大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年04月30日 | 植物

<3393> 奈良県のレッドデータブックの花たち(45) オオヒナノウスツボ (大雛臼壷)      ゴマノハグサ科

                                       

[学名] Scrophularia kakudensis

[奈良県のカテゴリー]     絶滅危惧種(旧絶滅寸前種)

[特徴] 日当たりのよい明るい山地や丘陵の草地に生える多年草で、断面が四角形の茎が肥大した根茎から直立し、大きいもので高さが1メートルを越す。葉は長さが6~10センチの広披針形または長卵形で、先が尖り、縁には鋸歯が見られ、質はやや硬く、対生する。花期は8~9月で、茎の上部で多数の小枝を出し、その枝先に暗赤紫色の小さな壷形の花をつける。

[分布] 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島。

[県内分布] 北中部の一帯に見られ、南部では確認されていない。

[記事] ヒナノウスツボ(雛臼壷)の名は小さい壷形の花に由来する。本種の方が大きいのでこの名がある。奈良県のレッドデータブック『大切にしたい奈良県の野生動植物』2016改訂版には「産地が少なく、個体数も少ない。産地数が増加したので絶滅寸前種から絶滅危惧種に変更する」とある。ところで、産地の一つである奥宇陀の曽爾高原ではススキ原の縁で出会えるが、シカの食害と思しき被害が見られるようになった。 写真はオオヒナノウスツボ。

   良し悪しはともかく

   生きとし生けるものは

   自らの都合によって

   生を営み育んでいる


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年04月29日 | 創作

<3392> 写俳百句  (54) ユズの若葉に雨

             慈雨ならむ濡れて艶めく柚子若葉

                                 

 久しぶりに雨の感。青葉若葉の季節。我が家のユズの木も一面に艶のある柔らかな若葉と刺をつけた新枝を出し、そこここに白い蕾をつけている。本格的な雨で、新枝も若葉も刺も雨の雫を輝かせ、一層艶やかに見える。この時期の雨は育ち行く勢いにある草木にとって慈雨に違いない。 写真は雨に濡れて雫を輝かせ、艶やかに見えるユズの新枝や若葉。

 


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2021年04月28日 | 創作

<3391>  作歌ノート   曲折の道程 (七)

                 灯火に導かれつつ回廊を渡る男の背の花明

 何を見ようと、何を聞こうと、一寸先きが闇であっても、そこが心を断たれた識閾にあっても、孤高の姿の中に聖(潔癖)なるものを持ち得る男たらんことを。いつもその背にそのときどきの花明かりがそれを諾い、安らぎを灯すものであらんことを。よく見るがよい。苦しみの身でさえ、灯火に導かれつつ渡り行くとき、その花明かりのほのぼのとあることを。

                  

   孤高てふ言葉に見ゆるダンデイ スム思へば雪にけぶれる古塔

   朝靄にけぶれる古塔を美しむ黙して静かなる立ち姿

   燭は祈願のこころもってして行きゆくところほのかなりけり        燭(ともしび)

   是非を問ふ是も非もなしといふ声の冬の一景雪の堂塔

   風の声天の碧青こころして登り行くべき階の上              階(きざはし)

   花が散る吹雪となるにむらぎもの心一会の高殿にあり

   この大事手厚く内に納めむと思ひつつあり門扉を閉ざす

   閉ざしたる門扉に雪のしんしんと降る宵ながら詠むもよからむ

 ダンデイスムは思想に近い。ああ、我がダンデイスム。一つに「孤高」という言葉が浮かび上って来る。天に思いの人よ、その人の声を聞けば、心は一つ。古塔、回廊、堂塔、階、高殿、門扉。これらはみな灯火に導かれつつ行くときどきに現れる物心の要なる一景、私のダンデイスムの在処に顕現する。例えば、靄のかかる朝まだき、雪にけむる夕暮。ひとり祈願を込めて行くその心に有無を言わせぬ畏怖の声なきにしもあらず。その声に向かうときの気概も、散る花に寄せて詠む心も、すべては私のダンデイスムに連なるところと言える。 写真は靄に浮かぶ古。

 


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2021年04月27日 | 創作

<3390> 写俳百句 (53)  桐の花

              桐の花青垣山を見晴るかす

        

 初夏の候、この時期になると、キリが花を咲かせる。今年はいつもの年より早いようで、古墳の墳丘が点在する奈良県営の馬見丘陵公園には高さ15メートル超のキリの巨木が見られ、既に満開を迎えて、遠望する青垣の山並を背景に咲いている。

   花は巫女が神前で奉納する神楽舞の際、手にして鳴らす神楽鈴を思わせる円錐花序に淡紫色の筒状鐘形の花を多数つける。下向きに咲く花には芳香があり、清楚で、初夏にぴったりの趣がある。写真は青垣の山並を背景に咲くキリの花(左)と花序のアップ(右)。

   青垣の山を巡らし桐の花

   青垣の山とし大和桐の花

   晴れ渡る大和国中桐の花


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2021年04月26日 | 植物

<3389>奈良県のレッドデータブックの花たち(44)オオヒキヨモギ(大引蓬)       ハマウツボ科

             

[学名] Siphonostegia laeta

[奈良県のカテゴリー]  絶滅危惧種(環境省:絶滅危惧Ⅱ類)

[特徴] 日当たりのよい草地や山足の崖地など少し乾燥気味のところに生える半寄生の1年草で、キク科のヨモギに似た切れ込みのある葉をつけるが、ヨモギの仲間ではない。この名があるのはヨモギの根に寄生することによる。葉によって光合成を行なうが、十分ではなく、寄生して養分を補う。花期は8~9月で、長い筒状の萼をともなう灰黄色の唇形花をつける。花の上唇が赤褐色を帯びるものも見られる。また、下唇が左右相称のヒキヨモギに対し、本種では下唇の一方が変形して相称にならない違いがある。また、筒状の長い萼に濃緑色の隆起した肋があるのも本種の特徴。

[分布] 本州の関東地方以西と四国。国外では中国。

[県内分布] 山間地域を除き、産地は点在するものの個体数が少ない。

[記事] オオヒキヨモギの花にはじめて出会ったのは平群の里の山足だった。最初は何の花かわからなかった。野生の花にはこのような花がいくつもあって、出会いの都度、図鑑を引いて覚えた。なお、仲間のヒキヨモギは利尿、黄疸に効く薬用植物として知られる。 写真は平群の里の個体(左)と十津川村の個体(右)。

   生の多様なることは

         植物に負うところ

   植物を蔑ろにすることは

     生の多様性を

         否定するに等しい