将軍が目醒めた時(筒井康隆著)

2013-10-09 00:00:08 | 書評
全10編の短編が収録されていて、単行本は昭和47年に刊行され、その後、昭和51年に角川文庫となっている。かなり以前に絶版となったのだろうが、この短編集の中の9番目になる『空飛ぶ表具屋』を読むために、AMAZONで探し出す。

shogun


まず『空飛ぶ表具屋』だが、少しずつ調べている世界最初(あるいは2番目)に空を飛んだ(かもしれない)岡山の「浮田幸吉」をモデルにしている。「鳥人幸吉」とも言われる。

幸吉についての記録(実録)は、多いようで少なく、また痒いところに手が届かぬようなあいまいさがあり、その中で、この小説は最後のところを除いてかなり歴史に忠実なような気がする。他の9編は、歴史的事実を1、2割取り込んで後は荒唐無稽なストーリーに仕上げているのだが、結構、作家筒井康隆は、本作では資料調査の段階で彼が空を飛んだことについて確たる心証を得たのではないだろうか。ただ、本質的に飛行機という不可解な移動手段に反感を持っているようなところから、「空を人間が飛ぶ」ことを好意的には思ってないような書き方にも感じる。

幸吉についての本格的な考察は、まだ終えていないので、あくまでも本短編によれば、幸吉は3回、フライトにチャレンジしている。1回目は自宅の二階から(江戸時代、二階建てを許されるのは一部の身分の者だったはずだが)。2回目は岡山市の旭川の橋からジャンプした時。そして岡山を追われて晩年に駿河で飛んだとされている。1回目は×。2回目と3回目は○だが、空を飛んだ後、墜落して死んだことにされている。作家が飛行機嫌いだからだ。実際には幸せな老後を送ったという説もある。

本当に空を飛んだかどうか、今のところわからないが、鳥のように空を飛ぼうと思っていた(鳥の解剖なんかしたはずだ)とすると難しいかもしれない。空に浮かぶには向かい風が必要だが、遠くへ移動するには追い風が必要で、要するに異なる要素を満たすため鳥の技術は精巧を極め、はっきりいって現代でも鳥ロボットは存在しない。


短編集のタイトルになった『将軍が目醒めた時』だが、明治の終わりに若年性の躁鬱病にかかった男が、病院の中で自ら「将軍」を称し、日本の帝国主義化を煽るような発言を繰り返すことによりマスコミにもてはやされていたものが、戦後、老人になってから正常な精神を取り戻したのだが、そうなると病院がマスコミから得ていた取材料がなくなるため、院長に頼まれニセ患者を演じ続ける話。全編に差別用語「き○○い」他が濫用されているため、この短編集が現代によみがえることは不可能なのだろうと思うしかない。


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2 コメント

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Unknown (空飛ぶタイヤ)
2021-12-17 13:23:00
【始祖鳥記】(飯嶋和一さん著)
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Unknown (おおた葉一郎)
2021-12-17 18:03:54
空飛ぶタイヤさま、
その本、読んでいます。
さらに飛び降りたとされる橋、(今と違う場所)にも行ってみました。墜落したら亡くなる高さです。
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