日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

目覚まし時計

2023年08月08日 | エッセイサロン
2023年8月8日 中国新聞セレクト「ひといき」掲載 

 私は、古ぼけた「目覚まし時計」である。六十数年前からずつとあるじの枕元にいる。結婚
し6年前に金婚式を迎えたあるじの奥さんより、付き合いが長い。それでも故障し務めを終え
る。まだ時間のある今、あるじとの思い出を書き残しておきたい。
 あるじは高校を卒業して工場に就職し、3交代勤務となった。ローテーション制なので、勤務
時間帯も随時変更され、それに伴って起床時間も変わる。
 あるじが健康で安全に働くために十分な睡眠が必要と考えた家族が、私を時計店から選び傍
らに置いてくれた。
 セッティングされた起床時間に大音響を鳴らして、あるじを起こす。あるじもすっと目覚め
てくれ、手がかからない。その後、結婚し、工場を退職してからも大事に使ってもらった。
 今、時は何とか刻める。だが肝心の目覚まし音が鳴らなくなった。後継に座を譲り渡さざる
を得なくなった。後継も私と同じようなデザインだが、今風の電子音である。
 あるじは最後の別れの時、ぬれティッシュで私の体を拭き、愛用パソコンの傍らで記念写真
を撮ってくれた。私は時をずっと刻み、目覚まし音を鳴らし、あるじの期待に応えてきたと思
う。このことを誇りにし、心置きなく去っていける。

 (今日の575) 目覚ましの誇りを持って勤め終え
コメント
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