樋口一葉は19歳で小説を書き始め24歳で亡くなった。この短い生涯の間に後世に残るすぐれた作品を残した。それは趣味で書いたものでなく誰かを救うために書いたものではなく、母と妹を養うためお金のために書いた。その小説は、近代小説を切り開く傑作と評価されている。そんな生活の窮状を知る由もないが、生きんがために一心に書かれたのだろう。
そんな評を読んだ昼下がり、庭の花で蝶が蜜を吸っている。珍しい光景ではないが一葉のこともありそっと見ていた。そばに寄っても逃げることなく吸い続ける。ただ、一つの花で吸い続けるのではなく次々と花へ飛び移る。翅をしっかり広げ落ち着いて、と思えば隣の花ではホバーリングしながら、その行動きは気ままで外敵から身を守るためかもしれない。
こんな観察をしたことはないので知る由もないが、ひと花ごとの蜜の量が少ないのか、驚くほど多くの花から吸い続ける。体内に貯えるタンクでもあるのだろうか。雨が降れば蜜は得られない、風が強ければ花に止まれないだろう、そんな危機管理に立って蜜が得られる時に得ておく、生き物の知恵だろう。
そんな様子を眺めていると一心不乱という言葉を思い出した。「人として他に迷惑を掛けないで一つのことに集中して周囲に心を奪われたりしない」と辞書にある。同意に「一意専心、一心一意、一生懸命、無我夢中」などいい熟語が幾つもある。人は万物の霊長と自賛しているが、まだまだ自然界には適わないことがある。