『ネットワーク科学』より ネットワークを襲う大災難
古代ローマ帝国に成功をもたらした一つの鍵は、当時の交流と交易の最重要経路だったテヴェレ川の近くに位置するという戦略的な優位性だった。ローマは、徐々に勢力を広げつつあったとき、その長大な道路ネットワークの最初の支線建設にとりかかった。道路建設後には物資や軍隊を迅速に移動できるようになったので、道路はローマの勢力を維持、拡大するためのきわめて重要な手段だった。道路を建設することはさらなる支配力の獲得を意味し、支配力を得たことによりさらなる道路建設が必要となった。その結果が、イタリアの格言に言うところの「すべての道はローマに通ず」だ。
ローマと同じような発展のパターンは、ほとんどすべての主要都市に見られるだろう。発展途上の都市は人や物の往来を引きつけ、より多くの交通手段(道路、鉄道、航空路線など)を必要とする。そうしてつくられた交通手段が、都市へ流れこむ交通量を増やし、都市の発展を拡大させ、さらなる交通手段の増加が求められる。このように、都市間の交通ネットワークの構造変化と交通量のダイナミクスが互いに影響しあい、フィードバックループをなす。
ネットワーク構造がダイナミクスにどう影響するかと問うことは、ある仮定を暗に前提としている。つまり、ネットワーク構造は変化しないもので、その上でダイナミクスが起こるという仮定だ。現実には、すべてのネットワーク構造はダイナミクスが起こる間に変化する。したがって、この仮定は、ダイナミクスの時間スケールが構造変化の時間スケールよりもずっと短い場合にのみ成り立つ。この仮定は、ある種のダイナミクスについては適切だ。たとえば、友人関係や近親関係が変化するのは通常は何年に1回という頻度なので、毎日や毎週の頻度でやりとりされる情報は固定された社会ネットワーク上を広がると見なしてよい。あるいは、1日のうちにある都市へ向かう自動車の交通量は、すべて決まった経路を通って移動する。道路の接続は毎日変わるわけではないからだ。
しかし、他の場合には、ダイナミクスの間にネットワーク構造が変化しないという仮定は誤りであることもある。たとえば、性感染症の伝播では、ネットワークの枝が使われるタイミングがきわめて重要だ。ある相手と感染予防策なしに性的関係をもつのが、別の感染者と感染予防策なしに関係をもつ前か後かで、状況は変わってくる。10年間を通じた都市の発展を調べようと思えば、交通量と道路網の変化との相互作用を考えに入れる必要がある。ピアツーピア・ファイル共有システムのようなある種の工学的なネットワークでは、ネットワーク構造と情報のダイナミクスが同じ時間スケールで変化し、密接に絡まりあっている。食物網では、個体数変化のダイナミクスがネットワークの再組織化につながることがある。過剰な漁獲によって生物種の個体数がある水準まで下がると、食物網は捕食-被食関係を再編成し、減少した種の食物網における役割に別の種が置き代わる。
ネットワーク構造とダイナミクスの結び付きは、SNSが普及した現代においてとくに重要な意義をもつ。SNSを通じて、社会ネットワークの構造変化と知人の近況に関する情報が絶え間なく流れてくる。このようにSNSによって社会関係を今までよりも細かく認識できるようになったことで、人々が社会ネットワークをつくり出し、維持し、活用するやり方が変わるかもしれない、と研究者たちは論じている。
絡まりあったネットワーク構造とダイナミクスの問題に立ち向かうには、いくつかの方法がある。たとえば、ネットワーク構造の変化とダイナミクスを分けて考える次のような方法がある。まず、固定されたネットワークに対して、情報の流れや情報探索などのダイナミクスをシミュレーションする。次に、たとえば情報の流れる効率が改善されるよう、ネットワーク構造を変化させる。この2つの手順を交替しながら繰り返した後にできてくるネットワークを調べれば、ダイナミクスと絡まりあって生じるネットワークのモデルを構築することができるだろう。より洗練された方法は、適応度モデルを改良して、適応度の値が時間的に変化するパラメータによって決まるようにすることだ。ダイナミクスが進むと、それに従って適応度が変化する。そして適応度の変化がネットワークの再編成をもたらす。
ダイナミクスがネットワーク構造の上で起こる場合もある。また、ダイナミクスがネットワーク構造と結び付いている場合もある。そのどちらの場合であっても、どの分析方法をとろうとも、現象を完全に理解するためにネットワークを考慮することが必要不可欠だという基本的な考え方は同じだ。
古代ローマ帝国に成功をもたらした一つの鍵は、当時の交流と交易の最重要経路だったテヴェレ川の近くに位置するという戦略的な優位性だった。ローマは、徐々に勢力を広げつつあったとき、その長大な道路ネットワークの最初の支線建設にとりかかった。道路建設後には物資や軍隊を迅速に移動できるようになったので、道路はローマの勢力を維持、拡大するためのきわめて重要な手段だった。道路を建設することはさらなる支配力の獲得を意味し、支配力を得たことによりさらなる道路建設が必要となった。その結果が、イタリアの格言に言うところの「すべての道はローマに通ず」だ。
ローマと同じような発展のパターンは、ほとんどすべての主要都市に見られるだろう。発展途上の都市は人や物の往来を引きつけ、より多くの交通手段(道路、鉄道、航空路線など)を必要とする。そうしてつくられた交通手段が、都市へ流れこむ交通量を増やし、都市の発展を拡大させ、さらなる交通手段の増加が求められる。このように、都市間の交通ネットワークの構造変化と交通量のダイナミクスが互いに影響しあい、フィードバックループをなす。
ネットワーク構造がダイナミクスにどう影響するかと問うことは、ある仮定を暗に前提としている。つまり、ネットワーク構造は変化しないもので、その上でダイナミクスが起こるという仮定だ。現実には、すべてのネットワーク構造はダイナミクスが起こる間に変化する。したがって、この仮定は、ダイナミクスの時間スケールが構造変化の時間スケールよりもずっと短い場合にのみ成り立つ。この仮定は、ある種のダイナミクスについては適切だ。たとえば、友人関係や近親関係が変化するのは通常は何年に1回という頻度なので、毎日や毎週の頻度でやりとりされる情報は固定された社会ネットワーク上を広がると見なしてよい。あるいは、1日のうちにある都市へ向かう自動車の交通量は、すべて決まった経路を通って移動する。道路の接続は毎日変わるわけではないからだ。
しかし、他の場合には、ダイナミクスの間にネットワーク構造が変化しないという仮定は誤りであることもある。たとえば、性感染症の伝播では、ネットワークの枝が使われるタイミングがきわめて重要だ。ある相手と感染予防策なしに性的関係をもつのが、別の感染者と感染予防策なしに関係をもつ前か後かで、状況は変わってくる。10年間を通じた都市の発展を調べようと思えば、交通量と道路網の変化との相互作用を考えに入れる必要がある。ピアツーピア・ファイル共有システムのようなある種の工学的なネットワークでは、ネットワーク構造と情報のダイナミクスが同じ時間スケールで変化し、密接に絡まりあっている。食物網では、個体数変化のダイナミクスがネットワークの再組織化につながることがある。過剰な漁獲によって生物種の個体数がある水準まで下がると、食物網は捕食-被食関係を再編成し、減少した種の食物網における役割に別の種が置き代わる。
ネットワーク構造とダイナミクスの結び付きは、SNSが普及した現代においてとくに重要な意義をもつ。SNSを通じて、社会ネットワークの構造変化と知人の近況に関する情報が絶え間なく流れてくる。このようにSNSによって社会関係を今までよりも細かく認識できるようになったことで、人々が社会ネットワークをつくり出し、維持し、活用するやり方が変わるかもしれない、と研究者たちは論じている。
絡まりあったネットワーク構造とダイナミクスの問題に立ち向かうには、いくつかの方法がある。たとえば、ネットワーク構造の変化とダイナミクスを分けて考える次のような方法がある。まず、固定されたネットワークに対して、情報の流れや情報探索などのダイナミクスをシミュレーションする。次に、たとえば情報の流れる効率が改善されるよう、ネットワーク構造を変化させる。この2つの手順を交替しながら繰り返した後にできてくるネットワークを調べれば、ダイナミクスと絡まりあって生じるネットワークのモデルを構築することができるだろう。より洗練された方法は、適応度モデルを改良して、適応度の値が時間的に変化するパラメータによって決まるようにすることだ。ダイナミクスが進むと、それに従って適応度が変化する。そして適応度の変化がネットワークの再編成をもたらす。
ダイナミクスがネットワーク構造の上で起こる場合もある。また、ダイナミクスがネットワーク構造と結び付いている場合もある。そのどちらの場合であっても、どの分析方法をとろうとも、現象を完全に理解するためにネットワークを考慮することが必要不可欠だという基本的な考え方は同じだ。