”朝吼夕嘆・晴走雨読”

「美ら島沖縄大使」「WeeklyBook&Reviews」「マラソン挑戦」

ノーム・チョムスキ『言語論』(大修館書店)

2003年03月28日 | 「Weekly 読書感想」
 今から35年ほど前IT業界に入って間もないある夜、3人のシステムエンジニアと新宿南口の居酒屋で飲む機会があった。酒がほどよく廻ったところで3人が何か議論し始めた。ところが3人が発する書名も著者もその内容もそれまでに私は聞いた事がなく全くチンプンカンプンでほとんど理解できない。まるで自分が異界に来たような気分だった。じっと議論を聞いている振りをして始終黙っていたが、帰り道呆然としたのを忘れられない。あれは何だったのか。後から思うと彼らが議論していたのはチョムスキの『言語論』だったのではないか。「言語生成論」等は私にとって今でもまるで“知のラビリンス”だ。

 因みにその時の3人とは東大数学科卒で当時一流といわれたOSエンジニア、他の一人は東大機械工学のオーバー・ドクターでソフト会社の社長、残りの一人も東大工学卒の原子力エンジニアだった。文学部の私がこの3人と酒席を同じくした行きがかりが思い出せない。
 最近そうした“衝撃の経験”が少なくなったのは私が賢くなったのではなく世界が狭くなったのではないかと多少寂しい気もする。

 言語学に革命をもたらし、ベトナム、アフガン、イラクと胸のすくような米国批判を展開しているチョムスキを取上げるなら、今もっともカレントな著書「9・11アメリカに報復する資格はない」を取上げるべきかもしれない。
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吉野俊彦「私の戦後経済史」(至誠堂新書)

2003年03月17日 | 「Weekly 読書感想」
 元日銀調査役の著者が戦後20年経った昭和41年に「ちょうど高度成長が一段落して転換期に入った日本経済」と書いているが、新書版ながら年表や図表が多く掲載引用されており、当時の実態経済を理解するうえで私にとって印象に残っている一冊だ。大内力東大教授が表紙に推薦文を書いている。

 著者は元日銀調査役が本業の傍ら鴎外研究の書を書いているが本業との狭間で悩んだ時、作家と軍医総監という二足の草鞋を両々一流にこなしたことで後世に大きな影響を与えた鴎外の生き方に随分勇気付けられたと書いているのを読んだことがある。

 先頃鴎外のを読んだのを切っ掛けに本書を思い出して本箱の奥から引っ張り出してパラパラめくったら、表紙裏に「昭和41年11月、京王線上北沢駅午前8時半、ラッシュである。木枯寒風強し」とある。巻末には「昭和41年12月10日、埼玉行管在勤中。京王線笹塚駅車中、通勤快速待合せ。昨夜金曜晩宿直、喉をやられたらしい」とある。
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西江 弘『健康リスク管理』(金原出版)

2003年03月12日 | 「Weekly 読書感想」
B5300ページ近い堂々たる上製版。生活習慣から環境汚染、ストレスまで幅広い範囲で “現代を生き抜くための健康リスク管理”書。参考文献や詳細な索引もありハウツウものというより健康辞書を兼ねた学術書に近い。
 著者は沖縄県名護高校から岐阜医大、東大医学大学院に進み現在順天堂大助教授。専門は脳神経学。
 こう書くと著者の西江さんは強面の謹厳な学者を想像するが、少しも偉ぶるところがなくいつもニコニコと柔和な性格で実はは私の飲み友達です。
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森 鴎外「ウィタ・セクスアリス」(岩波文庫)

2003年03月08日 | 「Weekly 読書感想」
 漱石と並ぶ明治文学の泰斗鴎外の作品は「即興詩人」「雁」「青年」等挙げれば切がないが漱石に比べほとんど読んでいない。中学の教科書で始めて接した「山椒大夫」の乾いた独特の文調を覚えている。本作品は思い出の書ではない。一度機会があったら読みたいと思っていたが昨年始めて読んだ。鴎外作品の中で一種禁書の匂いがあり、間違っても教科書などには載らない。

 「ウィタ・セクスアリス」とは“性欲的生活”の意味。今読んで見ると大した感興は催さないが、直ぐ発売禁止になったことから当時一の教養人であった著者の赤裸々な体験談として当時の青年にはセンセーショーナルな影響を与えたかもしれない。
 私はむしろ書中ところどころ科目別に鉛筆を使い分けて詳細なノートを取りつつ著者の秀才を思わせる克己的な日常生活と実に計画的な勉強振りが強く印象に残る。

 鴎外は作家としてだけでなく、ドイツ留学で医学を修め当時軍医として最高のポジションである軍医総監に登りつめ、作家を兼業する多くの人に後世多くの影響を与えた。
 軍医としての鴎外は当時日本海軍に蔓延していた「脚気米糠原因説」に真っ向から否定した不名誉な過ちを吉村正がその作品で書いている。人の評価は難しいものだ。
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吉本隆明 「わが転向」(文春文庫)

2003年03月04日 | 「Weekly 読書感想」
 これは1994年「文芸春秋」1月号に掲載された当時随分話題を呼んだ挑発的評論。文庫版になったのでこの度改めて読んだ。本書には本題以外複数の論文が収められている。10年後の今日でもいささかも興趣を失わない。文句なく面白かった。

 私の大学時代はそれこそ吉本隆明と黒田寛一が双璧で、この二人の論争をどれぐらい読んでいるかがいわば知的ランキングのメルクマールだった。私も下宿で懸命に「擬制の終焉」等を読んで“先覚分子”の議論に耳を側立て、自分のランキングを“目分量”したものだ。

 本書に収められている「都市から文明の未来をさぐる」論で座興的と称して多彩な100冊の「東京論」を挙げているが、これを見ると(私が今更言うのがちゃんちゃら可笑しいが)やはり並の読書人ではないと感嘆する。吉本隆明の執拗な思考力と分析力に本当に感嘆したのは彼の「南東論」だった。

 時々思うことだが彼でも愛娘「吉本ばなな」の活躍には目を細めているのだろうか。彼が娘ばななを語るのを見たことがないが、内心はともかく恐らく全部断っているのだろう。きっと「娘の活躍を嬉々として語る吉本隆明像」など彼の信者は見たくないことを知っているのだろう。
 椎名誠が初期の作品を吉本に評され、友人の弁護士木村晋介から「おい、これ褒められているゾ」と言われ「そうか!」と嬉しがる箇所がある。吉本とはそういう存在なのだ。
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ヒルティー「幸福論」三巻(白水社)

2003年03月02日 | 「Weekly 読書感想」
 古来「幸福論」はアランやバートランド・ラッセルが有名だが私が読んだのはヒルティー。大学入学の頃誰でもそうだが気負いとぺダンティクだけでなくそれこそ真摯な向学心で古典や難書に挑戦する。私も御多分にもれずモンテニューの「随想録」やパスカルの「瞑想録」、ダンテの「神曲」に挑んだ。ヒルティーの「幸福論」3巻もその時に読んだ。

 別に「幸せになりたい」と思って買ったのではない。70年代、上智大学の渡部昇一教授の「知的生活の方法」(講談社)や教授が師と仰ぐハマトンの「知的生活」がベストセラーズになったが、「幸福論」はそのジャンルの源流か。

 「幸福論」の中でいまでもはっきり覚えているのは「朝に新聞は読まない。なぜなら新聞を読み終えると一仕事終えたような気持ちになって貴重な朝一番の大事なエネルギーの消耗になるから」という箇所だ。歴史的古典を読んで40年後覚えているのがこの一節だけという自分の鑑賞力を何と言うべきか。そういえばヨハン・シュトラウスの「朝の新聞」というウインナーワルツを聞く度にこの書を思い出す。

 ヒルティーには外に「眠られぬ夜のために」という2巻がある。題名が気に入って購入した。パラパラ読んだがほとんど内容を覚えていない。「幸福論」と並んで40年間近く本棚を飾っている。
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志良堂 仁「がんを越えて」(琉球新報社)

2003年03月02日 | 「Weekly 読書感想」
 これは現役の記者が下血から直腸癌を発見、入院、手術してストマとして生還するまでの闘病と家族の物語。患者である記者志良堂(“しらどう”と読みます)氏自ら同時並行的に新聞に掲載し大きな反響を呼んだ。私も当時の連載を読んで強い衝撃と深い感動を受けた。世にガン闘病記は多いけれどここでとくに取上げたのは格別の理由があります。

 実は記事の迫真性だけでなく著者の志良堂さんは高校、大学、学部、就職先、職種とすべて私の後輩という奇縁。さらに書中献身的な看病姿が描かれている妹さんが東京で私の飲み仲間だった。「あれ私の兄よ!」と云われた時には驚いた。めったにない珍しい姓にもかかわらず本書を話題にするまで兄妹とは気付かなかった。

 著者の志良堂記者は現在記者として職場に復帰し、多くのガン罹病者とストマの方々に大きな勇気を与えている。沖縄出張の際、時折職場に訪ね歓談します。妹さんはお兄さんの回復を見届けた現在、以前から魅せられていたイタリアに滞在しエンジョイしている。思い出したようにイタリア便りのメールが届く。
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朝吼夕嘆

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