大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年02月28日 | 写詩・写歌・写俳

<3694> 野鳥百態 (42) 翼に思う

        飛ぶために

           翼を持つ身

           翼ある

           ゆゑに飛翔の

           鴨の一群

 動物の中で鳥類の特徴をあげるとすれば、翼、嘴、羽毛であろうか。鳥たちにとってこの三点の肉体的特徴は自然の中で生きて行く上に必要欠くべからざる共通点としてあるように思える。

   嘴は捕食に関係し、餌とする食い物によって異なる。それは肉食と草食、軟らかいものと硬いもの、大小多少、さまざまで、その違いは野鳥たちの食生活を観察していればわかる。例えば、水辺を暮らしの場所にしている鳥たちは水草や魚、甲殻類などを主食にしている。その主食の捕食に適った嘴を持っている。

   羽毛は自らの体を守るためにあり、殊に外気の寒暖に対応している。寒さが厳しい日でも、羽毛によって耐えることが出来る。極寒に膨れ上がって丸くなっている小鳥を目撃することがあるが、あの光景は羽毛を目いっぱい活用しているように見える。それは皮膚を縮こまらせ、羽毛の内側に暖かな空気層を作り、寒さを凌いでいる図に見える。

                           

   翼はもちろん空中を飛ぶためにあるもので、中にはペンギンのように翼が退化して思うように飛べないものもいるが、大概は空中を飛ぶために機能している。この翼も鳥たちにとっては生きてゆく上の生命維持に重要なもので、飛ぶことが思うに任せないペンギンがいみじくもそれを物語っている。

   ペンギンは飛べないけれども、海に潜り、その大海原の水中ではものすごい勢いで泳ぎ回ることができ、餌の魚を思う存分捕食することが可能になっている。言わば、翼が退化して空中を飛ぶことができなくても生きて行けるようになっているわけである。

 ここで、翼を持つ鳥の中でカモの仲間のマガモに焦点を当てて見てみたいと思う。マガモは典型的な水辺の鳥で、大和地方では秋が深まるころ各地の池にやって来て、越冬し、春になると北国に帰って行く。所謂、冬の渡り鳥である。どこから来てどこに帰って行くのか、シベリア辺りか、よくはわからないが、往復数千キロには及ぶ飛翔距離の旅をするということなのだろう。その長い距離を左右の翼の機能を発揮することによって叶える。

 ここで思われるのが、なぜ渡りをするのかということであり、翼がなければこの渡りはできないということである。では、なぜ渡りをするのであろうか。それは生存のための食を求める旅に違いない。そして、渡りの旅をこなすには強力な翼が必要であること。この強力な翼をマガモは持ち得ているということになる。

 越冬する池のマガモをうかがえば、水面にあって餌を漁っているか、泳ぐか、岸に上って休んでいるかで、上空を飛ぶ姿はほとんど見受けない。ときに何かに驚いて飛び上ることはあってもすぐ着水する。だが、北帰行が始まる春になると、よく群になって飛ぶのを見ることがある。きっと渡りのときは一羽でなく、集団で飛翔し渡って行くのに違いない。この間は思いがけず、数羽が群れになって飛ぶ姿を目撃し、写真にした。

 翼は力強く羽ばたき、向かう先にまっしぐら、脚をうしろに仕舞い、一途に飛び行く姿には美しさがあり、その飛翔における力強さは生きるための姿に見え、何とも感動的で、渡りにおける悲願と祈願が思われた。そして、マガモの飛翔に、翼は大空を飛び行くためにあるのだと思えたことではあった。 写真は雌雄数羽によるマガモの飛翔(馬見丘陵公園)。

 


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2022年02月27日 | 植物

<3693> 奈良県のレッドデータブックの花たち(183)ツルマンリョウ(蔓万両)    サクラソウ科(旧ヤブコウジ科)

                                 

[別名] ツルアカミノキ

[学名] Myrsine stolonifera

[奈良県のカテゴリー]  希少種(環境省:準絶滅危惧)

[特徴] 照葉樹林の林床に生える常緑小低木で、あまり分枝しない枝がつる状に伸び、他物に巻きついたり絡んだりすることなく、1メートルほどに斜上し、その後、自然に倒れ、そこに根を下ろして先を伸ばす。これを繰り返し、林床を被うほどに生育する。

   若い枝は緑色で、古くなると黒褐色になる。葉は長さが5~10センチの長楕円形または狹倒卵形で、先が尖り、縁に鋸歯はなく、質はやや革質で、両面とも無毛。表面は濃緑色で、ごく短い柄を有し、互生する。

 花期は6~7月。雌雄異株で、雌雄とも葉腋に白い小さな花を集めてつける。花冠は5深裂し、雄しべは5個、雌しべは1個。雄花では雌しべが退化し、雌花では雄しべの生育が悪い。雌花は咲き終わると萎れ、翌年の4~5月に子房が膨らんで実になる。実は直径5ミリほどの球形の核果で、その年の9月ごろ赤く熟す。ツルマンリョウ(蔓万両)の名はつる状の枝にマンリョウのような赤い実をつけることによる。

[分布] 奈良県、広島県、山口県、鹿児島県(屋久島)、沖縄県(本島)。

[県内分布] 宇陀市、吉野町、東吉野村。

[記事] 日本で最初に見つかったのは奈良県の吉野町河原屋の妹山樹叢で、奈良県ではほかにも吉野町山口の高鉾神社、東吉野村小の丹生川上神社中社、同村鷲家の八幡神社、宇陀市榛原町自明の初生寺、同市榛原町檜牧の御井神社などの境内地や社寺林内に自生地がある。

 このように大和地方(奈良県域)におけるツルマンリョウの自生地はほとんどが社寺の領域にあり、一種の聖域としてツルマンリョウに適した生育環境が保持されて来たことによるものと見られ、太古の時代にはもっと広い範囲に自生していたものと想像される。なお、妹山樹叢と丹生川上神社中社の個体群は国の天然記念物、ほかの自生地の個体群も奈良県の天然記念物に指定されている。 写真はツルマンリョウのツボミ(左)と果期の姿(右)。いずれも東吉野村の丹生川上神社中社。

   生きものというのは

   生きる権利と

   生きる義務において

   大小多少に関わらず

   みなそれぞれに

   生きている


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年02月26日 | 創作

<3692> 写俳二百句(113) 頬 白

             頬白や汝も生きとし生けるもの

                           

 今日二十六日は昨日までと違い、大和地方は穏やかな暖かい日になった。最近の天気予報は正確で、予報通りになることがほとんどである。週間天気予報では今日から暖かくなると言っていた。で、その通りになり、快晴の温暖な日中になった。その暖かさに誘われ馬見丘陵公園に出かけた。公園は土曜日でもあり、人出が多かった。

 堅い芽を温みのある日差しが和らげているサクラの枝にホオジロが来ていた。ホオジロもその日差しを受け、はつらつとして見えた。生きとし生けるものの望む春の兆しにホオジロの眺めは久しぶりに心地よいものであった。

   頬白や天下泰平よろしけれ

 世の中は新型コロナウイルスの感染症の蔓延に悩まされ、全世界が右往左往している最中、ロシアがウクライナへ侵攻し、戦争を始めた。どこまで拡大するのか、予想がつかない展開を見せている。この戦争の波はジワリとしかし速やかに拡大し、関わりのない日本にも影響しかねない様相である。果たして、どのようになるのか。

   久しぶりに出会った春の訪れを告げるホオジロの姿は、この人間さまの右往左往などには感知しないといった風に芽立ちの枝に来ていた。 写真はサクラの枝にとまるホオジロ。

 


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2022年02月25日 | 写詩・写歌・写俳

<3691> 余聞 余話 「コロナワクチン三回目の接種に当たって」

    安心を果たして好まぬ者やある生きてゐる身の思ひの滴

 このほど(二月二十二日)、三回目の新型コロナウイルス予防のワクチン接種を受けた。初回が昨年の六月十四日、二回目が七月五日で、今回。三回とも望んで米国ファイザー社製のワクチンを接種してもらった。

   副反応を振り返ってみると、初回は気にかかるような症状は出なかった。二回目は頭に霞みがかかったようになり、少々倦怠感もあって、考えがまとまらないような気分に陥ったが、二、三日ですべての症状は収まった。熱と痛みは出なかった。

   今回の三回目は接種した場所に少々疼痛があり、二日後に痒みに変わり、以後、収まった。また、翌朝に七度台の発熱があったが、これも半日ほどで平熱に戻った。以上のごとくで、ワクチンの副反応についてはこれというほどのものはなかったということになる。

   それにしても、基礎疾患を抱える高齢者たる私にとって、新型コロナウイルス感染の脅威はただごとではなく、不安極まりないものがある。で、ワクチンが望まれたが、このほどのワクチン接種によって百パーセントではないが、一つの安心をいただいたということであり、この気分は結構大きく、ありがたいことではある。

                         

   博学の巨人南方熊楠は、安心について次のような意味のことを言っている。「安心には等差があるものの、安心は愉快の極みであるから嫌うものはなく、好まれる」と。熊楠のこの言葉はウイルスに対するワクチン接種の状況にピッタリ当てはまる言葉に思われる。完全でなくても一の安心より二の安心、二の安心より三の安心が、安心の実況に近くなるという。

   熊楠は自分の歯の滓を引き合いに出して、元がなくなるのが一番であるが、それが不可能ならばその元の脅威をなるべく妨げる努力が必要で、一よりは二、二よりは三と対処するのがより安心に近づき、愉快に通じると言っている。

   とやかく言わず、政府はワクチンを望む国民には逸早く接種し、安心の心理を広く行き渡せることである。これが新型コロナウイルス感染症の現状における対策の最善の方法で、今のところこの方法以外よりよい方法はないと思える。とにかく、現状ではワクチンを行き渡らせること。ワクチン接種に徹すれば、社会的混乱状況も緩和して行くことができる。

   そして、そのうちインフルエンザの特効薬のような有効な治療薬ができれば、鬼に金棒となり、新型コロナウイルスに対する安心はより増すことになる。だが、現況においての安心はワクチン頼りで、これを推し進める以外にない。しかし、接種率が上がらず、もたついている。どうしてなのか。 写真は私の三回に及ぶ新型コロナウイルスワクチンの予防接種済証。


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2022年02月24日 | 植物

<3690> 奈良県のレッドデータブックの花たち(182) ツルフジバカマ(蔓藤袴)                  マメ科

                          

[学名] Vicia amoena

[奈良県のカテゴリー]    絶滅寸前種

[特徴] 山野に生えるつる性の多年草で、断面が4角形のつるの茎を有し、長さが2メートルほどに伸びる。葉は偶数羽状複葉で、先が巻き髭状になり、他物に絡み生育する。小葉は長さが1~4センチの長楕円形で、やや厚みがある。全体に軟毛が多いようであるが、私がであった個体は軟毛が少なく、やや光沢があるように見えた。普通小葉は10~16個つく。葉は乾燥すると暗赤褐色に変色する特徴がある。托葉は鉾形に近い。

  花期は8~10月で、葉腋より花序を出し、10~20個の花を密につける。花冠は普通青紫色であるが、濃淡があり、稀に白色の花も見られる。花弁は旗弁、翼弁、竜骨弁(舟弁)からなり、旗弁の爪部(筒の部分)と舷部(花の先側)がほぼ同長で、クサフジ(草藤)に似るが、小葉の数がクサフジより明らかに少ない。

[分布] 北海道、本州、四国。国外では朝鮮半島、中国、モンゴル、ロシア、カザフスタン。

[県内分布] 奈良市、大和郡山市、葛城市。

[記事] 近年、ヨーロッパ原産の帰化植物、ナヨクサフジ(弱草藤)の繁殖が著しく、在来の仲間が少なくなり、その一つであるツルフジバカマも減少が著しい。奈良県のレッドデータブックによると、「御所市や田原本町で採取された標本は40年以上前で、現在の状況は不明である」という。  写真は草むらで花を咲かせるツルフジバカマ(左)、花序のアップ(中)、先端に巻き髭が見られる偶数羽状複葉の葉(右)。

    似て非なるものは何処にもあり

    動植物の中にも見受けられる