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水村美苗『母の遺産 - 新聞小説(上)』

2015年05月12日 21時48分44秒 | 文学
水村美苗『母の遺産 - 新聞小説(上)』(中公文庫)を読んだ。
水村美苗の小説は、作者と非常に近いところに舞台を設定しているので、ここに書かれていることはほんとうに起きたのか、どうなのかという興味を嫌でも持ってしまう。水村美苗の夫はほんとうにここに描かれてあるように浮気をしていたのだろうか。母親はこんなひとだったのだろうか。姉は相変わらずこんな感じだが、ほんとうに実在するのだろうか。など。
大江健三郎の小説に近い。
しかし大江健三郎の小説はここは嘘だろう、と思うことが出てくるので、現実と虚構の線引きがわりとできる。
水村美苗の小説は違う。どこまでほんとうか本当にわからない。全部本当のような気がする。主人公の名前を美苗ではなく美津紀としたり夫の名前も変えてはあるが、明らかに作者、明らかに作者周辺の人物ということで、興味を惹かれる。水村美苗周辺の人物と知り合いではないので、ほんとうだからどうということはないのだけれど、ここまで本当のことを書く水村美苗に興味を持ってしまう。嘘だとしても生活に支障が出そうだ。
「径鼻(ケイビ)」や「胃瘻(イロウ)」という言葉を文学に持ち込むのが今回の課題だったのかもしれない。文学好きの自分が覚えたくなかった言葉を自分の小説のなかに入れるということがひとつの冒険だったのだろう。

現在から遡って、ある過去の時間を中心にまた語りだすのが特徴だと思う。
現在を現在形で語り、少し過去に遡りまたそこを現在形で語り、それよりもさらに遠い過去を過去形で語る、というようなことをする。

呆けて死にかけた母親に対する恨みみたいなものをきちんと書いている。
また病院で無理やり延命させられることに対する違和感、それへの抵抗を書いている。
母親が死んで上巻は終わり。
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