酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「大いなる不在」~至高の愛が壊れる時

2024-07-27 19:52:14 | 映画、ドラマ
 夏風邪(まさかコロナ)で体調は最悪だったが、辛うじて更新にこぎ着けることが出来た。

 バイデン撤退で、ハリス副大統領が代替候補になった。〝もしトラ〟から〝確トラ〟になったと思ったが、バイデンもトランプも嫌いという<ダブルヘイタ->の人たち(25%)の動向は不明で、世論調査では拮抗した数字になっている。著名人の多くがハリス支持を明らかにする一方で、共和党のバンス副大統領候補はジェンダー関連の過去の発言で批判を浴びている。こちらも差し替えが必要ではないか。

 テアトル新宿で先日、「大いなる不在」(2023年、近浦啓監督)を見た。前稿で紹介した小説とドキュメンタリーでも認知症の母が登場し、バイデンも認知症の進行が疑われていた。本作の主人公の父親も認知症で、冒頭で警察沙汰を起こしてしまう。一報が入った時、卓(森山未來)は演劇ワークショップで市原佐都子(本人役)とプランを練っていた。市原は時代の先端を走る演出家で世界からも注目されている。演目は「瀕死の王」で、王は卓の父である陽二(藤竜也)の人生とリンクしていた。

 卓は妻の夕希(真木よう子)とともに生まれ故郷の北九州に向かう。施設に収容された陽二の言葉に卓は衝撃を受けた。「自分は日本から拉致されてここにいる。救出してほしい」と言うのだ。自宅を訪ねた卓は義母の直美(原日出子)の不在に気付く。雑然とした邸内に張り巡らされたメモ書きに映画「マシニスト」が重なった。不眠で記憶中枢を破壊された主人公にとって日常を切り抜ける手段だったが、陽二にとってメモは認知症に対応するために必要不可欠だったのだ。

 卓は陽二との記憶を辿り、宅配弁当業者や直美の息子の訪問を手掛かりに現在地を探ろうとする。時系列を行きつ戻りつし、サスペンス的な要素もあるが、通底するのは<愛>だ。卓は陽二が施設入所の際に持参したバッグを預かるが、日記帳に綴られた陽二と直美の愛の深さに驚かされる。<至高の愛>は壊れ、2人は今、愛の不毛に惑っている。

 陽二は最初の妻と卓を捨てて、20年来の愛を貫き直美と結ばれた。最初の妻の遺骨は合祀墓に管理されている。施設で面会した際の父子の会話から、陽二が決して優しい父ではなかったことが窺える。だが、直美の証言から、陽二は大河ドラマに脇役で出演している場面を喜んで見ていることがわかる。愛情を表現するのが苦手なことは「母(直美)を家政婦のようにこき使ってきた」という直美の息子の言葉からも明らかだ。

 ラストで卓は直美の故郷である熊本に赴き、かつて陽二がそうしたように直美への思いを海に向かって叫ぶ。その様子を送られた夕希も深い感動を覚えた。直美の心が陽二から離れた瞬間が捉えられていた。待ち合わせのスーパーのラウンジで心臓に持病を抱える直美が倒れた。外から様子を見ていた陽二だが、気付かずに立ち去っていく。些細な出来事が<愛>を壊す。俺の心も痛くなった。

 森山未來、藤竜也、原日出子の3人の名優の演技は申し分なかったが、真木よう子の無垢な表情も光っていた。昨年後半から邦画界は充実した作品が多かった。真木も近浦監督、森山とともにこれからの日本映画を牽引していくことだろう。
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