大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2022年07月04日 | 植物

<3820>奈良県のレッドデータブックの花たち(240)ホザキノミミカキグサ(穂咲耳掻草)       タヌキモ科

                       

[学名] Utricularia caerulea

[奈良県のカテゴリー]  希少種

[特徴]山地や丘陵地の貧栄養の湿地に生える多年草で、食虫植物として知られる。食虫植物には葉間に獲物を閉じ込める「閉じ込め型」、粘液を出して捕る「粘着型」、葉柄が変形して袋や漏斗になり、これに獲物を落とし込んで捕る「落とし穴型」、それにタヌキモの仲間のように葉に低圧の捕虫嚢を持ち、水とともに獲物を吸い込んで捕る「吸い込み型」がある。ミミカキグサの仲間はこの「吸い込み型」の捕虫方式を採っている。

 捕虫嚢がタヌキモのように水中にはなく、湿地にあるため捕虫嚢の開口部が広く、筒状に深くなって水が溜まるようになっている。葉はミリ単位のヘラ形。花期は6~9月で、高さが10~30センチの花茎を直立し、その上部に極めて小さい紅紫色の唇形花をつける。花には下唇の中央部に白い条の斑紋が入り、距が前方に突き出る特徴がある。

[分布]北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国、台湾、インド、オーストラリア。

[県内分布] 奈良市、山添村、宇陀市、曽爾村。

[記事] 大和地方(奈良県域)ではミミカキグサ、ムラサキミミカキグサ、ホザキミミカキグサなどミミカキグサの仲間はみな自生するが、自生地も個体数も少ない。私はホザキノミミカキグサしか見ていない。曽爾高原のお亀池湿地で撮影したが、湿地には無暗に入れないので、望遠の接写レンズが必要である。 写真は白い花のモウセンゴケと同時に花を咲かせるホザキノミミカキグサ(下側に点々と見える)と花(右・距が垂れず、花の前方に突き出て見える)。

   生きものは知恵と工夫と努力によって生きている

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年10月29日 | 植物

<3212> 大和の花 (1132) ヌカキビ (糠黍)                                           イネ科 キビ属

                                              

 田の畦や池辺、道端などの湿り気のあるところに生える1年草で、細くしなやかな茎を直立し、高さが30センチから1.2メートルほどになる。葉は長さが5センチから20センチほどの線形で、葉舌は短い膜質。茎も葉も無毛であるが、葉耳の部分に毛がある。

 花期は7月から10月ごろで、茎の上部に細くしなやかな枝を横に伸ばし、長さが15センチから30センチの円錐花序を形成し、小穂を垂れ下げる。小穂は長さが2ミリほどの長卵形で、緑紫色を帯びる。小穂には小花が2個。1個は退化し、実は広楕円形で、突起がある。

 ヌカキビ(糠黍)の名は、ごく小さな小穂を糠に擬えたことによるという。北海道、本州、四国、九州、西南諸島に分布し、朝鮮半島、中国、ウスリー、インド、インドシナ、オーストラリアなどに見られるという。大和(奈良県)では普通。 写真はヌカキビ。   秋晴や子らの帽子の銀杏色


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年01月21日 | 植物

<2214> 大和の花 (424) シラキ (白木)                                              トウダイグサ科 シラキ属

           

 山地の落葉樹林帯の渓谷沿いで見かけられる落葉小高木で、高さは4メートルから6メートルほどになる。樹皮は灰褐色または灰白色で、浅い罅が入る。葉は長さが7センチから10数センチの卵状楕円形で、縁には鋸歯がなく、先は尖る。表面はやや光沢があり、裏面は緑白色で、両面とも無毛。1センチから1.5センチの葉柄を有し、互生する。カキの葉に似たところがあり、紅葉する。

 花期は5月から7月ごろで、枝先に長さ7、8センチの総状花序を立て、黄色い小さな花をつける。花序の上部には雄花が多数つき、基部には雌花が少しつく。つかない花序も見られる。雄花は長さ3ミリほどの柄があり、雄しべは2、3個。雌花はこれも長さ7ミリほどの柄があり、雌しべは3個。蒴果の実は直径2センチ弱の扁球形で、雌しべの花柱が残り、10月から11月ごろ黒褐色に熟して3裂する。実には油分が多く、昔は種子から油を採り、食用や灯火に利用した。材が白いのでこの名がある。

 本州、四国、九州、沖縄に分布し、国外では朝鮮半島から中国にも見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域で見られが、散見されることが多い。吉野山地の冷温帯下部域に広がるブナ帯のブナ・シラキ群集は、広く見られたが、「国立公園や国定公園の重要地域を除いて、1950年頃始まった拡大造林などによって本群落のほとんどは消滅した」と言われ、「消滅のおそれ大」の群集として奈良県版レッドデータブックにあげられている。 写真はシラキ。左から花序をいっぱい立てた枝木、花序のアップ(雌花は見られない)、紅葉と黒褐色に熟しつつある蒴果。完熟後3つに裂ける。天川村の御手洗渓谷ほかでの撮影。 大寒を過ぎしに日差し何となく

 なお、前項の冬芽の写真は(1)ウメ、(2)クヌギ、(3)リキュウバイ、(4)ハクモクレン、(5)ドウダンツツジ、(6)ミズメ、(7)サンシュユ、(8)アカメガシワ。

<2215> 大和の花 (425) ナンキンハゼ (南京櫨・南京黄櫨)                トウダイグサ科 シラキ属

               

 中国原産の落葉高木で、高さは大きいもので20メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、縦に不規則な裂け目が出来る。若枝は緑色で、褐色に変わる。葉は長さが大きいもので7センチ前後の菱状広卵形で、先が尾状に尖り、基部は広いさび形。縁に鋸歯はなく、両面とも無毛。長さが2センチから8センチの柄を有し、互生する。

 花期は6月から7月ごろで、枝先に5センチから20センチ弱の総状花序を出し、黄色の小さな花を多数つける。花序は最初のうちは立つが、花盛りになると垂れる。花序には上部に雄花、基部に雌花が位置するが、雌花のない花序も見られる。蒴果の実は3稜のある扁球形で、10月から11月ごろ褐色に熟し、裂開する。3つに裂けた果皮は脱落し、中の白い臘質の仮種皮に包まれた3個の種子が中軸にくっついて残る。種子は直径7ミリほどの広卵形で、冬になっても落ちるものは少なく、枝々の先に白い花が咲いたように見える。

 夏に展開する新緑は瑞々しく、ほかの木々より早く色づく秋の紅葉は鮮やかで美しく、葉を落とした枝々に残る白い実は冬の青空に映え、その姿は四季折々の風情を見せ、街路樹や公園樹に好適な樹種として認められ、日本各地で植栽されている。大和(奈良県)では北部の都市部に多く見られ、殊に奈良公園一帯に際立ち、公園の周辺では野生化したものも見られる。この野生化は逸出の典型例としてあげられる。これについては別項で触れてみたいと思う。

 なお、ナンキンハゼ(南京櫨・南京黄櫨)の名は、中国の地名南京に因むもので、みごとな紅葉がハゼノキ(櫨・黄櫨)に似て美しいことによる言われる。漢名は烏桕(うきゅう)。中国では実から種子を採り、これに熱を加えて臘様物質を取り出して蝋燭を作る。中国蝋燭と言われる蝋燭で、油煙が少ない特徴があるという。また、樹皮や葉や実は煎じて、服用すれば利尿に効能があるとされ、薬用植物にもあげられている。 写真はナンキンハゼ。左から咲き始めの花(花序が立っている)、花盛りの花(花序が垂れ下がっている)、紅葉、冬木の枝々の先についた白い実 (いずれも奈良公園)。    青空のキャンバスにして白き実の南京櫨は奈良の冬色

                                    *                             *                                 *

 奈良時代の昔より中国との関わりが深く、仏教をはじめとする中国の文化を取り入れて都を形成して来た古都の奈良は、他の都市には見られないその風情を存分に発揮している特色ある都市と見ることが出来る。また、今一つには、市街にほぼ接して国の特別天然記念物である一部神域の春日山原始林を背景とする広大な奈良公園に象徴される自然豊かな環境を誇る宗教都市としての姿がある。そして、その魅力をもって来訪する人々を迎える国際的観光都市として今に至り、栄えている。

 このような自然と歴史に負うところが見られる都市形成の経緯の中で、近年、紅葉の美しい中国原産のナンキンハゼ(南京櫨・別名唐櫨)が街路樹並びに公園樹に導入された。結果、四季の風情に富むナンキンハゼは古都を彩るに相応しい樹種として喜ばれて来た。その一方、毎年、大量に産出される蒴果の実を野鳥が好んで食べ、糞とともに種子を周囲の山野に拡散し、至るところにナンキンハゼが生え出し、生えて欲しくないところにも生えるということが起きるようになった。

  山焼きでお馴染みの若草山はその一例で、陽樹のナンキンハゼは日当たりのよい草地の若草山に生え出して来た。これは若草山とナンキンハゼが植栽された市街や公園の距離と野鳥の飛翔距離に関わるところで、その距離が野鳥の飛翔距離に比べ短いという奈良の特性と見なせる。

                

  このところ、若草山におけるナンキンハゼの繁茂が著しく、草原の景観に影響を及ぼすほどになり、大和(奈良県)では珍しいイトススキの群落の植生をも圧する勢いを示すに至り、刈り取りなどの措置が取られるようになった。また、陽樹であるナンキンハゼは陰樹の極相林に被われている若草山の背後に隣接する春日山原始林には広がらないと考えられていたが、台風による倒木などの被害跡に侵入した例が報告されるなど、その広がりが一層懸念されるに至って、問題提起さるに及んでいる。

  奈良公園から春日山一帯の植生は、野生、植栽に関係なく、春日権現の神鹿として国の天然記念物に指定され保護されている奈良公園のシカの影響下にバランスされて成り立っているところがある。所謂、シカの食害との関係性に深く関わっている。若草山で見れば、シカが食べないワラビやコガンピが多く見られ、ナンキンハゼもシカが口にしないため、旺盛に繁る状況にある。ススキの成長を促す山焼きにも影響するイトススキの減少を食い止めるため、若草山ではシカ避けの防護フェンスを巡らせるなどの対策を施しているが、野鳥によって空から散布されるナンキンハゼの種子は防ぐことが出来ないのが実情で、今のところ幼木の刈り取りが行なわれているという次第である。

  これは実に悩ましい問題であるが、前述したように奈良が有するほかの都市には見られない特殊性と奈良時代に遡る古い歴史に彩られ、その特色をもって都市を発展させて来た中において生じている悩ましさがこのナンキンハゼの勢いにはあることが思われて来る。「日の当たる場所が登場すると、日陰もできる」のが世の常、即ち、これが現実で、ナンキンハゼのこの問題は、当然のこと食害に及ぶシカにも言えることで、この問題を解決する悩ましさは、私たちの生そのものに生じる悩ましさに等しいということが思われる。

 この問題に臨むにはどちらにウエイトを置くかで、バランスの問題であることが思われる。ナンキンハゼで言えば、四季の風情である街路樹や公園樹の効用を認めるか、若草山などの植生を守ることに重点を置くかであるが、二者択一ではこの問題は落ち着かないだろう。両方のバランスを如何に取るかということで、若草山においては、侵入するナンキンハゼに対し、幼木の刈り取りという手段に出ているわけである。

  思うに、この問題は、ナンキンハゼの種子に関わるから、種子を何とかすれば解決できる。ということで、思いつくのが大量に及ぶ種子を鳥が食べる前に収穫し、奈良の特産品の開発に利用するということ。実は蝋燭に用いられると言われるが、ほかに何か出来ないか。そんなことも頭を過ったりする。 写真は左からナンキンハゼの実、ナンキンハゼの実を啄むツグミ、若草山に生え出して繁るナンキンハゼの幼木(手前はイトススキの群落地、後方は春日山原始林。昨年9月9日写す)。

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年05月20日 | 植物

<1969> 大和の花 (223) レンゲツツジ (蓮華躑躅)                               ツツジ科 ツツジ属

         

 枝先に主として1個の花芽がつき、その下側に数個の葉芽がつくレンゲツツジ亜属のレンゲツツジは、幹が叢生し、枝が斜めに広がりを見せ、大きいもので高さが2.5メートルほどになる落葉低木で、山地の少し湿り気のある日当たりのよい草地や林縁に生える。花芽は長さ1.5センチほどの長卵形、芽鱗は濃赤褐色で、白毛によって縁取られている。花芽の下側の葉芽は小さく、前述の通り数個に及ぶ。葉芽から成長する葉は長さが10センチほどの倒披針形で互生する。葉の質は薄く、縁に鋸歯はない。秋に紅葉もしくは黄葉して美しい彩を見せる。

 花期は5月から7月ごろで、葉の展開とほぼ同時に開花する。1個の花芽から普通8個、ときに2個から10個の漏斗状花が咲き出す。このように集まって開花してゆく姿に蓮華を連想したことによりこの名があるという。朱橙色の花冠は5裂して直径5センチから8センチになり、日本に野生しているツツジの中では最も大きく、上部の裂片には橙黄色の斑点が入り、華やかである。この花の形や色に赤鬼を連想したことによるオニツツジ(鬼躑躅)の別名もある。蓮華が鬼では様にならないが、里謡に見える「聞いて恐ろし、見て美し」とはレンゲツツジ(蓮華躑躅)への評である。レンゲツツジに言わせれば、「百聞は一見に如かず」であろう。

 本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では自生地が散見され、シカの多い奈良市の若草山や天川村の観音峰で見られるのは葉や花にアンドロメドトキシンやロドヤポニンという有毒物質を含むためシカの食害を受けずにいられるからだろうと言われる。レンゲツツジはツツジの中でもよく知られる有毒植物で、「聞いて恐ろし」はもしかして、この点を教えているのかも知れない。 写真はレンゲツツジ(観音峰と若草山)と花のアップ。1個の花芽から10個の花がついている。右端の写真は裂開したレンゲツツジの蒴果。10月の撮影であるが、既に芽鱗がはっきり見える花芽が写っているのがわかる。 ダム湖静か青葉に四方を囲まれて             

<1970> 大和の花 (224) アケボノツツジ (曙躑躅)                                    ツツジ科 ツツジ属

        

 レンゲツツジ亜属の中で今1種大和(奈良県)に自生しているツツジがある。紀伊半島と四国に分布を限る日本固有の落葉低木のアケボノツツジ(曙躑躅)で、山岳の明るい岩場や疎林内に生え、大きいものでは高さが6メートルほどになる。枝は密に伸び、その先に広楕円形の葉が5個ずつ輪生する。ゴヨウツツジ(五葉躑躅)のシロヤシオ(白八汐)に似るところがあり、花のない時期には間違いやすい。

  花期は4月から5月ごろで、葉の展開前の枝先に紅色が強い淡紅紫色の漏斗状の花を1、2個つける。花冠は直径5センチほどで5裂する。裂片は逆ハート形で、サクラの花弁のように先端が少し凹む。花には全体に丸みがあり、艶やかな彩に加え、柔和さが見られる。雄しべは10個。実は蒴果で夏の終わりごろ熟し、裂開する。岩場や疎林内に生えるので、花どきには遠目にもよく目にすることが出来、「アケボノツツジが新緑に混じり、鹿の子絞りに尾根の斜面を染める」(森沢義信著『奈良80山』)というような表現もなされている。

 福島県から三重県の太平洋側に分布する仲間のアカヤシオ(赤八汐)とは住み分け、大和(奈良県)はアケボノツツジの分布域に当たり、アカヤシオの姿は見られない。両者は花も葉も全体的によく似るので花どきも判別し難いが、アケボノツツジは花柄に毛がないのに対し、アカヤシオには長い腺毛が見られるのでこの点によって見分けられる。

 大和(奈良県)におけるアケボノツツジの分布は、台高山系と大峰山系に集中し、大台ヶ原山、大和岳、白鬚岳、釈迦ヶ岳、大日岳、七面山の一帯に多く見られる。低山にもわずかに生えるが、大半は標高1000メートル以上の山岳に見られるツツジで、台高も大峰も壮年期の岩場を有する地勢にあることが岩場を好むアケボノツツジには好適なのだろう。だが、生える場所が限定的で個体数も限られていることから、奈良県ではレッドリストの希少種にあげられ、白鬚岳に自生するものは分布の北限と見られ、注目種としてもあげられている。

 なお、大和(奈良県)の山岳に見られるアケボノツツジは5月中旬以降が花の見ごろで、そのころ晴天を見計らって出向けば素晴らしい花風景に出会える。その花を思うに、アケボノツツジの右に出るツツジはないと言える。アケボノツツジの名もベニヤシオ(紅八汐)の別名もその花の美しさを愛でてつけられているのがわかる。 写真はアケボノツツジ。群落の写真は大日岳付近での撮影。           推奨すあけぼのつつじの尾根の花

<1971> 大和の花 (225) バイカツツジ (梅花躑躅)                                       ツツジ科 ツツジ属

                   

  次は枝先に葉芽がつき、その下側に数個の花芽がつくトキワバイカツツジ亜属のバイカツツジ(梅花躑躅)を紹介したいと思う。バイカツツジは山地の明るい林内や林縁、崖地などに生える落葉低木のツツジで、高さは大きいもので2メートルほどになる。葉は枝先に互生し、長さが7センチ前後の楕円形もしくは長楕円形で、縁には鈍い鋸歯がある。表面は浅い緑色で、裏面は粉白色であるが、花どきの若い葉は萌黄色のこともある。

  花期は6月から7月ごろで、葉の展開後に開花する。白い花冠は直径2センチほどの皿形で、平開し、5裂する。上部の裂片には紅紫色の斑点が入るものが多いが、裂片の基部に紅色の斑紋が出来るタイプも見られる。この花をウメの花に見立てたことによりこの名がある。花は葉を傘代わりに1個から数個やや下向きに開く。雄しべは5個。実は蒴果で、初秋に熟す。この葉と花の位置関係は雨の多い季節に花を咲かせるバイカツツジの知恵の現われに思える。

  北海道の南部から本州、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では宇陀市の自生地を除くと紀伊山地の南端部に集中して見られる稀産のツツジで、奈良県のレッドデータブックには個体数が少なく、植生の遷移が懸念されるとして希少種にリストアップされている。  写真はバイカツツジの花(下北山村の林縁)。 時を得て花は咲くなりそれぞれにありそれぞれに照らし照らされ

<1972> 大和の花 (226) ヒカゲツツジ (日陰躑躅)                               ツツジ科 ツツジ属

             

 ヒカゲツツジ(日陰躑躅)は全体的に腺状の鱗片が密生し、枝先に花芽が1個つき、この1個の花芽から数個の花が開く特徴を有するヒカゲツツジ亜属の代表種で、高さが2メートルほどになる常緑低木のツツジである。その名にヒカゲとあり、サワテラシ(沢照らし)の別名を持つが、日陰や渓谷の岩壁だけでなく、冷温帯域に当たる山岳高所の岩尾根にも見え、岩尾根は概して日当たりのよい明るい場所で、風衝地でもあるため、丈の低い群落が目につく。 

 葉は枝先に集まって互生し、葉身は長さが9センチ前後の披針形もしくは長楕円形の薄い革質で、縁には鋸歯がない。花期は4月から5月ごろで、淡黄色の漏斗状鐘形の花冠は直径4センチ前後、5裂し、上部の裂片には緑色の斑点がある。大和(奈良県)おいては自生するツツジに黄色を帯びる花を有するものはほかになく、一見してそれとわかる。雄しべは10個。葯は紅色。

 本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系の分布圏を示すツツジの1つで、大和(奈良県)では、東南部に分布域が片寄り、大峰山脈の標高約1750メートルの尾根では岩場を占拠しているものも見える。 写真はヒカゲツツジ。写真左は大峰山脈空鉢岳付近に咲く群落の花。右の写真は沢照らしの名がふさわしい天川村の御手洗渓谷の花。

   如何にあれ心は自由の器なり果して私に私の器 

 

 

 

 

 


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年02月02日 | 植物

<1861> 余聞・余話 「葉について(2)」 (勉強ノートより)

         はや二月 時は去(い)ぬると言はるるが果して速し棹差しをれば

 葉身は「葉の本体で、光合成をおこなう主要な部分」を言い、「組織上は表皮・葉肉・葉脈から構成されている」と言われる。普通は扁平で、表裏があり、両面葉であるが、ネギ属やアヤメ科の円筒形や二つ折れの葉では単面葉のものもある。単子葉植物には葉が扁平な葉身の部分と葉身の基部の部分が鞘になったものが多く、イネ科、カヤツリグサ科、ツユクサ科、ラン科などに見られ、ユリ科でも一部に見られる。なお、単子葉植物の線形の葉は葉柄が起源と考えられている。

葉には葉柄に一個ずつつく単葉と複数つく複葉とがある。複葉の個々の葉は小葉といい、これに対し、葉身が完全に分離しない葉は幾ら深い切れ込みがあっても単葉と見なされ、単葉で切れ込みのある葉は分裂葉という。複葉では小葉をつける葉の中心軸を葉軸といい、葉に出来る腋芽は小葉や托葉には出来ないので、腋芽はその違いの判断材料になる(下図参照)。

                 

 (1) 複葉の形

  三出複葉――――――――――――3個の小葉を有する複葉で、中央の小葉を頂小葉といい、両側の小葉を側小葉という。三出複葉には三出掌状複葉三出羽状複葉の2型がある。三出掌状複葉は葉柄の先端に3個の小葉が直接つく場合で、葉軸が発達しない。ミツバオウレン、ニリンソウ、ミツバツチグリ、カタバミ属、ミツバウツギなど双子葉植物の多くに見られる。イカリソウのように2回に現われるものは2回三出複葉と呼ぶ。3回に現われる3回三出複葉の形の葉も見られる。

  一方、三出羽状複葉は葉軸が長く伸び、その先に頂小葉がつく場合で、クズなどのマメ科に多く、ウマゴヤシ属、ノアズキ属、ノササゲ属、ヤブマメ属、ハギ属、ヌスビトハギ属等に見られる。三出掌状複葉から掌状複葉が導かれ、三出羽状複葉から羽状複葉が導かれると言われる。

  掌状複葉――――――――――――三出掌状複葉を含め、葉柄の先に小葉が三個以上つく場合をいう。小葉が5個の場合は五出掌状複葉といい、それより多くの小葉がつく場合は多出掌状複葉ということもある。小葉の数は基本的に奇数である。例えば、オウレン属ではミツバオウレンが三出で、バイカオウレンが五出であり、アケビ科ではミツバアケビが三出で、アケビが五出である。トチノキは5から9個の小葉からなり、多出掌状複葉ということになる。

  羽状複葉――――――――――――三出羽状複葉を含め、葉軸が伸びて3個以上の小葉をつける葉を羽状複葉という。羽状複葉は頂小葉があって小葉の数が奇数となるものを奇数羽状複葉といい、頂小葉が巻きひげ状になるものを巻きひげ羽状複葉という。頂小葉がなく、小葉の数が偶数になるものを偶数羽状複葉という。複葉の中で最も多いのは奇数羽状複葉で、ナナカマド、ゲンゲ、コマツナギ、フジ、ニワトコ、ヤマウルシ等々、双子葉植物に多くの例が見られる。奇数羽状複葉の中で、側小葉が不揃いなものは不整奇数羽状複葉といい、キンミズヒキやシモツケソウに見られる。また、頂小葉の大きいものは頭大羽状複葉といい、ダイコンがよい例で、野生ではオオタネツケバナがあげられる。

  更に小葉が葉状に全裂するものがあり、2回奇数羽状複葉、その小葉が更に全裂すれば3回奇数羽状複葉となり、偶数羽状複葉についても同じである。2回奇数羽状複葉にはタラノキ、ウドがあり、3回奇数羽状複葉にはナンテンやセンダンがあり、2回偶数羽状複葉にはネムノキがあげられる。巻きひげ羽状複葉にはソラマメ属やレンリソウ属など草本植物に代表される。

  掌状羽状複葉――――――――――掌状複葉が羽状複葉と組み合わさって出来る複葉を掌状羽状複葉というが、小葉柄が三出状に繰り返し出る場合がもっぱらなので、三出羽状複葉と呼ばれ、小葉柄の分岐の回数により2回三出羽状複葉3回三出羽状複葉等と呼ばれる。セリ科の葉はこの三出羽状複葉に現われる。

  鳥趾状複葉―――――――――――三出掌状複葉の側小葉や多出掌状複葉の最下部の側小葉の柄から更に小葉柄を生じ、小葉柄の分岐が鳥趾(足)状になる複葉で、ヤブガラシやウラシマソウがあげられる。

 単身複葉―――――――――――― 一見すると単葉であるが、葉身や葉柄の上端などに関節がある場合、間接より上の部分を小葉とみなし、単身複葉という。葉身の基部に関節があるユズの葉は単身複葉である。

 写真は葉の図とヤマブドウの六角状円形の単葉、ネムノキの2回偶数羽状複葉。