大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年08月26日 | 植物

<2789> 大和の花 (879) ツルボ (蔓穂)                            キジカクシ科(旧ユリ科) ツルボ属

              

 日当たりのよい棚田の畦や道端、土手、草地などに生える多年草で、地中にネギのような臭いのある黒褐色の外皮に包まれた卵球形の鱗茎を有し、花茎が直立して高さが20センチから40センチほどになる。葉は長さが15センチから25センチほどの扁平な線形で普通2個が根生する。

 花期は8月から9月ごろで、花茎の先に4センチから7センチほどの穂になった総状花序を出し、小さな淡紅紫色の花を多数つけ、下から上へと咲く。ツルボ(蔓穂)の名の語源は不詳であるが、スルボとも呼ばれるところから、花が咲く穂になる総状花序に由来するものと考えられる。

   サンダイガサ(参内傘)の別名があり、この別名の発想に同じであることが思われる。つまり、サンダイガサ(参内傘)は公卿が参内するとき従者が差しかける長い柄の傘で、ツルボの長い花茎と穂状の総状花序が参内傘をつぼめる(すぼめる)形になるのでこの名がある。この例に等しく、ツルボ、スルボはその傘をつぼめる(すぼめる)意よりなると考えられないか。蔓穂はツルボの漢字表記に際し「蔓」を当てたと考える。

 北海道から琉球列島まで、日本全土に分布し、朝鮮半島、中国、台湾、ロシアに見られるという。大和(奈良県)では各地で見るが、明日香の里でよく見かける。因みに、ツルボは有毒植物であるが、鱗茎にデンプンが含まれ、ヒガンバナ科のヒガンバナと同じく、水に晒して食用にされ、昔は救荒植物としてあった。ヒガンバナとともにツルボが明日香の里でよく目につくのは棚田の多い歴史の地、明日香の土地柄によるものだろう。 写真はツルボ(明日香村)。 昨日あり今日ありそして明日がある即ち生は移ろひにある

<2790> 大和の花 (880) ニラ (韮)                           ユリ科 ネギ属

        

 東アジア原産の多年草で、インドから中国、日本などに野生すると言われるが、日本のものは古くに渡来し、栽培されていたものが野生化したものではないかと言われている。地下に小さい鱗茎を有し、長さが20センチから30センチの扁平で軟らかい線形の葉を束生し、群落をなすことが多い。茎や葉に辛味と臭気がある。

 花期は8月から9月ごろで、葉間に高さが20センチから40センチの花茎を直立、その先に半球形の集散花序を出し、長さが数ミリの狹長楕円形の白い花被片6個の花を多数つける。花被は平開し、花の中央の雌しべを囲む形で雄しべ6個が突き出し、花糸の下部が太くなる特徴がある。

 ニラ(韮)は古くから栽培され、『古事記』にはカミラ(賀美良)、『万葉集』にはククミラ(久君美良)で登場。ミラ(美良)はニラ(韮)の古名で、賀と久君は万葉仮名。という次第で、カ(賀)は臭、クク(久君)は茎のことで、ニラは古名のミラが訛ったものと言われる。全体に独特の臭気と辛味があり、『古事記』にはこの特徴をもって登場し、『万葉集』には採取の様子をもって登場する。で、ニラは万葉植物として知られる。

 今も食用にされ、臭いを嫌う御仁もいるが、和え物、汁の実、卵とじ、雑炊などに用いられている。中国やインドでは古代より栽培され、漢名は韮。で、中国ではラッキョウ、ワサビ、ネギ、マメとともにニラは五菜の1つとして珍重され、今も中華料理に愛好されている。また、薬用としても知られ、種子は韮子(きゅうし)、茎葉は韮日(きゅうひ)の漢方名を有し、下痢止め、健胃、強壮に用いられて来た。

 なお、俳句におけるニラ(韮)の季語は葉を食用にする採取の関係によって目立ちの春、晩夏から初秋のころ花を咲かせるところから、花は夏と決められている。 写真はニラ。道端の草叢で花を咲かせる群落(左)、エノコログサの仲間に混じって花を咲かせる個体群(中)、花序のアップ(右)。いずれも田原本町で。 平等を言はば時こそ 誰もみな移ろふ時に身を置く定め

<2791> 大和の花 (881) ノビル (野蒜)                         ユリ科 ネギ属

                                   

 日当たりのよい棚田の畦や土手、道端などの草地に生える多年草で、地下に白い薄皮に包まれた直径が2センチほどの球形の鱗茎を有し、長さが25センチから30センチの線形で断面が三日月形の葉が見られ、葉間に高さが50センチから80センチほどの細くてしなやかな花茎を立てる。

 花期は5月から6月ごろで、花茎の先に集散花序を出し、小さな紫色を帯びる白い6花被片の花を開く。花序にはしばしば珠芽(むかご)が出来、ときには珠芽だけで花が咲かない個体もある。つぼみは花序が膜質の総苞に包まれ、嘴のように先が尖った卵形で、ネギのつぼみを小さくしたように見える。蒜(ひる)はネギやニンニクなどの総称で、全草にネギやニンニクのような臭気があるので、この名が生まれた。

 北海道から琉球列島まで日本全土に分布し、東アジア一帯に見られるという。日本のものは有史前帰化植物の可能性があるとも言われるが、はっきりしない。古来より知られ、『古事記』の応神天皇の条には「いざ子ども野蒜摘みに蒜摘みに」と歌われ、『万葉集』には「醤酢(ひしおす)に蒜搗き合(か)てて」と詠まれている。つまり、当時から食用にされていた。ということで、ノビルは万葉植物である。

 ニラなどに比べ、野生のものが多く、大和(奈良県)でも道端などで雑草とともに生え、普通に見られる。今は食用に採取されることはほとんどないが、春の代表的な食用野草の一つに数えられる。若芽の鱗茎に味噌をつけて生食するほか、和えもの、汁の実、酢のものなどにする。薬用としては、毒虫に刺されたとき、鱗茎を摺り下ろして塗布する。また、全草たむしに効くという。  写真はノビル(明日香村)。ノアザミやスイバなどとともに生える個体(左)と花序のアップ(花序には茶褐色の珠芽も見える)。

  大いなる錯覚大いなる誤謬諸相における実(じつ)を思へば

 

<2792> 大和の花 (882) ヤマラッキョウ (山辣韮)                                 ユリ科 ネギ属

                                          

 日当たりのよい山地の草地などに生える多年草で、その名は山に生えるラッキョウ(辣韮)の意。地下に小振りのラッキョウに似る鱗茎を有し、高さが30センチから60センチほどの花茎の基部に3個から5個の葉を出す。葉は長さが20センチから50センチの広線形で、断面は三角状になり、ネギのように中空。基部は鞘状になり、茎につく。ニラ臭はなく、冬には地上部が枯れ、鱗茎によって越冬する。

 花期は9月から10月ごろで、花茎の先に散形状の花序を出し、紅紫色の花を多数つける。花は長さが6ミリほどの長楕円形の花被片が6個、雄しべ6個と雌しべの花柱も全体に紅紫色で、雄しべも雌しべの花柱も花被より長く突出し、ラッキョウの花に似る。実は蒴果。

 本州の福島県以南、四国、九州、琉球列島に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では大和高原などで見かけるが、多くない。なお、ヤマラッキョウは鱗茎を水で晒し、酢味噌に和え、春の軟らかい葉は天ぷらなどにして食用とする。 写真はヤマラッキョウ(十津川村)。野菊とともに花を咲かせる個体(左)と花序のアップ(右)。

      如何に生きゐるとも生じ来る思ひ不束なれば不束にして

 

<2793> 大和の花 (883) ノギラン (芒蘭)                              ユリ科 ソクシンラン属

               

 山地の道端や林縁の草地に生える多年草で、長さが8センチから20センチの倒披針形の根生葉を束生し、その葉間から1個の花茎を伸ばし、高さが20センチから50センチになる。

 花期は6月から8月ごろで、花茎の先に穂になる総状花序を伸ばし、淡紅褐色に緑を帯びる小さな6花被片の花を下から順に開く。卵形の子房は上位で、雌しべは花の中央に1個、雄しべ6個雌しべを囲む形で突き出す。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島南部と南千島に見られるという。別種に花茎や花柄、花被に腺毛があって粘着するネバリノギラン(粘芒蘭)があるが、大和(奈良県)では見かけない。なお、ノギランは全草に強心、利尿の薬効があり、煎じて服用するが、妊婦には危険とされている。

 写真は林縁の草地で花を咲かせる矢田丘陵の個体(左)、花序のアップ(中・小さな6花被片の花がびっしりついている)、葉にシカの食害の痕跡が見られ、花を咲かせる曽爾高原の個体(右)。  今日があり明日がある身の 身の上に涙ぐましき夕映えの空

<2794> 大和の花 (884) ソクシンラン (束心蘭)   ユリ科(キンコウカ科) ソクシンラン属

                                                                 

 低山やその山麓の草地または道端などに生える多年草で、花茎が30センチから50センチの高さになる。根生する多数の葉を有し、葉は長さが15センチから30センチの線形で、長く尖り、質はやや硬く、淡緑色。

 花期は4月から6月ごろで、花茎の先に穂状花序を伸ばし、多数の花を連ねて斜め上向きにつける。写真の個体はまばらについているが、やや密につく。花は白色または淡紅色を帯びる花被片6個の壷形で、先は6裂し、裂片は披針形。平開状態にはならない。花の基部には大小の苞がある。実は蒴果。

 本州の関東地方南部以西、四国、九州、琉球列島に分布し、朝鮮半島、中国、台湾にも見られるという。大和(奈良県)では山地の草地などで見られる。 写真はソクシンラン(二上山・花序全体に腺毛が密生している)。

  罪と罰中也における死の意識生きゐるものは辛さも負へる

 

 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年08月21日 | 植物

<2784> 大和の花 (874) センニンソウ (仙人草)                              キンポウゲ科 センニンソウ属

        

 日当たりのよい山野の道端や林縁に生えるつる性の多年草で、茎はよく分枝する。葉は小葉3個から7個の奇数羽状複葉で、小葉は長さが3センチから7センチの卵形乃至は卵円形で、厚く、やや光沢があり、柄を有して対生する。この柄を他物に絡ませ、つるを伸ばす。

 花期は8月から9月ごろで、葉腋から円錐状の花序を出し、白い花を多数つけ上向きに咲く。花は直径2、3センチで、十字形に開き花弁のように見えるのは4個の萼片で、その中央から多数の雄しべと数個の雌しべが伸び出す。痩果の実は長さ7ミリほどの扁平な卵形で、先に長い毛の生える花柱が残存する。

 センニンソウ属の仲間は世界に約300種、日本には20種ほどが分布し、センニンソウがもっともポピュラーで、日本全土に分布し、国外でも朝鮮半島南部、中国に見られるという。大和(奈良県)では山野で普通に見られる。ボタンヅル(牡丹蔓)によく似るが、葉で判別出来る。

 花が終わって果期に入ると、雌しべの花柱が長く伸び、白く長い毛が密生するので、この毛から仙人を連想し、この名がつけられたという。茎や葉は皮膚にかぶれを起すので注意が必要であるが、漢方では根を威霊仙(いれいせん)と称し、利尿、鎮痛に用いる。 写真はセンニンソウ(奈良市誓多林町)。   生きてゐる言はば証の炎暑なり

<2785> 大和の花 (875) キイセンニンソウ (紀伊仙人草)          キンポウゲ科 センニンソウ属

                                   

 紀伊半島の南部(奈良、三重、和歌山の3県)と九州の熊本県に分布を限る日本の固有種として知られるセンニンソウの仲間のつる性多年草。大和(奈良県)では十津川村でしか確認されていない。私は十津川村の最南部に当たる七色で見かけた。日当たりのよい二次林の林縁に見られるが、個体数は少なく、奈良県のレッドデータブックには絶滅危惧種にランクづけされている。

 センニンソウによく似るが、本種では小葉の柄に節があるのに対し、センニンソウにはないので見分けられる。花期はセンニンソウと同じく、8月から9月ごろで、花弁はなく、4個の白い萼片が花弁のように見え、雄しべがよく目につく。痩果の実は無毛。紀伊半島で見つかったのでこの名がある。 写真は花(左)と小葉の裏面(右・葉柄に節が見られる)。 炎天下燃ゆる球児の甲子園

<2786> 大和の花 (876) ボタンヅル (牡丹蔓)           キンポウゲ科 センニンソウ属

        

 日当たりのよい山野の草原や林縁に生えるつる性の多年草(半低木と見なすむきもある)。茎の基部は木質化する。葉は長い柄を有する3出複葉で、対生して茎につく。小葉は長さが3センチから6センチの卵形で、先が尖り、縁には不揃の大きい鋸歯が見られる。

 花期は8月から9月ごろで、茎の先や葉腋に集散状の花序を出し、1.5センチから2センチの花を多数上向きに開く。花に花弁はなく、花弁状の白い4個の萼片が十字形につき、雌雄のしべ多数が見え、賑やかに感じられる。実は痩果で、先には花柱が残存し、羽状に長く伸び、冬場にも白い花が咲いたような眺めになる。

  本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国に見られるという。大和(奈良県)では山道の傍などで見かける。なお、ボタンヅル(牡丹蔓)の名は葉がボタンの葉に似るつる植物の意による有毒植物。 写真は花と実。 草木に処暑一服の雨となる

<2787> 大和の花 (877) クサボタン (草牡丹)                            キンポウゲ科 センニンソウ属

                      

  山地の林縁や草地、岩場などに生える多年草で、草丈は1メートルほどになる。茎の基部は木質化し、よく枝を分ける。葉は長柄を有する3出複葉で、対生する。小葉は長さが4センチから10センチの卵形で、3浅裂し、先が尖り、網目状の脈が浮き立ち目につく。

 花期は8月から9月ごろで、茎の先や葉腋から集散状の花序を出し、多数の花を下向きにつける。花は淡紫色の筒状で、長さが1センチから2センチの花弁状の萼片4個が開花後反り返り、外面に絹毛が生え、白っぽく見えることもある。雌雄異株で、雄花では雄しべが目立ち、雌花では雄しべが短く、葯が退化している。

 北海道と本州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)での自生地は天川村に限られ、石灰岩地に見えるが、個体数が少なく、レッドデータブックには絶滅危惧種にあげられている。写真は花期の群落(左)と雄花のアップ(右)。 朝影に少し涼しさ法隆寺

<2788> 大和の花 (878) カザグルマ (風車)             キンポウゲ科 センニンソウ属

           

 山野の林縁などに生える落葉つる性の多年草で、観賞用としても見られる。茎は褐色で、基部が木質化するため、低木とする見解もある。葉は奇数羽状複葉で、小葉は長さが3センチから10センチほどの狹卵形で、先が尖り、3個から5個つき、対生する。長い葉柄が他物に絡まる。

 花期は5月から6月ごろで、茎の先に直径10センチ前後の花を上向きに開く。花は淡紫色乃至は白色の花弁状の萼片が普通8個つき、花弁はない。中国原産のテッセン(鉄線花)に似るが、テッセンは花が一回り小さく、萼片も6個と少ない。センニンソウ属の園芸種をクレマチスと称し、カザグルマもテッセンもクレマチスの原種として知られる。観賞用としては花の色形が豊富な交雑のクレマチスがよく見られる。

 本州、四国、九州(北部)に分布し、東アジアの一帯に見られるという。日本での自生地は少なく、環境省は準絶滅危惧に指定。大和(奈良県)ではごく限られた個人の所有地にあり、大宇陀市大宇陀小附の民有地の個体は昭和23年(1948年)、国の天然記念物に指定され、ほかにも2、3知られるが、自生か植栽起源かはっきりしないところがある。で、奈良県のレッドデータブックには絶滅寸前種として見える。

 写真はカザグルマ(左・大宇陀小附の自生地の一角に当たる民家の庭先で撮らせてもらったもの。自生地のものと同じとの説明を受けた)、茶畑で花を咲かせるクレマチス?(右・山添村の神野山、淡紫色の花は萼片が7個)。 処暑の処暑秋が何処かで点りゐる

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年08月20日 | 写詩・写歌・写俳

<2783> 余聞、余話 「赤トンボ」

    赤とんぼ夕映え色の赤とんぼその身に点しゐる平和の気

 アキアカネの赤トンボは枯れ枝や棒杙、竿などの先、草花で言えば、一番高い見通しのよい天辺の花やつぼみに止まる。あの複眼の目玉によって周囲が見通せるので安心なのだろう。生きものにとって安心は居心地の一番の条件にあげられる。つまり、安心なくして居心地のよさはない。生きものにとって環境が大切の第一とは、言わば、こういう居心地の理由による。という次第で、赤トンボは見通しのよいものの先に止まる。ほかのトンボも概して同じような条件のところに止まる。これは、やはり、安心、即ち、居心地のよさをトンボ自身が見定めているからだろう。

 ところで、近年、このアキアカネの赤トンボが少なくなっていると聞く。私が出かけて見受ける大和(奈良県)の山野でも、以前に比べ少なくなっている感がある。これは赤トンボの棲息に欠かせない水辺の減少がまず考えられるが、赤トンボに安心でいられない環境の劣化が生じ来たっているからと言えそうである。つまり、これは赤トンボの居心地の問題で、昨今の赤トンボには以前のような居心地のよさがなくなって来ている証左と見てよさそうである。

                

 トンボはチョウやハチなどと同じ人工の対にある自然に属し、人間の活動の象徴である人工物の拡大による影響に圧せられるところが見受けられる。大和(奈良県)は山野に恵まれ、自然の豊かさが広く残されているところで、トンボやチョウやハチなどの自然に属するこれらの虫たちには住みよいはずである。それが、こうした大和(奈良県)の山野においても年々その数を減らしている。という傾向は、こうした大和(奈良県)の山野の自然にも何らかの人工的圧力による浸潤があるということになる。

 赤トンボはこうして徐々にその数を減らしているが、赤トンボの減少傾向が私たち人間にも徐々に影響して来るということに気づかずにいる。これは地球温暖化の現象が示す様相と同じ軌道を描いて私たちに示唆しているというほどに思えるが、そこには科学の優位と自然への軽視の認識が立ちはだかっている。虫など取るに足らないちっぽけなものと軽んじる傾向が科学の進展とともに強くなり、行き着くところまで行かなければ、自然の大切さへの理解は得られず、意識も認識も薄弱なまま時を進めるというのが世間であるが、そろそろ科学一辺倒の認識は改めなくてはならない時期に来ていると言えるように思われる。

  どんなに小さい生きものも同じ地球上の生きものであれば、どこかで繋がり、私たちと関係性を持っている。こうした生きものの環境という観点において自然を考えるとき、地球を人間だけのものにするというのは間違っていると思える。で、減少傾向にある赤トンボを思いつつ、今までに詠んで来た赤トンボの句をあげてみる次第である。 写真は大和(奈良県)における赤トンボの姿。

    赤とんぼ汝赤きは何ゆゑか

    赤とんぼ赤きは恋の終始にや

    故郷は棒杙の先赤とんぼ

    争ひは何処か知らず赤とんぼ

    赤蜻蛉地球生命地動説

    赤とんぼ隣の婆ちゃん死にました

    生きるとは存在すること赤とんぼ

    居心地が一番だよな赤とんぼ

    田のみどり良縁として赤とんぼ

    赤とんぼ四季の国なる赤とんぼ

    赤とんぼ長閑に勝るものやある

    あかとんぼあああかとんぼあかとんぼ


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年08月15日 | 植物

<2778> 大和の花 (869) クズ (葛)                                           マメ科 クズ属

            

 山野に生えるつる性の多年草で、つるを伸ばして地を這ったり、他物に絡んで伸び上がったりして繁茂し、群生することが多く、普通に見られる。全体に黄褐色の粗い毛が生え、茎の下部では木質化する。葉は柄のある3小葉からなり、小葉は長さが10センチから15センチの広卵形で、浅く2、3裂し、裏面に白い毛が生えるので、風に吹かれると葉は翻って白く見える。この特徴によって「裏見葛の葉」と言われる。

 花期は7月から9月ごろで、つるの葉腋に20センチほどの花序を出し、長さが2センチ弱の紅紫色の蝶形花を多数密につけ、下から順に開花し、終わった花から豆果の実がつくので、花と実が同時に見られる。実は長さが5センチから10センチの扁平な線形で、褐色の剛毛が密生し、冬になると葉をすっかり落としたつるにぶら下がっているのが見られる。

 日本全土に分布し、中国からフィリピン、インドネシア、ニューギニア等に広く見られるという。北アメリカには1876年のフィラデルフィア万博のとき、家畜の飼料、庭園の緑化、土壌流失防止によいとして日本から持ち込まれ、最初は有用植物として扱われたが、その後、旺盛な繁殖力によって野生化し、今では世界の侵略的外来種のワースト100の中にその名が見える植物として知られるに至った。

 日本では昔から有用植物として活用され、つるの茎を葛布(くずふ)と呼んで着物に、葉は家畜の飼料とし、ウマノボタモチウマノオコワなどの地方名がある。クズの根には良質のデンプンが含まれ、食用薬用として活用され、食用としては葛切や葛粉がよく知られ、和菓子に欠かせない材料として見える。薬用としては葛根(かっこん)葛花(かっか)の生薬名で知られ、根や花が用いられ、健康増進、二日酔い、風邪などに効き目があると言われる。

 なお、クズは「くずかづら」の略とされ、クズ(葛)の名は、一説によると、大和(奈良県)吉野の国栖(くず)に帰化した土着人がクズを採取して葛粉を売り出したことにより地名の国栖に因んでクズと呼ばれるようになったという。『万葉集』にはクズを詠んだ歌が19首見え、山上憶良の次の旋頭歌によって秋の七草にあげられている。所謂、万葉植物である。

      萩の花尾花葛花瞿麦の花女郎花また藤袴朝貌の花                     巻8 (1538)

 また、「裏見葛の葉」の「裏見」を「恨み」に掛け、葛を恨みの縁語として、白狐(信太の狐)が詠んだという次なる伝説に基ずく歌がよく知られる。

      恋しくばたづね来てみよいづみなるしのだのもりのうらみ葛の葉            ( 浄 瑠 璃 集 )

 平安時代、信太の森の葛葉明神の使いの白狐が、葛葉という娘に化け、都の陰陽師安倍保名と契りを結び、一子晴明をもうけるが、その後正体を知られ、この歌を残して帰ったというもの。この伝説は浄瑠璃の演目になり今に伝えられている。一方、近代短歌では釈迢空の歌が有名である。

      葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり           (歌集『海山のあひだ』)

 この歌は、民俗学者として全国各地に資料を求め歩いた迢空(本名折口信夫)の経歴を旺盛に繁茂して花を咲かせ散らせるクズという植物の特性によって物語るもので、歌の内容から山間の辺鄙な道が想像される。まだ、残暑の厳しい日ではなかったか。迢空は歩きに歩いたのである。

 写真はクズ。高々とつるを這い上らせて花を咲かせる花期の姿(左・風に裏返った葉が白く見える)、花序のアップ(中・花序の下部には豆果の実が出来ている)、冬の果期の姿(右・鞘の実ばかりがぶら下がるすっかり葉を落としたつるの茎)。

  終戦日なほ尾を引いてゐる戦禍

 

2779> 大和の花 (870) ヤハズソウ (矢筈草)                                マメ科 ヤハズソウ属

           

 ほかの雑草とともに日当たりのよい道端の草叢などに生える一年草で、下向きの白毛が生える茎はよく分枝して、高さが15センチから40センチほどになる。葉は複葉で、3小葉からなり、小葉は長さが2センチ弱の長楕円形で、斜めに並んだ側脈が目につく。この小葉を指でつまんで引っ張ると側脈に沿って切れ、矢筈形になるのでこの名がある。

 花期は8月から10月ごろで、葉腋に長さが5ミリほどの蝶形花を1、2個つける。花は淡紅紫色の大きい旗弁に紅紫色の条が入り、目につく。側弁と竜骨弁は白色で、全体にかわいらしいところがある。豆果の実は長さが3ミリほどで、熟しても裂開しない。

 日本全土と朝鮮半島、中国、台湾、ロシア、ベトナムなどに見られるという。アメリカには牧草や土壌改良の目的で日本より導入され、Japan clover の英名で呼ばれているが、野生化して増え、問題視されているという。

 なお、ヤハズソウの仲間にマルバヤハズソウ(丸葉矢筈草)があり、混生することが多い。マルバの方は葉に丸みがあり、葉の先が窪み、縁に毛が立つ。また、花は竜骨弁の先が暗紫色になる特徴が見られ、茎の毛がヤハズソウとは反対に上向きに生える。マルバヤハズソウは本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国、台湾、ロシアなどに見られるという。  写真はヤハズソウとマルバヤハズソウ。花をつけたヤハズソウ(左)、花期のマルバヤハズソウ(中)、マルバヤハズソウの花のアップ(右)。

       道の端何の花そは矢筈草

 

<2780> 大和の花 (871) カワラケツメイ (河原決明)                        マメ科 カワラケツメイ属

             

 日当たりのよい乾燥した海岸の砂地や河原、道端、土手などに生える1年草で、茎は高さが30センチから60センチほどになり、根元の部分が木質化する。葉は偶数羽状複葉で、左右不均衡な小葉が多数つき互生する。また、葉はクサネム(草合歓)に似るが、クサネムは湿地に生えるので花がなくても判別出来る。小葉には縁に短毛が生え、葉柄の上側に疣状の蜜腺がつく。

 花期は8月から10月ごろ。葉腋から短い花柄を出し、黄色の花を1、2個やや上向きに開く。マメ科には珍しく、花は蝶形花ではなく、萼片、花弁とも5個で、萼片は披針形、花弁は倒卵形で、雄しべは4個。花柱は1個で、上を向くように曲がる。実は豆果。

 カワラケツメイ(河原決明)の名は河原に生えるケツメイ(決明)の意で、中国の生薬名決明子(けつめいし)に因むと言われる。昔から実のついた全草を山扁頭(さんぺんず)と称し、健康茶にして各地で飲まれた。例えば、弘法大師(空海)が飲み方を伝授したことからコウボウチャ(弘法茶)、海浜に多いことからハマチャ(浜茶)、実がマメに似るのでマメチャ(豆茶)、葉がネムノキの葉に似るのでネムチャ(合歓茶)などの地方名が見られ、便秘、高血圧症などに効能があると言われる。

 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島から中国東北部に見られるという。大和(奈良県)では北中部に自生地が集中し、南部には見られないようであるが、自生地も個体数も少なく、レッドデータブックに絶滅危惧種としてあげられている。 写真はカワラケツメイ。群生する花期の姿(左)、黄色の花が点々と連なり咲く個体(中)、花のアップ(右・花は5弁花)。

      水浴びやふりちんの児の元気よさ

 

<2781> 大和の花 (872) クサネム (草合歓)                                  マメ科 クサネム属

           

 水田や河川敷などの湿地に生える1年草で、中空の茎は少し分岐し、草丈は50センチから1メートルほどになる。葉は偶数羽状複葉で、裏面が白っぽい線状長楕円形の小葉が20対から30対つき、ネムノキ(合歓の木)の葉に似るのでこの名がある。ネムノキと同じようにクサネムも辺りが暗くなったり、夜になったりすると葉を閉じる就眠運動をする習性がある。

 花期は7月から10月ごろで、葉腋から花柄を伸ばしその先に長さが1センチほどの淡黄色の蝶形花をつける。萼が2片に深く裂け、大きい旗弁の基部に赤紫色の斑紋が入る。雄しべは5個。実は長さが3センチから5センチの鞘状で、6個から8個に分かれ、熟すと節ごとに離れ落ちる。

 日本全土に分布し、アジア一帯、オーストラリア、アフリカなどに広く見られるという。日本では水田の雑草として駆除される。なお、クサネムはキチョウ(黄蝶)の幼虫の食草として知られる。 写真はクサネム。群生(左)、水田の個体(中)、花と実(右)。

   盆過ぎぬ過ぎて生きとし生けるもの

 

<2782> 大和の花 (873) タヌキマメ (狸豆)                      マメ科 タヌキマメ属

                        

 日当たりのよいやや湿った草地に生える1年草で、太い茎が直立し、高さが20センチから70センチほどになる。葉は長さが3センチから10センチほどの広線形で、先が尖る。葉柄はなく、互生する。

 花期は7月から9月ごろで、茎頂に長い花序を立て、長さが1センチほどの青紫色の蝶形花を密につけ、下から上へ順に開花する。実の豆果は長さが1.5センチほどの長楕円形で、萼に包まれる。茎や萼には褐色の長い毛が密生し、この毛の多いことからタヌキをイメージし、この名が生まれたと一説にある。別名はネコマメ(猫豆)。やはり、萼などの深い毛によるか。漢名は野百合。

 本州、四国、九州に分布し、朝鮮半島、中国のほか、アジア一帯に見られるという。大和(奈良県)では自生地が北中部の一部に限られ、個体数も少なく、レッドリストの絶滅寸前種にあげられている。なお、タヌキマメは民間療法で利尿、強心、鎮痛などに効能があると言われる。

  また、観賞用のほか、アレロパシー(他感作用)の効能により、作物の保護のため、生物農薬として畑地に利用される。 写真はタヌキマメ(春日大社萬葉植物園・園芸種)。    夕暮を残暑纏ひて歩む猫

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年08月14日 | 写詩・写歌・写俳

<2777> 余聞、余話 「健康を思う」

     岸に根を張り立つ身なる雄々しさの樹齢一樹の天を指しゐる

 健康であるということ、つまり、病気をしないということにはそれなりの条件が必要であることが言える。生まれつきの遺伝的要因によって引き起こされる不健康、即ち、病気と、齢を重ねること、即ち、老齢化による身体の老化は免れるべくもなく、遅かれ早かれ、その影響下に私たちの人生は置かれる。健康を考えるとき、この二つの条件は私たちにとって、ある意味、宿命的に負わなくてはならないところと言ってよく、対処は出来ても免れることは出来ない。

 そして、これに加え、私たちの健康には、日々刻々の営みにおける現実の環境が大きく作用することがあげられる。それは環境が反映される時と所によってその不健康(病気)の違いが見て取れることでわかる。時で言えば、時代の違いがある。正岡子規は脊椎カリエスで亡くなったが、これは結核によるもの。言わば、感染症に起因する。昨今では、こうした感染症で亡くなるケースは確率的に低くなった。それは、感染症の撲滅に尽力して来た結果である。

 ところが、感染症による死亡者の減少と反比例するごとく、現代では癌や脳卒中や心筋梗塞といった成人病によって亡くなるケースが多くなった。これは生活が豊かになった飽食の食習慣や科学技術の発達にともなう利便の反作用としての運動不足、或いは複雑化する社会における人間関係による心的ストレスの高じることによる現代病とも言われる病気で、所謂、これらは環境の変化によるところが大きい。つまり、時(時代)による環境の違いによって病気の現れ方にも違いが生じているもので、言わば、時(時代)が健康に関わる環境を左右しているということになる。

 では、所で言えば、どういうことが言えるか。例えば、先進国と後進国の違いがある。医療や衛生面の遅れが目につく後進国においては概して感染症が多く、医療や衛生面の発展が認められる先進国で感染症による死亡率が低い。だが、先進国では、利便と豊かさの現われと言える飽食と運動不足によるところの成人病が蔓延する現象が顕著である。

 先進国の日本においては、肺炎球菌による肺炎など感染症も侮れないが、これは、例えば、誤嚥肺炎など高齢化に従って起きる病で、先進国タイプの感染症と言える。先進国では、飽食や運動不足、或いは心的ストレスなどによる現代病と言える成人病の問題が大きい。つまり、私たちにとって、所も健康に関わる環境を左右するということになる。以上のごとく、時と所における環境は健康の重要な要素であると言える。

                           

 そして、これに加え、今一つ言えることがある。それは個々人による健康への心構えが大切だということである。集団は個々によって成り立つもので、個々の自立がなくては全体的健康の増進は進まないと言って過言ではない。生きとし生けるものに時の移ろいは免れ難く、その移ろいによる老化は早い遅いの差はあっても、みなそれなりにやって来て、必ず老化の現象としての衰えが生じる。ぴんぴんころりは誰もが望むところであろうが、これはわからない。だが、わからないとは言え、なるべくそのような人生の最後を過ごせればと思い、健康保持に努めるということになる。そして、そこには健康への自立的行動の自覚ということがあげられることになる。

 我が家では、最近、体組成計と血圧計による計測を心がけるようにしている。これは健康に対する自立の自覚の一歩で、健康法の一つと思っている。体組成計は個人データ(性別、年齢、身長)を登録しておけば、計測計に乗るだけで体重をはじめ、BMI(体重÷身長)、体脂肪率、内臓脂肪、筋肉量、基礎代謝量、体内年齢、カルシュウム含有量、骨量、足腰年齢の測定が出来る。数値は毎日、ほぼ変わらず、朝と夜では体重に約0.5キログラムの差が見られ、夜の方が増える傾向にある。私の場合、すべての数値において悩みになるほどにはなく、日々を送っている次第である。この体組成計を使い始めて、食事量、殊にご飯の量が少なめで、一定を保つことが出来るようになり、意識が変わった。

 また、血圧計の方は左腕を基準に測っているが、上下とも毎回数値が異なって表示されるので、血圧というのは刻々に変動している血流にあるということが想像されて来た。言わば、高いときもあれば、低いときもある。まだ、短い経験であるが、常に測ることが大切だと感じる。また、血圧が高くなるのは、気持ちの落ち着きがないときにその傾向があり、体や心が安らかな時には低いような感がある。

 これは、即ち、精神状況によるところ。つまり、精神の状態が脳に影響し、それが血管に作用するという仕組みになっているのだろう。「病気は気から」とはよく耳にする言葉であるが、血圧を測り始めて、病気は脳(心)が血管に作用して血流に影響を及ぼすことによるのではないかと思われるようになった。これを逆説的に言えば、血圧が高いときは精神的に安定していない状況にあるということになる。

 という次第で、健康は、まず、遺伝的素地、つまり、生まれつきの体質に起因するところが考えられる。そして、老齢になるに従い体力に衰えが生じ、健康が維持出来ない状況に及び、病気にも罹るということになる。これは生きとし生けるものの宿命に属し、諦観の要素たり得る。次は環境の作用があげられることは前述の通りである。そして、健康を維持するに、自立して自らの健康を護る自覚があげられるということが言える。これも前述の通りであるが、昨今はこのことが健康を保ち、病気に罹らない予防の方法として注目されている。 写真は体組成計(左)と血圧計(右)。