朝日新聞朝刊の連載小説『C線上のアリア』が面白い。第71話まで進行。著者の湊かなえさんは「イヤミスの女王」といわれているそうだ。読んでいて嫌な気持ちになるミステリーということらしい。もちろん今や大家であり、連載小説のツボを心得ていて、ストーリーの展開に意外性が多く、読者の期待を膨らませる。
主人公の女性は、推定50歳位。幼少の頃に両親と死別し、叔母(弥生さん)が母親代わりで育ててくれ、成人後はそれぞれ独身のまま自分の人生を歩んでいたが高齢の叔母の住んでいる自治体から、認知症で家がゴミ屋敷になっていると連絡があり、叔母の家に戻るところから始まる。
展開としては、このあと、
- 叔母を施設に入所させ、ごみの片づけを始める。
- ゴミの中に思い出の品々を発見し、レースの編み物が趣味だったことを思い出し、面会に通う。
- 開かずのダイヤル式金庫があり、弥生さんに聞くと、重要なものが入っていると言われるが、開け方がわからず、専門家に依頼し、数日で開けられたが、中にはコード付きのコンセントが入っているだけ。
- 元々自分の部屋だった場所は、ほとんどそのままだったが、一冊の本『ノルウェーの森 下巻(村上春樹著)』が見つかった。高校三年の時のベストセラーで上巻の表紙が赤一色、下巻の表紙が緑一色だが、下巻だけだった。
- 記憶を辿ると高三の時にボーイフレンド(邦彦)が『ノルウェーの森』を買ったと言っていて、弥生さんのもっていたビートルズのレコード(ノルウェーの森収録)と貸借交換したことを思い出す。ところが邦彦が渡したのは下巻だけで、上巻は自分で買ったのだが、しかし、下巻は確かに彼に返したはず。
- 邦彦のことをSNSで検索してみると、妻や子供との家庭写真が並んでいて、暗い気持ちになったが、もう一回本を調べると、一番後ろのページに一枚のメモが挟んであって、「このメモを見たら本を返しに来てください」と書かれている。
- なぜ、返したはずの本が部屋にあるのか不明ながら、主人公は「その場所」に向かうのだ。
というように、1週間ごとに新たな話が持ち上がってきて、飽きが来ないのだが、少し気になるのは、展開のつど、なにか未解決の伏線のようなものがあらわれ、放置される。金庫のところでも、なぜコンセントが入っていたのかとか、読者には関係がないような、ダイヤルの番号とか綿密に書かれていたり。ミステリ作家だけに、まったく先が読めないわけだ。
そもそも『C線上のアリア』というタイトルだが、読み始めた頃は、バッハの『G線上のアリア』と同名だと思っていたが、よくみるとGではなくC。
G線上のアリアはバイオリンの4本の幻の中の一番低音のG線だけで弾けるということなのだが、バイオリンの線はE線、A線、D線、G線なのでC線は存在しない。ヴィオラとチェロではC線が最低音を担当するので、イメージとしてはストーリーの全体が低音域の中で動いていくということを示しているのだろうか。そうなるとイヤミスの女王の本領発揮で死体がゴロゴロ、悲劇のどん底ということになるのだろうか。
本作の前の連載小説は歴史小説家の方の『人よ、花よ』だった。楠木正行(楠木正成の嫡男)の一生を書いたもの。歴史小説は自ずと歴史を大きく歪めて書いてはいけないので、なんとなく筋の展開に期待感が少なくなる。連載小説には向かないような気がする。
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