2018年08月14日 中国新聞読者文芸「詩壇」掲載
選・評 野本京子
父は公務員だった
徴兵検査甲種合格なのに召集令状が来ない
両親祖父母ともに肩身が狭かった という
昭和20年8月6日広島市に正体不明の爆弾投下
何も分からぬまま命令で父は同僚と二人で広島へ
宮島から先は避難の人波で自転車を押して進んだ
広島の惨状を問うとただ一つだけ話してくれた
人 犬 ともに防火用水に浸かって亡くなっていた
原爆展で「水をもとめて」の絵の前で足が止まった
父から聞いた惨状の様子が描かれている
話では分からなかった人の姿
みんな裸体で熱線による火傷で赤かった
終戦の日の前日 岩国駅前爆撃
救援隊員として駆けつけた父
多くの死者負傷者に接した
広島や岩国駅前で目にした惨状
入市被爆による苦悩など語ることはなかった
出征しなかった負い目がそうさせた
と私は思っている
そんな父は50代半ばの現役で急逝した
私は今 原子力空母艦載機の轟音を聞きながら
戦争のない世界平和を願っている
「評」兵士ではなく公務員の立場で被災者救護にあたり、入市被爆した
父。語り得ない思いがあったのは、生き残った者の負い目もあったか。語ら
なかった人の思いは、後の世代が探り当てる役目があるのだろう。平和と
はいえ、わたしたちが薄氷の上を歩いていることに気付かされる最終2行。
選・評 野本京子
父は公務員だった
徴兵検査甲種合格なのに召集令状が来ない
両親祖父母ともに肩身が狭かった という
昭和20年8月6日広島市に正体不明の爆弾投下
何も分からぬまま命令で父は同僚と二人で広島へ
宮島から先は避難の人波で自転車を押して進んだ
広島の惨状を問うとただ一つだけ話してくれた
人 犬 ともに防火用水に浸かって亡くなっていた
原爆展で「水をもとめて」の絵の前で足が止まった
父から聞いた惨状の様子が描かれている
話では分からなかった人の姿
みんな裸体で熱線による火傷で赤かった
終戦の日の前日 岩国駅前爆撃
救援隊員として駆けつけた父
多くの死者負傷者に接した
広島や岩国駅前で目にした惨状
入市被爆による苦悩など語ることはなかった
出征しなかった負い目がそうさせた
と私は思っている
そんな父は50代半ばの現役で急逝した
私は今 原子力空母艦載機の轟音を聞きながら
戦争のない世界平和を願っている
「評」兵士ではなく公務員の立場で被災者救護にあたり、入市被爆した
父。語り得ない思いがあったのは、生き残った者の負い目もあったか。語ら
なかった人の思いは、後の世代が探り当てる役目があるのだろう。平和と
はいえ、わたしたちが薄氷の上を歩いていることに気付かされる最終2行。