酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「銀河英雄伝説」と「レッスルマニア」は民主主義の教材?

2014-04-20 23:03:03 | カルチャー
 フジキセキが屈腱炎で回避してから19年後、ラストクロップのイスラボニータが皐月賞を制し、父の無念を晴らした。POG指名馬ステファノスも15番人気で5着と大健闘で、馬券は外しても満足いく結果だった。

 リョサらと南米文学を牽引したガルシア・マルケスが亡くなった。南米文学といえばマジックリアリズムで、インド系など後世の作家に大きな影響を与える。複数の主観が交錯するセンテンスが、誌的なイメージの連なりとなって物語を紡いでいく。読む側は時空を超えた迷宮に閉じ込められてしまうのだ。

 マルケスは「百年の孤独」を含め10作ほど読んだ。訃報に触れ、あすにも未読の「コレラの時代の愛」を購入する予定だが、500㌻を超える長編(恐らく難解)に俺の脳と体が耐えられるだろうか。ともあれ、文学の魔法を教えてくれた巨匠の死を心から悼みたい。

 クーデターや独裁が定番の南米で、マルケスが思いを馳せた民主主義は、今や腐臭を放っている。アルゼンチンに端を発した直接民主主義のうねりは欧米に波及したが、時に議会制民主主義が壁になって行く手を遮っている。日本でも護憲、反秘密保護法、脱原発、辺野古移設反対が世論調査で過半数を占めるのに、国民の声は永田町に届かない。

 日本映画専門Cでオンエアされた「銀河英雄伝説~劇場版」の録画を2本続けて見た。20年近く前、知人に薦められたアニメ版にハマり、毎週のようにレンタル店に通った記憶がある。「銀河帝国」と「自由惑星同盟」が対峙する壮大なスペースオペラで、互いに敬意を払う帝国のラインハルトと同盟のヤン提督(アジア系)が主な登場人物だ。

 底に流れるテーマは<超越した支配者による独裁制は民主制に勝る>……。安倍首相支持者は飛びつきそうだが、首相は超越した支配者から程遠い。原作(田中芳樹)は左翼的な空気が濃密という。若くして軍のトップから皇帝の座に就いたラインハルトは、民衆の幸福を第一に考え善政を敷く。対する同盟は衆愚に堕し、政策は一貫しない。能力はラインハルトに匹敵するヤンだが、その言葉通り「帰趨は闘いの前に決していた」。

 「銀河英雄伝説」の帝国と同盟の関係に近いのが、レスリングウオーを繰り広げたWWEとWCWにである。テッド・ターナーの莫大な資金を後ろ盾にしたWCWはホーガンやフレアーらを掻き集め、WWEを壊滅寸前まで追い詰めるが、ロッカールームでの闘いが激化したことで混乱に陥る。一方のWWEは、絶対的権力者のビンス・マクマホンがオースチンを前面に立て、反転攻勢に打って出る。戦況は少しずつWWEに傾き、遂にWCWを吸収した。

 WWE最大の祭典「第30回レッスルマニア」を10日のタイムラグで見た。WWEでは今、上層部がファンをコントロールするという図式が崩れ、ファンの声が団体を動かしている。直接民主主義が全面的に機能する稀な例になっているのだ。変化の兆しは「ロイヤルランブル」(1月末)に現れた。初戦で死闘を演じたダニエル・ブライアンの名を、ファンはその後も連呼し続ける。翌日にCMパンクが急きょ退団したことで、どの会場でも「CMパンク」のチャントが繰り返し起きていた。その声を止めるためにも、上層部は軌道修正を強いられる。

 ブライアンが「レッスルマニア」のメーンで闘う可能性はゼロだったが、会場を覆うファンの「イエス」は全世界(100カ国以上で放映)に伝播していく。ファンによるリング占拠を経て「イエス旋風」は全てをなぎ倒し、「レッスルマニア」で大団円に至る。王座を獲得したブライアンは7万5000超の観衆から、「イエス」のチャントで祝福されていた。

 小柄(170㌢前後、80㌔台)で見た目も平凡なブライアンだが、長い下積み時代に習得した技量(関節技、蹴りとダイブ、受けの巧さ)で目の肥えたファンの支持を得た。そのことは素晴らしいが、今後に問題を残している。

 常日頃の称揚とは相容れないが、直接民主主義は過剰さを伴う。シナへの酷い罵声はオートン、バティスタら主要レスラーに及び、代わりに支持されているのが〝番犬〟から〝反逆児〟に転じたシールド、カルト風のワイアット・ファミリーだ。アウトローが闊歩するのは気分がいいが、支持が偏るとエンターテインメント性が損なわれ、従来のファンが離れる可能性もある。

 俺はこの年(還暦間近)でプロレスを楽しんでいるが、想像を遥かに超える展開を見せるWWEともう少し付き合うことになりそうだ。直接民主主義はどこまで続くのか、それとも上層部が巧みに収束させるのか……。興味は尽きそうもない。
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