大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2021年06月14日 | 創作

<3436> 写俳百句 (62) 梅雨の六月

                 六月に六月の景奈良盆地

                         

 六月は梅雨の季節。曇天、雨模様の鬱陶しい日が続き、晴れても湿度の高い蒸し暑い日は不快指数も高くなるが、水を必要とする水田の稲作には田植えのこの時期に水が豊富なのは何よりで、季節の巡りのよく出来ていることが思われたりする。瀬戸内地方と同じように降水量の少ない奈良盆地の大和平野ではこの時期の雨は望ましい。少雨対策で各地に溜池が多く、奈良盆地にはは一万に及ぶ溜池が存在するという。

 田に水を張る六月のこの時期は水を最もよく使い、溜池の水もフル活用される。奈良大和では少し郊外に出ると、水を張った田の広がりが見られ、稲の苗が植えられ、空や山や周囲の景色を映した水面がそこここで見られる。水田に接する斑鳩の里の法起寺近くの水田では田植えを終え、水を張った田面に三重塔が映り込む逆さ塔が見られるのも六月のこの時期である。

 植えられた苗は根付いて、風が吹くと一斉に靡き、水面にさざ波が立つと逆さ塔は揺らいで消え、風が収まると水面のさざ波も収まり、再び逆さ塔が現れるといった具合で、風のある日はこれが終日繰り返される。苗は日を追って成長し、そのうち繁って青味を増す。そうなると、苗の段階を終えた稲が水面を被い尽くし、逆さ塔も見えなくなる。

   苗が成長する前の梅雨の一時の今、例えば、カエルが水を張った田のそこここで鳴き、子育て真っ最中のツバメが忙しなく飛び交い、電動草刈り機の草を刈る音が遠くから聞こえて来る。雨が降りそうで降らない蒸し暑さ。青垣の山並もすきっとしない。これが奈良大和、奈良盆地の六月の風景。その一端である。 写真は法起寺の三重塔を映した早苗田の逆さ塔の一景。