日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

大工になった元同僚

2013年11月09日 | エッセイサロン
2013年11月09日 毎日新聞「男の気持ち」掲載



 近くで棟上げがあった。棟梁は、大工仕事に魅了されて脱サラしたかつての同僚。建築を1から学ぶため大工に弟子入りし、学校にも通うこと6年。1級建築士の資格を得て、一人親方として独立した。

 家が寿命を迎えて解体された時、材料が土に返れる木の家を作ることに彼はこだわっている。そのため完成には手間も時間もかかるという。

 材木市場へ足を運び、納得した木材を購入し、自然乾燥させて使用する。準備した木に墨付けをし、ノコやノミ、カンナなど昔ながらの大工道具を使う。プレカットの普及にともない、最近は墨付け、刻みの仕事が少ない。これができて大工は一人前というこだわりも彼は持っている。

 今回手がけた家も「軸組模型」を作り、刻んだ材を仮に組む「地組」をし、墨付けや刻みに齟齬のないことを確認したという。また、古民家から出た松などの古材丸太を使っている。その質感、あめ色の艶と重量感は白い新材を引きまとめる力強さがある。

 棟梁こだわりの家を見学した時のこと。玄関を入ったとき、新建材を使わない家に違和感を感じた。しかし玄関を出る時に、室内の空気の柔らかさからか、穏やかな気分になっていた。

 奥さんも元同僚。「よくここまでやってこれました」と棟の主人を見上げながら感慨深げに語る。二人の今日までを知っているだけに心からエールを送った。
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