『是説現代心理学入門』より
相互作用のある複数の人々の集まりは〈集団〉と呼ばれ、話をするなどということもない、単なる人々の集まりである〈集合〉と区別される。1対1の対人関係からもう1人増えて3者関係になるだけでも、成員間のまとまり方や規範の形成、地位の分化、リーダーシップのあり方など、種々の面で構造が複雑になる。ここでは、集団がどのように構造化されていくかをみていく。
コミュニケーション・ネットワーク
集団構造のとらえ方には、各成員間の勢力に基づく社会的勢力基盤から(表1-12)であるとか、各成員間の選択・排斥に基づくソシオメトリック構造からなど多種あげることができる。しかしこうした成員間の関係性ではなく、より集団全体としての構造を考える上では、集団内のコミュニケーションの流れ方であるくコミュニケーション・ネットワーク〉からとらえられることが多い。そして、こうした構造と集団の諸活動との関係や、構造そのものの変化などを検討する研究領域を、一般に〈集団力学〉と呼んでいる。
(1)活動面への影響
成員数に応じて想定できるネットワーク構造は飛躍的に多様となるが、とくにネットワーク構造の重要な特徴は、〈中心的・非中心的構造〉である。この構造次第で、課題解決に要する時間、発言メッセージ数、思考や判断の誤り、また成員の満足度などが大きく変化してしまう。ネットワーク内の中心的ポジションを占める人は、他の周辺的ポジションの人よりも、集団内で流れる情報を最も入手しやすい立場である。しかし、入手が容易なだけではなく、その情報を貯蔵したり、加工したりすることも、さらにはそれを周辺の成員にどのように再分配するかについても裁量が大きい。中心的成員をもつか否かに加えて、この中心的成員の裁量次第で、集団全体の活動性が変わってしまうのである。このネットワークのあり方が、集団の目標達成や課題解決に向けた活動をいかに大きく左右させてしまうかがわかる。
(2)成員の関係性への影響
ネットワークのあり方は、こうした集団の活動面だけではなく、成員間の関係性にも多大な影響を及ぼす。先述の通りに、中心的ポジションをもつネットワークで相互作用が繰り返されていくと、この中心的成員は周辺的成員よりも大量の、そして1人の周辺的成員にはない新規な情報を得ていくことになる。こうして周辺的成員は、中心的成員から常に多くの知り得なかった情報をもらう立場となる。社会的交換理論によれば、相互作用は交換過程であるので、周辺的成員は中心的成員からの情報に対して何らかの心理的資源を与えなければならない。保有する情報が質量とも圧倒的に劣る周辺的成員にとり、情報以外の資源によって報いるしかない。これには金銭や奉仕もあり得るが、多くの場合は、尊敬や信頼といった気持ちが中心的成員に向けられるのであり、ここに〈地位〉が発生することとなる。単なるネットワーク内の位置が、しかし、地位を分化させることにもなるのである。
またネットワークのもとで相互作用が続けられていくと、成員は、特定の、ものの見方や考え方、あるいは行動の仕方を共有するようになっていく。集団で共有された認知や態度、行動の枠組みを〈集団規範〉という。集団規範が形成されると、その規範に同調し、その結果全員が同質となるよう〈斉一性圧力〉が、各成員にかかるようになる。これにより、さらにいっそう集団全体に独特な雰囲気が生じていくこととなる。
リーダーシップ
前節の通りに、どのような集団であっても、そこでのコミュニケーションは、集団活動の効率や生産性自体に関連するものと、互いの好き嫌いや緊張を高めたりあるいは緩和するなど成員間の関係性に関わるものとに大別できる。前者は集団に対して〈課題達成機能〉をもち、後者はく社会的・情緒的機能〉を有したコミュニケーションである。本来達成すべき課題のために構成された集団ではあっても、全相互作用時間の内3、4割は社会的・情緒的コミュニケーションに費やされる。しかし、課題達成に直接関わらない社会的・情緒的コミュニケーションは集団維持には必要不可欠なのである。集団が維持されなければ、集団目標の達成は望めない。この意味で、社会・情緒的コミュニケーションも間接的ながら集団活動において機能していると言える。
ところで集団目標を達成する過程において、ある特定の成員が大きな影響力をもつ時、この影響力を〈リーダーシップ〉という。リーダーシップには専制型、民主型、そして自由放任型の3タイプがあるが、それぞれを比較したところ、民主型が最も集団活動の質が優れ、成員の独創性や友好度も高かったのに対して、専制型では成員間に敵意が生じ、自由放任型にあっては活動の質が最低であったとの報告がある。
このように、リーダーシップのあり方は集団全体にきわめて強い影響を及ぼす要因となる。そもそも、集団内のコミュニケーションが課題達成領域と社会的・情緒的領域に分けられるのであるから、リーダーが集団成員にもつはたらき、すなわちリーダーシップの機能も目標達成機能(P機能)と集団維持機能(M機能)の2種類を考えることができる。両機能を発揮するリーダーもあれば、いずれかの機能のみを重視するリーダー、あるいは両方共に機能しないリーダーを想定することもできる。この類型は、学級や職場、家族など実際の集団を理解し、あるいは改善していくための視点として応用されている。
社会的ジレンマ
集団の中では、各成員の報酬や損失が本人の行動で全て決まるわけではない。むしろ、集団成員間には、互いに自分と相手の行動との組み合わせによって決まる〈相互依存的関係〉が作り出される。とくに、人は、協同と競争のいずれの行動もできる状況において、協同する方が得になる場合でさえ、競争に偏りやすい傾向がある。〈トラッキング・ゲーム〉や〈囚人のジレンマ・ゲーム〉を用いると、自分の利を最優先せず互いに協力し合えば共栄状態になれるところを、相手を信頼できず自分が搾取されることを恐れてしまうと、結局集団全体が競争状況になっていき、全成員が共貧状態に陥っていく様子がわかる。個々人が自己の利益を追求し経済的・合理的に行動をした結果、その代償が集団全体に広がりかねない状況をく社会的ジレンマ〉と呼んでいる。たとえば、自分の部屋にゴミをため込みたくないという理由で、決められた日以外にゴミを出すことを地域の人々がし始めると、結局ゴミを収集してもらえずに近所全体がゴミであふれ、不潔な環境に身をおくことになってしまうかも知れない。環境問題や資源問題の解決にも考慮する必要がある。
相互作用のある複数の人々の集まりは〈集団〉と呼ばれ、話をするなどということもない、単なる人々の集まりである〈集合〉と区別される。1対1の対人関係からもう1人増えて3者関係になるだけでも、成員間のまとまり方や規範の形成、地位の分化、リーダーシップのあり方など、種々の面で構造が複雑になる。ここでは、集団がどのように構造化されていくかをみていく。
コミュニケーション・ネットワーク
集団構造のとらえ方には、各成員間の勢力に基づく社会的勢力基盤から(表1-12)であるとか、各成員間の選択・排斥に基づくソシオメトリック構造からなど多種あげることができる。しかしこうした成員間の関係性ではなく、より集団全体としての構造を考える上では、集団内のコミュニケーションの流れ方であるくコミュニケーション・ネットワーク〉からとらえられることが多い。そして、こうした構造と集団の諸活動との関係や、構造そのものの変化などを検討する研究領域を、一般に〈集団力学〉と呼んでいる。
(1)活動面への影響
成員数に応じて想定できるネットワーク構造は飛躍的に多様となるが、とくにネットワーク構造の重要な特徴は、〈中心的・非中心的構造〉である。この構造次第で、課題解決に要する時間、発言メッセージ数、思考や判断の誤り、また成員の満足度などが大きく変化してしまう。ネットワーク内の中心的ポジションを占める人は、他の周辺的ポジションの人よりも、集団内で流れる情報を最も入手しやすい立場である。しかし、入手が容易なだけではなく、その情報を貯蔵したり、加工したりすることも、さらにはそれを周辺の成員にどのように再分配するかについても裁量が大きい。中心的成員をもつか否かに加えて、この中心的成員の裁量次第で、集団全体の活動性が変わってしまうのである。このネットワークのあり方が、集団の目標達成や課題解決に向けた活動をいかに大きく左右させてしまうかがわかる。
(2)成員の関係性への影響
ネットワークのあり方は、こうした集団の活動面だけではなく、成員間の関係性にも多大な影響を及ぼす。先述の通りに、中心的ポジションをもつネットワークで相互作用が繰り返されていくと、この中心的成員は周辺的成員よりも大量の、そして1人の周辺的成員にはない新規な情報を得ていくことになる。こうして周辺的成員は、中心的成員から常に多くの知り得なかった情報をもらう立場となる。社会的交換理論によれば、相互作用は交換過程であるので、周辺的成員は中心的成員からの情報に対して何らかの心理的資源を与えなければならない。保有する情報が質量とも圧倒的に劣る周辺的成員にとり、情報以外の資源によって報いるしかない。これには金銭や奉仕もあり得るが、多くの場合は、尊敬や信頼といった気持ちが中心的成員に向けられるのであり、ここに〈地位〉が発生することとなる。単なるネットワーク内の位置が、しかし、地位を分化させることにもなるのである。
またネットワークのもとで相互作用が続けられていくと、成員は、特定の、ものの見方や考え方、あるいは行動の仕方を共有するようになっていく。集団で共有された認知や態度、行動の枠組みを〈集団規範〉という。集団規範が形成されると、その規範に同調し、その結果全員が同質となるよう〈斉一性圧力〉が、各成員にかかるようになる。これにより、さらにいっそう集団全体に独特な雰囲気が生じていくこととなる。
リーダーシップ
前節の通りに、どのような集団であっても、そこでのコミュニケーションは、集団活動の効率や生産性自体に関連するものと、互いの好き嫌いや緊張を高めたりあるいは緩和するなど成員間の関係性に関わるものとに大別できる。前者は集団に対して〈課題達成機能〉をもち、後者はく社会的・情緒的機能〉を有したコミュニケーションである。本来達成すべき課題のために構成された集団ではあっても、全相互作用時間の内3、4割は社会的・情緒的コミュニケーションに費やされる。しかし、課題達成に直接関わらない社会的・情緒的コミュニケーションは集団維持には必要不可欠なのである。集団が維持されなければ、集団目標の達成は望めない。この意味で、社会・情緒的コミュニケーションも間接的ながら集団活動において機能していると言える。
ところで集団目標を達成する過程において、ある特定の成員が大きな影響力をもつ時、この影響力を〈リーダーシップ〉という。リーダーシップには専制型、民主型、そして自由放任型の3タイプがあるが、それぞれを比較したところ、民主型が最も集団活動の質が優れ、成員の独創性や友好度も高かったのに対して、専制型では成員間に敵意が生じ、自由放任型にあっては活動の質が最低であったとの報告がある。
このように、リーダーシップのあり方は集団全体にきわめて強い影響を及ぼす要因となる。そもそも、集団内のコミュニケーションが課題達成領域と社会的・情緒的領域に分けられるのであるから、リーダーが集団成員にもつはたらき、すなわちリーダーシップの機能も目標達成機能(P機能)と集団維持機能(M機能)の2種類を考えることができる。両機能を発揮するリーダーもあれば、いずれかの機能のみを重視するリーダー、あるいは両方共に機能しないリーダーを想定することもできる。この類型は、学級や職場、家族など実際の集団を理解し、あるいは改善していくための視点として応用されている。
社会的ジレンマ
集団の中では、各成員の報酬や損失が本人の行動で全て決まるわけではない。むしろ、集団成員間には、互いに自分と相手の行動との組み合わせによって決まる〈相互依存的関係〉が作り出される。とくに、人は、協同と競争のいずれの行動もできる状況において、協同する方が得になる場合でさえ、競争に偏りやすい傾向がある。〈トラッキング・ゲーム〉や〈囚人のジレンマ・ゲーム〉を用いると、自分の利を最優先せず互いに協力し合えば共栄状態になれるところを、相手を信頼できず自分が搾取されることを恐れてしまうと、結局集団全体が競争状況になっていき、全成員が共貧状態に陥っていく様子がわかる。個々人が自己の利益を追求し経済的・合理的に行動をした結果、その代償が集団全体に広がりかねない状況をく社会的ジレンマ〉と呼んでいる。たとえば、自分の部屋にゴミをため込みたくないという理由で、決められた日以外にゴミを出すことを地域の人々がし始めると、結局ゴミを収集してもらえずに近所全体がゴミであふれ、不潔な環境に身をおくことになってしまうかも知れない。環境問題や資源問題の解決にも考慮する必要がある。