やさしい訴え(小川洋子著)

2023-11-20 00:00:50 | 書評
小川洋子氏の小説の特徴の一つとして、「失敗作がない」ということだろう。物語に隙がない。安心して読める。(あらすじは安心できないことが多い)



眼科医の夫に不倫された主人公の瑠璃子が、自身の母親の所有する山奥の別荘地に逃避し、ピアノが弾けなくなった男(新田)と、恋人を無惨に亡くした女(薫)に出会い、物語は始まる。

新田と薫は日本では稀有な職業のチェンバロ作りをしている。三人の繊細な心の震えが、チェンバロの音色とともに溢れてきて、心の奥深く刻まれるよう。俗な言葉で言うと「不倫」というか「四角不倫」と言うか。小川洋子の手にかかると、そこには罪悪感などまったく感じられない三人の浮遊した精神が交錯する。

三人の喪失感を埋めたり削ったりとゲームは続くが、残酷なことにゲームは徐々に終わりに近づいていく。

全16章からなるが、12章の段階で余韻を残して筆を置く作家もあると思う(もちろん、伏線回収は必要だが)。また14章で終わりにするのも一つの区切りだと思うが、16章まで書いて、瑠璃子さんの今後とか新田さんの愛犬である老犬ドナのことを書き、すべてを書き尽くす感じだ。

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