恋する文豪(柴門ふみ著)

2024-02-13 00:00:00 | 書評
まず、本書、タイトルがおかしい。三文週刊誌の見出し並みだ。このタイトルでは、文豪そのものが恋をしているようだが、そうではない。大雑把にいうと文豪が書いた小説の中で、登場人物が恋(あるいはそれに似た行為)をした作品について、著者の柴門ふみさんが読書感想文を書いた、ということだ。

もちろん、私小説あるいは実体験による小説と認定されるものも含まれるが、それは一部だけだ。たとえば森鴎外の『舞姫』とか檀一雄『火宅の人』、島尾敏雄『死の棘』。そもそも完全な私小説を大河小説にしてしまったら、生涯で一冊しか書けない。

登場する作家は24人。大御所と言えば夏目漱石『こころ』、川端康成『雪国』、谷崎潤一郎『痴人の愛』、三島由紀夫『春の雪』、村上春樹『ノルウェーの森』、太宰治『斜陽』。

本当に素晴らしいと、激賞なのが三島由紀夫の『春の雪』。小説の芯が通っていて江戸時代からの身分の較差とか過去と未来とか現世と来世とか対立軸があり、構造(つまり伏線の使い方とか)もすばらしいと評価されている。著者はディケンズとかモームのような骨組みがあるのが好きなのかもしれない。

川端康成の『雪国』は、他の誰も書けないような小説だが、著者は、登場人物は揃いも揃って猥雑な行為をしているのに、美的に書けるのはすばらしいとほめているのかな。

太宰治についても、男性作家なのに女性の気持ちを書くのが上手いとこれも技術をほめている。

村上春樹には手厳しく、『ノルウェイの森』は『風立ちぬ』と『赤頭巾ちゃん気をつけて』に似ていると思っていたが、今回(三作を)読み直したら、やはり似ていると確信した。と剽窃扱いだ。今回著者が選んだ24人の中に、堀辰雄と庄司薫が含まれているが、ノルウェイ批判するために選んだのかもしれない。性的シーンが多すぎるとか、自殺した直子の病気もはっきりしないとか。さらに、本書を書くにあたって著者は直子が入院したことになる京都の山奥の病院にまで足を延ばしているようだ(他の要件で近くに行ったと書いているが)。同年代だから手厳しいのかな。


本書は24作の読書感想文と言ってもいいのだが、中高校生が夏休みの宿題で、こういった本を選んで本書のような棘だらけの文章を書くと、たぶん保護者呼び出しになるだろう。

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