『137億年の物語』
宇宙が始まってから今日までの全歴史
著●クリストファー・ロイド
- 母なる自然(137億年前~700万年前)
1ビッグバンと宇宙の誕生
無限のエネルギーを持つ目に見えない点が大爆発。
わたしたちの宇宙を創り、銀河と普遍的な物理法則を生み出した。
2生命はどこからきたか
彗星の衝突や火山の噴火が、原始地球の灼熱の地殻を揺り動かし、化学物質が複製によって、極小の生命体に変わりはじめた。
3地球と生命体のチームワーク
地球の惑星システムと原始生命体の進化が手を結び、より新しくより複雑な生物が登場するための環境を整えた。
4化石という手がかり
生物は爆発的な進化を遂げ、さまざまな原始生物が登場した
硬い殻や骨、歯を発達させた生物は、化石となり、自然という博物館にその姿をとどめた。
5海は生命の源
先史時代の生物は、陸に上がる前に、海の中で長い年月をかけて進化した。
ある種の魚は背骨をそなえ、人類につながる最古の生物となった。
6生物の協力体制
陸上植物は背の高い樹木へと進化し、大地は、昆虫やミミズや菌類が耕す滋養豊かな土壌で覆われた。
7進化の実験場
働きつづける大陸どうしがぶつかって超大陸を形成し、新たな生命の進化をうながす一方で、陸上生物がはじめて経験する大量絶滅を引き起こした。
8恐竜戦争
地上は恐竜に占拠されたが、その恐竜も地球の外から偶然襲ってきた隕石の衝撃により、絶滅の運命をたどる。
9花と鳥とミツバチ
地球ではじめて花が咲き、羽毛を持つ鳥が舞い、社会性昆虫という新たな種が、自然界初の「文明」を築いた。
10哺乳類の繁栄
夜の森に潜んでいた控えめな動物が地上の新たな覇者となり、離れ行く大陸とともに移動して、数多くの種に進化していった。
- ホモ・サピエンス(700万年前~紀元前5000年)
11冷凍庫になった地球
地球の自転による循環変動と大陸のランダムな移動がもたらした気候変動により、広大な草原と極地の氷床が生まれた。
12二足歩行と脳
類人猿とよばれる生物が、樹から下りて、2本足で歩くことを覚え、狩りのための道具を作り出し、大きな脳を持つ種へと進化した。
13心の誕生
初期人類のいくつかの種は氷河期の環境に適応し、アフリカ、ヨーロッパ、アジアに広がっていった。彼らは火の使い方を覚え、捕えた動物の肉を調理して食べた。
14人類の大躍進
人類の中で唯一生き残った種「ホモ・サピエンス」は、だれも足を踏み入れたことのない大地に住みつき、言葉を覚え、投げて使う武器で狩りをした。
15狩猟採集民の暮らし
人類は、誕生してから現在までの年月の99パーセントを、住む家も、フルタイムの仕事も、そして個人の所有物もないまま、自然の中で暮らしていた。
16大型哺乳類の大量絶滅
現生人類の登場と気候変動が偶然重なったことにより、まずオーストラリア、次に
南北アメリカ大陸で生態系のバランスが
崩れ、数多くの大型動物が絶滅した。
17農耕牧畜の開始
最後の氷河期が終わると環境は激変したため、人類は生き残りをかけて新たな技術を試し、自分たちの利益のためにはじめて進化を操作しようとした。
第3部文明の夜明け(紀元前5000年~西暦570年ごろ)
18文字の発明シュメール文明
文字の発明によって「有史時代」がはじまり、商人、君主、職人、農民、神官が、最初の文明を築いた。
19王は神の化身エジプト文明
豊かな自然に支えられて、王の中には生き神となる者が現れた。臣民は、王に絶対的に服従し、全身全霊を捧げ、何があっても王を守らなければならなかった。それは王の死後も続いた。
20母なる大地の神
インダス文明、巨石文化、ミノア文明
誕生と生と死という自然のサイクルへの崇拝が、実りと多産、女性らしさ、平等を重んじる文化をもたらした。
21金属、馬、車輪
青銅器の武器、家畜化された馬、二輪戦車という三つぞろいの脅威が、アジア、ヨーロッパ、北アフリカに押し寄せ、破壊と征服と不平等をもたらした。
22中国文明の誕生
米、絹、鉄という自然の恵みを得て、
東方でも強大な文明が生まれ、繁栄した。
23仏教を生んだインドの文明
人間は自然と調和して生きていける、ということを再発見した文明が、そのメッセージを伝えはじめた。
24オリエントの戦争
遊牧民族と定住文明の衝突が、世界最古にして最も長く続く破壊的な紛争の種をまいた。
25ギリシア都市国家の繁栄
交易を経済の基盤にするようになった都市国家が競い合う中で、実験的で新しい、さまざまな生活様式が生まれた。
26覇者が広めたヘレニズム文化
自然のシステムの理解が、哲学や法として花開き、征服者によって東西に伝えられた。
27ローマ帝国の繁栄と衰退
物まねが得意で乱暴な民族が築いた帝国が限度をはるかに超えて権力にしがみつく。
その時代に誕生したイエス・キリストはやがて救世主とよばれるようになる。
28先住民の精霊信仰
文明世界や遊牧民から遠く離れた土地で、人々は自然を畏れ敬い、知恵を発揮し、
平穏な日々をすごしていた。
29コロンブス以前の南北アメリカ大陸
「新世界」の人々はヨーロッパ、北アフリカ、アジアの文明を知らないまま独自の文明を築いたが、大型動物がいないという致命的なハンディキャップを背負っていた。
- グローバル化(西暦570年ごろ~現在)
30イスラームの成立と拡大
メッカに生まれたムハンマドが神の啓示を次々に授かり、イスラームの教えを説きはじめる。
人間とは過ちを犯すものであり、それを正すことが大切だ、とその教えは説く。
31紙、印刷術、火薬
中国の科学的な発明は、イスラームの世界を通じて少しずつ西側に伝わっていったが、それを一気に加速したのは、世界最大の帝国を築いたモンゴルの王だった。
32中世ヨーロッパの苦悩
ヨーロッパのキリスト教国は、疫病や侵略や飢饉によって疲弊し、イスラーム文明と人を寄せつけない砂漠、はてしなく青い海に包囲されていた。
33富を求めて
世界各地にあった定住社会は、交易、労働、あるいは略奪によって、富を築いていった。
34大航海時代と中南米の征服者たち
数人の海洋探検家が偶然、新世界を発見したことにより、古代からの文明が滅亡に追いやられ、ヨーロッパ各国のあいだでは激しい競争が起きた。
35新大陸の農作物がヨーロッパを変えた
ヨーロッパの商人が海外で新しい暮らし方をはじめたことから、利の多い農作物の栽培が流行し、ひと握りの富める者と多くの貧しい者が生まれた。
36生態系の激変
今や全世界に広がった、ほとんどが文明化された唯一の種「人類」のために、動物や植物は栽培され、飼育され、装具をつけられ、輸送され、酷使された。
37ヨーロッパ人は敵か味方か
ヨーロッパから「ビジネスマン兼戦士
が交易を求めてやって来たとき、トルコや中国で栄えていた文明の反応はそれぞれ異なっていた。
38自由がもたらした争い
極端な不平等は、自由を求める暴動を引き起こした。人々は、理想や国旗、国歌のために、進んで戦争に参加した。
39人類を変えたテクノロジー
持ち運びできる動力源を得た人類は、ついに自然の制約を克服した。
人口は爆発的に増え、どの基準に照らしても、過剰となった。
40白人による植民地獲得競争
西欧諸国の人々は、自分たちはあらゆる
生きものの頂点に立っていると信じ、自分たちの生き方に世界を従わせることが使命だと思い込んだ。
41資本主義への反動
西洋文明を受け入れず、自然な暮らしに戻ることを願った人々もいたが、その抵抗は悲惨な結末を招いた。
42世界はどこへ向かうのか?
世界は、休むことのない科学の発展に支えられて、グローバル化した金融、貿易、
取引システムの下に統一された。
地球とその生態系は、人類のとどまるところを知らない要求に今後も応えてくれるだろうか?
無限のエネルギーを持つ目に見えない点が大爆発。わたしたちの宇宙を創り、銀河と普遍的な物理法則を生み出した。
あなたのまわりをよく見てみよう。そして、目に見えるものすべてを、とてつもなく大きくて強力な粉砕機に放り込むことを想像してみよう。植物、動物、家(中にあるものもいっさいがっさい)、ビル、住んでいる町、それどころか国全体も、すべてを粉々にして、小さなボールくらいの塊の中に押し込んでいくのだ。
それがすんだら、残りの世界もすべて入れてしまおう。太陽系にある他の惑星も太陽もすべてである。ちなみに、太陽は、太陽系の惑星をすべて合わせたより1000倍も大きい。その次は銀河系だ。銀河系には、太陽と同じような恒星が2000億個もあるが、これも全部入れてしまう。そしてついには、すべての銀河を押し込もう。この宇宙に銀河はおよそ1250億個もあり、その多くはわたしたちの銀河系より大きい。それらをすべてひとまとめにして、ぐいぐい圧縮していく。レンガくらいの大きさにできたら、次はテニスボール、次はひと粒の豆くらいにして、最後はアルファベットの「i」の上にある点より小さくする。
とうとう点は見えなくなった。すべての恒星、惑星、そして衛星は、目に見えない点の中に消えた。これが宇宙の原初の姿、科学者たちが「特異点」と呼ぶものである。この非常に小さく、とてつもなく重く、とてつもなく密度の高い点は、内側に閉じ込めたエネルギーの圧力に耐え切れず、137億年前に途方もないことをしでかした。
爆発したのである。
並みの爆発ではない。壮大な爆発。空前絶後の巨大爆発。すなわち、「ビッグバン」だ。それに続いて起きたことはさらにすごかった。はるかかなた、数十億キロ先まで破片が散らばったのだ。ほんの一瞬で、宇宙は目に見えないほど小さな点から、この地球はもとより、今わたしたちが見ているすべての星を創るのに必要なものが存在する空間へと拡がったのである。さらにそこには、わたしたちには見えないもの、つまり現在の天体望遠鏡では見ることのできないものも存在する。この宇宙はあまりにも広大で、いったいどこまで続いているのか、本当のことはだれも知らない。
ビッグバンの証拠
ではなぜ科学者たちは、そのようなとてつもないできごとが起きたと信じているのだろう。だれかが目撃するはずもない、遠い過去のことなのだ。当然ながら、今でも少なからぬ人がビッグバンという考え方自体を疑っている。しかし、大方の科学者はそれが起きたことを認めている。彼らに言わせれば、証拠はそこかしこにいくらでもあるからだ。
ジョルジュ・ルメートルはベルギー出身のカトリック司祭にして天文学者である。神学と科学を志したのは、第一次世界大戦中に戦場で悲惨な光景を目の当たりにしたのがきっかけだった。1923年にはケンブリッジ大学に滞在して天文学の理論を学んだ。ケンブリリッジの天文台には、世界最大級の天体望遠鏡があった。1927年、すでに数学者として名をなしていた彼は、「ビッグバンにはじまり、膨張する宇宙」という仮説を立てた。
ルメートルがその仮説を発表したわずか2年後、もうひとりの天文学者、エドウィン、ハッブルが、強力な天体望遠鏡で、他の銀河が地球から離れていく様子を観測した。しかも、遠くの銀河ほど、離れる速度が速かった。それは宇宙が今も膨張し続けていることを明らかに示していた。ハッブルは、遠い昔に何かが起きて、星や銀河が外に押し出されたに違いない、と結論づけた。ルメートルが想定したビッグバンは、まさにその何かであった。
雷鳴は山や谷に反響し、ときにはその残響1分以上消えないこともある。雷鳴でさえそうなのだから、ビッグバンほどの巨大な爆発のこだまとなれば、現在でも検出できるのではないか、と科学者たちは考えた。
1964年、ニュージャージー州で、技術者アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンによってそのこだまがはじめて検出された。ふたりは古い無線アンテナを利用して電波望遠鏡を作ろうとしていたのだが、そのアンテナは不可解なノイズを拾い続けた。どちらの方向に向けても、わずらわしい雑音は消えなかった。当初ふたりは、ニューヨーク市の無線送信機が原因ではないかと疑ったが、現地まで出向いて調べたところそうではなかった。そこでニュージャージーに戻ってアンテナの内部を見てみると、ハトの糞がこびりついていた。ノイズはそのせいだと思った彼らは、周辺のハトを駆除してアンテナをきれいに掃除した。それでもノイズは消えなかった。
当時、そこからほんの50キロほどの場所で、宇宙学者ロバート・ディッケ率いる研究者グループが、ビッグバンのこだまを検出すべく、超高感度のマイクロ波アンテナを完成させようとしていた。たまたまペンジアスとウィルソンはディッケに電話をかけて、望遠鏡のノイズを消す方法をご存じないだろうか、と尋ねた。そう聞くなりディッケは、ふたりが聞いているのはビッグバンのこだまに違いないと直感したそうだ。今日では、彼らの説明を聞かなくても、こだまをこの目で見ることができる。テレビの放送終了後やチューニングが合わないときに画面に現れる砂嵐(無数の白い点)はご覧になったことがあるだろう。あの点々の100個にひとつは、ビッグバンのこだまが引き起こしたものである。
しかし、目に見えないほど小さな点が爆発してこの宇宙が生まれたという説を受け入れたとしても、科学者たちにはどうしてそれが137億年前に起きたとわかるのだろう?ハッブルは遠くの銀河ほど速く遠ざかることを観察したが、現在では、さらに進歩した天体望遠鏡を用いて銀河の後退速度を正確に検出できるようになった。このデータから時間をさかのぼっていけば、すべての物体が1ヵ所にまとまっていたのがいつであったのかを突き止めることができるのだ。
宇宙は無数にある?
ビッグバンの直後には、さらに不思議なことが起きはじめた。途方もないエネルギーが放出され、このエネルギーがまず重力に変わった。重力は目に見えないのりのようなもので、そのせいで宇宙に存在するあらゆるものは、互いとくっつこうとする。それに続いて宇宙のもとになる、おびただしい数の粒子が生み出された。いわば、ミクロサイズの「レゴ」である。今日この世界に存在する物質のすべては、ビッグバン直後に生じたこの無数の粒子からできている。
それからおよそ30万年がたち、宇宙の温度が低くなるにつれ、これらの粒子(最も一般的なのは、電子と陽子と中性子)は互いに結びつき、わたしたちが原子と呼ぶ小さな塊になった。その原子が互いの重力に引き寄せられ、超高温の巨大な雲を作った。このような雲から生まれたのが、最初の恒星、すなわちビッグバンの名残のエネルギーが詰まった巨大な火の玉の集団である。それらの恒星がやはり互いの重力に引かれて集まり、らせん状から渦巻状まで、形も大きさもさまざまな集団、すなわち銀河になった。わたしたちの銀河である天の川銀河(銀河系)は、ビッグバンのおよそ1億年後、今から136億年前にその姿を現した。銀河系は、巨大な円盤のような形目玉焼きをふたつ背中合わせにしたような形をしていて、時速約100万キロメートルという目のくらみそうなスピードで旋回している。