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高橋治『絢爛たる影絵 小津安二郎』

2017年06月12日 23時27分29秒 | 文学
高橋治『絢爛たる影絵 小津安二郎』(岩波現代文庫)を読んだ。
この本は「絢爛たる影絵」と「幻のシンガポール」の二つの小説(?)が収録されている。
「絢爛たる影絵」は小津安二郎の戦後について語られる。
作者の高橋治は『東京物語』の助監督をやっていて、初めのほうでそのときのことが小説風に描かれる。
小津の名言もはさまれてとってもたのしい。
小津安二郎の印象がだいぶ変わった。お上品なおじさまの印象だったのだが、結構べらんめいな感じだった。まわりにわりと厳しい。
笠智衆のイメージだったのだが、小林秀雄のような印象になった。
志賀直哉の『暗夜行路』や永井荷風の『断腸亭日乗』を愛読したというあたりはイメージ通りだ。
溝口健二も描かれるが、これはひどい。こんなひどいひとだったのかと驚いた。溝口健二の作品をしばらく見る気がしない。カメラマンが良かっただけなのではないか。
高橋治がその一員だったこともあり、松竹ヌーベル・バーグについても詳しい。しかし、大島渚の映画は僕は(いまのところ)見る気がしない。
また高橋治の、『彼岸花』や『秋日和』への評価が低い。僕にはおもしろかったけれど。
自分が最もおもしろいと思ったものを頂点に置き、そこから作家が離れていくと質が落ちたと考えてしまうことは誰にでもあることだけれど、それはちがうのではないか。何でもう一度あれを繰り返してくれないかと求めるのは、自制しなければならない。
相手も人間が変わる。
『早春』の岸惠子に興味を持った。
岸惠子が結婚してしまったことにより『東京暮色』に代わりに出演することになった(と高橋が言う)有馬稲子への酷評がすごかった。
しかし岸惠子ってそんなにいいかなあ。好きか嫌いかと言えば好きな女優ではあるけれど、原節子の後釜になり得たというほどなのだろうか。

「幻のシンガポール」は、第二次世界大戦中にシンガポールで不思議な偶然でアメリカ映画をたくさん見た小津安二郎がそれをよく吸収したことがわかる。戦後の小津安二郎の達成はこの時代にアメリカ映画を見たことによる、のだと読める。
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