大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年05月12日 | 植物

<2684> 大和の花 (792) シロツメクサ (白詰草)                              マメ科 シャジクソウ属

     

 ヨーロッパ原産の多年草で、牧草として世界に広がり、日本には江戸時代にオランダから幕府に献上品が送られて来たとき、花器などの割れ物の箱の隙間に軟らかな枯草が詰められていた。枯草には種があり、蒔いたところ芽を出し、この草だったのでツメクサ(詰草)と呼び、白い花を咲かせるのでこの名がついたという。オランダゲンゲ、クローバー、苜蓿(うまごやし)の別名でも知られる。

 茎が地を這って長く伸び広がり、草原を被い尽くすほど群生する。葉は3出掌状複葉で、普通3小葉からなる。小葉は広倒卵形で、表面に斑紋の入るものが多く、早春より初冬のころまで枯れず、茎や葉が軟らかいため、牧草に適し、用いられて来たが、これが逸出して野生化し、いたるところに生え出し、雑草化して現在に至る。葉はときに4小葉のものも見られ、4つ葉のクローバーと言われ、希望、信仰、愛情に加え幸運がもたらされるとされ、喜ばれる。

 花期は4月から9月ごろと長く、冬でもときおり見かける。花茎の先端に多数の白い蝶形花が球状に集まり密につくので、全体で一つの花に見えるところがある。花はミツバチなどによる虫媒花で、それぞれの花には短い柄があり、受粉ととともに下向きになる特徴がある。実の豆果は花の後にも残る花弁と萼に包まれる。

  大和(奈良県)には極めて多い帰化植物の外来種で、草原の多い馬見丘陵公園では毎年大群生の花が見られる。公園ではときに母と娘がこの花を摘んで花束や花冠にしているのを見かける。 写真は一面に咲く花と花のアップ。 幼子にしろつめ草の軟らかさ

 <2685> 大和の花 (793) ムラサキツメクサ (紫詰草)                           マメ科 シャジクソウ属

           

 ヨーロッパ原産の多年草で、明治時代初期に、牧草として渡来し、逸出して全国的に野生化して見えるシロツメクサ(白詰草)の仲間の帰化植物である。茎は直立して高さは20センチから60センチになり、開出毛が多く目につく。葉は3出掌状複葉で、小葉は3個。長さが2センチから3センチの楕円形で、Ⅴ字形の斑紋があるものが多い。

 花期は5月から8月ごろで、茎頂に紅紫色の多数の蝶形花をほぼ球形状に密に集めて咲かせる。花はシロツメクサよりやや大きく、花序のすぐ下に葉が1対つく。大和(奈良県)ではシロツメクサの方が圧倒的に多いが、本種も牧草にされ、どちらかと言えば、宇陀地方でよく見かける印象がある。別名はアカツメクサ(赤詰草)。 写真はムラサキツメクサ。 そこここで田植ゑ初めの宇陀阿騎野

<2686> 大和の花 (794) ベニバナツメクサ (紅花詰草)                        マメ科 シャジクソウ属

                      

 ヨーロッパから西アジア方面が原産の1年草で、茎は下部で分岐し斜上気味に立ち、高さが80センチほどになる。葉は心形で先がわずかに窪む3小葉からなり、下部では長い柄を有し、互生する。花期は4月から8月ごろで、茎頂に直径2センチほどのほぼ円柱形の花序を立て、鮮やかな紅色の小さな蝶形花を多数密につける。

  治時代のはじめ牧草としてクリムソンクローバーの名で渡来した帰化植物であるが、あまり普及せず、その後、花卉として栽培されるようになり、この花卉畑から逸出し野生化して畦や土手などに生え出し、大和(奈良県)でも見かけるようになった。 写真は群生するベニバナツメクサ(左)と花序のアップ(右)。ともに桜井市笠の大和高原。   ダンディスム水玉模様の夏パジャマ

<2687> 大和の花 (795) コメツブツメクサ (米粒詰草)                           マメ科 シャジクソウ属

                                     

 ヨーロッパから西アジア一帯が原産の1年草で、世界各地に帰化し、日本では1936年東京で見つかり、現在では全国的に広がりを見せ、大和(奈良県)でも日当たりのよい草地などで他の雑草とともに群生しているのが普通に見られる。所謂、外来の帰化植物で、茎は細く、基部で分岐し、長さが40センチほどに伸びて横に広がり、群生は草原を被い尽くすほどになる。

 葉は長さが1センチほどの倒卵形の3小葉からなり、小葉の先はやや窪み、縁に不揃いの浅い鋸歯が見られる。花期は5月から7月ごろで、葉腋から花序を出し、長さが3ミリほどの黄色の蝶形花を数個から多いもので20個ほど集めてつける。花はクスダマツメクサ(薬玉詰草)に似るが、クスダマツメクサの方がやや大きい。米粒(こめつぶ)は葉によるものか、花によるものか、この名がある。また、キバナツメクサ(黄花詰草)コゴメツメクサ(小米詰草)の別名でも知られる。このところ繁茂を極め、道端などでもよく見かける。 写真はコメツブツメクサ。花期の群生する姿(左)、花のアップ(右)。   四月より五月微妙に花の色

 

 

 


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2018年02月13日 | 植物

<2237> 大和の花 (437) ハンノキ (榛の木)                                カバノキ科 ハンノキ属

     

 湿地などの湿潤地な地に生える落葉高木で、高さは10メートルから20メートルほどになり、幹の直径は太いもので60センチ前後。樹皮は紫褐色で、浅く裂けて剥がれる。枝は褐色で滑らかだが、屈曲し、上部ほど短く、整った樹冠を見せる。葉は長さが5センチから10数センチの卵状長楕円形で、先は尖り、縁には不揃いの小さな鋸歯がある。側脈は7対から9対あり、裏面に隆起する。葉柄は数センチで、互生する。

 雌雄同株で、花期は冬から春先で、葉が出る前に開花する。雄花序は長さが6センチ前後で、枝先に2個から4個垂れ下がり、雌花序は赤紫色で、短い柄がある長さ数ミリのマッチ棒の先のような形をし、雄花序の下側に1個から5個上向きにつく。堅果の実は長さが2センチ前後の卵状楕円形の果穂で、扇形の果鱗と卵形の堅果を含み、10月ごろ濃褐色に熟す。

 北海道から沖縄まで全国的に分布し、国外では南千島、ウスリー、朝鮮半島、中国、台湾などに広く見られるという。大和(奈良県)では北部地域に多く、生育適地の湿潤なところが多いからではないかと考えられている。ハンノキ(榛の木)の名は古名ハリ(榛)に由来すると言われるが、ハリ(榛)の語源は定かでない。漢名は赤楊。宇陀市の榛原(はいばら)の地名はハリハラの転訛であろう。ハンノキが多く見られたからではないか。

  ハンノキは古来よりタンニンを含む実を染めに用いた染料植物として知られ、『万葉集』にも詠まれている万葉植物でもある。例えば、巻7の1156番の歌に「住吉の遠里小野の真榛もち摺れる衣の盛り過ぎゆく」と見える。この染めは中国から伝来したものに工夫を加えた榛摺という黒摺の一種で、ハンノキの熟した実の黒灰を用いた。この染めによると斑の模様が出来、この模様が好まれ、貴族から庶民まで人気があったとようで、歌にも多く詠まれているわけである。

  また、ハンノキは田の畦の木としても知られるが、これは「ハンノキの花多き年に不作なし」とか「ハンノキの実の多い年は米がよく出来る」と言われて来たように、ハンノキが稲の作柄の指標にされていたことに関わりがあったのかも知れない。なお、ハンノキは冬から春先の花、初夏の新緑、秋の黄葉と、四季それぞれに趣のあることで知られ、昔から親しまれて来た。 写真はハンノキ。左から花、実(この実を灰にして万葉人は摺り染めに用いた)、開出時の若葉 (黒滝村ほか)。   榛の花天より聞こゆ早春歌

<2238> 大和の花 (438) ケヤマハンノキ (毛山榛の木)                           カバノキ科 ハンノキ属

                                           

 丘陵から山地、または川岸や渓谷沿いに生える落葉高木で、高さは10メートルから20メートルほどになり、幹の太さは、大きいもので直径80センチ前後。樹皮は紫褐色でハンノキのようには剥がれず、滑らかで、横に長い皮目がある。新枝には軟毛が密生する。

  葉は長さが8センチから15センチほどの広卵形で、先は鈍く尖り、基部は円形、縁には欠刻状の重鋸歯が見られる。側脈は6対から8対で、裏面に突起する。葉柄は3センチほどで、互生する。枝や葉、冬芽などに軟毛が多いのでこの名がある。毛のないものはヤマハンノキと呼ばれるが、中間型も見られ、判別は難しい。

 雌雄同株で、花期は4月ごろで、葉の開出前に花をつける。雄花序は長さが8センチ前後で、枝先に2個から4個垂れ下がる。雌花序は赤紫色で、雄花序の枝の下側につき、普通下向きに咲く。果穂は長さが2センチ前後の楕円形で、果鱗と堅果からなり、濃褐色に熟す。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、サハリン、カムチャッカ、東シベリア、朝鮮半島、中国にも見られるという。大和(奈良県)では全域的に分布し、砂防用に植栽されたものもあるという。材は器具や家具に用いられる。 写真はケヤマハンノキ。左から枝木いっぱいに垂れ下がる雄花序、花序のアップ(垂れ下がっているのが雄花、赤紫色の雌花も見える)、雄花のアップ。   春キャベツああ高いねと妻の声

<2239> 大和の花 (439) カワラハンノキ (河原榛の木)                           カバノキ科 ハンノキ属

          

 日当たりのよい川岸や河原などに生える落葉低木乃至は小高木で、この名がある。高さは大きいもので7メートルほどになり、枝をよく分ける。樹皮は暗褐色。葉は長さが5センチから10センチほどの広倒卵形で、先は少し凹むもの、丸いもの、短く尖るものなどが混在し、、基部は広いくさび形。縁には波状の鋸歯があり、側脈は6対から9対。質はやや厚い洋紙質。葉柄は長さ1センチ前後で、互生する。

 雌雄同株で、花期は2月から3月ごろ。葉の展開前に開花する。茶褐色の雄花序は長さが5センチから8センチほどで、枝先に2個から5個垂れ下がる。赤紫色の雌花序は雄花序の下側について上向きになる。堅果の果穂は長さが2センチ弱の広楕円形で、秋になると濃褐色に熟す。

 本州の東海地方以西、四国、九州の宮崎県に分布する日本固有の植物で、大和(奈良県)では、ネコヤナギ(猫柳)とともに吉野川、十津川、北山川など大きい河川の川岸でいち早く咲き出す。 写真はカワラハンノキ。左から枝木いっぱいに花をつける個体、花のアップ(ともに吉野川の岸辺)。右は若い実をつけた個体(北山川の岸辺)。   あけぼのの空あかつきの鳥に春 

<2240> 大和の花 (440) ヤシャブシ (夜叉五倍子)                                  カバノキ科 ハンノキ属

      

 丘陵から山岳高所の尾根筋などに生える落葉小高木で、高さは大きいもので10数メートルになる。樹皮は灰褐色で、若木では滑らかだが、古木になると剥がれ、よく分枝する。葉は長さが4センチから10センチの狭長卵形で、先は鋭く尖り、基部はややくさび形になる。縁には細かい重鋸歯があり、側脈は13対以上と多い。

 雌雄同株で、花期は3月から4月ごろ。山岳の高所では5月ごろ開花し、葉の展開前に花をつける。雄花序は無柄で、長さ数センチ。やや太く、枝先にやや曲がって垂れる。雌花序は雄花序より少し離れた下部に柄を有して1、2個が直立する。堅果の実は果穂となり、果穂は長さが2センチ弱の広楕円形で、熟すと濃褐色になる。

 本州の福島県から紀伊半島に至る太平洋側、四国、九州に分布する日本固有の植物として知られる。大和(奈良県)では中南部の標高が1000メートル以上の高所に多く、大台ヶ原の大蛇嵓で観察出来る。ヤシャブシ(夜叉五倍子)の和名については、果穂にタンニンが含まれ、ウルシ科のヌルデ(フシノキ)の葉に寄生するヌルデシロアブラムシの仲間によって作られる虫えいのフシ(五倍子)と同じく、このタンニンによって黒色系の染料にしたことによるという。これで染めると、八塩染めのように濃く仕上がり、この八塩(やしお)と果穂が夜叉面の趣をもっていることによってつけられたと1説には言われる。また、実は熱帯の淡水魚を飼育する水槽のブラックウオーターに用いられ、市販されている。

 ヤシャブシはミネバリ(峰榛)、ガケバリ(崖榛)、ヤシャハンノキ(夜叉榛の木)などの別名でも知られるが、峰や崖地に生える榛(はり)、即ち、こうしたところに生えるハンノキを意味する。材は極めて堅く、オノオレ(斧折れ)と言われるほどで、ろくろの部材に用いられたり、薪炭材にされたりして来た。このように強く堅い木で、痩せ地にも適応し、成長も速いので、砂防工事の緑化に用いられたりしている。 写真はヤシャブシ。左から葉の展開前に咲き出した雄花序(雌花序も見える)、実になりつつある雌花序、初夏の青空に映える若葉と実、熟すと濃褐色になる若い実(大台ケ原山ほか)。  雪解けや日差しの中に鳥の声

<2241> 大和の花 (441) オオバヤシャブシ (大葉夜叉五倍子)                カバノキ科 ハンノキ属

                         

 丘陵や山地の崩落地などに生える落葉小高木で、高さは大きいもので10メートル、幹の太さは直径10センチほどになる。樹皮は灰褐色、枝は緑褐色で、円形の皮目が目立つ。葉は長さが数センチから12センチほどの長卵形。先は鋭く尖り、基部は円形で、縁には鋭い重鋸歯がある。側脈は多いもので10数対に及ぶが、左右がかなり不揃いの特徴がある。葉柄は2センチほどで、互生する。

 雌雄同株で、花期はヤシャブシと同じく3月から4月ごろ。葉の開出とほぼ同時に開花する。雄花序は無柄で、長さは数センチ。やや太く、弓なりに曲がるものが多く、前年枝の葉腋から垂れ下がる。雌花序は2センチ弱の柄があり、雄花序より上側に直立してつく特徴がある。堅果の実は果穂となり、果穂は長さが2センチ前後の狭長楕円形で、濃褐色に熟す。

 オオバヤシャブシの名はヤシャブシよりも葉が大きいことによる。果穂も大きい。ヤシャブシに似るが、本種では枝先に雌花序がつき、その下側に雄花序が出来る違いがある。つまり、枝の先から葉芽、雌花序、雄花序の順につくので、この点を見れば、判別出来る。用途はヤシャブシとほぼ同じで、砂防用に植えられ、果穂はタンニンを含み、染料にされる。

 本州の福島県南部から紀伊半島までの太平洋側と伊豆諸島に分布する日本固有の植物として知られる。大和(奈良県)ではほぼ全域に見られるが、海岸近くに自生する特徴があることから、大和(奈良県)のものは道路工事などで植えられた植栽起源、もしくはその逸出のものがほとんどではないかと考えられている。  写真はオオバヤシャブシ。葉の展開と同時に雌雄の花をつける枝木。前年の実も見える(左)と枝先から葉芽、雌花序、雄花序の順に並ぶ典型的な枝(右)。   誘ひあり三寒四温の温の日に

<2242> 大和の花 (442) ヒメヤシャブシ (姫夜叉五倍子)                       カバノキ科 ハンノキ属

            

 丘陵や山地の痩せた土地や崩落地に生えることの多い落葉低木で、高さは大きいもので7メートルほどになる。他種に比べ小さいのでこの名がある。樹皮は緑褐色で滑らか。横長か丸い皮目が目立つ。枝は暗赤褐色で、若枝には毛が生える。葉は長さが5センチから10センチの狭卵状披針形で、先は細長く尖り、基部はややくさび形。縁には細かい重鋸歯がある。側脈は多く20数対に及び、裏面に隆起する。

 雌雄同株で、花期は3月から5月ごろ。葉の展開と同時に開花し、雄花序は他種よりやや細く、長さが4センチから6センチほどになり、枝先に1個から3個ほど垂れ下がる。雌花序は有柄で、柄に数個が下向きにつく。堅果の実は果穂となり、果穂は長さが2センチ弱の楕円形で垂れ下がり、10月から11月ごろ暗褐色に熟す。

 北海道、本州、四国に分布する日本固有の植物として知られるが、砂防用などに植栽されることが多く、逸出して野生化しているものも多く見られ、人によって分布を広げている可能性が高い木である。他種と同様、本種も実にタンニンを含み、黒色系の染料にされて来た。 写真はヒメヤシャブシ。いっぱいに花を咲かせる枝々(左)、花序のアップ(中・右)。ともに五條市西吉野町で撮影したものであるが、道路の脇の傾斜地で、植栽起源と思われる。   不束に生きて来てまた巡る春


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年07月04日 | 植物

<2013> 大和の花 (259) アマドコロ (甘野老)                                          ユリ科 アマドコロ属

 今少しユリ科の草花を追ってみたいと思う。まずはアマドコロ属。アマドコロ属はアマドコロ(甘野老)やナルコユリ(鳴子百合)のように花柄に苞葉のないものと、ワニグチソウ(鰐口草)のように苞葉のあるものとに大きく分けられる。ユリの仲間らしく、6個の花被に6個の雄しべがあり、花式図では6の数字が並ぶ特徴があり、筒状花の基部は合着する。実は液果となる。では、まず、アマドコロ属の代表種であるアマドコロから。

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 アマドコロは山野の草地や湿地に生える多年草で、高さは30センチから60センチほどになる。茎に稜のあるのが特徴で、上半部は弓状にゆるく曲がる。長楕円形の葉は無柄で上向きに互生する。花期は4月から5月ごろで、葉腋から花柄を垂れⅠ個から2個の白色筒状の花が茎に沿って連なるようにつける。花の先端部は緑色になる。実は球形の液果で、秋に黒紫色に熟す。

 アマドコロ(甘野老)は、横に這う根茎に節があり、ヤマノイモ科のトコロ(野老・別名オニドコロ)に似るとともに、甘く食べられるのでこの名があると言われる。『万葉集』の4首に登場する「にこぐさ」にアマドコロ説がある。所謂、万葉植物にあげられている。食用のみならず、萎蕤(いずい)の生薬名でも知られる薬用植物で、根茎を日干しにし、煎じて服用すれば滋養強壮によく、打撲傷には磨り潰した根茎を食酢で固め患部に塗布すれば効能があるという。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、ヨーロッパや東アジアに広く見られ、大和(奈良県)でも自生が見られる。なお、アマドコロはナルコユリによく似て紛らわしいが、アマドコロの茎には稜があるのに対し、ナルコユリの茎には稜がなく、丸みがあるので見分けられる。 写真はアマドコロ(曽爾高原)。左の写真は若い茎の花。   少年が自転車を漕ぎ行き過ぎぬサッカーボール前籠に入れ

<2014> 大和の花 (260) ナルコユリ (鳴子百合)                                  ユリ科 アマドコロ属

                     

  ナルコユリ(鳴子百合)の鳴子は紐縄に多くの板を吊るして田畑に張り渡し、その紐縄を引っ張って吊るした板を揺らして鳴らし鳥や獣を追い払う食害避けの道具である。古くは引板(ひきた)と呼ばれ、『万葉集』の歌にも「衣手に水渋(みしぶ)つくまで植ゑし田を引板わが延(は)へ守れる苦し」(巻8・1634・詠人未詳)とある。その意は「袖に水渋がつくほど苦労して植えた田を鳴子など引き渡して守るのは苦しい」と直訳出来る。

  葉腋から垂れ下る白色筒状の花が茎に連なるように咲く姿をこの引板の鳴子に見立ててこの名があると言われる。山野の林縁や草叢に生える多年草で、高さは大きいもので80センチほどになり、上部は弓状に曲がり、アマドコロよりも一回り大きい。茎はアマドコロと異なり、稜がなく、まるいので触れば簡単に判別出来る。葉はアマドコロより細長く、披針形から狭披針形で、あまり反らない。

  花期は5月から6月ごろで、葉腋から細い花柄を出し、複数の白い筒状花を垂れ下げて連ねるので、この花に鳴子が連想されたわけでる。筒状花の先端部は緑色で、アマドコロより全体に花数が多い傾向にある。全国的に分布し、国外では朝鮮半島で見られ、園芸品も多く、庭園にも植えられている。大和(奈良県)でも事情は同じで、植えられたものが結構目につく。なお、ナルコユリは若芽を山菜として食用にされ、アマドコロと同じく、黄精(おうせい)の生薬名で知られる薬用植物で、根茎に滋養強壮の効能があると言われる。 写真はナルコユリ。左は植栽起源の野生化したものか(ダイヤモンドトレ―ルニ上山)。右は花のアップ。

   弓なりに花を連ねて鳴子百合 花の数をし夢を抱ける

 

<2015> 大和の花 (261) ミヤマナルコユリ (深山鳴子百合)                     ユリ科 アマドコロ属

                                             

  山地の林内や岩場に見られる高さが30センチから60センチになる多年草で、ナルコユリやアマドコロに似るが、茎に稜があり、葉が狭長楕円形から広楕円形で、裏面が粉白色であるため、披針形の葉を有するナルコユリとも、花のつき方が異なるアマドコロとも区別出来る。

  花期は5月から6月ごろで、葉腋から花柄が斜上して2、3枝を分け、先が緑色を帯びる白色筒状のかわいらしい花を茎の左右につける。実は液果で、黒紫色に熟す。全国的に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では低山でも深山でもときおり見受けられる。 写真はミヤマナルコユリ(金剛山・実の写真は大台ヶ原山)。   西瓜好きの母にして我が西瓜好き

 

 


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2017年05月27日 | 植物

<1976> 大和の花 (229) ウツギ (空木)                                           ユキノシタ 科 ウツギ属

             

 ウツギ(空木)というよりウノハナ(卯の花)といった方が一般的には通りがよいかも知れない。古来より知られる落葉低木で、『万葉集』にはウノハナで24首に見える。所謂、万葉植物である。花期は5月から7月ごろで、歌には夏を告げる花として、同時期に渡って来るホトトギスと抱き合わせに読まれている歌が多く、季節の到来に敏感な日本人の感性に受け入れられ、雑木ながらも現代に至るまで夏を告げる花として親しまれて来た。

    卯の花の散らまく惜しみほとゝぎす野に出(で)山に入り来鳴きとよもす                      巻10 (1957)  詠人未詳

 これは『万葉集』のウツギを詠んだ24首中の1首で、ウツギの花とホトトギスの鳴き声に夏の到来を感じている歌であるのがわかる。ウツギは全国的に分布する日本の固有種で、山野に生える。高さは株立ちして、多数の枝木を分け、大きいもので3メートルほどになる。その伸ばした枝に円錐花序を出し、鐘形の白い花を下向きに多数つける。長楕円形の花弁は5個で、雄しべは10個、花柱は2、3個。ウツギ属の仲間はこのウツギをはじめ、幹に髄があり、この髄が失われて幹が中空になるのでこの名がある。

 また、干支の4番目に当たる卯とする卯月(旧暦4月)のころ花を咲かせるのでウノハナの別名があると一説にある。これに対し、卯の花が咲く月で卯月になったとも言われる。どちらが正しいのか。卯の花の語源にはほかにも説が見える。「卯の花腐し」というのはこの花の時期に降る雨をいうもので、五月雨を指す。なお、葉は長楕円形または倒披針形で互生する。

 昨今ではほとんど見られなくなったが、枝木に溢れんばかり白い花が咲き、刈り込みが容易に出来るため、生け垣によく用いられ、明治時代の唱歌「夏は来ぬ」には「うの花のにおう垣根に 時鳥早もきなきて 忍音もらす 夏は来ぬ」と見える。また、沢山の花に沢山の実が出来ることから、これを豊作の縁起として5月5日に行なわれる宇陀市の野依白山神社では御田植祭りでこのウツギにあやかり神事の所作事に稲の若苗代わりにウツギの若枝を用いる風習がある。若松を用いるところが多いが、これは人々が古来よりウツギに親しく接して来た例として見ることが出来る。

 なお、ウツギにはウノハナのほか、ユキミソウ、ナツユキソウ、ツユバナなど梅雨の時期に咲く白い花に雪を連想した名など別名、地方名が多く、これも暮らしの近くに見られ親しまれて来た証である。写真はウツギの花。   空木咲く曇天もよし花の滝

<1977> 大和の花 (230) コウツギ (小空木)                                         ユキノシタ 科 ウツギ属

                

  ウツギ(空木)の変種で、ウツギに比べ花も果実も小振りなのでこの名がある。葉は卵形から楕円形で、先は尖り、鋸歯があって対生する。花期は6月から8月ごろと他種より遅く、枝先に円錐花序を出して多数の白い花をつける。花弁は5個で、長さは数ミリ。林縁の岩場や登山道脇でときおり見かける。

  本州の紀伊半島以西と四国、九州に分布を限る日本の固有種で、襲速紀要素系の植物と見られる。大和(奈良県)では金剛山を除くと南東部に限られ、個体数が比較的少ないことから希少種にあげられている。山地に見られるウツギで、石灰岩地に多いと言われる。 写真はコウツギ。左は川上村の石灰岩地での撮影。次は大台ケ原ドライブウエイ沿いの個体。右はウツギの花と比較したもの。左がコウツギの花でウツギの花の3分の1ほどの大きさであるのがわかる。  空木咲く昨日の時は今日にあり

<1978> 大和の花 (231) マルバウツギ (丸葉空木)                                 ユキノシタ 科 ウツギ属

                                                    

  山野に見られるウツギの一種の落葉低木で、卵形から楕円形の葉は縁に鋸歯があり、対生する。花序のすぐ下の葉、つまり、枝先の葉には柄がなく、茎を抱く特徴があり、他種との判別点になる。花期はウツギよりも早く、4月から6月ごろで、枝先の円錐花序に白い5弁花を上向きに咲かせる。花弁は長さが1センチ前後の長楕円形で、平開する。

  花が平開して上向きになるので、花の基部に当たる橙色の花盤の部分も見え、黄色い雄しべの葯とともに白い花のアクセントになってよく目につき、この点も判別点になる。本州の関東地方以西の太平洋側、四国、九州に分布する日本の固有種として知られ、大和(奈良県)においては、北西部の一部を除いて、ほぼ全域に見られ、山足や林縁などでよく出会う。マルバウツギが花を見せると、暫くして、この花を追いかけるようにウツギが咲き出して来る。こうなると季節はいよいよ夏で、そこここで田植えの準備が始まる。           空木咲く真っ先に蝶やって来て

<1979> 大和の花 (232) ヒメウツギ (姫空木)                                      ユキノシタ 科 ウツギ属

                                                   

  渓谷の岩場や林縁の崖地などで見かける落葉低木で、株立ちして1.5メートルほどの高さになる。葉は大きいもので長さが8センチほどになり、縁には細かい鋸歯が見られ、先は細長く尖る。葉は他種と同じく対生する。花期はマルバウツギと同じく、4月から5月ごろで、ウツギよりも一足早く開花する

  枝先に円錐花序を出し白い5個の花弁からなる花を多数つける。ウツギより小振りな花は純白で、清楚。で、ウツギにヒメ(姫)が冠せられた。本州の福島県、新潟県以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では紀伊半島を主に、東南部の襲速紀要素系植物の分布域に見られる。 写真はヒメウツギ(川上村)。他種に比べ花の純白度が高い。  空木咲くまた一年の巡りかな

<1980> 大和の花 (233) ウラジロウツギ (裏白空木)                           ユキノシタ 科 ウツギ属

          

  他種に比べて葉裏が白色を帯びるのでこの葉裏が判別点になるウツギで、これによって容易に見分けることが出来る。私が観察したところでは、概して谷筋の半日陰になる少し湿り気のあるようなところに生える印象がある。

  高さは大きいもので、2メートルほどになる落葉低木で枝を分ける。葉は長楕円状披針形から狭卵形で、細かい鋸歯が見られ、葉裏が白いのは星状毛が密生しているから。花期は5月ごろで、谷筋の同じところに見られるマルバウツギよりも花は早く、前後してマルバウツギが咲き出す。枝先に円錐花序を出し、白い花をやや下向きに咲かせる。花弁は他種と同じく5個で、雄しべは10個、花柱は3、4個。花はほとんどが平開しない。

  本州の長野県南部または静岡県北西部以西(近畿まで)と四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)においては東南部一帯でよく見られる。北西部には自生していないようである。 とにかく、ウラジロウツギはその名の通り、葉の裏側をうかがえばわかる。 写真はウラジロウツギの花。右2枚の写真は左が葉の表面(上)、右が裏面(下)側から撮ったもの。空木咲く大和は概ねつつがなし

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2012年06月12日 | 植物

<284> 大和に見るツツジ科の仲間たち (4)

         馬酔木咲く 奈良公園の そこかしこ

 今回はツツジ科の中で、アセビ属のアセビ、ネジキ属のネジキ、スノキ属のアクシバ、ナツハゼ、ウスノキを紹介したいと思う。アセビとネジキは大和のほぼ全域に見られ、常緑低木のアセビは低山にも深山にも自生し、植木にされたものも見られる。古くは『万葉集』にも登場し、奈良公園の一帯に多く、奈良においては春を告げる花として親しまれている。

 落葉低木のネジキは、幹がねじれたように見えるのでこの名がある。なので、花がない時期でもそれとわかる。花はアセビに似て、白く細長い壷形の花を鈴なりに連ね、下向きに咲く。しかし、アセビと違って葉に隠れるようにつくので、花の多い割には目立たないところがある。

 落葉小低木のアクシバは全国的に分布し、アセビやネジキほどではないが、大和でもほぼ全域、低山にも標高の高い山岳でも見ることが出来る。花は六、七月ごろで、花冠の裂片が反り返って巻き、その部分が淡紅色で美しく見える。

 落葉低木のナツハゼは大和の北中部に多いが、私は、果実のみで、まだ、花にはお目にかかっていない、地味な花なので目につき難いところがある。果実は黒紫色で、紅葉の下でよく目につく。その紅葉と果実は印象に残る。落葉低木のウスノキは大和の北部から南部まで見られるが、北部に多いという指摘がある。艶のある赤い果実が餅を搗く臼のような形に見えるのでこの名がある。五月ごろかわいらしい花を咲かせる。

 ツツジ科の仲間は毒性を有するものが多く、シカが口にしない。奈良公園の一帯にアセビが多いのは、シカの食害を免れているからとも言われる。これは以前にも触れたが、毒性を持ったレンゲツツジが若草山の草原に見られることもアセビに同じであると言える。もちろんのこと、シカによる植生への影響は奈良公園だけでなく、大和の全域に及んでいることで、大和がツツジの宝庫であるというのもツツジに有毒なものが多く、シカの食害を免れていることもその一因としてあげ得ると言ってよい。

 では、今回の(4)をもって「大和に見るツツジ科の仲間たち」の項を終わる。なお、大和におけるツツジについてはモチツツジとヤマツツジの雑種であるミヤコツツジ、大和の南部に自生するオンツツジやウンゼンツツジなどがまだ接触出来ていない点、それに、曽爾村の屏風岩公苑の柱状節理の岩壁に見られるツツジがミツバツツジかコバノミツバツツジかの判別が出来ていない点、更に、御杖村の三峰山のシロツツジが如何なるツツジかなどが今後の課題としてあげられる。また、大和に自生するツツジ科のほかの木々にも関心があるので、私としては、今後も見て歩く必要を感じている。  写真は左からアセビ(大和高原の神野山)、ネジキ(上北山村の山中)、アクシバ(天川村の山中)、ナツハゼ(果実・下市町の山中)、ウスノキ(吉野町の龍門岳)。