<3694> 野鳥百態 (42) 翼に思う
飛ぶために
翼を持つ身
翼ある
ゆゑに飛翔の
鴨の一群
動物の中で鳥類の特徴をあげるとすれば、翼、嘴、羽毛であろうか。鳥たちにとってこの三点の肉体的特徴は自然の中で生きて行く上に必要欠くべからざる共通点としてあるように思える。
嘴は捕食に関係し、餌とする食い物によって異なる。それは肉食と草食、軟らかいものと硬いもの、大小多少、さまざまで、その違いは野鳥たちの食生活を観察していればわかる。例えば、水辺を暮らしの場所にしている鳥たちは水草や魚、甲殻類などを主食にしている。その主食の捕食に適った嘴を持っている。
羽毛は自らの体を守るためにあり、殊に外気の寒暖に対応している。寒さが厳しい日でも、羽毛によって耐えることが出来る。極寒に膨れ上がって丸くなっている小鳥を目撃することがあるが、あの光景は羽毛を目いっぱい活用しているように見える。それは皮膚を縮こまらせ、羽毛の内側に暖かな空気層を作り、寒さを凌いでいる図に見える。
翼はもちろん空中を飛ぶためにあるもので、中にはペンギンのように翼が退化して思うように飛べないものもいるが、大概は空中を飛ぶために機能している。この翼も鳥たちにとっては生きてゆく上の生命維持に重要なもので、飛ぶことが思うに任せないペンギンがいみじくもそれを物語っている。
ペンギンは飛べないけれども、海に潜り、その大海原の水中ではものすごい勢いで泳ぎ回ることができ、餌の魚を思う存分捕食することが可能になっている。言わば、翼が退化して空中を飛ぶことができなくても生きて行けるようになっているわけである。
ここで、翼を持つ鳥の中でカモの仲間のマガモに焦点を当てて見てみたいと思う。マガモは典型的な水辺の鳥で、大和地方では秋が深まるころ各地の池にやって来て、越冬し、春になると北国に帰って行く。所謂、冬の渡り鳥である。どこから来てどこに帰って行くのか、シベリア辺りか、よくはわからないが、往復数千キロには及ぶ飛翔距離の旅をするということなのだろう。その長い距離を左右の翼の機能を発揮することによって叶える。
ここで思われるのが、なぜ渡りをするのかということであり、翼がなければこの渡りはできないということである。では、なぜ渡りをするのであろうか。それは生存のための食を求める旅に違いない。そして、渡りの旅をこなすには強力な翼が必要であること。この強力な翼をマガモは持ち得ているということになる。
越冬する池のマガモをうかがえば、水面にあって餌を漁っているか、泳ぐか、岸に上って休んでいるかで、上空を飛ぶ姿はほとんど見受けない。ときに何かに驚いて飛び上ることはあってもすぐ着水する。だが、北帰行が始まる春になると、よく群になって飛ぶのを見ることがある。きっと渡りのときは一羽でなく、集団で飛翔し渡って行くのに違いない。この間は思いがけず、数羽が群れになって飛ぶ姿を目撃し、写真にした。
翼は力強く羽ばたき、向かう先にまっしぐら、脚をうしろに仕舞い、一途に飛び行く姿には美しさがあり、その飛翔における力強さは生きるための姿に見え、何とも感動的で、渡りにおける悲願と祈願が思われた。そして、マガモの飛翔に、翼は大空を飛び行くためにあるのだと思えたことではあった。 写真は雌雄数羽によるマガモの飛翔(馬見丘陵公園)。