉野の里のフクジュソウは多分パラボラアンテナのような黄色い花を太陽に向け、申し分のない陽光を欲しいままにしているに違いない。

         

  そんなこの時期、春を呼ぶように生え出して来るのがフキノトウとツクシである。フキノトウはフキの花芽で、湿潤なところに群がって出て来る。ツクシは日当たりのよい土手の草地などに生え、どちらも春の先きがけで、私たちには待たれる心持ちの存在である。今日はこのフキノトウとツクシを思いながら歩いた。フキノトウは我が家の庭の片隅に生えているので、簡単に写真に撮れる。

      行く人に声かけられてつくしん坊

  ツクシの方は毎年早く生え出す場所を知っているので、そこに出かけた。日がよく当たる遊歩道の土手で、このところの気温上昇によるものか、枯草が一面に広がる硬い土を割って坊主頭を覗かせていた。まだ、生え出したばかりのものである。撮影していると道の上から声がした。ツクシの写真を撮っているのがわかっているらしく、「ありますか」と。「まだ出たてですが」と答えながらそのツクシを撮った。  写真は我が家の庭のフキノトウ(左)と遊歩道の土手に生え出したツクシ(右)。


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2019年02月20日 | 植物

<2603> 大和の花 (729) タカノツメ (鷹の爪)                                    ウコギ科 タカノツメ属

          

 山地に生える落葉小高木または高木で、高さは4メートルから15メートルほどになる。樹皮は灰白色で、丸い皮目がある。葉は普通短枝の先に集まりつく。基本は3出複葉で、単葉も見られる。小葉は長さ5センチから15センチの卵状楕円形で、先は鋭く尖り、基部はくさび形。縁には細かい鋸歯がある。葉柄は長さが小葉の長さとほぼ同等で互生する。秋の紅葉は定評がある。

 雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ。短枝の先に散形花序を出し、黄緑色の小花を多数つける。花弁は4個で、長さ2ミリほどの狭卵形。雄花は雄しべが4個と小さな花柱が1個。雌花は雄しべがなく、2裂する花柱が1個つく。液果の実は長さ数ミリの広楕円形で、秋に熟し、黒紫色になる。

 北海道、本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では全域に見られ、コシアブラと同様、垂直分布の幅も広く、高山にも見られる。タカノツメ(鷹の爪)の名は短枝の冬芽が鷹の爪に似ることによるという。別名イモノキ(芋の木)。山菜として知られ、材は軟らかいので、経木や箸などに用いられる。写真はいっぱい花をつけた雄株(左)、雄花を咲かせる枝(中)、黄葉の中で熟した実(大和郡山市の矢田丘陵、天川村北角の布引谷)。 に出でゆきしこの身に出会ひたるそれや思ひの花の面影

<2604> 大和の花 (730) ハリギリ (針桐)                                            ウコギ科 ハリギリ属

              

 山地に生える落葉高木で、照葉樹林からブナ林帯などに生える垂直分布の幅が非常に広い樹種として知られる。高さは大きいもので25メートルに達するものもある。樹皮は灰白色で、老木になると、黒褐色になり、縦に多数の割れ目が入る。枝が多く、樹冠は丸く、こんもりとした印象を受ける。幹や枝に鋭い刺が多く、大きい葉をキリ(桐)の葉に見立てたことによりこの名がある。

 葉は長さが10センチから30センチのほぼ円形で、5裂から9裂の掌状になる。裂片は先が尾状に尖り、縁には細かく鋭い鋸歯が見られる。質は厚く表面は無毛で光沢があり、裏面は脈の腋や上に毛がある。葉は葉身と同等か長い柄を有し、枝先に集まり互生する。

 花期は7月から8月ごろで、枝先に散形花序を出し、小さな花を多数つける。花は楕円形で、長さが2ミリほどの花弁5個、雄しべ5個。葯は赤紫色で目につく。雌しべの花柱は2裂する。液果の実は直径数ミリの球形で、緑色から赤褐色になり、熟して黒くなる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、南千島、サハリン、朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では全域的に分布し、上北山村の大台ヶ原ドライブウエイ沿いにはよく目につく個体がある。材は良質で知られ、家具や楽器、彫刻材として評価されている。根皮は風邪や去痰の薬用、樹皮はリュウマチなどの湿布薬に用いられ、若葉は食用にされて来た。 

  写真はハリギリ。円形の花序をいっぱいつけた花期の枝木(左)、長い柄がある花序(中・花には南西諸島方面からの渡りをするチヨウのアサギマダラが来ていた)、花序のアップ(右・多数の小花が集まり、雄しべが林立状にびっしり。盛りを少し過ぎているようで、褪せた赤紫色の葯が目についた)。いずれも大台ヶ原ドライブウエイ。 

  こつこつと撮り貯めて来し花の数一つ一つに思ひ出の色

<2605> 大和の花 (731) ハリブキ (針蕗)               ウコギ科 ハリブキ属

       

 亜高山(寒温帯)域に生える落葉低木で、ほとんど枝を分けず、高さは大きいもので1メートル弱。樹皮は褐色。葉は長さが20センチから40センチのほぼ円形で、茎の先に2個から4個つき、掌状に7裂から9裂する。裂片は更に不規則に切れ込み、先が鋭く尖る。縁には不揃いの鋸歯があり、これも針状に尖る。また、長い柄によって互生する葉は平らに広がり、両面脈上に針状の大きい刺がある。また、茎にも鋭い刺があり、刺に被われたその防御態勢は他に類を見ないほどである。

 雌雄異株で、花期は6月から7月ごろ。刺のある大きな葉に囲まれ、その葉に守られるようにして枝先に円錐花序を出し、淡緑色のミリ単位の小さな花を多数つける。雄花序には花弁と雄しべが各5個、雌花序には雄しべがなく、花弁は早落する。液果の小さい実は秋に赤く熟す。

 北海道、本州(中部地方以北と紀伊半島)、四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では大峰山脈や台高山脈の高所に自生しているが、自生地も個体数もわずかばかりで、シカによる食害の影響も言われ、奈良県のレッドリストには絶滅寸前種にあげられている。なお、ハリブキ(針蕗)の名は大きい葉をフキ(蕗)に見立て、鋭い針の刺に被われていることに由来する。

  八経ヶ岳(1915メートル)の産地は、国の天然記念物に指定されているオオヤマレンゲ(大山蓮華)の自生地にあり、シカ避けの防護ネットに守られ、健在である。 写真はハリブキ。花を咲かせる雄株(左・背後にオオヤマレンゲの若木が見える)、雌花をつけた釈迦ヶ岳の雌株(中)、赤い実が印象的な雌株(右・シカの食害の危険にさらされている)。

 花実とは希望如何なる花実にも加へてもって働きがある