酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

時代がミューズに追いついた?~「ドローンズ」が咲かせたラディカルな大輪

2015-06-24 23:12:45 | 音楽
 大場プロデューサー企画のオルタナミーティング第6弾の開催が決定した。「PANTA×遠藤ミチロウ LEGEND LIVE」(11月28日、阿佐ケ谷ロフトA)である。PANTAさんとは反原発デモに同行した際、自然体で優しい個性に魅せられた。大場さんと顔を合わせるたび、「PANTAさんのイベントを」とお願いしてきたが、実現するとは夢のようだ。

 ニール・ヤングの新作「ザ・モンサント・イヤーズ」(国内盤は来月末リリース)が話題になっている。TPPとも関わってくる遺伝子組み換えを告発する内容で、俎上に載せられている企業はモンサントやスターバックスだ。ウィリー・ネルソンの息子たちとの共作で、発売を心待ちにしている。

 PANTA、ミチロウ、そしてニール・ヤング……。骨太で孤高のロッカーたちは、後輩たちに<ロックとは何か>を突き付けている。第一線のバンドで唯一、答え出しているのがミューズで、ラディカルな姿勢を前面に、反抗の空気を先取りしてきた。新作「ドローンズ」発表に合わせ、ミューズについて、他の評者と異なる視点で記したい。

 初来日(00年)時のチケットを偶然入手し、渋谷で彼らを見た。〝蒼い雛〟が第一印象で、煌めきとパッションに溢れていたが、前途洋々とは程遠かった。1stアルバムが全英チャート29位という数字は、耳が肥えて辛辣なUKのメディアやファンにスルーされていた証左といえる。フジロックやサマソニにブッキングされるUKニューカマーの大半は、5位以内のチャートアクションでデビューを果たしているからだ。

 ミューズはグラストンベリー'04でヘッドライナーに抜擢され、欧州全域で「史上最高のライブバンド」と認められる。〝不毛の地〟アメリカでのブレークに一役買ったのは、ペリー・ファレル(オルタナ界の顔役)で、自身が主宰するロラパルーザ'07で彼らをヘッドライナーに迎えた。ファレルの〝ミューズ愛〟は4年後、ロック番付を覆す。先にブッキングしていたコールドプレイをセカンドステージに追いやり、メーンステージのヘッドライナーにミューズを据えた。同時間帯対決は動員力でもミューズの圧勝に終わる。

 そして新作「ドローズ」が全米1位を獲得した。遂に時代が彼らに追いついたのだ。バンド自身、最高傑作とコメントしている通り、2nd「オリジン・オブ・シンメトリー」と並ぶ出来栄えだと思う。ロックは瞬間最大風速を競う音楽で、閃きは大抵、時とともに褪せていく。13年目で「ウィッシュ」を発表したキュアー、15年目で「カリフォルニケーション」を世に問うたレッド・ホット・チリ・ペッパーズに匹敵する偉業といえる。

 フジロック'07で来日した際、マシュー・ベラミーはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンへの敬意を語っていた。反政府ゲリラ(ケニア土地自由軍)のリーダーだった父(後に国連代表)に影響を受けたトム・モレロと、サパティスタの闘士ザックが結成したレイジは、斬新な音楽性とラディカルな思想で世界を震撼させた。ミューズのハイライトのひとつは、レイジの活動20周年イベント「LAライジング」(11年)のオファーを受け共演したことである。

 彼らの変化は4th「ブラック・ホールズ・アンド・レヴァレイション」(06年)に表れていた。メッセージ性の強い曲が収録されていたが、中でも「サイツ・オブ・サイドニア」はボブ・マーリーの「ゲット・アップ、スタンド・アップ」の21世紀版というべき直截的なプロテストソングだ。

 ジョージ・オーウェルの「1984」にインスパイアされた「レジスタンス」(09年)のオープニング曲「アップライジング(叛乱)」をウェンブリースタジアムで演奏した際、ステージ上でフードに棍棒という出で立ちの100人前後の若者が、〝権力との対峙〟と呼ぶべき寸劇を演じる。そのシーンが拡大されて現実になったのが、数カ月後に発生したロンドン蜂起である。

 前作「ザ・セカンド・ロウ」(12年)もメッセージ色の濃いアルバムで、「アニマルズ」では資本家を揶揄していた。ツアーでは巨大なピラミッドを逆さまに吊るし、「ヒエラルヒーの象徴としてのピラミッドを倒立させたのは、変革に寄せる僕たちの希望の表れ」とマシューは語っていた。ちなみに同作では4~5分のキャッチーな曲が目立ったが、そこに回帰と進化が窺えた。「ドローンズ」にも鋭さとクオリティーをアップさせたポップチューンが並んでいる。

 コンセプトアルバムを志向する点で、本作は前2作の延長線上にある。1曲ごとにダウンロードして聴くという風潮を踏まえた上で、マシューは「だからこそアルバムにはトータルなテーマ性が必要になる」と語っていた。タイトルの「ドローンズ」とは、日本でも物議を醸したハイテク飛行物体で、コントロールルームでの操作で進行するバーチャルな戦争の主役を担うとみられている。ミューズは屋外ライブの会場でドローンを飛ばす予定という。

 マシューは掉尾を飾るタイトル曲の製作意図を以下のように語っている。<被害者を弔う歌なんだ。この作品は名もなき忘れ去られた人たちによる、この世のものならぬコーラスで締め括られている。彼らに正義は決してもたらされることはなく、ロボットに殺害されたまま終わっていく。ここに人道というものが抱える本質的な悲劇が晒されている>……。

 本作のコンセプトは、<情報統制、洗脳、教化が進む社会で、人々はどのように自我と自由を取り戻していくか>だ。敵の象徴として現れるドローンズとの闘いに敗北した人々は、尊厳を守るため再度立ち上がる。ラストでは革命の凱歌と亡き者たちへのレクイエムが高らかに謳われ、「アーメン」で締め括られる。

 フェスで反原発を訴えたバンドに対し、「うざい」という書き込みが殺到する日本では、ミューズの示した壮大なテーマは正しく受け入れられないだろう。だが、欧州全域で広がりつつある反グローバリズム、反資本主義のムードに、ミューズは見事にマッチしている。

 フジロックは外せない用事とバッティングし参戦できない。その代わりといっては何だが、サマソニでマニック・ストリート・プリーチャーズを見る予定だ。「ホーリーバイブルツアー」の再現となれば、見逃したら悔いが残る。
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