残っている話(宇野千代著)

2016-05-11 00:00:12 | 書評
最近、宇野千代のことを「元祖肉食女性」とタイトルを付けているようだ。個人的には「和泉式部」を忘れているような気がするが、あまり読んだことのない作家だったが、結構気になる存在だった。東郷青児のことや林芙美子のことなど調べていると、よく出てくる名前だったし、尾崎士郎や北原武夫とも関係があったというようなことも漠然と知っていて、それらの回想を書いた「残っている話」という文庫を、古書店で購入していた。

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読後、調べると、書物に書かれたこと以上に結婚歴があるとか、既婚中に他の男性宅に潜り込んだり、さらに三角関係と言うか四角関係というか五角関係と言うか・・

この本に書かれているのも、上記の人間たちのほかにも梶井基次郎の死の床に行く気がしなくなった話や、若い時にある地方都市で布団をともにした男からの不意の手紙の話とか。残っている話と言うのが、「書き残していた話」なのかと思ったが、そうではなく書の後半の日記風エッセイで、高齢になって自分の先祖(ルーツ)探しを必死に始めることを「残っている話」として書いている。

なにしろ82歳の時の話だが、岩国(山口県)の有名人として、地元の人たちから、ルーツを書いたらという要望に応じて墓や寺や古戦場を歩き回る。どうも自家製の小麦青葉をすりつぶして飲んでいたようで、元気いっぱいだ。享年は98歳だし。

先祖は毛利家に滅亡させられた小さな大名の部下だったようで、鞍掛合戦と言われる戦史に漏れることの多い大いくさ(戦死者1500~2000名)で、兄弟の一人だけが農家として生き延びたらしい。

叙述はまさに歴史小説家といったところで、肉食の面影はない。若い時の男友達がすべて他界してしまったから枯れていったのだろうか。

とはいえ、東郷青児関連の記載は美術界の常識は、宇野が押しかけたことになっているが、宇野の書き方は逆になっている。もっとも竹久夢二の研究書によれば夢二の妻に青児が手を出そうとしたことになっていたり、ご都合主義だ。まあ、三人とも肉食家だったということだろうか。