支払いで精算を待っているコンビニのレジ横で、かすかな湯気の立ち上るおでんの容器に具を補充している。四角に仕切られたそれぞれの場所に見栄え良く詰められていく。買ったことはないが「美味そうだ」と思い「売れますか」と聞くと「ぼちぼちです」というしがない答え、しっかり宣伝しているのにと思いながら「いつが売れ時」と聞く。コンビニのおでんの売れ時は「9月」と教えられた。
おでんの歴史。室町時代に流行した「豆腐田楽」。その後、進化を続けたおでんは、江戸時代にはファストフードとして江戸庶民に愛され、やがて煮込みおでんへと変化。さらに屋台や居酒屋で食べる料理から家庭で食べる料理へ。そうして、おでんは現代の定番料理となったという。今のおでんからは豆腐田楽のイメージは浮かばないが、寒い季節の鍋料理として家庭でも定着している。
その小料理屋、前身は「おでん屋」だった。小料理屋に商売替えしても1年を通して店の入り口でおでんが客を迎える。馴染みの客はその匂に迎えらえてほっとする。出張で月に複数回来る同僚は四季を通して「先ずおでん」から注文する。就職してなじんだこの店のおでんが日本一、と高齢の女将を喜ばせていた。長くご無沙汰しているが確かにいい味だった。
おでんは寒くなって、と思っていたらコンビニでは9月が売れ時期。冬になると家庭で鍋料理が始まる、おでんもその流れで売れ行きが下がる、丁寧に教えてくれた店員はさらに「この時期のお得意さんは独り住まいや単身赴任者」という。寒い時期におでんは売れる、門外漢のこの常識は世間に通用しない思い込みだった。